そして・・京都へ
第十九章
「星川さん~」
「なに、沖田くん」
「僕、休学届けも、そろそろ期限が迫ってて、ほんで家の方にも心配かけてるみたいなんで、一旦、帰ろうかと思ってるんですぅ」
「そうなんだ」
「それで大学辞めて、正式にこっちへ引っ越して来ようと思ってるんですぅ」
「ええっ、大学辞めるって、そんなのダメだよ」
「僕ね、あの大会もそうですけど、星川道場に通うようになって、自分のやりたいことが決まったんですわ。もっと強くなってそのうち師匠になって、教えたいんです」
「それはいいけど、大学はちゃんと卒業しないとダメだよ」
「でもねぇ、なんも考えんと、親の言う通りに入った大学なんですぅ。僕にはもうそんなもん必要ないんです」
「でもなあ・・剣道はいつでもできるよ」
「それは違いますぅ。大学こそいつでも入り直せます。でも剣道は年いけばいくほど後れを取りますぅ」
「まあそうだけど・・」
「僕、もう決めたんですぅ」
「そっか。でも親御さんをちゃんと説得しないとダメだよ」
「はいぃ~~」
そっかぁ。京都へ戻るのか。
あっっ!そういえば、土方さんを京都へ連れて行く約束・・・すっかり忘れてた。
そうだ。沖田くんが京都へ戻る時、土方さんも連れて行くっていうのだどうだ?
俺は早速、仕事場で新さんに相談した。
「どうですか?」
「そういえば、忘れてた。。俺も。。」
「連れてってあげたいですよね」
「それはもちろん」
「少しの間、道場を休んで行きましょうよ」
「そうだな」
その日、夜の稽古で門下生に一通り説明し、納得してもらった。
「京都か~~私も行きたいなー」
浦さんがそう言った。
「いや、今回は我慢してください」
「なんで~ダメなのー?」
「今回は旅行ではありませんので」
「じゃ、なにしに行くの?」
「えっと・・あっ、沖田くんの親御さんを説得しに行くんです」
「そうなんだ」
「はい。沖田くんは本格的にこっちに引っ越しを望んでいるので」
「そっか。わかったわ」
あっ、土方さんと伊佐美さんが来た。
「先生~~こんばんはーー」
「先生~~京都に行くんですねー」
門下生がそれぞれに口を開いた。
「京都?」
「あ、はい」
土方さんに訊かれ、俺は、経緯の説明をした。
「そうか!京の都か!」
「歳さん、私もお供します」
伊佐美さんがそう言った。
「先生~~京の都ってーー、古いですよー」
「今は東京が首都ですよーー」
また門下生がそう言った。
「ああ、そうだったな」
土方さんは照れくさそうにそう言った。
それで俺、新さん、土方さん、伊佐美さん、沖田くんの京都行が決まった。
稽古が終わって、二人の打ち合いが始まった。
「新五郎、お前も来い」
「はいっ!」
いつもの特訓が始まった。
新さん、また一段と強くなったなあ。
伊佐美さんが「彼は一段上に上がる」って言ってたけど、ほんとにそうなってるもんなあ。
もう弟子もとれるんじゃないか?
京太郎くんとやっても、五分五分だもんなあ。
いや、ほんとにすごいわ。
それから三日後、俺たちは京都へ向かった。
土方さんの提案で、最初に沖田くんの家へ行くことになった。
京都駅に着き、駅前まで出ると、土方さんと伊佐美さんは驚愕していた。
「伊佐美・・これが京か」
「私も驚くばかりです・・」
「これが京なぁ・・・」
俺たちは沖田くんの家に着き、中へ入らせてもらった。
「僕の両親ですぅ」
「はじめまして。私は沖田くんと一緒に暮らしておりました星川と申します。こちらは道場の先生で星川歳、伊佐美格之助。こちらは私の友人で道場の門下生の小二田新五郎です。突然、押しかけまして申し訳ありません」
「どうもご丁寧にありがとうございます、さ、掛けてください」
親父さんにそう言われ、俺たちはソファに座った。
「この度は、息子の総司がお世話になりまして、感謝いたします。それでご用と申されますのは?」
俺は沖田くんの気持ちを代弁して、説明した。
「そうでしたか。やれやれ困ったもんです」
「お父さん、僕、本気やねん」
「本気っていうたってやな・・剣道で食べていくんは並大抵やないぞ」
「わかってる。でも先生たちの剣術を見て、僕の意思は固まったんや」
「そうは言うてもなぁ・・」
「お父上、総司くんのやる気は本物です。まだまだこれからですが、我々が責任を持って指導しますので、お任せ頂けませんか」
土方さんが頭を下げてそう言った。
「私からもお願いいたします。星川と共に真っすぐに指導いたす所存です。どうか総司くんの気持ちを理解していただきたく存じます」
続けて伊佐美さんがそう言った。
「僕、絶対に頑張るから!仕事もする!だからわかってください!」
「母さん、どう思う?」
「私は、総司の気持ちを大事にしてやりたいです」
「そうか・・・わかった。総司、お前、男が一旦決めたことなんやから、最後までやり抜けよ」
「はいっ!」
「ありがとうございます」
土方さんと伊佐美さんは深々と頭を下げた。
沖田くんは、学校のこととか引っ越しの手配があるので、そのまま家に残ることになり、俺たちは「幕末」へ向かうことにした。
「沖田くんのご両親、いい人でしたね」
「ああ。俺も責任重大だ」
土方さんは引き締まった表情で、そう呟いた。
「さて、新さん、どこから行きますか」
「壬生寺から行くか」
そして俺たちは四条へ向かった。
それにしても土方さんの荷物、多いな。何を持ってるんだろう。
ほどなくして壬生寺に着き、俺たちは南門から入った。
土方さんを見ると、懐かしそうな表情をしていたが、なんだか悲しそうな複雑な目をしていた。
「歳さん、どうですか。150年前と変わらないですか」
「変わらないということはねぇが、こうして現存していることは感無量だ」
それにしても観光客がたくさんいるんだな。
「ねえ・・・あの人土方さんに似てない?」
「やだ!マジっ!そっくりじゃない!」
女性二人は土方さんのところへ駆け寄った。
しまった!
「あの~すみませーん。一緒に写真撮ってもらえませんか!」
「いや、断る」
「えっ・・・」
「俺は写真が嫌いだ」
ほっ・・・土方さん、ちゃんとわかってる。。よかった。
その女性たちは不満そうな顔をして去って行った。
「ここでよく稽古したもんだ・・・懐かしいな・・・」
とても悲しそうだ・・土方さん。。
それから土方さんは、まるで知ってるかのような足取りで寺の外へ出てある方向へ歩いて行った。
どこへ行くんだ・・・そんなに急いで。
「あの方向は、八木邸だよ」
新さんがそう言った。
八木邸・・・
俺たちは土方さんを追いかけた。
土方さんは八木邸と思われる前で立ちつくしていた。
「歳さん・・・?」
「八木さんの家だ。。俺たちが屯所にしていた八木さんの・・・」
土方さんはそう言って走って中へ入ろうとした。
「ちょっと待ってください」
一人の男性に止められた。
「中へ入るには千円いただきます」
「か・・・金がいるのか」
「はい」
「わかりました!払います!」
俺は慌ててそう言った。
男性の話によると、中へ入るとガイドが新選組が活躍した経緯を説明するとのことだ。
「あの、それって、芹沢鴨の暗殺や、池田屋事件のことや、その後の話もされるのですか?」
新さんが男性に尋ねた。
「はい、一通り説明させていただきます」
「もしかして、沖田総司のことや、山南敬助の切腹のことも?」
「はい」
「太陽、ダメだ。歳さんに知られてしまう」
「そ・・・そんな・・せっかくここまで来て、中に入れないなんて・・」
「とりあえず、ここは後にしよう」
「はい」
「この近くに前川邸ってのもあるんだよ。俺、ちょっとそこへ行ってくる」
「わかりました」
土方さんはずっと八木邸を見つめたままだった。
中に入りたいだろうな・・・かわいそうに・・・
俺は男性に交渉することにした。
「あの、お金は払いますので、説明は省いてくれませんか」
「それはどうしてですか?」
「えっと・・ただ中に入って見学するだけでいいんです。お願いします、そうさせてくれませんか」
「わかりました。でもスタッフも入りますからね」
「はい・・」
「近頃の見物客は、あちこち触ってね、壊されると困りますから」
「そうなんですか・・・」
「太陽!」
新さんが戻って来た。
「どうでした?」
「ダメだ・・中には入れないし、山南さんの切腹のことを書いた張り紙が門にある」
「そうなんですか・・・」
「とりあえず、島原と西本願寺、その後に池田屋跡へ行くか」
「はい」
俺は全くわからなかったが、きっと新選組とゆかりがある場所なんだろう。
俺は土方さんと伊佐美さんに話をして、島原へ向かった。
「歳さん、八木邸はそのままでしたか」
「ああ。ほとんどそのままだ・・」
「そうですか。よかったですね」
「・・・・」
「後でもう一度戻りますので、心配しないでください」
「そうか」
島原の門の前へ着くと、土方さんは、また懐かしそうな顔をしていた。
更に進むと「角屋」という建物があった。
「角屋か・・・よくここへ通った・・・」
「そうなんですね・・」
「芹沢さんが無茶してな・・」
土方さんは涙を浮かべた。
「歳さん、大丈夫ですか」
伊佐美さんがそっと声をかけた。
「ああ・・」
「お辛ければ、無理をなさらなでください」
「すまん・・」
この旅は間違っていたのかな・・・連れてくるべきじゃなかったのかな・・・
土方さん、辛そうだ・・・
それから俺たちは西本願寺へ向かった。
「なあ、太陽」
新さんが思い詰めたように声をかけて来た。
「はい」
「さっきの壬生寺の近くに、光縁寺という寺があってな」
「はい」
「そこで芹沢さんの葬式もやって、山南さんや他の隊士たちの墓があるんだよ」
「えっ・・・」
「歳さんらしたら線香の一つも上げたいところだろうけど、それは余りにも酷だよな」
「はい・・」
「寄らない方がいいな」
そして俺たちは西本願寺に着いた。
土方さんは、不思議そうな顔をしていた。
「ここは長州と繋がっている寺だろ」
えっ・・・そうなんだ・・・
「あっ!」
新さんはいきなり声を上げた。
「どうしたんですか」
「しまった・・・ここは池田屋事件の後に新選組の屯所となった場所だった・・」
「えっ・・・」
「あっ!歳さんが立札を見てる!」
「ええっ!」
俺と新さんは急いで土方さんを引っ張り、その場所から離した。
「なんだっ」
「いえ、ここは無関係でした。すみません、間違えました」
「そうか」
はぁ~~・・・ビビった。
「池田屋跡へ行くか」
「はい、そうですね・・」
第十九章END
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八木邸を見学するには、一人千円(ガイド&抹茶とお菓子付き)必要なのは事実ですが、自分たちだけで入れるかどうかはわかりません。あまくでも話の筋上、私の想像で書きました。




