伊佐美格之助
第十八章
個人戦のコーチには、土方さんがつくことになった。
「伊佐美さん、頑張ってください!」
「先生!優勝ですよ!」
「ファイトですーー!」
みんなはそれぞれに伊佐美さんにエールを送りながら、手を握っていた。
「ありがとうございます。それでは行ってきます」
伊佐美さんは、そう言って、土方さんと下へ降りて行った。
伊佐美さんが優勝したら、団体と個人でうちが独占するんだな。すごいぞ!
後ろの席では女性群が、浦さんの勝利を改めて称えていた。
「浦さんーー!見直したわ!」
「そうよーすごかったもんねー」
「そんなことないって。伊佐美先生のアドバイスのおかげなのよ」
「そうなんだー。でも、そのアドバイス通りにできるってのが、すごいのよー」
「そうかなー」
浦さん、嬉しそうだな。よかった。
京太郎くんは、一敗したことを、酷く悔やんでいる様子だった。
俺にはわからないけど、この大会にかける想いは半端なかったもんな。
優勝はしたけど、やっぱり悔いが残ってるんだろうな。
それにしても新さんだよ。ほんとに凄い。
数か月前との新さんとは別人だ。
「沖田くんに出てもらってよかったです」
「あ、田中さん」
「沖田くん、まだ初心者なのに、あの構えからの一撃は本物の沖田総司さんみたいでしたね」
「そうですね。田中さんも足を早く治して、また稽古に励んでくださいね」
「ありがとう」
さあ~~始まるぞ~~~
まあ、伊佐美さんのことだから、決勝までは軽く進むだろうな。
うわあ、一回戦から伊佐美さんの後ろに、すごい人だかりだ。
観覧席からも黄色い声が飛んでるぞ。
伊佐美さんってすごくしっかりしてて、俺なんかよりずっと年上に見えるけど、あの人、まだ26歳なんだよな。
普通の若者なんだよ。
予想通り、伊佐美さんは順当に勝ち上がって行った。
あ~~あ、サイン求められちゃってる。
知らないよなあ、サインなんて。あはは、伊佐美さん困ってる。
「太陽、お前、後ろについてなくていいのか」
新さんが心配そうにそう言った。
「いいですよ。この個人戦は、歳さんと伊佐美さん、二人だけにしてあげたいんです」
「そうか」
「二人だけにしかわからない「想い」ってあると思うんです。これは「試合」かもしれませんが、あの二人はいつも元の時代のことを考えながら稽古をやってるでしょ。元の時代に戻れた時は、二人で色々と相談もするでしょうし、それこそ敵地に乗り込んだときの策とか練ったりね」
「確かにそうだよな」
そしていよいよ決勝戦の時が来た。
「新さん、相手の人って団体戦には出てませんよね」
「うん。人数が足りなくて出られなかったから、個人戦だけ出たのかな」
「あっ、そうか」
「なんか、強そうだな」
「はい」
確かに新さんの言う通り、すごく強そう。
醸し出す雰囲気も、伊佐美さんに引けを取らないものがある。
頑張れ!伊佐美さん!
土方さんは、伊佐美さんの耳元でなにか話してる。二人とも真剣な表情だ。
相手にとって不足なしってことか。
うう~~~緊張するな。
さあ~~~始まるぞ!
暫くは互角の打ち合いが続いた。
あっ・・・ちょっと押されてるのかな・・・頑張れ!
場内は、それぞれに声援を送っていた。
「先生!なにやってんのよっ!横よ!横にずれて!」
浦さんが大きな声を上げた。
おおお、横にずれるプロフェッショナル浦のアドバイスか!
っんなことないか。ははっ。
おおおっ、伊佐美さん横にずれたぞ!えええーーマジか!
すると形勢が逆転した。
伊佐美さんは一瞬の隙を突いて打ち抜いた。
「勝負あり!」
やったーーーーー!伊佐美さん、ほんとにすっごーーーい!
うわあーーーー優勝だあああーーー!
みんな立ち上がって大喜びしていた。
「新さん!やったね!!」
「ああ!やったーーやったーー!」
伊佐美さんはこちらに向かって手を振っていた。
最高だーーー!やったあーーー!
やがて表彰式が始まった。
「団体戦、優勝。星川道場殿!」
五人にメダルがかけられ、伊佐美さんが表彰状を受け取っていた。
あら~~~伊佐美さん、正座して深々と頭を下げてる。
観客席から驚きの声が上がった。
「個人、優勝。伊佐美格之助殿!」
伊佐美さんに二つ目のメダルがかけられた。
そしてまた、正座して深々と頭を下げた。
場内は拍手喝采になった。
やがてみんながロビーへ向かった。
みんなは伊佐美さんのところへ走りより、中には泣いている人もいた。
「みなさん、ありがとうございました」
「先生!私のアドバイス聞こえたんですね!」
「あどばいす・・・?」
「あああ、えっと、三杉浦さんの声が聞こえましたか?」
俺はすかさずそう言った。
「三杉浦さんの声、ですか・・いいえ、聞こえませんでしたが」
「えええーー!そうなんですかーー」
浦さんは残念そうに言った。
「なんだーー浦ちゃん。違ったんじゃないのー」
「どういうことですか?」
伊佐美さんは不思議そうに尋ねた。
「あの、先生が打ち込まれたときに、三杉浦さんが「横ですよ!横にずれて!」って言ったんです」
「ほう。そうだったのですか」
「はい」
「三杉浦さん、よく見抜きましたね。たいしたものです」
「でしょー!?ほらーーやっぱり」
その場は笑い声に溢れた。
「みんな、今日はご苦労だった」
土方さんが挨拶をした。
「星川先生」
一人の女性門下生が口を開いた。
「なんだ」
「今日は、なんで先生は出なかったのですか?」
「えっ・・それはだな・・」
「それは、星川先生は、ちょっと体調を崩しておられて・・・」
俺はとっさにそう言った。
「そうだったんですか。先生が出れば、決勝戦でお二人の試合が見れたのにな~」
「まあ、それは、また次回ということで・・・」
二人の決勝戦か。
それは俺たちだけじゃなく、この試合を観戦してた人が観たら、もう語り継がれるほどの一戦になっただろうな。
「それでは今日は、これで解散する。みんな気を付けて帰るように」
「はいっ!」
俺は賞状を預かることにした。
これを額縁に入れて、道場に飾るぞ!
俺は沖田くんと帰路についた。
「ああ~~疲れたね」
「はいぃ~~」
「それにしても、沖田くん、すごかったよ」
「そうですかぁ~」
「これからが楽しみだね」
「はいぃ~~」
それから半月後、市の体育課の広報に星川道場の活躍と、その活躍の中心人物となった伊佐美さんの顔写真がデカデカと載っていた。
それから小さな記事で「まるで沖田総司の再来か?三段突きの沖田君」と載っていた。
「沖田くん、君の記事が載ってるよ」
「えぇ~~・・ほんまですかぁ~」
「ほら、これ」
俺は沖田くんに記事を見せた。
「ああ~~ほんまやぁ~。再来って載ってるぅ~」
「よかったねー」
「僕、もっと頑張らんと、本物の沖田くんに申し訳ないわぁ~」
「そうだよー、頑張れ~」
「はいぃ~~」
その後は道場に見学者が増え、門下生を希望する人も後を絶たなかったが、俺は仕方なく断っていた。
これって、すごくもったいないよなあ。なんとかいい策はないものだろうか。
それにしても、大会後の京太郎くんと新さんの気合いはすごいものがあった。
それまでもかなりすごかったけど、まるで別人のようになっていた。
これを「剣士」って言うんだろうな。
浦さんも、それなりに張り切っていた。そして、だいぶ痩せた。
第十八章END




