団体一回戦
第十六章
「どうぞ、入って」
「はーい、お邪魔しますぅ」
沖田くん、泊まるところもなく、行くところもないのに、あっけらかんとしてるなー。
「えっと、俺は星川太陽。よろしく」
「はーい、よろしくお願いしますぅ」
「星川先生は、俺の叔父さんなんだよ」
「へぇーそうなんですかぁ」
「沖田くんは剣道の経験はあるの?」
「いえ、全くないんです・・」
「そうなんだ。うちの道場は経験者とか初心者とか関係ないから、その点は気を使わなくていいよ」
「はいぃ~」
「お腹空いてない?」
「ああ、ちょっとだけ・・」
俺は沖田くんに、焼うどんを作ってあげた。
「どうぞお気遣いなくぅ」
「気なんか使ってないから大丈夫だよ」
「はい、どうぞ」
「わあー美味しそうですぅ。いただきまーす」
あはは、美味しそうに食べるんだな。
それにしても俺は、前は土方歳三と暮らし、今度は沖田総司か。
そのうち近藤さんとかも来たりするんじゃないのか。ははっ。
「沖田くんはその名前だし、新選組のことは知ってるの?」
「それが、あまり知らないんですよ」
「えっ、そうなんだ」
「両親がつけてくれた名前なんですけど、これ偶然やったらしいんです。ほんで僕は学校へ行くようになって、先生が替わる度に名前でびっくりされるようになって。ほんで知ったんですわ。沖田総司っていう名前と新選組を」
「なるほど~」
「でも沖田さんって、短命なんですよねぇ。病気で亡くなったらしいですわ」
「う・・うん」
「でも剣術はすごかったらしいですよ。だから僕も強くなりたいって思って」
「そっか・・」
「はいぃ~」
「あのね、その新選組の沖田さんの話は、道場で絶対にしないでね」
「なんでですかぁ?」
「それは・・星川先生は土方さんに似てるって言われるのが嫌で、だから新選組の話もタブーなんだ」
「土方って、土方歳三のことですか?」
「うん、そう」
「へぇ~そうなんですかぁ。星川先生、土方さんに似てるんですかぁ」
「そうみたいだね」
「これってすごい偶然なんですかね。先生が土方さんで、僕が沖田総司って。あはは」
「だね・・・」
なんか、ポロっと言っちゃうそうだな・・・この子。。
沖田さんが若くして亡くなったなんて聞いたら、土方さん落ち込むどころの話じゃないぞ。
「お風呂沸いてるから入りなよ」
「はーい」
そう言えば、あの十万円。どうすっかな。
使う気になれないし、とりあえずしまっておくか。
「新さん、市の広報で見たんですけど、今度、剣道の大会があるらしいんですよ」
「へぇーそうなんだ」
「で、俺、考えたんですけど、大会に出ませんか?」
「ええーー!大会って、試合だよな」
「そうです。で、個人戦と団体戦があるんですけど、新さん出ませんか?」
「ええええーーーむりむり~~~」
「そんなことないですって。だってこの間、初の試合で勝ったじゃないですか」
「あれは・・・たまたまだよ」
「いいえ。たまたまで勝てるほど甘くないと思いますよ」
「そっかなぁ・・」
「そうですって。自分の実力を試せるいいチャンスじゃないですか」
「まあなー」
俺は仕事場でその話を新さんにして、ますます決意が固まって行くのであった。
その日の夜、道場で早速その話を土方さんと伊佐美さんにした。
「で、俺が考えているのは、個人戦では伊佐美さんに出てもらいたいんです」
「ほう、そうなんですか」
「それで団体戦は男女混合も認められていて五人一組で、先鋒・次鋒・中堅・副将・大将という順番で行われるみたいです。団体戦には、京太郎くん、新さん、三杉浦さん、田中さん、伊佐美さんで」
「私は二つも出るのですか」
「はい」
「歳さんは出ないのですか」
「歳さんは、顔が知られると面倒なことになりますので・・・」
「なるほど、承知しました」
「歳さん、これでいいですか」
「ああ、かまわんぞ」
よーーしっ!決まったぜ!
俺は正直、もうこれ以上、道場の評判を上げるのはためらっていたけど、稽古ばかりじゃ自分の力を推し量れないもんな。
試合で勝っても負けても、今後の課題が見えてくるだろうし、なによりやる気がまた上がるはずだ。
他の門下生の人も、試合を観るだけでも勉強になるしな。
俺は後日、市の体育課で申し込みを済ませた。
試合に出ることを三杉浦さんに伝えると、断られるかと思ったら、これがあっさり了承してくれた。
少なくとも「臆す」という気持ちは、みじんも感じられなかった。
田中さんは中年の男性だけど、稽古は真面目にやってるし、礼儀正しい人だから選んだ。
それからの稽古は、試合があるということで、増々気合いが入っていた。
新さんもすごくやる気になってる。京太郎くんも、もちろんだ。
試合を明日に控えた前日の夜。
ルルルル
「はい」
「あの、田中ですけど」
「あ~はい」
「ちょっと玄関で転んでしまって、捻挫したんです」
「ええっっ!」
「それで・・・明日の試合は出られなくなりました」
「そ・・・そうですか・・」
「代わりの人、いますか?」
「ああ・・えっと・・探してみますが、それより田中さん大丈夫ですか」
「はい。歩けるのですが、試合は無理です・・・」
「そうですか。わかりました。お大事になさってください」
「まことに申し訳ありません。応援には必ず行きますので」
「はい。無理しないでくださいね」
ヤベーぞ。どうする。
他にったって・・・いきなりだしなあ。
はっっっ!目の前にいるじゃないか!「沖田総司」がっっ!
まだろくに稽古もできてないけど、この際、名前でとりあえず圧倒してだな・・・
「沖田くん」
「なんですかぁ~」
「きみね、明日の試合に出なさい」
「へっ?」
「田中さんが捻挫して、出られなくなっちゃったんだよ」
「ええっと・・それでなんで僕が?」
「なにを言うのかね。きみは沖田総司じゃないか!」
「えええーー!」
「いいね、出なさい。わかった?」
「あの・・僕、まだ何もできませんよぉ」
「いいの!名前だけで勝つかも知れない!」
「ひゃ~~それは無茶ですわああ」
「言い訳無用!はい、決定ね」
「ひぃ~~」
そして試合当日になった。
「新さん、今日の団体戦、沖田くんにも出てもらいますからね」
「は??」
「田中さんが捻挫しちゃって」
「ええーーマジかよ」
「はい」
「で、なんで沖田なんだよ」
「他に頼むって言っても、急だったし、沖田くんなら、とりあえず名前だけで引いてくれるかも知れないですし」
「あり得ねー。無理だって」
「まあいいじゃないですか。人数が足りなくて棄権になるよりいいでしょ」
「いや、そこは「沖田」じゃなくて、「土方」だろう」
「歳さんはダメです。もしかしたらテレビが狙ってるかも知れないし」
「はぁ~~・・・」
沖田くんのことは土方さんにも伊佐美さんにも話して、納得してもらった。
よーーしっ、これで試合を待つのみだ。
えっと、試合方式はトーナメントか。じゃ負けたらそこで終わりだな。これは頑張ってもらわないと。
先に団体戦をやるのか。
「おはようございます」
「あ、京太郎くん、おはよー」
「なんか・・緊張します」
「大丈夫。京太郎くんは副将だからね。頑張ってね」
「はい!」
あっ、三杉浦さんも来たぞ。
「三杉浦さん、おはようございます。どうですか調子は」
「おはよー。バッチリよっ!任せなさいって!」
うわ~~・・・すごいな。
初めて来たころは、ハアハア言って、立ち上がるのも大変だったのにな。
今ではいっぱしの女剣士?じゃないよね・・
俺たちは体育館内のスタンド席に座った。
「最初の相手は、隣町の剣道クラブです。詳細はわかりませんが、みなさん落ち着いていきましょうね」
「おおー!」
「歳さんには申し訳ないんですが、ここに座って門下生たちと応援よろしくお願いします」
「ああ、わかった」
「じゃ、出場者は下へ降ります。着いてきてください」
そしていよいよ第一回戦が始まった。
こちらの先鋒は新さん。
よーーしっ、行け行け~~新さん!
「新五郎くん、落ち着いてやれば、あなたは勝てますよ」
「はい、先生!」
「伊佐美さん、どうして勝てるとわかるんですか」
「あちらの素振りや動きを見ていると、大したことはありませんから」
「そうなんですかー」
へぇーさすがだな、伊佐美さん。
「はじめ!」
おお、いいぞ、新さん。前へ出て~~前だーー
そうだ、そこだ!行け行け~~~
「勝負あり!」
俺たちの方の旗が上がった。
やったーーー!新さんっ!
やっぱり伊佐美さんの言った通りになったぞーー
「よく頑張りました。新五郎くん」
「はい!ありがとうございます!」
さあーー次は次鋒の三杉浦さんだ。
主婦パワーで行け~~~
「はじめ!」
「やあーー!やあーー!」
おお、よく声が出てるぞ。頑張れーーー
「勝負あり!」
あちゃ~~負けちゃった。うん、仕方がない。
これからこれから。
次は、中堅の「沖田総司」だ!
あの沖田だぞーーー
「沖田くん、勝負にこだわらないで、伸び伸びとやりなさい」
「はいぃ~~・・・」
すると相手のチームから「沖田総司だってー」という声が聞こえた。
沖田くんの相手は吉田さんか。
吉田さん、かなりビビってるんじゃないのか。びっくりした顔してるぞ。
「沖田くん!君は沖田総司なんだ。堂々として!」
俺は激を飛ばした。
「はいぃ~~」
「はじめ!」
すると沖田くんは、なんか変な構えをした。
「あ・・・あれは三段突きの構えですね。どうやって覚えたんでしょう」
「三段突き?」
「はい、沖田くんの必殺技です」
「えええーー」
「勝負あり!」
はっ?
なんだあれは。構えている間に簡単に打ち込まれてる・・・
「格好はよかったんですが・・・」
「で・・ですね・・」
「すみませぇーん」
「いいですよ。後は任せてください」
「沖田くん、さっきの構え、いつ覚えたの?」
「いや・・ずっと前に沖田くんのこと調べてたら「三段突き」いうんがあって、家でちょっと真似したことがあって・・・」
「そうなんだ」
「あくまでも「構え」だけですぅ」
「そっか。いいじゃん。これからだよ」
そして副将の京太郎くんと、大将の伊佐美さんは、あっという間に勝った。
よーーーっし!3対2で勝ったーーー!
こうなると、新さんの勝ちが大きいよな。
すごいぞ、新さん!
第十六章END




