人間のクズ
第十四章
今日は道場も休みで気候もいい時期だし、土方さんと伊佐美さん、新さんと俺の四人で紅葉を観に行くことにした。
たまにはゆっくりしないとな。息抜きも必要だ。
「電車に乗るの、久しぶりですよね、歳さん」
「そうだな」
「伊佐美さんは乗ったことありますか?」
「ありますよ。チケットとやらを買うこともできますよ」
「そうなんですか!すごいですね」
「そりゃもう、この時代に来て何ヶ月も経ちましたもんね」
「新さん、でも歳さんは一人で電車に乗れないですよ」
「うるせえ」
そして俺たちは日比谷公園に着いた。
ああ~~綺麗だなあ。
春になったら桜も見せてあげたいな。
「見事な景色ですね」
「そうだな。こういう風景は時代が違っても変わらないな」
「京の都も同じてしたね」
「まあな。しかし風景を楽しむ余裕などなかったな」
「こうして景色が美しいと実感できるのは、幸せなことなのでしょう」
「大事なものを守るために、時に戦は避けて通れねぇ」
「はい。ご尤もでございます」
土方さんと伊佐美さんは、しみじみと語っていた。
俺はシートを敷き、お弁当とお茶を用意した。
「さ、ここでお昼にしましょう」
「おっ、弁当を作って来たのか」
「はい」
「俺も手伝ったんですよー」
「そうか。太陽も新五郎もご苦労だった」
「さ、歳さん、伊佐美さん、どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
外で食べる弁当は格別だなー。うん、おいしい。
「やっ・・やめてください!」
なんだ、あっちの方でなんか揉めてるぞ。
女性がからまれてるのか?
「いいじゃねえーの。俺たちと付き合えよ」
「嫌です!あっち行ってください」
マズいんじゃないのか。ナンパか?
俺が言葉を発する前に、土方さんと伊佐美さんは歩いて行った。
「新さん、俺たちも行きましょう」
「うん」
「おめーら、なにをしている」
「はあ?誰だよお前」
「なにをしていると訊いてる」
「お前らには関係ねえだろ」
女性は不安そうに見ていた。
「大の男が三人がかりで、女をものにしようってのか」
「うるせえんだよ!」
「君たち、悪いことは言わないから早く立ち去りなさい」
「はあ??」
一人の男が伊佐美さんに殴りかかった。
あっ!マズいぞ。
「伊佐美さん!」
そう言って新さんが落ちていた棒切れを放り投げた。
「かたじけない。さあ、来い!」
「わっはっは。侍かよ!かたじけないだってさー!」
「四の五の言わずかかってきなさい」
「うるせーー」
当然のことながら、伊佐美さんは一撃でそいつをのした。
すると別の男がナイフを取り出した。
あっ!危ない!警察を呼ばなくちゃ!
「太陽、それはマズいぞ。警察を呼んだら歳さんも伊佐美さんも事情聴取されるぞ」
「あっ・・・そうか・・」
「大丈夫だ。歳さんと伊佐美さんならすぐに倒すよ」
「う・・うん」
伊佐美さんが土方さんに棒切れを渡し、土方さんはナイフ男と対峙した。
「そんな棒切れ、意味ないんだよー!」
「その短刀も無意味だ」
「なにーー!」
「どうした。腰が引けてるぞ」
そう言った土方さんは鬼の形相になっていた。
「くそっ・・・」
その男は諦めて、三人は逃げて行った。
「大丈夫か」
「あ・・ありがとうございました」
「早くここから去った方がいいですよ」
「はい・・」
「気を付けて帰れよ」
「あ・・・あの、お礼をしたいのですが・・・」
「そんなものいらねぇよ。早く帰れ」
「でも・・」
「あの、もういいですから」
俺は女性にそう話した。
「でも、それでは申し訳ないです・・」
「いいんですってば。この二人にしたら遊びのレベルですから」
「遊び・・」
「はい、ですから気にしないでください」
「そうですか・・わかりました。本当にありがとうございました」
そう言って女性は、土方さんと伊佐美さんに深々と頭を下げて去って行った。
「歳さん、伊佐美さん、大丈夫ですか」
「太陽、誰にもの言ってんだ?」
「あはは、ご心配なく。太陽くん」
「そうですか・・よかったあ・・」
そりゃそうだ。男は二人の体どころか指一本触れることができなかったもんな。
「しかし、こんな真昼間から変な輩がいるもんですね」
「新五郎。俺たちがいた時代はこんなもんじゃないぞ」
「ああ・・そうですよね。確かに・・」
まあ何事もなく済んでよかった。
「あの・・・ちょっといいですか」
見知らぬ男が声をかけてきた。
「なんですか」
「今の、見てましたが、あのお二人は何者ですか」
「何者って、別に何者でもありません」
「ふーん。そうですかねぇ・・」
なんだ、こいつ。怪訝な顔して。
「何が訊きたいんですか」
「あ、私、こういう者です」
その男は名刺を差し出した。
これは・・某テレビ局の記者と書いてある・・
しまった。見られちゃいけない人に見られてしまった。
「たまたま紅葉の取材に来てたんですが、そしたらさっきの騒ぎに出くわしまして」
「はあ・・・」
「あの、よければお二人を取材させていただけませんか」
「いえ、お断りします」
「なぜですか」
「これって、個人のプライベートの侵害になりますよ」
「まあ、そうですけど」
「きっぱりお断りします。いいですね」
「そうですか・・・残念ですけど仕方がないですね」
「申し訳ありません」
「いいえ」
そう言って男は去って行った。
「太陽、どうしたんだ」
「新さん、これ見てくださいよ」
俺は新さんに名刺を見せた。
「うわっ・・」
「歳さんと伊佐美さんを取材させてほしいって」
「マズいな・・・」
「でしょう。だからきっぱりとお断りしました」
「うん。それしかないな」
「おーい、弁当食わないのか」
土方さんがお弁当を食べながら声をかけてきた。
「あ、はい。食べまーす」
「太陽、これ歳さんにも伊佐美さんにも内緒な」
「はい」
それから二日後のこと。
俺は家でニュース番組を観ていた。
--------先日、日比谷公園で大捕り物がありました。弊社の記者が偶然その場所に居合わせており、えっと、ああ、映像があるんですね。わかりました。ではVTRをご覧ください。
っなんだとおーーーー!
そして携帯で撮った映像が流れた。
くそっ・・・あいつ、撮ってたのか。
そこには土方さんと伊佐美さんが棒を振り回し、相手を倒す様子が映し出された。
これって全国放送だよな。しまった・・・
-------まるで侍のようでしたね。剣の達人なのでしょうか。いや~それにしても一撃で仕留めるとは見事でしたね。なお、男三人の行方は警察が捜査中とのことです。いずれにしてもケガかなくてよかったですね。では次の話題です。
俺は新さんに電話をかけた。
「新さん!大変です。今、ニュースでこの間のことが放送されました」
「ええっっ!マジかよ!」
「はい。土方さんと伊佐美さんの顔は、はっきりとはわからなかったからよかったものの、もう戦ってるところはばっちりと・・」
「マジか・・・。それにしてもその記者、許可なくそんなことやりやがって、許せないな!」
「はい。俺、テレビ局へ行って抗議してきます」
「俺も行くよ」
「わかりました」
なんだよ、テレビ局って。勝手にこんなことしていいのかよ!
次の日、俺と新さんはテレビ局へ向かった。
えっと・・名刺には黒馬九次と書いてある。
俺たちは受付で黒馬を呼び出してもらった。
するとほどなくして、黒馬が現れた。
「ちょっと、あんた!なに勝手に放送してんだよ!」
俺は、怒り心頭になった。
「ちょっとちょっと、いきなりなんですか」
「いきなりも何も、俺は断ったはずですよね!」
「まあまあ、お茶でものみながら話しましょう」
「そんなのいい!どういうつもりだ!」
「どういうつもりって、あのままだよ」
「なにを!」
「太陽、落ち着いて」
新さんが俺を制し、そのまま続けた。
「これって、肖像権侵害になりますよね」
「なにを知った風なことを」
「テレビ局が勝手にそんなとしていいんですか」
「もう流しちまったもんはしょうがないだろ。それに顔ははっきり映ってないんだからいいじゃないか」
「なんだと!」
俺はまた、怒鳴って、更に続けた。
「訴えますからね」
「どうぞご自由に」
「なんだその言い方」
「あのさ、俺たちは毎日、ニュースを探し、それを視聴者に伝える義務があるんだよ。お前らみたいに細かいこと言ってたらニュースなんて取れないんだよ」
「なんだ、その理屈は!それはテレビ局の勝手ないい分だろう!」
「いちいちそんなこと気にしてたら、この世界では生き残れないの」
「くそっ・・なんて人だ。お前らは人間のクズだ!」
「どうとでも言えばいいさ」
「お前なんか、お前なんか、同じ日本人として恥ずかしいよ!」
「あはは。何を言うかと思ったら」
「どれだけ苦労して、命を懸けて、あの時代を生き抜いたと思ってるんだ!」
「おい、太陽」
はっ・・・しまった。。
「あの時代?なんだよそれ」
「お前には関係ない」
「まあ、訴えるでもなんでもすればいいさ」
「ああ、そうしてやる!」
そして俺たちはテレビ局を後にした。
くそっ・・・くそっ・・・
「なあ、太陽」
「なんですか」
「訴えるって言ってもさ、難しいと思うよ」
「新さんまでそんなことを!」
「よく考えてみろよ。訴えるってことは歳さんや伊佐美さんを公に引っ張り出すってことだせ」
「あ・・・」
「そんなことになったら、今どころの騒ぎじゃないぜ」
「・・・・」
「まあ、悔しいけど、今回は顔もはっきり映ってなかったことだし」
「だけど・・・」
「俺は反対だ。歳さんや伊佐美さんを晒し者にしたくない」
「・・・・」
こんな理不尽なことがあっていいのか。
俺は悔しくて涙が溢れた。
第十四章END




