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平成剣士  作者: たらふく
13/29

道場破り

          第十三章



道場を開設して約三ヶ月が過ぎた。

門下生も30人と膨れ上がり、このプレハブでは手狭になって来た。

京太郎くんも、あれからずっと通っている。

もうこの道場の三番手ともいえる実力だった。


俺は体育館の空いてる時間を使えないかと考えた。

もちろんあのクラブと鉢合わせない時間帯に、だ。


「新さん、今の道場では、狭くないですか?」

「確かになあ。時々ぶつかりそうになって、ヒヤッとする時あるもんなあ」

「俺、体育館を使えないかと考えてるんですが」

「そうか。まあ体育館なら広いし、言うことないけどな」

「俺、交渉してみます」

「そうか。お前も大変だな」

「いえ、それが俺の仕事ですから」

「一円にもならないぞ」

「いいえ、お金の問題じゃないです」

「でも食っていくためには、目の前の仕事をちゃんとやらないとな」

「はい、わかってますって。あ、いらっしやいませー」


正直、俺は仕事してても道場のことばかり考えてるな。


「こんにちは」

「あっ、三杉浦さん!何か借りに来られたんですか」

「まあね。それより、あなたたちに話があるのよ」

「なんですか」

「今ここではちょっと・・」


なんだろ。三杉浦さんが俺たちに話っていったら、道場のこと以外にないな。


「もうすぐ俺も新さんも終わりますので、待ってていただけますか」

「うん、ごめんね」


俺と新さんは顔を合わせて、苦笑いを浮かべた。

ほどなくして仕事が終わり、俺と新さんは外で待つ三杉浦さんのところへ行った。


「お待たせしました」

「いえ、こちらこそ、悪かったわね」

「で、話ってなんですか」

「それが・・変な噂を耳にしたのよ」

「変な噂?」

「いやね、道場に来てる人の中に、新選組が好きな人がいて・・・」


げっ・・・ヤバイんじゃないのか、これって。


「でね、特に土方歳三って人が好きらしくて、私はあまり知らないんだけど・・・」

「え・・・」

「その人、星川先生が土方に似てるってんで、入って来たのよ、そもそも」

「そうなんですか・・」

「まあ、その人が言うには、そっくりってもんじゃないんだって。まさに本人だって言うのよ」

「はあ・・・」

「でさ、その人、ある日、先生に「土方さん」って声をかけたら、なんと星川先生が「なんだ」って言って振り向いたらしいのよ」

「・・・・」

「まあ、その人が言うにはよ、本物じゃないかって」

「そ・・そんなこと、あるわけないじゃないですか。土方歳三って幕末の人ですよ?」

「私もそう言ったんだけど、絶対に本人だって言うのよ」


「はいはい~~またですか」


新さんがそう言って話に入って来た。


「またって?」

「もうこれで何回目かなー。間違われるの」

「えっ」

「そっくりなのは確かですから、よく間違われるっていうか。間違うってのも不思議なんだけど。時代が違うし」

「そうよね」

「で、星川先生は、もう面倒になってて、適当に合わせるっていうか。きっとその人のこともからかって返事したんですよ」

「そ・・そうなの?」

「そうですよ!っんな、本物の土方歳三がいるわけないじゃないですか」

「まあ、そうよね」

「だから、その人に言ってください。あまり先生をからかわないようにって」

「そうだね、わかった。ごめんね、忙しいのに」

「いいえ、じゃ、また道場で」


焦った・・・新さんがうまく誤魔化してくれたからよかったけど、これって今後も疑い続けられるんじゃないのかな。


「はあ・・・ビビッた」

「ですね・・俺も」

「これってさあ、俺、結構深刻だと思うんだよ」

「え・・」

「だってさ、道場の評判もかなり広がってるし、こないだなんか、地元の情報紙みたいなのが取材にも来てただろ。写真こそ撮らせてないけど」

「はい」

「で、歳さんと伊佐美さんはあの通りの実力者だし、評判が上がることはあっても、下がることはないと思うんだよ」

「はい」

「そしたら、そのうちテレビなんかが来たら、えらいことになるぜ」

「確かに・・・」

「テレビで流れてみろ。近所の主婦が騒ぐレベルじゃないぜ。それこそ専門家みたいなのが分析っていうの、そんなんしちゃってさ。それとそっくりさん番組とか出てほしいとか言われたりしたら大変だよ」

「なんかジレンマですね・・」

「うん。人が集まり過ぎるってのも、考えものだよな」

「どうしよう・・・」

「とりあえず、募集は締め切ろうぜ。今の30人で締め切り!」

「はい、そうですね」


俺たちは、そのことを土方さんと伊佐美さんに話した。


「そうか。わかった」

「はい、承知しました」

「っていうか、歳さんと伊佐美さんが、かっこ良過ぎるんですよ」

「なんだ、俺たちのせいだってのか」

「違いますけど。まあ、「土方さん」って呼ばれても返事しないでくださいね」

「ああ」


すると土方さんは、とても悲しそうな顔をした。

あ・・悪かったかな。。


「土方さん、我々が元の時代へ戻れるまでの辛抱ですので、そんな顔しないでください。私まで悲しくなります」

「すまん。伊佐美・・・」

「必ず戻って、新選組のために尽力しましょう。私が全力で支えますので」

「ああ・・お前が加わってくれると百人力だ」


「あの・・土方さん、ごめんなさい。俺、酷いこと言っちゃって・・」

「お前のせいじゃねぇさ。気にすんな」

「土方さんの傍には私がついてますので、太陽くんはご心配なく」

「はい・・」


ほどなくして門下生たちがやって来て、稽古が始まった。


「今日はお前らに報告することがある」


土方さんは、いきなりそう言いだした。

なにを言うんだろう・・・


「なにやら、俺は新選組の土方歳三に似てると言われているらしいな。あんな鬼の副長に似ているなんて心外だ。今後は言わないように。わかったな」

「はい!」


土方さん・・・


「それと、この道場はこれ以上門下生を増やさない。この人数で行く。わかったな」

「はい!」

「よし、じゃ始めるぞ」


新さんはうつむいて聞いていた。

なんだか複雑な気分だ。

自分の名前も名乗れない時代に生きるって、どんなだろう。

門下生だってほんとは、もっと増えるはずなんだ。


それにしても京太郎くんは、ほんとに伸びたな。

たった三か月でこんなにも強くなって。

その前に、剣道クラブで習っていたとはいえ、まだ中学生だよ。

いや、若いから習得も早いのかも知れないな。

新さんも、すごく強くなった。

三杉浦さんは・・・またちょっと痩せたかな。ははっ。


「失礼する」


あっ!部長だ!また来やがった。


「なんですか!」

「まあまあ、そういきり立つな」

「なんの用ですか」

「今日は、ちょっと出稽古というか、お手合わせ願いたくてな」

「なにを勝手なことを。俺が許しませんよ」

「君に聞いてるんじゃない。星川先生を呼んでくれ」

「今は稽古中です、後にしてください」


なっんだよ、こいつ。道場破りっての、お前が反対してたんだろ。前に。


「下糸田くん、入りなさい」

「はい・・」


えっっ、誰だこの大男は。180センチ以上はあるぞ。


「ちょっと勝手に困ります」

「いいじゃないか。この下糸田くんは、なかなかの凄腕でね、星川先生も相手にとって不足はないと思うよ」

「なにを勝手に決めてるんですか。あなたね、自分が相手にされないもんだから、他人にやらせるっていうんですか」

「なにを仰るやら。私は星川先生のためを思って来たんだよ」

「なにっ!」


そして休憩に入り、俺は土方さんのところへ行った。


「歳さん、ちょっと・・」


土方さんを部長の前まで連れて行った。


「またお前か」

「どうも」

「歳さん、外へ出ましょう。あなたたちも来てください」


そして俺たちは外へ出た。


「なんの用だ」

「ちょっとお手合わせ願いたく」

「手合わせだと!断る」

「私じゃないんですよ、この下糸田くんが、です」

「誰だ、こいつは」

「誰でもいいじゃありませんか。それとも勝つ自信がないとでも?」

「バカ言ってんじゃねぇ」

「じゃ、いいじゃないですか。断る理由がありませんよ」


「何をしている」


伊佐美さんも出てきた。


「あなたには関係ありませんよ」

「あなたこそ関係ありませんよ。黙ってなさい」


部長にそう言われ、伊佐美さんは鋭く返した。


「なっ・・・」

「そちらの方、なんの用ですか」

「星川先生と手合わせ願いたい」


大男がそう答えた。


「なんのためにですか」

「初芝さんに頼まれて・・」

「初芝とは、この男の名前ですね。初芝さんとやら、手合わせならあなたご自身がなさればいいでしょう」

「なにっ・・・」

「出来ないのですか?」

「そっ・・それは・・」

「情けない方だ。まあいいでしょう。それで、こちらの方で溜飲を下げる魂胆ですね」

「私は下糸田と申します」

「下糸田さん、あなたはどうされるおつもりですか」

「私はだた、初芝さんに頼まれて来ただけです」

「まあ、この際、理由は問いませんが、星川先生の実力をご存知の上で、そんな口を叩いてるんですか?」

「えっ・・・」

「この方は、そんじょそこらの実力者ではありませんよ」

「・・・・」

「まず、私がお相手します。私に勝ったら星川先生への挑戦権を差し上げます」

「あなたには頼むつもりはない!」

「初芝さんは関係ありませんので、黙っててください」

「っ・・・」

「いいでしょう、ではまずあなたと手合わせ願います」

「はい、私は伊佐美と申します。じゃ中に入ってください」


なんてことだ・・・えらいことになった・・・


「みなさん、これから試合を始めますので、よく見ててくださいよ」


伊佐美さんがそう言って、下糸田と向かい合った。


「おい、太陽・・何があったんだ」

「道場破りですよ・・・新さん」

「ど・・・道場破り??」


場内はピンと空気が張り詰めた。


「お願いします」


互いに礼をして、試合が始まった。

そして、勝負が決まったのは一瞬だった。

下糸田は倒れこんでいた。


「ちょっと物足りなかったですね」

「あんた・・・何者だ・・・」

「何者?私は伊佐美という名前だと、さっき申したはずです」

「・・・・」


初芝と下糸田は逃げるようにして帰ろうとした。


「ちょっとお待ちなさい」

「なんだ・・・」


伊佐美さんの言葉に、初芝はビビりながら答えた。


「これでは門下生の勉強にもなりません。京太郎くん、こっちへ来なさい」

「はい・・・」

「この者と手合いをしなさい」

「え・・・」

「よい稽古になりますよ。さあ」

「はいっ!」


「わっ・・・私は・・・別に・・」

「今更なんですか。相手は少年ですよ。さあ向かい合って」


仕方なく下糸田は向かい合った。


「はじめ!」


京太郎くんの剣は鋭く、積極的に打ち込んでいた。

下糸田も押し返してはいたが、京太郎くんの方が優勢だ。


「やー!」

「一本!暁京太郎の勝ちです」


やった!京太郎くん、すごいぞ!

みんなも拍手していた。


「くそっ・・」


「待ちなさい。まだまだこれからですよ。新五郎くん、こっちへ来なさい」


逃げようとした下糸田に伊佐美さんが言った。


「えっ!お・・俺ですか!?」


うわーーマジか。伊佐美さん。新さん、頑張って!

新さんと下糸田は向き合った。

下糸田、情けない顔して、まあ。


「はじめ!」


前へ出ろ、新さん、前へ出るんだ!

そうだ!行け行け!

激しい打ち合いになって来たぞ。でも新さん、負けてない。

竹刀のぶつかり合う音が、大きく響いていた。


「やー!」

「一本!小二田新五郎の勝ち!」


やったーーー!新さん、すごいぞ!


「うう・・・」

「どうしました。もうおしまいですか」

「もう・・いい・・」

「そうですか。相手ならまだまだいますが」

「いや、もういい。申し訳なかった・・」

「では、今後一切、この道場と門下生には手を出さないと約束しなさい」

「約束する・・・」

「そちらの初芝さんもですよ」

「は・・・はいぃ・・・」


そう言って二人は、やっと帰してもらった。

みんなは飛び上がって喜んでいた。

俺も最高だ!


「新さん!すごかったよ!ほんとに強くなりましたね!」

「太陽~~俺、勝ったよ。初めての試合で勝ったよ!」

「うん、すごいすごい!」


それにしても、ほかの人だって同じように強くなってるんだ。

ここって、ほんとにすごい道場なんだ。。


「みなさん、今の試合を見てわかったと思いますが、あなたたち自身は気がついてないかも知れませんが、確実にみなさんは実力をつけていますよ。だから今後も変わりなく精進してください」

「はいっ!」

「星川先生、今日の稽古はここでおしまいにしますか」

「ああ。みんな、いい試合を観れたな。では解散」

「ありがとうございました!」


みんなは口々に感想を言いながら、帰り支度を始めた。


「歳さん、差し出がましい振る舞いをお許しください」

「なにを言ってやがる。見事な采配だったぞ」

「恐れ入ります。あんな輩に歳さんが出るまでもないと思いましたので」

「そうか、ありがとよ」

「では、我々は始めますか」

「ああ」


いつもの打ち合いが始まった。

それにしても、伊佐美さんって、すごいな。

機転が利くというか、頭がいいっていうか。

この人なら、元の時代に戻っても、土方さんの右腕になれる人だ。

それにしても、かっこ良過ぎるよ~~~


第十三章END

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