剣士の心
第十二章
今日はイベントが終わって、初の稽古日だ。
さあ~~どれくらいの人が来てるかな。
楽しみだな~~。
「こんばんはー」
おおおっ、10人?いや、20人?
ひゃ~~すごい集まってる。やっぱりイベントをやってよかった!
「こんばんはー」
「あっ、新さん。見てくださいよーこの人」
「うわっ!いきなりすげーな」
「でしょー、俺、嬉しいです!」
「歳さんも、伊佐美さんも喜ぶだろうな」
「はい」
「えっと、みなさん、こちらに集まってください」
俺がそう声をかけて、集まってもらった。
「先生方がこられるまで、ここに座って待っててくださいね」
それにしても・・・女性が大半だな。
これって絶対に土方さん目当てだな。
ま、それでもいいか。とにかく人を集めて評判を高めなくちゃね。
ほどなくして、土方さんと伊佐美さんが入って来た。
「きゃ・・・来たわ。あの人よ・・・」
「かっこいいわぁ・・・」
女性たちが口々にそう言っていた。
「太陽、たくさんの人が集まってくれたもんだな」
土方さんが嬉しそうにそう言った。
「はい、俺、嬉しいです。え~では、みなさん、先生方の前に集まってください!」
そしてみんなが集まって来た。
「みんな、よく来てくれた。俺は星川歳、こいつは伊佐美格之助だ。みんなも自己紹介してくれ」
それから一人ずつ、自己紹介が始まった。
女性が12人か。。子供といえば、中学生くらいの男の子がいるな。
「暁京太郎です。15歳です。よろしくお願いします」
へぇー15歳か。しかも名前もかっこいいな。
「ほう、京太郎ってのか。いい名前だな」
土方さんにそう言われて、京太郎くんは照れくさそうにしていた。
かわいいな。
あとは、あまり覇気のないおじさんか。
ってことは・・全部で14人か。それにしても男は2人か。
それから土方さんが色々と説明して初稽古が始まった。
うん、いい感じだ。
それにしても、女性群だよ・・・絶対に勘違いして来てるな。
「新さん、よかったですよね、これだけ集まったら、今後にも期待できますね」
「そうだな。ってか、お前もやれって」
「いや、俺は雑務がありますから」
「ったくーー」
「す・・すみません、遅れました・・ハアハア」
「三杉浦さん、もう始まってますよ」
「はいぃ・・・」
走って来たんだな。ハアハア言ってる。
でも走ってくるなんて、健気だな。
「遅いぞ!三杉浦!」
「ひっ・・すっ・・すみませーーん」
あはは。また土方さんに怒られてる。
こうして、星川道場は、徐々に動き始めた。
それから一週間後の稽古の日。
いつものように、みんなが稽古していたら、突然、剣道クラブの部長が入って来た。
なっ・・・なんだ!
「失礼する」
「部長さん、なにか御用ですか」
「君に用じゃない。暁くんに用がある」
なんだ、この喋り方。完全に俺を敵対視している。
「ちょっと待ってください。今、稽古中です」
京太郎くんは、土方さんと打ち合っていた。
新さんの話によると、京太郎くんは、かなり筋がいいらしい。
それで土方さんも、目をかけているようだ。
その二人の姿を見た部長は、半ば睨みつけていた。
なんだよ、こいつ。
やがて休憩時間になり、俺は京太郎くんを呼んだ。
「あ・・先生・・」
「暁くん、君はこんなところでなにをしているんだ」
「え・・・」
「今日は、クラブの稽古があるだろ。なぜここにいるんだ」
「僕は・・」
「ちょっと待ってくださいよ。京太郎くんがどこに行こうと自由でしょう!」
俺はすぐさま割って入った。
「君と話してるつもりはない」
「俺はここのマネージャーです。この道場に関することは俺を通してください!」
「では、暁を返してもらおう」
「いえ、返しません!」
「おい、太陽、どうした」
「歳さん。この人が京太郎くんを返してくれと言って」
「なんだ、お前は」
次第にみんなも、俺たちを注目していた。
「私は先日お目にかかった初芝ですが」
「初芝ぁ?憶えてねぇな」
「失敬な。まあ、いいでしょう。暁は私の弟子です。返していただきましょうか」
「そんなこたぁ、京太郎が決めることだ」
「なっ・・・」
「お前が勝手に決めることじゃねぇだろ」
「暁!どうなんだ!」
部長はカンカンになって怒鳴った。
「先生・・ぼ・・・僕は・・・」
「はっきり言いなさい!」
なっんだ、こいつ!偉そうに!
「ちょっと、京太郎くんが困ってるじゃないですか」
「うるさい!君は黙ってろ!」
「なにを!」
「まあまあ・・」
伊佐美さんが制しに来た。
「私は伊佐美格之助と申す者です。先ほどから話を聞いておりましたが、貴殿の話しぶりはとても師匠の「それ」とは思えないのですが」
「なっ・・・」
「曲がりなりにも師匠と名乗るのであれば、相応の礼儀というものをわきまえられてはいかがですか」
「・・・・」
「他人の道場に突然来られ、ここに通うと決めたものを無理やり連れて帰るなど、武人の風上にもおけませんね」
「武人??」
「あなたも剣を持つ身なら、最低限の武人としての心得があるというものでしょう」
「武人だの、命を懸けるだの、君たちはなにを古臭いことを言ってるんだ」
「剣を持つ者に、新しいも古いもございません」
「今は平成だぞ。なにを時代劇みたいなことを・・・」
「聞き捨てならねぇな」
土方さんの顔が、あの、鬼の形相になっていた。
「てめぇ、何のために剣術をやっている」
「何のため?それは己の心身を鍛えてだな・・剣道という日本の伝統を未来永劫守るためだ」
「それは本心か」
「ああ」
「にしては、了見の狭いこった」
「なにを!」
「俺は京太郎がどこで剣術を習おうと、それは京太郎が決めることだと思っている。肝心なのは指導する側の心構えだ」
「私に心構えがないと言うのか」
「てめぇは、己の自尊心を満足させてぇだけだ。単に「師匠」と呼んでくれる者を傍に置いておきてぇだけだ」
「なっ・・・」
「とにかく、これはてめぇの問題じゃねえ。京太郎が答えを出すことだ」
「・・・・」
「京太郎くん、どうするの?」
俺はそう尋ねた。
「太陽、こんな大勢の中で答えさせるのは酷だ。次の稽古の日にまでに選べばいい」
「そうですか・・」
「それでいいな、京太郎」
「はい・・・すみません・・」
そして部長は帰って行った。
それにしても失礼な奴だ。あれでよく師匠なんてやってるよな。
「さ、稽古を始めるぞ!」
土方さんは何もなかったかのように、稽古を再開した。
それにしても、また女性群だよ。
今の土方さんと部長のやり取りを見て、更に目がハートになってるぞ。やれやれ・・・
そして稽古は終了し、土方さんと伊佐美さんは打ち合いを始めた。
「新さん、まいりましたね・・」
「あの部長とやら、失礼な奴だったな」
「はい、俺、以前、一人で話しに行ったことあったでしょ」
「うん」
「あの時も言い合いになって。俺、怒鳴りつけて帰ったんですよ」
「そうだったのか」
「京太郎くん、かわいそうでしたね」
「だな・・」
あれっ、京太郎くん、帰らないのかな。
「京太郎くん・・」
「あっ。すみません・・」
「帰らなくていいの?」
「あ・・ちょっと先生たちの稽古を・・」
「ああ、そっか。見て行くといいよ」
「はい」
京太郎くんは、土方さんと伊佐美さんの打ち合いを食い入るように見つめていた。
「京太郎、お前も来い」
「えっ・・・」
「行きなよ。早く早く」
「はい・・・」
京太郎くんは土方さんに呼ばれて立ち上がった。
「もっと踏み込んで来い!」
「はい!」
これは特訓というものだろうか。
新さんが羨ましそうに見ている。
「京太郎くんって、素質あるんですね」
「うん、伊佐美さんも、かなり筋がいいって言ってたよ」
「そうなんですね。新さんも気合いを入れないとね!」
「わかっとるわ!」
暫くの間、道場には竹刀のぶつかり合う音が響いた。
第十二章END




