道場開設イベント
第十一章
俺は剣道クラブの部長に、土方さんをバカにされたことが悔しくて、こうなったら道場の広報係もすることにした。
そこで俺は考えた。
道場が建っている敷地を利用して、イベントを開催することに決めた。
当然、イベントの見せ場は、土方さんと伊佐美さんの打ち合いだ。
他には、俺と新さんと三杉浦さんで、子供が喜びそうな輪投げやら、お菓子も揃えて、三杉浦さんには主婦としての実力を発揮してもらうため、うどん作りを頼むつもりだ。
そのことを稽古の合間に、みんなに話した。
「というわけなんですが、どうでしょうか」
「いいと思うよ、俺は賛成!」
新さんが早くも賛成してくれた。
「俺は太陽に任せる。いいようにしてくれ」
「私も歳さんに同意します」
土方さんと伊佐美さんも賛成してくれた。
「三杉浦さんは、どうですか」
「うん、いいと思う。あたし、日ごろ先生方にお世話になってるから、手伝わせてもらいます」
「そうですか!ありがとうございます」
よーーし、これで決まりだ。
「太陽、俺も手伝うから遠慮なく言えよ」
「いえ、新さんは稽古に励んでください。もし困ったらその時は、お願いします」
「そうか、わかった」
俺は次の日から、早速、動いた。
まず、市民体育館に輪投げを借りに行き、お菓子もスーパーで子供向けの袋入りを買い、冷凍うどんや油揚げ、ネギも買った。
出汁は三杉浦さんが作ってくれると言ってたし、これでいいな。
それとチラシ作りだ。
俺は簡単なイラストを描いて、「星川道場開設記念イベント開催!未来の剣豪たちよ、集まれ!」の文字を大きく入れたチラシを作った。
俺は、そのチラシを時間の許す限り、駅前で配って歩いた。
ちなみに費用は、葛下さんが全額負担してくれた。申し訳ないな・・少しずつ返していこう。
イベント当日になり、俺たちは朝から色々と準備に励んでいた。
「星川くんーー、連れてきたわよーー」
振り向くと三杉浦さんが、近所の主婦たちをたくさん連れて来ていた。
「三杉浦さん、これは・・?」
「あのね、先生がかっこいいって言ったら、みんな着いて来ちゃったのよ」
「あはは、そうなんですか」
「で、みんなも手伝ってくれるって」
「そうですか!どうもみなさん、朝からありがとうございます」
「いいのよーー、先生、見に来たついでに手伝ってあげるわ!」
「そうよー任せなさい!」
みんなそれぞれに話していた。さすが主婦だ。一気に場が明るくなった。
俺と新さんは、輪投げの準備をした。
「よう、太陽、新五郎」
あっ、土方さんと伊佐美さんが来た。
「賑やかですね」
伊佐美さんがそう呟いた。
「はい、三杉浦さんのお友達も来てくれました」
「この方たちが先生!?」
「はい、星川先生と伊佐美先生です」
「まあ~~~なんてかっこいいの!」
「きゃーー俳優みたい!」
「あたしも入れてもらおうかしら~~~」
主婦たちはすごい騒ぎだ。まいったな・・・
「ちょっと、あんたたち~~こっち手伝ってよね」
「はいはい~~わかってるわよーー浦ちゃん!」
三杉浦さんって、浦ちゃんって呼ばれているのか。
開催の時刻と共に、徐々に人が集まって来た。
チラシを持ってる人も何人かいたけど、何の騒ぎだ?と不思議に思う人も立ち止まってくれていた。
「大変賑やかでよろしいですね」
あっ、葛下さんだ。
「どうも、葛下さん、この度はまたお世話になりまして」
「いいえ。賑やかなのが一番ですね」
「どうぞ、こちらにおかけください」
俺は、用意してあった椅子に座ってもらった。
「あとで、うどんをお持ちしますので」
「私のことは気にしなくていいですから、君の持ち場へ行きなさい」
「はい、すみません」
俺はマイクを持ち、みんなに呼びかけた。
「みなさん!本日は星川道場の記念イベントにお越し下さり、ありがとうございます。出し物は少ないですが、子供さんには輪投げとお菓子を用意してあります。うどんも用意しました。それとこの主催のメインである、星川先生と伊佐美先生の剣術披露会がありますので、是非、この機会に本物の剣術を見て行ってください。よろしくお願いします」
それから俺は輪投げの場所に移動した。
「太陽、お前すごいな。いい挨拶だったよ」
「いえー、新さん。緊張しましたよー」
俺は内心、剣道クラブの部長に侮辱されたことが頭から離れず、絶対に門下生を増やしてると固く決意していたのだ。
土方さんと伊佐美さんは、葛下さんを挟んで座って談笑していた。
その前を通り過ぎる人たちは、土方さんのかっこよさに見惚れているようだった。
そしていよいよ、剣術披露会の時間になった。
「それでは、お集りの皆さん!ただ今より両先生による剣術を披露します」
俺の掛け声で土方さんと伊佐美さんは、互いに構えて向かい合った。
カンカンと木刀がぶつかる乾いた音が、青空の下で響いた。
中には「きゃー」という黄色い声も飛んでいた。
あの主婦たちも、憧れのまなざしで二人を見ていた。
しかし、二人の真剣さに、次第にその場は静まり返って行った。
やっぱりすごいな・・・この二人は。
場の空気を一気に変えちゃった。
やがて打ち合いは終わり、二人は静かに礼をして、観客にも礼をした。
そして盛大な拍手が送られた。
「みなさん、いかがでしたか。これを機会に、是非、わが道場へお越しください!待ってます!」
俺が挨拶して、イベントは無事に終了した。
「ちょっと、ちょっと~~ねえ、きみ。あの先生たち、独身!?」
「えっ!えっと・・多分・・」
「多分ってなによーー!」
なんだなんだ・・・主婦たちが俺に畳みかけてきた。
にしても、独身とか、関係ないだろう。主婦なんだし。
土方さんと伊佐美さんの周りに人だかりができていた。
まずいな・・・これは。
俺は急いでその場へ駆け寄った。
「あの・・すみません、先生方はお疲れですので、このくらいで・・」
俺の声など届きもしない。サインしてくれとか言ってる人もいるし。
あっ!そうだ!
「みなさん!写真撮影は固く禁止しています!絶対に撮らないでください!」
「ええーーダメなのーー」
「はい!禁止です!」
「じゃ握手はいいの!?」
「あ・・えっと・・」
「太陽、握手ってなんだ」
「ああああ・・」
「握手したい方は、こちらに並んでください!」
新さんがそう言って、列を作ってくれた。
はぁ~~~よかった。。
にしても、土方さん、握手を知らないのか。
「歳さん、握手ってのは挨拶みたいなもんで、こうするんです」
俺は土方さんと伊佐美さんに握手の仕方を教えた。
「ほう、これが握手か」
「はい」
そして一人ずつ並んで、急きょ握手会が始まった。
ひぃ~~予定外だったな。
それにしても、すごい人気だ。想像以上だ。
「ねえ、あの人、土方歳三に似てるよね」
一人の女性が、そう呟いた。
「そうなの?私、知らないからわかんない」
「いや、似てるっていうか、そのままなんだけど」
「まさか。だって幕末の人でしょ」
「うん。そうなんだけど」
「似てる人っているし」
「うーん・・・ほんとにそっくりなんだけどなあ」
うっ・・・そりゃ知ってる人もいるわな。
ヤバイ、ヤバイ・・・
「あの人ね、俺の叔父さんなんだけど、しょっちゅう言われるんだよ。似てるって」
「そうなんだ」
「でさ、自分も似てるって知ってるから、寄せてるっていうの?ははっ」
「なるほどー」
よかった。納得してくれたみたいだ。
さて、これでどれくらい増えるかな。
たくさん来てくれたらいいのにな。
第十一章END




