燃える男とだち
ピピピピピピピーーー!!
朝7時半を告げるアラームが、布団のまかでまどろんでいる彼を覚醒させるため、けたたましい音を鳴らしている。
せっかくの土曜なのに、なんでゆっくりさせてくれない。
意識はほぼ起きていても、もがくように布団を頭まで被った彼だったが、
結局はアラーム音と、学校に行かなくてはいけないという使命感に負けて布団から這い出るのだった。
まぁ、今日は一日遊びのようなものだしいいか!
六畳でほとんど物のなく、その部屋の人間の趣味を特定することも難しそうな部屋から洗面台へと向かう。
「おはよう」
「あら、おはよう。そうえいば今日は学園祭だったわね。
楽しそうな写真いっぱい撮ってきてね~。」
「……出来る範囲で撮るよ」
正直、写真とか思い出とかを大事にするタイプじゃないんだよな~。言われたら撮るしかないけど。
朝の挨拶を交わしながら身支度を整えていく。親と子での考えの違いにうんざりしながらも返事を返す。
そんなとき、ふと聞こえてきた朝のニュースに耳を傾ける。
『最近、話題になっている、死体消失事件についてです。
ホテルでの火災で、泊まっていたはずの俳優yさんの死体が見つからず一週間以上が経っているというこの事件。
昨日の七時頃、警察は死体を持ち去った人物がいるとみて、死体遺棄の容疑で捜査を開始しました。』
「物騒な事件よね。火事は完全に事故だったらしいのに、死体は盗まれるなんて、不自然だわ~。」
確かに、死体に価値なんてほとんど無さそうだし、簡単に足がつきそうなきがする。
火事場泥棒がわざわざ死体持ってくなんて、どっかでミッションでも受けたエージェントくらいしかやらないだろ。
そんな映画も知らないけどね。
「そうえいば、あの子今日の午後に帰ってくるらしいから、お母さん達は明日文化祭見に行くね。」
「あいつ帰ってくんのか。じゃあ一応今日は早めに帰るわ。」
「ありがとね、じゃあそうしてちょうだい。」
妹帰ってくんのか。今日もきっと夜は母さんいないし、俺が料理番か。
彼の家族は妹と母と彼を含めた三人家族であり、妹は全国大会の為に開催地の九州へと飛んでいた。
夜には母がいないため、小さい時は彼が夕飯を作るのが基本であった。
だが、彼が高校、妹が中学に入学すると、家に帰る時間がバラバラになり、夕飯を作るのはたまに妹に頼まれた時ぐらいとなっていた。
「それじゃ、仕事行くから。あなたも早く出るのよ。」
「わかったよー。」
適当な返事を返す。
それからあまり時間を置かない内に母は出ていき、しばらくしてから彼も家を後にした。
◇
今日は学園祭である。
高校の学校行事の中でも一、二を争う程盛り上がるこのイベントに、校内全体が浮ついた雰囲気に満たされていた。
また、自分もその中の一人であることを自覚し、
自覚してしまったが故に、上がらなくなってしまったテンションに嘆息する。
模擬店なんかにしなきゃよかったな~。
心の中で、出し物決めをした時、適当に手を挙げてしまった自分に後悔する。
「ごめ~ん!友達と約束あるんだけど、任せていい?」
「お、オッケー!残りの在庫少ないし、あとは俺だけでやるよ。」
「本当!!そう言ってくれると思ってた~。じゃあよろしくね~。」
ついていけないテンションに、回りから人がどんどんといなくなり、気がつけば自分を残すのみになっていた。
はぁ、またやっちまったよぉーー。
模擬店なのに一人だけにするのはダメでしょ。
全然オッケーじゃなかったよ俺…。
決して一人が苦手では無いが、文化祭の中で一人というのは、回りの目がとても気になる。
それどころか、在庫が数えられる程度であることは確かだが、
客はまだ途絶えておらず、明らかに一人だけで対処できる状況では無くなっていた。
なんで、なんで俺は簡単に流されちまうんだ!!
彼は、自分が他人の意見や雰囲気に流されやすいことを自らの悪癖と捉え、よくそのことを嘆いていた。
調理中だった食材が焦りを反映したように黒ずんでいく。
「さすがに文化祭なのに値切りはちょっと……。」
「そこをどうにか安くさ、ね?」
「そんなことしたらクラスのやつらにボコボコにされちゃいますよ~。」
「でもほら、今クラスの人いないじゃん?バレないバレない。」
「あ、本当だ!じゃあ今だけ値引きしちゃいますか!ほれほれ、いくら値切りるんだい~?」
「じゃあ半額!」
「んん~、もうタダで!」
初対面の客相手にまで、彼は先程嘆いていたはずのことを繰り返していた。
後ろでは、勝手に値切りを行ったことの怒りを物語るように、食材達が激しい炎を上げていた。
「ってこれ、火事じゃねーかーーー!!
いったいつのまにこんなとこになってたんだよ。」
彼は、さっきの値切り客を最後に客並みが途絶え、回りの目がこちらに向いていないことをいいことに、急いで火を消そうとした。
だが、彼は炎を前にして焦り過ぎていた。
コトッ!!
焦って動いたせいで火のそばにあった食品用油に肘を思い切りぶつけてしまった。
「あ、油がぁーー!」
ブォォーーン!
勢いよく火の中に入っていった油が更なる火を呼び、そしてその勢いによって飛び火した火が、その範囲をさらに広範囲へと拡大していく。
これはまずい、
もはや状況は取り返しのつかない方向へと向かっていた。
火を見てなかったやつ誰だよ!!
お、俺だ~。
近くに油置いたやつ誰だよ!!
お、俺だ~。
文化祭中に彼女いないやつ誰だよ!!
お、俺だ~。
太陽の塔創ったやつ誰だよ!!
お、岡本太郎だ~!!
青春は?
お、爆発だ~。
リア充は?
「やっぱり~、こう外から見てる立場としては~、決して許容できるようなことではないとおもうんですね~、パイパイ。
って、あっっっちーーーーーー!」
関係の無い事を考えている彼を責めるかのように燃え広がった炎が
、彼の赤いクラスtシャツを、
その色と同調するように広がり、もはやどのクラスのtシャツかわからなくなるほどに燃やしていった。
「熱いーー!!熱い!熱い!熱い!熱い!あ…あーー」
そして、彼は窓から落ちていく時、自分の人生の終わりを悟った。
あーあー、かねのながれのよ グチャッ!