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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
いせかいのゆうしゃさま
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おんせんがいのであい

実生活がしんどすぎて死ねる。

何はともあれ、遅くなりました。


 フランベルジュの城下町を出発してから2ヶ月ほど時間が過ぎた。

 その間ジン達は色々と情報収集をしながら旅を続け、未開の遺跡を探検したり依頼を受けたりしていた。

 成果はまずまずといったところで、パーティーの財布はそれなりに潤っていた。

 もっとも、最高ランクの仕事ばかりこなしてきたジンにとってのそれなりなので、実際にはかなりの大金を稼いでいるのだが。


 そして現在、一行はモントバンの国の辺境にあるサリッサというログハウスが立ち並んだ小さな村に来ていた。

 その村は火山の近くにある温泉地として知られている村であり、名の通った観光名所である。

 村の到る所から温泉の湯煙が立ち込めており、多くの冒険者や湯治目的の観光客等で賑わっていた。


「ここがサリッサの村ですか。何だか、独特のにおいがしますね」


「これは温泉に含まれる硫黄のにおいだな。ここに来るのは初めてだが、前にムラクモに行った時に温泉に入ったことがある」


「しっかし、ただの風呂となにが違うんだ?」


「温泉の中に含まれている成分に普通のお風呂には無い効果があるのですよ。滋養強壮や美容など、効果も様々なのです」


「それはともかく、まずは宿に行かないかい? 村を回るにしても一度荷物を置いてきたほうが良いんじゃないかな?」


「賛成。さっさと宿を探して温泉に行くわよ」


 口々にそういいながら一行はまず宿を探すことにした。

 長期滞在の出来る安宿を見つけ、荷物を置くと一行は村の中で解散し、情報収集をすることにした。

 そんな中、ルネがライトブラウンの髪を弄りながらジンに質問を投げかけた。


「ところでさ、何でこんなところに来たんだい? 正直、こんな観光地じゃあんまり大口の依頼は無いと思うんだけど?」


「……いや、少しばかり行ってみたくなっただけだ。たまには旅行気分を味わうのも良いもんだぞ?」


「……ふ~ん……わかった、そういうことにしておくよ。まあ、冒険者が集まるから情報収集には困らないだろうし、僕は適当に回ってるよ」


 怪訝な表情を浮かべながらも、ルネはジンの言葉に一応は納得し、そう告げる。

 しかし、ルネはジンをジッと見つめて動こうとしない。


「……何だよ?」


「いや、ちょっとお小遣いが欲しかったり」


 ルネはそういいながら、青と緑の瞳でちらちらと周囲の屋台を見ていた。

 屋台からは香ばしい香りと物を焼く煙が立ち込めている。

 ジンはそれに肩を落としてため息をつき、財布から金貨を6枚取り出してルネに渡した。


「……給料の前払いだ。大事に使えよ?」


「へへっ、話が分かるね。それじゃ、行ってくるよ!!」


「屋台を食い潰すんじゃないぞ~!!」


 屋台に向かって土煙を上げて突進していくルネに対して、ジンはそう言った。

 そんなジンに、背後から近づく影が一つ。

 その影は、ジンに向かって突如覆いかぶさった。


「うぉあ!?」


「にへへ~♪ ジン、ちょっと付き合うのです♪」


 覆いかぶさってきたのは深緑の瞳のエルフだった。

 その白く透き通った肌はほんのり赤く染まっており、口からはほのかに酒のにおいが漂っていた。


「あ、もう酒飲みやがったのか、ルーチェ!?」


「なにを言ってるのです!! サリッサといえば湧き水の村、その名水から作られるお酒は国内最高峰の品質なのです!! それを飲まないなんて考えられないのですよ!!」


 ルーチェはジンの首に抱きつくと同時に膝の裏を蹴って体勢を崩し、しっかりと捕まえる。


「ええい、天下の往来で絡み酒なんてするんじゃない!! だいたいこんな真昼間からどれだけ酒を飲んでんだ!?」


「そんなに飲んでないのです。せいぜいボトル7本分なのです」


「飲みすぎじゃボケェ!!」


 ジンは何とか引き剥がそうとするが、ルーチェにしっかりと極められていて離れられない。

 そんなジタバタともがくジンを、ルーチェは強制的に酒場まで引きずっていく。


「わかった、わかったから!! 夜になったら幾らでも付き合ってやる!! だから昼間は少し我慢しろ!!」


 ジンはとっさにそう叫んだ。

 するとルーチェは引きずるのをやめ、にこやかに笑いながらジンの頬に自分の頬をくっつけた。


「やった♪ ジン、大好きなのです♪ それじゃ、夜を楽しみに待ってるのですよ~♪」


 ルーチェは上機嫌でそういうと、軽やかな足取りで酒場に消えて行った。

 やっとの思いで開放されたジンは、げんなりとした表情でため息をついた。


「……また報酬の大部分が食費と酒代に消えるんだろうなぁ……」


 ジンはホロリと涙をこぼしながらそう呟くと、トボトボと表通りを歩き出した。




 しばらく歩くと、ジンは村の中心にある広場に出てきた。

 そこには人だかりが出来ていて、異様な騒がしさに包まれていた。


「……何なんだ、いったい?」


 ジンは興味を持ってその人だかりに近づく。

 が、あまりに人が多すぎてその中心に何があるのかが分からない。

 そこで、ジンは周囲の人間に話を聞くことにした。


「チョイ失礼、これはいったい何の騒ぎだ?」


「ああ、何でも魔王を退治しに行く勇者様ご一行がこの中心にいらっしゃるらしいんだ」


「勇者だと?」


「そうさ。何でも、勇者様は異世界からやってこられて、見たことも無いような武器で魔物を倒すらしい」


「ふーん……異世界の勇者ねぇ?」


 ジンは興味深そうに騒ぎの中心を覗こうとする。

 しかし相も変わらず人ごみがすごく、件の人物を見ることが出来ない。

 そこで、ジンはいったん人ごみから離れた。


「……ちょいとばかり目立っちまうけど、まあ大丈夫か」


 そう呟くとジンは魔法で脚力を強化し、人ごみを一気に飛び越えた。

 勇者達の周りに集まっていた人々は、突然降って来た人影に呆気にとられる。


「……うわ、何か来た」


 一方、勇者達もいきなり目の前で派手な登場をしたジンを呆然と眺めている。

 結果として、ざわついていた広場は一気に静まり返ったのだった。


「よっと。お、なるほどね、これが勇者達一行か」


 そんな周囲のことなどお構いなしに、ジンは勇者達一行を眺めた。

 一行は4人組で、男女混合の構成だった。

 拳法着を着た男に、弓を携えた軽装の女、高位の神官の服を来た女、そしてジンが見たことも無いような服を着ている男の4人組だった。

 ジンはその中から、変わった服を着た男を眺めた。


「な、何だよ、俺の顔に何かついているのか?」


 男は怪訝な表情を浮かべながらジンを見る。

 ジンにはよく分からなかったが、男の服装はジーンズにパーカー、そしてスニーカーといった服装だった。

 黒髪黒目で顔立ちは至って普通だが、ジンはまとう空気の違いからその男が異世界からの来訪者であると確信した。


「んー……彼が勇者か。勇者と言う割には少し覇気がないけど」


「あー、一応正解。いきなり連れてこられて、訳の分からんうちに勇者にさせられますた」


 ジンの言葉に、異世界の男は疲れた表情でそう答えた。

 そんな男の声を聞いて、軽装の女が男の頭を痛打した。


「いってぇ!? おいこらカペラ、何しやがる!?」


「貴様、そんなやる気の無いことでどうする。周囲の人間が貴様に期待を集めてるんだぞ? それに答えてやらんでどうするつもりだ?」


 カペラと呼ばれた長身の女は冷淡な声で男を一喝した。

 しかし、男はそれに対して反発した。


「はいはい、また出たよ。わざわざそう押し付けがましく言うこともねえだろうに、ったく……」


「そう不貞腐れることも無いでしょう、スバル?」


 そんな男を諭すかのように、神官がスバルと呼ばれた男に穏やかな声をかける。


「……なんだよスピカ?」


「いえ、魔王を倒す等と言う面倒なことは早く終わらせるに限るということですよ」


「おい、面倒とか言って良いのかそれは?」


「言い訳が無いだろう、馬鹿者が!!」


 気がつけばジンをそっちのけで漫才を始める勇者一行。

 そんな一行を見て、ジンはため息をついた。


「お~い、盛り上がってるとこすまんが、お話宜しいでしょうか~?」


 ジンが声をかけると、勇者一行は慌てて話を切り上げてジンのほうを向いた。


「くっ、すまない。見苦しいところをお見せした」


「別に構わんさ。俺は堅苦しい連中よりこういう空気のほうが好きだからな」


 カペラの謝罪をジンは笑って受け入れる。

 そんなジンに、スバルが声をかける。


「で、アンタはどこのどちら様で何の用なのでしょうか?」


「俺の名前はジャン・ピエール・アンドレー・ジョゼフ・シャトーブリアンで」


「んなくどい名前があるか!! それ偽名だろ!?」


 ジンが適当に名前を言った瞬間、スバルが勢い良くツッコミを入れる。


「おう、正解。偽名だぜ」


「せめてもっと分かりにくい奴を使えよ!!」


「それじゃ、ジャンでもジンでもジョニーとでも好きに呼びな」


「じゃあ一番短いジンで。それで、ジンは何の用があって俺たちに話しかけたんだ?」


「その辺は他の連中と大体同じだな。興味本位だ」


 ジンはそういうと、4人をジッと見定めた。

 スバルは一見覇気がないが、たたずまいから見てそれなりに身軽そうである。

 カペラは引き締まった肉体で、日ごろから訓練を重ねている人物であるらしかった。

 スピカはまとったオーラからかなり力のある神官であることが分かった。

 そして、ジンは拳法着の男から自分と同じ匂いを嗅ぎ取った。


「ところで、さっきからそこの拳法着の兄さんは何でジッと俺を眺めているのかな?」


 ジンはニヤニヤと笑いながら拳法着の男を見据える。

 それに対して、拳法着の男もニヤリと笑い返した。


「フッ、その顔は分かって言っているのだろう?」


「おいコラ、リゲル。天下の往来で喧嘩を売るんじゃねえ」


 拳法着の男、リゲルから不穏な空気を感じ取ったスバルはリゲルの腕を掴んで制止する。


「戯け、目の前に見るからに極上の相手がいるのだぞ? 闘わずしてどうするというのだ?」


 しかしリゲルは眼をギラギラと光らせながらジンを見据えてそういった。

 ジンはそれを不適に笑って受け止める。


「どうやら、俺はそちらのおめがねに適ったようだな。だが、お前が俺のおめがねに適うかどうかは怪しいもんだがなぁ?」


「ええい、貴様も挑発するな!!」


 挑発するようなジンの発言をカペラが大慌てでいさめる。

 しかし、ジンはそれを意に介さずとんでもない発言をした。


「いや、だって俺恐らくお前ら全員同時に相手して勝てるぞ? 魔王退治の相手をどうやって決めたか知らんが、全員精々がAからAAAランクってとこだろ? 正直、今の状態で魔王に勝てるとは思えないな」


 飄々としたジンと発言に、一同はピクリと反応した。


「おいちょっと待てよ。俺達これでも結構難易度の高い迷宮も突破してるんだぜ?」


「迷宮の難易度と戦いの強さは関係ないな。どこの迷宮に潜ったか知らないが、恐らくその迷宮は俺一人でも十分だろうさ。第一、魔王をそこらの魔物と同じ扱いにして良いのか?」


「だとしても、我々は魔王を討たねばならんのだ!!」


「使命感だけで何とかなるもんじゃないだろ。今のまま行ったら犬死するだけだぞ? そんな命を捨てるような真似をするんなら、くだらない使命感なんざ犬に食わせてしまえ」


「……貴様、言わせておけば……!!」


 淡々と告げるジンに、カペラが声を荒げる。

 すると、突然リゲルが高らかに笑い出した。


「くっくっく、はははははは!! なかなかに面白いことを言う!! そんな大口を叩くのならば、それを納得させてもらおうか!!」


「ええい、黙れリゲル!! ここまで侮辱されて……」


「まあまあ、落ち着きなさいカペラ。悔しかったらリゲルの言うとおり、この人のビッグマウスを二度と開けないようにすればいいのです」


 憤るカペラを相変わらず穏やかな口調でスピカが宥める。

 しかしその言葉の中にはジンに対する棘が多分に含まれていた。

 そんなスピカの言葉に、ジンは肩をすくめた。


「おお、怖い怖い。意外と過激だな、そこの神官様は。それで、勇者様はどうする?」


「……あんま挑発に乗るのは好きじゃねえけど、流石にここまで言われて黙ってられるほど冷めてもいねえよ。もしアンタのそれが本当に忠告なら、ちゃんと俺達を納得させてくれるんだろうな?」


 スバルはため息混じりに、吐き捨てるようにそういった。

 その言葉に、ジンは笑顔で頷いた。


「ああ、もちろん。先達として上の世界を教えてやるよ。そんじゃ闘技場で待っててくれ、ちっとばっかり仲間に連絡しないといけないんでね」


 ジンはそういうと、仲間に連絡をするために町の中に消えて行った。

 後には、ジンの発言に騒然となったギャラリーと、勇者達一行が残された。



 誰がどう見てもテンプレ主人公を、サブキャラとして使ってみたかった。

 それだけのことで話を考えてみました。


 まだしばらく実生活が死ぬほど忙しいので更新が停滞します。

 皆様からのご理解が得られると助かります。


 それでは、ご意見ご感想お待ちしております。

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