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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
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いろいろとたねあかし


 戦いがあけたその翌日、群青の髪の男はフランベルジュ城の時計塔のバルコニーに来ていた。

 城の中央にあるその巨大な建造物では、昨日ジンがクルーエルと戦いを繰り広げられていた。

 ジンはバルコニーから階下を見下ろす。

 そこでは、朝もやの中で大勢の兵士たちが復興のために汗を流していた。

 ジンがしばらくそれを眺めていると、後ろから人の気配が近づいてきた。


 「遅くなったわね。急に呼び出してどうかしたのかしら?」


 「少し話がしたくてな」


 ジンが振り向くと、そこにはレモン色のローブをまとったエルフが立っていた。

 エレンはジンの隣まで歩いていく。


 「こんなところに呼び出すなんて、よっぽど聞かれたくない話なのかしら?」


 「……まあ、聞かれたくない話ではあるな。どちらかというと聞かせられない話といったところだがな」


 エレンの問いに、ジンはそういって首を横に振った。

 そのしぐさを見て、エレンは笑みを深める。


 「ふふふ……たしかにここは内緒話をするにはちょうど良いわね。貴方と内緒話するとか、少しドキドキするわ」


 「奇遇だな、俺もこれから話す内容のことですごくドキドキしてるんだよ」


 上機嫌なエレンに、ジンは微笑を浮かべて言葉を返した。


 「それで、話の内容は何かしら?」


 「なに、そんなに大したことじゃないんだ。ちょっと俺の推理を聞いて欲しくてね」


 ジンはそういうとエレンの後ろに回りこみ耳元で囁いた。




 「いいだろ、今回の事件の黒幕さん?」




 その言葉を聞いて、エレンは何を思ったのか軽く一息ついた。


 「あら、何のことかしら?」


 エレンはとぼけた口調でジンにそう答えた。

 ジンはそれを見て苦笑する。


 「おいおい、ここで驚いてくれなきゃ自分が犯人だって言ってるようなもんだぜ?」


 「さあ、どうかしら? それはともかく、貴方の推理を聞かせてもらうわよ?」


 「もちろん。そのために呼んだんだからな」


 ジンはそういうとエレンに向き直った。


 「まず一つ目。当初の依頼にあった冒険者の失踪事件、あれの犯人はエレンだ」


 「言い切ったわね。そう思う理由は何かしら?」


 「……考えてみればマヌケな話なんだがな……AAAクラスの人間をまとめて失踪させられるような高度な魔法を使える魔導師は、この町には俺とエレンしかいない」


 ため息交じりのジンの説明に、エレンは納得したように頷いた。


 「ああ、そういうこと……そうね、そういうことなら確かに私は犯人の候補に挙がるはずね。続けてちょうだい」


 「手口は“亜空の扉”による強制移動、そしてその行き先は立ち入り禁止区域だ。そこなら、誰にも見つかることなく移動させられるからな」


 「あら、それじゃあその後彼らはどうなったのかしら?」


 「そいつらなんだが、市中警邏に混ざっていたよ。少しへんな奴らが混ざっていたからな、名簿を調べてみたら名簿に存在しないはずの兵士が何人かいたぞ? 例えば、臨時隊長を任せたあの三人組とかな。トイウカアンナヘイシガイテタマルカ」


 「それじゃあ、どうしてそんなことをしたのかしら?」


 「その狙いは俺だよ。この行動の狙いは、俺を味方につけること。高ランクの冒険者でもダメとなれば、いつかは俺にたどりつくはずだからな。最終的にギルドの依頼が俺に回るように仕向けたんだろう。恐らく、計画自体は俺がエストックの村にいたとき位から練っていたんじゃないか?」


 「でも、貴方がその依頼を受けると決まったわけじゃないでしょう?」


 「だからアンタは保険を掛けた。俺が新しく仲間を作って訓練をしているという情報をつかんだアンタは、フィーナをウォッチャーから避難させるという名目で洞窟に移し、多重に魔法による封印を掛けた。俺がかろうじて感じられ、解除できるくらいの封印をな。いずれは俺が洞窟での実戦訓練を行うだろうと踏んでの行動だ。そして、それは見事に成功した。……本当に、してやられたもんだよ」


 「……ええ、それに関しては認めるわ。確かに、私は貴方を仲間に引き入れるために姫様に協力を仰いで封印を施したわ。貴方も姫様に直接頼まれれば断ることは出来ないと思っていたからね」


 ジンの発言を受けて、エレンは苦々しい表情を浮かべた。

 計画のためとはいえ、エルフィーナを巻き込まざるを得なかったことを悔いているようだった。

 そんなエレンに、ジンは話を続ける。


 「俺を味方につけた理由は、国王の懲罰のせいでクーデターがいつ起きてもおかしくない状態だったからだな?」


 「肯定よ。確かに国民を守るという点では良いかもしれないけれど、生活の基盤を揺るがすことは領主の懲罰にしてはやりすぎたわ。正直、陛下の所業を聞いたときは焦ったわ」


 エレンはそういうと深々とため息をついた。

 どうやらこのときの混乱を思い出しているようだった。


 「そこで、エレンはとあることを考え付いた。それは自分でクーデターを起こしてしまうことだ。そこでエレンは早速制裁を受けた貴族達に手紙でクーデターを持ちかけた。そして、何度か接触を繰り返した」


 「でも、私にそんなことをする時間は無かったはずよ? それに、私の人形だってジンに壊されてしまったわけだしね」


 「そう、その人形を壊させることが俺に決闘を申し込んだ真の目的だ。目の前で人形を破壊させることによって、エレンが本人しかいないと思い込ませた。思い込んだのは俺とクーデターの共犯者。こうすることによってエレンは両軍の信用を得ることに成功した。つまり、スパイ容疑を消し、曲がりなりにも新しい敵である俺を殺そうとしたことでクーデター軍を信用させたわけだ」


 「それじゃあ、その後私はどうやってクーデター軍に介入するつもりだったのかしら?」


 「そこで登場する人物がいる。エレンは城に侵入できる能力を持ったウォッチャーと言う人物を、クーデター軍に雇わせる方法を取ろうとしたわけだ」


 「あら、それは誰かしら?」


 「ウォッチャーの条件は、まず第一条件として魔法を使うことが出来、気配を消すことに慣れている人物だ。また、エレンにも近く、情報操作が出来る城外の人間だな」


 「……どうして情報操作が出来ると思うのかしら?」


 「俺が情報屋で情報を集めていたとき、真実も嘘も入り混じった様々な情報が手に入った。だが確度の高い情報をつなぎ合わせていくと、何故か城内で調査した結果とぴったり一致するんだ。ということは、城の人間が直接情報屋に情報を流した疑いが高い。それに俺が情報屋たちに質問したら驚かれた質問があってな、『情報屋から話を聞いたか?』と言う質問なんだがね」


 「それで、結局誰がウォッチャーなのかしら?」


 「ウォッチャーの正体、それは……っと、来たみたいだな」


 ジンはそういうと、後ろを振り返った。






 「お前がウォッチャーだな、ルネ」






 そこには、若草色の外套をまとった、青と緑のオッドアイのホビットが立っていた。


 「……やれやれ、何かと思えばそういうことか……」


 ルネはそういうと、困ったようにライトブラウンの髪を指で弄りだした。

 そして、大きくため息をついた。


 「……認めるよ、ジン。その様子じゃ、色々と尻尾を掴まれてるみたいだしね……どこで気がついたんだい?」


 「最初におかしいと思ったのは、初めて闘技場に行ったときだ。ルネはスラムに行くような生活をしていたわけだが、俺と会ったときには見事な変わり身の魔法を使っていた。となると、お前はいったいどこでその魔法を覚えたかと言う話になる。で、調べてみれば魔法を教えられそうなのは城の人間、そして魔法の錬度から行くとエレンに思い至ったわけだ」


 「うわっ、そんなとこから疑われてたのか……失敗したなぁ」


 「で、疑惑が確信に変わったのがお前が町で情報収集をしていたときの話だ。ルネ、お前は俺が盗賊技能を持っていて情報屋から話を聞けることを知っていたはずだ。だというのに、いつ暗殺者に狙われるか分からない状況で、俺の同行を拒んだ。この時点で、お前が俺に隠れて何かに絡んでいるのは明白になったというわけだ。そして、城から情報を持ち出して情報屋に売るという点でも、元々外の情報屋であるお前が適任だったという訳だ。そういうわけでルネ、お前とエレンの繋がりはとっくにばれている」


 ジンは自分の推論を全てルネにたたきつけた。

 それを聞いて、ルネは髪をいじる手を放し、肩をすくめながら首を横に振った。


 「……あ~あ、もうぐうの音も出ないよ……聞いてみると失敗だらけだね、全く……」


 「さて、後は一気に種を明かしてしまおう。クーデター軍との橋渡しにルネを利用して情報を操作し、行動に起こそうとしたところを俺達を使って未然につぶしてしまおう、というのが当初の計画だった。そうだな、エレン?」


 ジンの言葉を聞いて、エレンは軽くため息をついた。


 「……チェックメイト。そこまで分かっているんなら、もう隠しても無駄ね。そうよ、いつ来るか分からない反乱を、あらかじめ分かっている状態で起こして危険な芽を摘もうとした。それが今回のそもそもの発端よ」


 「途中までは上手く行ってたんだよ……でもね、そこに予想もしていなかった大誤算があったんだよ」


 額に手を当てながら話すエレンに、ルネが陰鬱な表情を浮かべながら話を重ねる。

 その言葉に、ジンは耳を傾ける。


 「……『光と影』だな?」


 「その通りよ。彼らは城にあっさり侵入して兵士を殺し、ジン、貴方と戦って逃げ延びたわ。そのせいで、ウォッチャーよりもそちらに相手の関心が行ってしまったわ」


 「おまけに明確な侵入者が出てきたせいで城の警備を厳重にしないといけなくなったし……散々だったよ」


 「その上にクルーエルの来襲か。……これに関しては、ついてなかったとしか言い様がないな」


 「だから私は計画を変更して、最小限の被害で相手を封じ込めることにしたわ。敵には嘘の情報を流して、味方の損害が少なくなるようにね。……貴方達のおかげで、本当に助かったわ。ありがとう」


 「僕からもお礼を言わせてもらうよ。それに、君にはずいぶんとお世話になったしね」


 「ああ、礼は素直に受け取っておくよ」


 そういうと、エレンとルネは揃ってジンに頭を下げた。

 ジンはそれを笑顔で受け取った。


 「さて、種明かしも終わったところで、エレンには追加報酬について話がしたいんだが、良いか?」


 「追加報酬? ええ、別に構わないし、元々支払うつもりだったけれど……」


 「それ、金じゃなくて別のものに換えてもらいたいんだ。具体的には優秀な人材の貸し出しだな」


 ジンはそういいながらルネの背後に周り、両手で肩をポンと叩いた。

 それを受けて、ルネは驚いた表情を見せた。


 「え、まだ僕を連れて行くつもり!?」


 「当たり前だろうが。優秀な盗賊技能に高い戦闘能力、おまけに魔法も使えるような有能な人材をそうそう手放すわけには行かないな」


 驚くルネにジンはにこやかに笑いながらそう返した。

 しかし、ルネの表情は明るいものではなかった。


 「……気持ちは嬉しいけどね、僕はこの国で仕事があるから……」


 「あら、それなら気にすることは無いわよ? だって、ジンは貴方の代わりを務められる優秀な人材を提供してくれたから」


 「え?」


 ルネが断ろうとすると、エレンが横から口を挟んだ。

 ジンはその人物に心当たりがあるらしく、口を開いた。


 「……それ、リカルドの兄貴のことか?」


 「そういうこと。それに、貴女にはこの際だから世界の情勢を見てきてもらおうと思うのよ。だから、むしろジンについて行って欲しいわね」


 「え、じゃあ……」


 「ええ。ルネ・ラロッサ、貴女を本日からジン・ディディエ・ファジオーリ一行に同行し、定期的に情報を送ることを命じます。頑張ってきなさい」


 ルネはその辞令を受けると、エレンに向かって頷いた。


 「……了解したよ。そういうわけでジン、これからも宜しく」


 「おう、こちらこそ」


 二人はそういって、固く握手を交わした。


 「うん。それじゃ、僕は一仕事してくるよ」


 ルネはそういうと、塔の階段を下りて行った。

 ジンもそれを追って降りようとするが、何かを思い出したように立ち止まった。


 「あ、そうだエレン。一つ、どうしても分からないことがあるんだがな」


 「何かしら?」


 ジンの問いに、エレンは笑顔で首をかしげた。


 「色々と企んでいたにしては、俺に講義したり実験を手伝わせたりと、計画の邪魔になりそうな俺をよく側においていたよな? 特に、クルードが現われてからはそれが特に顕著だった。これ、何の意味があったんだ?」


 「あら、分からなかったのかしら?」


 エレンはくすくす笑いながらジンに近寄っていく。

 ジンはエレンの言葉の意味が分からず首をかしげている。


 「ん……」


 「ん?」


 次の瞬間、ジンの唇にエレンの桜色の唇が重なった。

 そして、ゆっくりと名残を惜しむように離れていく。

 突然のエレンの行為に、ジンは呆気に取られている。

 そんなジンに、エレンは微笑みかけた。


 「……惚れた男には近くにいて欲しいものよ。不安なときはなおさら、ね」


 そう話すエレンの頬はうっすら赤く染まっており、アメジストのような紫色の瞳はまっすぐにジンの灰青色の眼を捉えていた。


 「え、エレン?」


 「ふふふ、私だって女ですもの。強い人に守られたいとも思うし、恋の一つや二つくらいするわよ」


 エレンはうろたえるジンに優しく腕を抱き寄せ、いつかのように指を絡ませた。

 その表情は幸せそうな、柔らかい笑顔であった。

 一方、ジンの頭の中は既にいっぱいいっぱいであり、情報処理が追いついていない。


 「さてと、それじゃあユウナに宣戦布告して、対策を練ろうかしら?」


 エレンはジンの耳元でいたずらっぽく囁きかける。

 それを聞いて、ジンの顔から一気に血の気が引いた。


 「いや待てエレン、命は投げ捨てるものではない!!」


 「あら、恋をするのは命がけよ? それに貴方は特定の誰かと付き合っているわけでもないし、壁が高いほど崩し甲斐があるものよ。ジン、貴方も覚悟しなさいな」


 「……俺に死ねと?」


 「大丈夫、全力で守ってあげるわ。その代わり、私のことも守りなさいな」


 「…………勘弁してくれ、いや、勘弁してください」


 楽しそうにそう話すエレンに、ジンは本気で頭を抱える。

 二人はそのまま時計塔の中に入り、下に降りていく。

 二人が去った時計塔には、平和の象徴たる白い鳩が飛び交っていた。

 はい、今まで作者も忘れていたような伏線を根こそぎ回収させていただきました。

 次あたりで王女からの以来は完結です。

 いや、長かった……


 それでは、ご意見ご感想お待ちしております。

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