せんしたちのいぶき
「ねえ、ルーチェ。幾らなんでもこれはあんまりじゃないかな?」
目の前の光景を見て、青と緑のオッドアイのホビットは苦笑いを浮かべて深緑の瞳のエルフに話しかける。
「せっかくうってつけの魔法があるのです。使えるものは有効活用するのですよ」
それに対して、ルーチェは水筒を取り出してお茶を飲む。
「オ……オオオオ……」
その前では、次々と廊下を埋め尽くした紫色の薔薇の蔓に巻かれたミイラが量産されていく。
そうして吸い取られた生命力や魔力は全てがルーチェの元へ集まっていた。
そしてルーチェはその魔力を使って、更に吸血の茨を伸ばしていく。
敵に理性が残っていないが故の無限機関がそこに完成しているのだった。
深紅に咲いた薔薇の花道を見て、ルネはため息をついた
「……これ、僕いらなかったと思うよ?」
「そんなことは無いのです。“吸血の薔薇”は恩恵も大きいのですが、術式に手の込んだものを使うので発動に時間がかかるのです」
「そうかい……それにしても、こうしてみるとかなりえげつない魔法だね、これ……」
「攻撃と回復をかねた私のオリジナル魔法なのです」
ルネの一言に、ルーチェはそういって胸を張った。
しかし、次の一言で大いに凹むことになる。
「……ていうか、ぶっちゃけ悪の魔道師の魔法……」
「ふえええっ!?」
闘技場前では、両軍の兵士が激しくしのぎを削っていた。
「うおおおおおおお!!!!」
「はあああああああ!!!!」
そこでは、国王軍は狂気に染まったクーデター軍をはるかに超える勇猛さを見せていた。
中には腕を切り飛ばされてなお敵に挑みかかるものすらいる。
もちろん、彼らがそんな行為に出るのは理由があった。
「う~ん、そろそろ時期かしらね。“取替えよ”」
大金槌で迫り来る敵を薙ぎ払いながら、赤髪のシスターはそう唱えた。
すると味方の傷は全て癒え、その一方で敵はその全ての傷を自分のものとすることになった。
「回復がきたぞ!!」
「これでまだ戦える!!」
自らの傷の回復を確認すると、兵士達は更に激しく敵兵に突っ込んでいく。
恐れをなくした兵士達は、獅子奮迅の活躍でクーデター軍を倒していく。
「こらぁ!! あんま突っ込んで死んだりしたら流石に私でも治せないわよ!! それに、」
リサはそういうと、手にした大金槌を振り上げる。
「……私の分が無くなるでしょうがあああああ!!!!」
リサはそう叫びながら敵を数人お空のお星様に変えた。
王宮区画のエントランスにあるホールでは、沢山の屍が積み上げられていた。
そこは狂わされた敵兵が目的地としている場所のひとつで最も集まる場所であり、そのため次から次へと敵が出てくる。
その真ん中で、黒鉄色の鎧をつけた銀髪の男が手にしたハルバードを振り回していた。
「……流石にこうまで数が多いと飽きてきやがるな……」
変わりばえのない敵兵の動きに、レオはうんざりした表情を浮かべる。
ひたすらに突っ込んでくるだけの敵兵を、レオはハルバードで鎧ごと叩き斬る。
そんなレオに、退屈そうな表情の銀髪の少女が話しかける。
「のう、レオ。我も少し遊びたいのだが……」
「んあ? んなら少し手伝えや。ほれ、剣なら貸すからよ」
レオがそう言って手にした銀の剣を投げると、アーリアルは表情を活き活きとしたものに変えた。
「すまぬな、レオ。ふっふっふ、今まで溜まった鬱憤、ここでぶちまけてくれるわ!!」
アーリアルはそう言うと敵兵の中に突っ込んでいった。
銀の剣が振られるたびに、バタバタと敵兵は倒れていく。
「アアアアアア!!!」
「オオオオオオオ!!!」
そんなアーリアルに斧や剣が振り下ろされる。
アーリアルはそれを敢えて無抵抗で受ける。
するとそれらは全てアーリアルに当たる直前で静止し、幾ら力を込めてもそれ以上先に進むことはなかった。
「ふん、貴様ら如きが我に触れられると思うな。我が行っているのは戦争ではない、一方的な蹂躙だ!!」
アーリアルはニヤリと笑ってそういうと、再び剣を振り始める。
その様子を、レオはハルバードを床に立てた状態で観戦していた。
「……はしゃいでやがんの……よっぽど溜まってたんかね、あいつ……」
レオはそう言いながら、アーリアルが取りこぼした敵兵をハルバードで切り払った。
「轟おおおおおおおお!!」
巨大な鉄の三角柱が空気を震わせ、その一振りで十数人の敵を打ち砕く。
振った後の隙を狙って敵が襲い掛かってくるも、巨大な剣による神速の二の太刀で全滅させる。
「“風の刃よ”」
そんな国王を狙って風の刃が飛んでくる。
「ふっ!!」
「ガッ!?」
その風の刃を、白衣の男が術者に向けて蹴り返す。
風の刃は寸分違わず術者の喉を切り裂いた。
それを見て、国王は呟いた。
「……見事なものだな。その技、どこで身につけたものかね?」
「昔の知り合いのところで死ぬ気になって覚えたもんや。もっとも、ああいう魔法や弓くらいしか蹴り返せへんけどな。オッサンみたいに手刀で魔法を切り裂くなんぞアホな真似は出来へんわ」
「ふう、人を怪物のように言ってくれるな。余はこれでも人間であるぞ? 第一、リカルド殿も十分に怪物であると思うがな」
「そんなデカブツ振り回しておいて何を言うとるかアホウ。それに、ワイはオドレやジンのアホほど人間やめとらんわ」
二人はそう言い合いながらも次々に敵を倒していく。
敵は轟鉄砕をその身に受けたり、頚椎を蹴り折られたり、返ってきた自分の魔法の餌食になったりしていた。
それでも、玉座の間の入り口からは次々に敵が流れ込んでくる。
「……余は、あと何人民をこの手にかければいいのだ……」
「嘆いとる暇はあらへんで。生きとれば何ぼでもやり直しは効くんや、それまで気張らんかい!!」
辛そうな声を上げる国王を叱咤すると、リカルドは試験管を放り投げた。
「やああああああ!!!」
「はああああああ!!!」
中庭では、二振りの刀を持つ女性と青い甲冑の騎士が激しく戦っていた。
ユウナの攻撃はシャインの巧みな受け流しによって防がれ、シャインの攻撃はユウナの並外れたスピードによって躱される。
体のリミッターを外されているのか、シャインは普段の何倍も速く、強かった。
それ故、ユウナは卓越した技で応戦するも、今一歩攻め切れていない。
「アアアアアアア!!」
「くっ、またですか!!」
更に、外野の敵兵はそんな状況にかまわずユウナをめがけて突進してくるため、ユウナはシャインを気にしつつ迫ってくる敵兵にも対処しなければならないと言う苦しい展開になっていた。
ユウナは襲ってくる敵兵の首を紅葉嵐の一撃で刎ねると、襲い掛かってくるシャインから一度距離をとる。
「“光剣撃”!!」
「ううっ!?」
しかし、シャインは光の魔法で剣の長さを伸ばして開いた距離を無駄にする。
ユウナは慌ててそれを避けると、一気に距離をつめる。
「ウウウウウウウ!!」
「ええい、邪魔です!!」
しかし、再び外野によって水を注される。
ユウナは苛立たしげにその敵兵の頚動脈を切り裂く。
鮮血が舞い、ユウナのすみれ色の単衣に紅い華が咲いた。
「ウウウウウ……」
「オオオオオ……」
しかし、次から次にシャインとの戦いを妨害するように敵兵がやってくる。
ユウナはそれを見て撤退を考えた。
「ヒィィィィィィィヤッハアアアアアアアアアアア!!!!! もう我慢できねえええええ!!!!!」
が、とてつもないハイテンションな声と共に、敵兵たちが突如として炎上を始めた。
それと共に、屋根の上から中庭にモヒカンの男が下りてきた。
「援護しますぜ、姉御ぉ!! 野郎共、かかれええええ!!!」
「「「「「「ヒャッハアアアアアアア!!!! 汚物は消毒じゃああああああああ!!!!!」」」」」」
モヒカン男がそういうと、どこからともなく魔道師部隊が出てきて乱入者を焼却し始めた。
中庭の一角が炎の海に包まれる。
「あ奴如きに遅れを取るなよ……地獄の軍団の力を見せ付けるのだあああ!!!」
今度はその反対側からそんな声が聞こえてくる。
そこには、地獄の使者を連想させる格好の軍団がいた。
「殺せ殺せ敵など殺せ、殺せ殺せ全てを殺せ!!」
「SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!! SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!!」
「SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!! SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!!」
「SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!! SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!!」
「SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!! SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!!」
「SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!! SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!!」
「SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!! SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!!」
「SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!! SATSUGAI!! SATSUGAIせよ!!」
そんな大合唱と共に、その軍団は敵に突っ込んでいく。
クルーエルとはまた違う狂気を孕んだ悪魔の軍団が敵軍を飲み込んでいく。
「おおっと、あいつらばかりにいい格好をさせるわけにはいかないな」
その声の方向には、やけに身軽な格好の兵士が立っていた。
その後ろには、同じく軽装の兵士達が並んでいる。
その兵士達からは、ある種の近付き難いオーラが漂っていた。
「さて、お前達をここから先にイカせるわけには行かないな。ああ、相手なら気にするな。俺は、いや、俺達はノンケでも食っちまう漢なんだぜ? と言うわけで早速……」
「「「「「「「「「「や ら な い か」」」」」」」」」」
次の瞬間、その方角からは聞くに堪えない阿鼻叫喚が聞こえてきた。
「あ、ははははは……ありがとうございます!!」
ユウナはその様子を乾いた笑いを浮かべながら見届けると、大きな声で礼を言った。
「「「…………」」」
それを聞くと、3つの部隊の隊長は黙って親指を立てて返した。
城の屋根の上では、銀の鎧の剣士と白髪の邪神が戦っていた。
クルードの体を借りたクルーエルは、どす黒いオーラをまといながらナイフを投げる。
一方、ジンはそれを涼しい顔で受け流す。
「ク、ククク、どうした、いつまで遊んでいるつもりだ?」
「分かっているくせに、そんなことを訊くのか?」
低い笑い声を上げるクルーエルに、ジンは相変わらずの冷めた表情でそれを見つめる。
クルーエルは、ジンの言葉に納得したように頷いた。
「ああ、成る程。修羅道に堕ちた君ならその心配をして当然だな。心配せずともこの者の体は我によく馴染んでいるよ。……ああ、そうだとも、生身の自分よりも余程気分が良い!!」
クルーエルは歓喜に満ちた表情でそう言った。
ジンは一つため息をつくと、手にした剣を構えなおした。
「そうか……それなら心置きなくお前を斬れるな、クルーエル」
ジンはそういうと、自分の体に炎をまとわせ始めた。
クルーエルはそれを見て笑みを浮かべると、自分の周りの黒いオーラの形を変えた。
すると、黒いオーラはクルーエルの手の中でくすんだ黒い刃を持つ巨大な大鎌へと姿を変えた。
「やってみたまえ。出来るものならばな」