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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
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あらしのまえのへいおん


 部隊の再編成の緊急会議を終えたジンは、エレンを部屋まで送っていくことにした。

 無論、先ほどと同じようにエレンがジンの腕に抱きつくような格好である。


 「悪いわね、帰りも送ってもらって」


 「気にするな。そんなフラフラの状態で歩いて階段から落ちて怪我をしました、なんて話は聞きたくないからな」


 蒼い顔をしたエレンが少し弱々しい声で話しかける。

 ジンはそれに対し、刺激しないように優しい声で話す。

 エレンの部屋に着くと、中からエメラルドグリーンの妖精が出てきた。


 「あ、お帰りなさい……って、ご主人!? 顔が真っ青ッスよ!?」


 「心配しなくても大丈夫よ、キャロル……少し疲れが出ただけだから」


 血相を変えて飛んでくるキャロルに、エレンはそう答えた。

 それを聞いて、キャロルはガシガシと頭をかき乱した。


 「ああもう、だからあれだけ休めって言ったじゃないッスか~!!」


 「ええ、ジンにもそう言われたわ。だからこれから少し休むわよ」


 エレンはジンに掴まったままベッドの横まで歩いていく。

 そしてベッドに着くと、その上に倒れこんだ。

 余程疲れていたのか、エレンはそのまま寝息を立て始めた。

 その様子を見て、キャロルは安堵のため息をついた。


 「はぁ~……ようやく休んでくれたッス……」


 「何だ、そんなに休んでなかったのか?」


 「この数日、ご主人様はずっと碌に眠りもしないで仕事をしてたッス。何しろ、補佐する人もつけずに仕事をしてるッスから」


 「なるほどな、おまけにこの事態なら寝る間も無くなるって訳か……にしても、無茶をするな……」


 「言っておくッスけど、ジンの兄さんも原因の一端を担ってるッスよ?」


 「は?」


 キャロルの一言に意味が分からず、ジンはキョトンとした表情を浮かべた。

 キャロルはそれに対してジンにジト眼をくれる。


 「兄さん、ご主人との決闘でコピー人形壊したじゃないッスか。あれが残っていればご主人はこんな苦労しなくて済んだッスよ」


 「あれは半分エレンの自業自得と言う気もするが……」


 頬をかきながらそう話すジンの一言に、キャロルはため息と共に首を横に振った。


 「まあ、そうッスけどね……とにかく、兄さんはご主人の近くに居ることが多いッスから、こまめにご主人の様子を見て欲しいッスよ」


 「それくらいなら言われなくてもそうするさ。倒れられたら大事だからな。そうだ、後で兄貴に薬でも出してもらうか」


 キャロルの頼みをジンは快く引き受けた。

 キャロルは、そんなジンと脇で眠っているエレンを交互に見た。


 「……ところで、ジンの兄さん。ひょっとして、ご主人とデキてるッスか?」


 「……はぁ?」


 突然のキャロルの一言に、ジンは思わず声を上げた。


 「おいおい、幾らなんでもそれはないだろ。そりゃさっきのエレンの掴まり方は見た目そんな感じだが、お互いにそんな感情は無いはずだぞ? 第一、余程のことがない限り命の危険を冒してまでする行為じゃない」


 命の危険と言う言葉を聞いて、キャロルはビクッと体を震わせた。


 「い、命の危険って何ッスか?」


 「……いつか俺とエレンが談話室の前で血濡れで倒れていたときがあったろ?」


 「あ、あの何か鋭利な刃物で滅多打ちにされてた……あれ何だったんスか?」


 「俺をからかうエレンを見て、ユウナさんが嫉妬に狂ってやってくれました♪」


 あの惨状がただの嫉妬によって招かれたと知って、キャロルは引きつった笑みを浮かべて後ずさった。


 「お、恐るべしは女の嫉妬ッスね……」


 「……おい、お前も生物学上は女じゃないのか?」


 「それとこれとは別ッス!!」


 そう言い切るキャロルに、ジンは苦笑いを浮かべた。


 「まあとにかく、そんな命の危険を冒してまで俺に恋をする奴はいないだろ。それに、第一エレンが俺に惚れる理由も何もないだろ? 別に口説き落としたわけでもなし、誰かから守ったわけでもなしさ」


 「そりゃそうッスけどね。でも、惚れる惚れないって言うのに理由も動機もないと思うッスよ?」


 「だとしても、エレンの行動からはそういうのは見えないぞ? これでも英雄になってこの方それなりにモテはしたからな。そういうのは何となくは分かるつもりだぜ?」


 「あれ、それじゃあ兄さんには彼女でも居るんスか?」


 「居ないな。その手の誘いは全て断った」


 「え、誰かに操でも立ててるんスか?」


 キャロルの問いかけに、ジンは天井を見上げてため息をついた。


 「……どうだろうな? 単純に理想が高いだけだと思うぜ? っと、ずいぶん話し込んだな。早く行かないと次の用事に遅れる」


 ジンはそう言うとエレンの部屋から退出した。






 続いてジンが向かったのは闘技場だった。

 闘技場の真ん中にはすみれ色の着物を着た長い黒髪の女性が立っていた。


 「待たせたな、ユウナ」


 「ジン、いきなり闘技場に呼び出してどうしたんですか?」


 「少し確認しておきたいことがあってな」


 ジンはそう言うと背中の大剣を抜き放った。

 それを見て、ユウナは眼を大きく見開いた。


 「ど、どうしたんです、ジン!?」


 「別に驚くことはないだろ? 闘技場に呼び出したんだから、これ関係に決まってるだろ。ユウナ、少し俺と勝負してもらうぜ」


 「え、何でですか?」


 「だから、確認したいことがあるんだって」


 「何を確認するんですか?」


 「それは言わない。意識させると確認する意味が無くなるからな。さあ、早く来い」


 ジンがそういうと、ユウナは太刀と小太刀を抜刀した。

 それぞれの鍔には咲き乱れる桜と、舞い散る紅葉が彫りこまれていた。


 「……行きます!!」


 ユウナはジンに対して素早く接近して、右手の太刀を素早く振るった。


 「ふっ!!」


 その目にも止まらぬ斬撃を、ジンは手にした大剣を同じ軌道で振って受け流す。


 「せいっ!!」


 「よっと!!」


 ユウナはそれに対して左手の小太刀で二の太刀を入れるが、それをジンは左の手甲で叩き落す。


 「やああああああああ!!!」


 ユウナはジンに対して嵐のように激しく攻撃を加えた。

 太刀筋は恐ろしく速く、もはや素人目には全く見えない。


 「せやあっ!!」


 「きゃああ!?」


 しかしジンはその全てを後退しながら受け流し、大剣のリーチを生かしてユウナに攻撃を加えた。

 ユウナはとっさに後ろに跳び、かろうじてそれを避ける。


 「……ふっ、ふっ、ふっ、な、何で……」


 ユウナは息を荒げながらそう呟いた

 ユウナは内心動揺していた。

 何故なら、今までジンとの剣術のみでの試合にはほぼ負けなしだったからだ。

 ところが、今回は何故か一撃もジンに届いていないのだ。


 「……やれやれ、確認しといて正解だな。危ないところだった」


 ジンはそう言って首を横に振った。

 ユウナはその意味が分からず、首をかしげた。


 「どういうことですか、ジン?」


 「いやなに、ユウナの弱点を見つけたって話だ。それも、今度のシャインとの戦いにおいては致命的な奴だ」


 「え?」


 「はっきり言ってしまうとだな、今のユウナじゃシャインには勝てない。いや、間違いなく負ける」


 ジンはユウナに対して、はっきりとそう告げた。

 それに対して、ユウナは戸惑いの色を見せる。


 「……どういうことですか?」


 「ユウナ、俺はさっき戦い方を少し変えて勝負したんだが、いつもと何が違うか分かったか?」


 そう言われて、ユウナは頬に手を当てて考えると、答えを出した。


 「ええと……いつもより攻めてきていないですよね?」


 「そう、正確にはユウナの攻撃を受け流すことに専念していたわけだ。それで分かったんだが、ユウナはものを斬るとき、今まで止まっているものか向かってきているものしか斬ったことがないんじゃないか?」


 「どうでしょう……あまり意識をしたことはないですけど……」


 「まあそれはどうでもいい。いずれにしろ、ユウナが逃げるものを斬るのが苦手って言うのが分かったからな。普段の俺みたいに斬りかかって来るのは剣を両断すりゃいいし、楯を使って守りに入る奴は楯ごとぶった斬れば良い。だが、受け流す奴はそうもいかない。何しろ、刀の刃に触れてくれないわけだからな。そして、シャインは見事にこのタイプと言うわけだ」


 「では、どうすればいいんですか?」


 「方法は幾つかある。一つは受け流せないほど強烈な一撃を加える。これは今のユウナには難しいから却下。二つ目は受け流せない状況を作る。これに関しては、相手が百戦錬磨のシャインだから短時間で実行するのはまず無理だ。そして三つ目は受け流せないような技を使う。ユウナには、この三つ目の方法を覚えてもらう」


 「具体的にはどんな技を使うんですか?」


 「なに、ユウナからすればお遊びみたいな技さ。まあ、実演するから見ててな」


 ジンはそう言うと闘技場の真ん中に一本の丸太を立てた。

 そして、手にした剣を大きく振りかぶった。


 「はっ!!」


 ジンは振りかぶった剣をまっすぐ振り下ろした。

 ただし丸太の上ではなく、その少し横にである。

 そしてそのまま空振りするかと思っていると、丸太は横に真っ二つに斬られていた。

 そう、ジンは振っている最中に太刀筋を変えたのだ。


 「とまあ、刀を振る太刀筋を途中で変えるだけの事だ。ユウナならこれで受け流しにきた相手の剣だの楯だのをたたっ斬ることぐらい出来るだろ?」


 「ええと、それはやってみなければどうとも……」


 「んじゃま、実際にやってみるか。さっきみたいに受け流すから、好きなタイミングで俺の剣を斬ってみろ」


 ジンはそう言うと剣を構えた。

 ユウナはそれを見て、ゆっくりと二本の刀を構えた。


 「やあっ!!」


 「せいっ!!」


 ユウナはジンに向かって袈裟に斬りつけた。

 ジンはそれに合わせるように剣を振って受け流そうとする。


 「はあああ!!」


 「うっ!?」


 すると、突如ユウナの太刀筋が直角に曲がり、ジンの剣を切り裂いた。

 折れた刃が宙を舞い、ジンの斜め後ろに突き刺さった。


 「……なんだ、楽勝でこなしてるじゃないか。最初の一発でこれが出来るんなら特に心配はいらないな」


 ジンは笑みを浮かべながら折れた剣を拾い上げて鞘の中にしまい、柄の部分を納めた。

 それを見て、ユウナも二本の太刀を鞘に納めた。

 なお、闘技場の中で折れたので、いったん闘技場の装置を止めれば剣は元通りになるので心配はいらない。


 「あ、あの、本当にこれでいいんですか? まだ一度しか成功していないのに……」


 「良いんだよ。ユウナが斬ったのは神が作ったような剣で、もともとそう簡単に斬れるもんじゃない。それに、剣の振り自体はシャインよりも俺のほうが上だ。それを一発で斬れるんなら、シャインの剣や楯くらい楽勝で斬れるさ。もっと自信を持てよな?」


 「あっ……」


 ジンはそういってユウナの頭に手を置いた。

 それを受けて、ユウナの顔が真っ赤に染まる。

 それを見て、ジンも自分のやっていることに気付き、慌てて手を離す。


 「っと!! すまん、昔の癖で思わずやっちまった!!」


 「い、いえ、誰も見ていませんし、それくらいなら……」


 そこまで言って、ユウナは何かを思いついたように言葉を止めた。


 「あ……やっぱり今のお返ししてもいいですか?」


 「お、お返しって、何を?」


 ユウナの言葉にビクッと過剰反応するジン。

 それに対して、ユウナは深呼吸して言葉を紡いだ。


 「ジン、膝枕させてくれませんか?」


 「……え」


 ユウナの提案に、ジンは思わず固まった。


 「な、何故に膝枕?」


 「い、いいじゃないですか、誰も見ていないんですし、私がしたいんですから……」


 そう言うと、ユウナはその場に正座した。

 ユウナの顔は真っ赤に染まっていた。


 「あ、あーっと……」


 「は、早くしてください……」


 「お、おう」


 理解が追いついておらず混乱するジンに対して、ユウナは俯き加減でそう言った。

 ジンは言われるがまま横になり、ユウナの膝に頭を乗せる。


 「あ、あの、ユウナ? 下、石だけど痛くないのか?」


 「大丈夫です。ですから、しばらくこうしていてください」


 「そうか……」


 ユウナはそう言ってジンの眼を手で覆った。

 闘技場の真ん中に、穏やかな時間が過ぎていく。

 そしてしばらくすると、軽快な足音が聞こえてきた。


 「あ、いたいた……お~い!! ユウナ~!! お楽しみのところ悪いんだけど、夕食の準備を頼めるかな~!! 料理できる人が足りないんだよ~!!」


 闘技場の入り口から、ルネの声が聞こえてくる。

 それを聞いて、ジンはゆっくりと体を起こした。


 「さてと、休んだことだし、仕事に戻るとしよう。ユウナも、仕事頑張ってな」


 「……あんまり無理しないでくださいね?」


 「心配すんな、それくらいの管理は出来るさ。夕飯、期待してるぜ?」


 ジンがそういうと、ユウナは嬉しそうに笑った。


 「ふふふ、それなら少し頑張らないといけないですね」


 「ちょっと~!! ユウナ早く~!! 僕もうお腹ペコペコだよ~!!」


 入り口からは痺れを切らしたルネの声が響いてきた。

 二人はそれを聞いて笑いあうと、ルネのところに向かうのだった。



 ユウナさんが地味に強化されました。

 ……途中でネタに走りたくなって少し困った。

 大体そんな感じ。


 それでは、ご意見ご感想お待ちしております。

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