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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
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きんきゅうのさくせんかいぎ


 「では、まず会議の内容ですが生存者の集計とこの機会を狙ったクーデターの対策、そしてこの事態を引き起こした邪神に対する対応についてを議題として提示します」


 会議が始まるとエレンが議題を提示した。

 すると、レオがまず声を上げた。


 「その前に一つ質問なんだけどよ、それを俺達だけでやっていいのか? 他に生き残った幹部は居なかったのか?」


 「……今この城に残っている将官クラスの人間は客将を含めて私達しかいないわ。だから、私達だけでやらざるを得ないのよ」


 エレンの言葉を聞いて、国王が頭を抱える。


 「何と言うことだ……あれだけ居た臣下達が……エレン、城内の生存者は何人だ?」


 「生存者は全体で756人です。うち、闘技場に居たことで難を逃れた兵士が300程、あとは邪神の攻撃の対象にならなかった使用人や下級仕官たちです」


 「と言うことは、4千以上の血が流れたのか……」


 「……はい」


 悲痛な面持ちで二人は言葉をつむぐ。

 しばらくすると、国王は悲しみを振り払うかのように首を横に振った。


 「いや、弔いなどは後でも出来る、今は生きている者達を如何にして守るかが重要だ。さて、現在の状況はどうなっているかな?」


 「城内は遺体や錯乱した兵士による損傷などによって、機能が麻痺しております。現在正常に稼動しているのは闘技場、王宮区画のみです。フランベルジュに存在する兵士の数は、非番だった者や市中警邏の者をあわせて約8千程残っております。外部情報としては、クーデターを警戒する必要があると思われます」


 「ふむ、どんなに手を尽くしてもその手の輩が出てきてしまうのは仕方のないことであろう。して、来るとしてどの程度の規模のクーデターが起きると考えられるか?」


 「以前、陛下が罰した貴族が全員集まったと仮定したものを最大値とします。その場合、残存の兵や外から雇い入れた傭兵などを加味すれば3万程の兵が集まるものと思われます」


 兵力差を聞いて国王は思わずため息をついた。

 4倍の数の敵を相手にすると言うことは、戦力差は10倍以上開いていると言うことでもあるからだ。

 もちろん、ジンのような英雄が居たとしても少人数でひっくり返すのは限度がある。


 「……約4倍の頭数か。ところで、生き残りの中に指揮官は何人居る?」


 「中小部隊の指揮官があわせて30人くらい残ってるのだけれど、大隊長クラスの者は全滅してるわ。……会議室に居た人たちがそうよ」


 「均等に割り当てたとしても、一人当たりだいたい260人か……ダメだ、細かい指示を出すには指揮官が足りない。経験豊富な一般兵を臨時で隊長格に位上げして間に合うか?」


 想像よりも深刻な事態に、ジンはそう呟いた。

 実際には小隊長がまとめた隊を更にまとめる役割の人間が居るため、一人頭の担当人数は更に大きな数になるのだった。


 「それはもう間に合わせるしかないわね。その辺りのことはこの後に会議を開いて決めるわ。その時はジンも同席してもらうわよ」


 「それはまた何でだ?」


 「兵士だって人の子、幾ら隊長格でも恐慌状態に陥っている人も居るはずよ。だから、彼らを貴方の名前を使って安心させてやりたいのよ。何が起きても貴方が助けてくれると思えたほうが気が楽でしょう?」


 エレンの言葉に、納得したようにジンは頷いた。


 「なるほど、そういう事なら任された。それで、具体的にクーデター軍にはどう対応するんだ?」


 「幸いにしてこの町の門は一箇所にしかないわ。基本的に外部からの侵入はここで食い止めることになるでしょうね」


 「でも、すでに内部に居る可能性もあるのです。それに関してはどうするつもりなのです?」


 「そこんところはワイやそこのホビットの嬢ちゃんの仕事や。情報屋連中の網を使えば臭いところなんぞ幾らでも出てくるわ」


 ルーチェの指摘に、リカルドが横から割り込んで答えた。

 その回答に、ルネが少し驚いた表情を浮かべた。


 「おや、僕が情報屋だってよく分かったね?」


 「チョイ考えれば分かることやろ。オドレのその身のこなしは盗賊のもん、この町で盗賊が生きるためにすることっちゅうとコソ泥か情報屋くらいしかあらへんわ。ここに居る時点でコソ泥の線はあらへんから、情報屋ちゅうわけや」


 リカルドの説明に、ルネは愉快そうに笑いながら頷いた。


 「ふふっ、それもそうだね。それじゃ、まずはお互いのつての確認をしておこうか」


 「せやな。この会議が終わり次第そうした方がええな」


 「ふむ、市内に潜伏している者に関してはそれで良いだろう。では、実際に反乱が起きた際にはどうするか?」


 「その場合、まず第一に考えなければならないのは非戦闘員の避難です。市内の訓練場や闘技場を開放してそこを避難所とすることになると思われます」


 エレンがそう話すと、リサが横から口を挟んだ。


 「ちょっといいかしら? その意見には賛成だけど、今回みたいに邪神に狂わされて冷静な判断が出来なくなる人が出てくるはずよ? それについてはどう対処するつもり?」


 「それに関しては余に案がある。リカルド殿が余に使った精神安定剤、あれを何とか使えないだろうか?」


 「ん? あの薬か? そりゃ無理や」


 国王の提案をばっさりとリカルドは切り捨てた。

 国王はそれに対して首をかしげた。


 「何故だ?」


 「考えてもみいな、避難民全員に薬入りの注射器渡して回るなんぞ不可能や。それにあの薬の効き目は一回こっきり、連続で狂わされたらそれで終わりやで。素直に結界でも張ったほうがええんちゃうか?」


 「でも、全く使えないと言うことは無いわね。少なくともここに居る人には全員配っておけば、いざと言う時に安心できるわ」


 「ですね……ここに居る人たちは現状の最大戦力ですし……」


 エレンの言葉に、ユウナは同意する。

 実際、この談話室にはジンをはじめとして明らかに過剰と言える戦力がそろっていた。


 「……何だかクーデターについて考えるより先に、邪神への対策を先に考えたほうが良さそうなのです。邪神に関する情報はクルーエルという名前と、過去に何度も町や村を滅ぼしたらしいと言うことしか分かってないのです」


 「今はクルードに取り憑いていて、おそらくシャインが眷属になっているところまでは予想できる。それから奴の狙いは俺だ。つまり、俺が早く奴を捜しだして戦いに持ち込んで俺に全力を注がざるを得ない状況に持ってくれば良いんだが、一つ問題がある」


 こめかみに人差し指を当てて考え込むルーチェに、ジンはそう答えた。


 「何かしら、その問題って?」


 「クルーエルは更なる狂乱の時の楽しみと言っていた。つまり、奴はある程度場が混乱した状態じゃないと出てこないと言うことだ。と言うことは、奴は間違いなくクーデターを引き起こす何かを仕掛けてくるはずだ。それも、多分相手側にだ」


 「んあ? そいつは何でだよ?」


 ジンの言っていることの意味がよく理解できず、レオは首をかしげた。

 そのレオに向かってジンは説明を続ける。


 「良いか、クルーエルが望むのはクーデターが引き起こす混乱だ。その混乱を確実に呼び込むには、攻め込む側を単純に大暴れさせてやるのが一番手っ取り早いと思わないか?」


 「つまり、クーデターを起こす奴の理性を飛ばして好き放題やらせようって言うのかい?」


 ライトブラウンの髪を指でいじりながら質問を重ねてくるルネに、ジンは頷き返した。


 「そういう事だ。恐らく、何を言っても分からない、目に付いたものを片っ端から叩き壊すようなバーサーカーの群れが出来るぞ。そんなのに捕まったら何をされることやら……」


 「……ねえ、それは本当に見境なく暴れるのかしら? 物よりも人間を優先して攻撃するとか、そういうのは無いのかしら?」


 唇に人差し指を当てて考え事をしていたエレンの発言に、ジンもあごに手を当てて考えた。


 「……そういえばそうだな。もしかしたら人間が居る方向に優先して動くかもしれないな」


 「もしそうなら、いっそのこと城に引き込んでしまいましょう。その方が町中で暴れられるよりも被害が少なく済むし、やり方しだいでは何とか出来そうな気がするわ」


 「確かにその方が良いかもな。それで城を戦場にしてしまえば、間違いなくクルーエルはそこに来るだろうしな」


 「それじゃあ、人間を優先して襲ってくるようであれば城に引き込んで、そうでなければ門の付近で食い止める、この方針で行きましょう」


 クーデターの発生における対策が大体固まったのを受けて、国王は厳かに頷いた。


 「うむ。では、次は邪神本体に対する対策だな。これは確かジン殿が専門であったな」


 「ええ。これについてはもう大体の作戦は決めてあります。クルーエル本人は私が相手をして、ほぼ間違いなく眷属になっているはずのシャインにはユウナを当てようと思っています」


 「えっ!? ジン、この間言っていたのと全然違うじゃないですか!!」


 突然の指名にユウナは鳶色の眼を丸く見開いて驚いた。

 そのユウナの言葉に、ジンが説明を加える。


 「あれはクルーエルがクーデターと無関係の時じゃないと無理だ。今回は間違いなくクーデターと同時に来るから、そっちにも人員を割かなければならない。そうなると、適任はユウナになるんだよ」


 「そりゃいったいどういうこった? 別に俺が戦っても良いんじゃねえのか?」


 「戦闘スタイルの問題なんだ。レオの場合、その場から動かず広範囲をまとめて攻撃できるから、どちらかと言えば防衛向きなんだよ。同じように並べていくと、リサは言うまでもなく防衛型、しかも神術使いのため今回は防御の起点にならなければならない。ルネは気配もなく相手に近寄って不意打ちを仕掛け、混戦時に相手を引っ掻き回す遊撃に向いたスタイル。これは魔法を使って相手を殲滅するルーチェと一緒に行動することで効果的に働く。最後にユウナは圧倒的な速度と技で相手を倒すタイプで、この中じゃ一番今回シャインを相手にするのに適任と言うわけだ」


 「でも、ジン。シャインが眷属になっているのなら、シャインからも瘴気が出ているはずだよね。これはどうするのさ?」


 「それに関してなんだが、少しばかりレオに頼みがあるんだ」


 「……ああ、こいつをユウナちゃんに貸してやれってことか」


 ジンの言葉を聞いて、レオは首にかけていたお守りを取り出した。

 赤、青、緑の勾玉のついた、鬼神勾である。

 それを見て、ジンは頷いた。


 「察しがいいな。そういうわけで、頼む」


 「む~!! それじゃあレオにーさまに何かあったらどうしようもなくなっちゃうよ~!!」


 ジンの頼みごとを聞いて、今までレオの膝の上で黙っていたエルフィーナが頬を膨らませて抗議の声をあげた。

 なお、その腕はぎゅっと強い力でレオを抱きしめていた。

 それを聞いて、ジンは頬を掻いた。


 「あー……それに関しては、レオにはもう一個強力な隠し玉があるから全く問題は無いんだよな……」


 「うむ、レオは絶対に大丈夫だ!! 我が保障しよう!!」


 ジンの呟きに、レオの肩に乗ったアーリアルが自信にあふれた声で答えた。

 エルフィーナと違い、こちらは平常運転である。


 「……今まで黙っていたけどよ、お前らせめて会議中は俺から降りてろよな……」


 「……む」


 「……は~い」


 ため息交じりのレオの言葉に、二人は渋々レオの上から退くことにした。

 その代わり、レオは二人に引っ張られて三人がけの椅子まで引っ張られていくことになった。

 そんな三人を尻目に、ジンはルネとルーチェに向き直った。


 「むしろ問題はルネとルーチェなんだよな……お前らはもしクルーエルかシャインにあっても可能な限り近づくな。リサや他の司祭達が結界を張って瘴気を抑えるとは思うが、それでも精神に異常をきたす事があるからな。それから、見つけた場合は出来れば俺かユウナにそれぞれ報告して欲しい」


 「OK、わかったよ」


 「了解なのです」


 ジンの指示にルネはいじっていた髪を指ではじきながら応答し、ルーチェは深緑の瞳でジンの眼を見つめながら頷いた。

 それを確認すると、ジンは話を切り上げることにした。


 「とまあ、大体の方針はこんなもんだな。後はそれぞれに準備をすることになるだろうから、そのときに連絡する」


 「良いかしら? それじゃあ、この場で話すことはこのくらいにしましょう。ジン、このあとすぐに部隊編成の緊急会議を開くから出席お願いね」


 「場所はどこだ?」


 「そうね……会議室が使えないから、王宮区画の食堂にしましょう。あ、それから闘技場にいる隊長を呼びに行くから付いて来てくれるかしら?」


 ジンが場所を尋ねると、エレンは唇に人差し指を当てて少し考えたあと、場所を指定した。


 「了解。それなら早く行くとしよう」


 「ええ。時間もそんなに無いですから」 


 二人並んで闘技場に向かう。

 石造りの廊下は固まりかけた血で赤黒く変色していて、辺りには錆びた鉄のような臭いが立ち込めていた。


 「うっ……」


 「おおっと!?」


 そんな中、急にエレンがふらついて倒れそうになる。

 ジンはとっさにエレンを抱きとめ、自分のほうへ引き寄せた。


 「おい、大丈夫か? 血の臭いに当てられたか?」


 「……いえ……血の臭いは100年も前に慣れてるわ。少しふらついただけよ」


 そう話すエレンの顔は血の気が引いていて、明らかに体調が悪いことが見て取れる。

 それにもかかわらず、エレンは闘技場に向かって歩き出そうとする。


 「馬鹿を言うな、そんな真っ青な顔をして何が少しふらついただ。さてはこの数日ろくに休憩を取ってないな? 正直に言え、お互いに隠し事はしないんだろう?」


 「……はぁ……それを言われたら弱いわね。ええ、そのとおりよ。ここ最近睡眠時間もほとんどないわ。まだ平気なものだと思っていたのだけれどね」


 ジンは言葉の語気を強めてそう言い、歩き出そうとしたエレンを腕の中に引き戻す。

 その一連の動作に、エレンは疲れた表情で答えてジンに体を預けた。


 「それが今回の一軒で精神的に限界が来て崩れたってとこだな。……ったく、人にはしっかり休むように言っておきながらアンタがそれでどうするんだよ」


 「待って、抱き上げたり背負ったりするのはやめて頂戴。もし私が弱っているところを見せたりしたら士気に響くわ」


 ジンはため息混じりにエレンを抱き上げようとするが、エレンはそれを止める。


 「……だったら、せめて支えさせてもらうぞ」


 そこでジンはエレンの腕を取り、自分の肩に回して支えることにした。


 「ストップ、それよりももっとごまかしが聞く方法があるわ。腕を貸してくれるかしら?」


 「ああ」


 エレンの言うとおり右腕をジンは差し出した。

 すると、エレンはその腕に抱きついて体を寄せ、ジンの肩に頭を預けた。


 「……少し歩きづらいかもしれないけれど、それは勘弁して頂戴」


 「そんなことはどうでも良い。それより、さっさと会議を終わらせて休め。アンタに倒れられたら全員が困るんだ、今日はこれ以上仕事をすることは俺が許さん」


 歩きづらさを気にするエレンの言葉を切り捨て、ジンはぶっきらぼうにそう言い放った。


 「そうするわ……流石にこれじゃあお話にならないものね」


 エレンはその言葉に少し弱った声で同意し、ジンに支えられながらゆっくりと歩き出した。

 ジンもエレンの歩幅にあわせてゆっくりと歩き出した。


 「どうだ、少しは楽か?」


 「ええ……一人で歩くよりはずっと楽よ」


 「歩くペースはどうだ? 速かったりしないか?」


 「それも平気よ。貴方が私に合わせてくれているからね」


 ジンはエレンを気遣い、こまめに声をかける。

 エレンはそれに対して隠していた疲労の色を見せながら答えた。


 二人は、そのまま闘技場のすぐ前まで寄り添って歩いて行った。

 その姿は、事情を知らないものには恋人同士のように映ったのだった。

 現状の確認と今後の対策を練るの巻でした。

 陛下も珍しく大人しめ。

 さあて、早いとこ王女様の依頼を終わらせよう。


 そういうわけで、ご意見ご感想お待ちしております。

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