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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
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じゃしんのつめあと


 クルーエルが去った後の城内には凄惨な光景が広がっていた。

 先程まで警備の任についていた兵士たちは一様に自分の剣で自らの体を貫いていた。

 床にはおびただしい量の血が流れていて、廊下を川のように流れていた。

 ジンはそんな中、奥歯が砕けんばかりに歯を食いしばって城内を回る。


 会議をやるはずだった会議室では、狂気に当てられて錯乱した者が魔法を乱射したのか、ところどころが焦げていたり凍り付いていたりした。

 床にはその魔法の乱射による犠牲者が転がっていた。


 兵士のいない調理場にも血は流れていた。

 包丁による失血死、かまどの火による焼死、頭部を強打たことによる打撲死など、悲惨な状態であった。


 窓の外の見てみれば、やはりそこにも血が流れていた。

 大きく飛び散ったそれは、狂気から逃げようとして窓から飛び降りた結果だった。


 結果として、血が流れていないところはほとんど無かった。

 警備兵はほぼ全滅、非戦闘員もかなりの人数の死者を出していた。

 生き残っていたのは見目麗しい女中達と、幼い子供だけだった。


 「……あの野郎……!!」


 ジンは残された人間を見て思わず毒づいた。

 何故なら、クルーエルが何を考えているかがおぼろげながら見えてきたからである。


 考えてもらいたい。

 もし、あなたがクーデターを起こそうとした時、相手が不慮の事態で混乱している機会をみすみす逃すであろうか?

 もし、進撃したとして、興奮し、倫理の欠落した兵士達が恐怖に震える無防備な美女・美少女を見つけたら、どんな行動に出るだろうか?

 容易に想像のつくことである。

 そして、その状況こそがクルーエルの言う更なる狂乱の時であり、最高の舞台であった。


 「ジン……良かった、無事だったのね」


 ジンが声をかけられて振り返ると、エレンが立っていた。

 エレンの表情は暗く、その手は二の腕を強く握り締めていた。


 「エレン、無事だったのか」


 「ええ……目の前で人が狂っていっても私には何も無かったわ。見逃された……というよりは遊ばれているというべきでしょうね……」


 エレンは悔しげな表情を浮かべてそう言った。

 どうやらエレンは、クルーエルが自分をどうするつもりなのかを理解しているようだった。


 「……すまない……目の前に居たのに、止めることが出来なかった……」


 「……今は過ぎてしまったことを責めている場合じゃないわ。とにかく、今は生存者を確認するのが先よ」


 感情を押し殺すようにして放たれたジンの言葉に、エレンは軽く叱咤するような口調でそう言った。

 ジンは首を激しく横に振って、負の感情を振り払った。


 「……そうだな。まずは生存者を探そう」


 「ええ。陛下と姫様、それから貴方のお仲間の生存の確認を優先しましょう」


 ジンとエレンはそう言うと、最初に王宮を目指して走り出した。




 二人は王宮区画に着くと、まず国王の姿を探し始めた。

 すると、最初に確認を行った国王の自室で床に横たわっている状態で発見された。


 「陛下!!」


 「待ちいや。国王のオッサンは今は眠っとるだけや。命に別状はあらへん」


 エレンが近寄ると、その横からタバコをくわえたリカルドが現れて国王の容態を説明した。


 「兄貴、これは一体どういう状況なんだ?」


 「オッサンと二人で話しておったら急に頭ン中に変なもんが流れて来おってな。オッサンの様子もおかしなったから、これはアカンと思うて強力な精神安定剤をうったんや。ちとばかり体質的に効きすぎたみたいやけどな」


 リカルドはそう言って空の注射器を二本取り出した。

 すると、その横で国王の高いびきが聞こえてきた。

 その様子に、ジンとエレンはひとまず胸を撫で下ろした。


 「とにかく、ワイとオッサンを心配する必要はあらへんわ。はよ他の連中のところに行ったりや」


 「兄貴はどうするんだ?」


 「ワイはオッサンの経過を見らなアカン。オッサンが眼覚まして何も異常があらへんかったら合流するわ」


 「了解。それじゃ任せた」


 「……頼んだわよ?」


 二人はそう言うと部屋を後にし、他の人間を探すことにした。

 次に向かった場所はエルフィーナの部屋。

 予定ではエルフィーナは部屋の中でレポートをまとめている時間であったからだ。

 ジンはドアを開けて中に入ろうとする。


 「誰だ!!」


 「うおわっ!?」


 勢いよく飛び込んだジンの目の前に、ハルバードの鋭い先端が飛び込んできた。

 ジンはそれを慌てて避けようとして、横に転がった。


 「何だジン、テメェ無事だったのか」


 「……ああ、今しがた危うく頭を田楽刺しにされるところだったがな」


 ハルバードを収めたレオに、ジンは灰青色の眼でジト眼をくれた。


 「姫様!! ご無事ですか!?」


 「うん、私は何ともなかったよ」


 その横で、エレンがエルフィーナの無事を確認する。

 エルフィーナは特に変わったところはないが、やはり突然のことに戸惑っているのか目線が泳いでいた。

 不安だったのか、その手はしっかりとレオの服の裾を握り締めていた。


 「レオ、お前は何ともなかったのか?」


 「いんや、そういう訳じゃねえよ。俺が助かったのはこいつのおかげだ」


 レオはそういうと鎧の中に手を突っ込み、何かを取り出した。

 それは、革紐が通された赤・青・緑の三色の勾玉だった。

 ジンはその勾玉から非常に強い力を感じ取った。


 「親父からもらった魔除けなんだが、効果は抜群みてえだな」


 「鬼神勾とは、これまたずいぶん上等な魔除けが出てきたな。あの親父そんなの持っていたのか」


 「おう。何でも、その昔意気投合した鬼にもらったそうだ」


 「……つまり、あの親父は鬼神と友人だったのかよ……まあ、あの脳筋親父なら分からなくもないが」


 ジンとレオが話をしていると、廊下をパタパタと走ってくる音が聞こえてきた。

 その音を聞いて、ジンはレオの正面から体をずらした。


 「レオーーーーーー!!!」


 「ったあ!?」


 それと同時に、銀色の弾丸がレオに向かってすっ飛んで行った。

 レオは突っ込んでくるアーリアルを受け止めると、その場に下ろした。


 「大丈夫か、怪我はないか、何かおかしいところはないか!?」


 「落ち着けアーリアル!! んなもん見りゃわかんだろうが!!」


 「ええい、我が目を離した隙にこんなことになるとは!! クルーエルめ、次に出て来おったらタダでは済まさんぞ!!」


 金色の瞳いっぱいに涙を溜めてうろたえるアーリアル。

 レオはそれを落ち着かせるべく話しかけるが、興奮したアーリアルの耳には全く届いていない。


 「だぁ~!! だから落ち着けっちゅうんじゃ!!」


 「はぅっ!?」


 業を煮やしたレオが頭に手刀を落とすと、ようやくアーリアルは落ち着いた。

 痛みに頭を抱えるアーリアルに、ジンは話しかけた。


 「アーリアル、他の連中は大丈夫なのか?」


 「っ~~~……心配せんでも、他の奴等は無事であろう。クルーエルはとにかく悪趣味な奴だ、女子供をそう簡単に壊しはせん。ユウナなどは今頃貴様を捜しまわっている事であろうよ」


 「そうか……そういう事ならこちらも捜しに行くとするか」


 「私も現状把握のために行かせてもらうわよ」


 「んじゃ俺らは談話室に行くから、合流できたらそっちに来てくれ」


 「分かった」


 話を終えると、ジンとエレンはユウナ達に合流するべく再び動き出した。

 途中にある部屋を、二人は一つ一つ細かくチェックしながら歩く。

 生存者を見つけると、エレンは闘技場に避難するように指示を出した。


 「はぁ……この様子じゃあこの城の本館は当分は使えないわね……」


 床に転がる死体とそれを赤く染め上げる血を見て、エレンはそういってため息をついた。


 「どうするんだ? クーデター軍はこんなチャンス、絶対に逃さないぜ?」


 「何とか城の外で食い止められると良いのだけれど、こうも一息で兵の数を減らされてはそれも難しいわ。増援を待つ猶予なんて無いし、最悪王宮区画を使って篭城することになりそうね……」


 「だが、向こうも一朝一夕で攻め込む準備が出来るわけじゃないだろ。相手が何人いるかはわからんが、全ての準備が整うまで少なくとも半日は猶予があるはずだ。それまでに復旧できるところは復旧させるなり、突貫工事でも何でもいいから攻め込まれにくくするための改造くらいは出来るんじゃないか?」


 ジンは施設の復旧と改装を提案したが、エレンは首を力なく横に振った。


 「残念だけど、そうも行かないわ。復旧をさせるにも改造をするのにも人手が足りないわ。施設整備をする余裕なんてどこにも無いわよ」


 その言葉に、ジンは額に手を当てて深々とため息をついた。


 「やれやれ、という事はこっちの生き残りの実力と敵のへっぽこさに賭けるしかないわけだ」


 「そういうことになるわね……」


 二人は今後の対策を練りながら一部屋ずつ回っていく。

 すると、前の廊下を歩く二つの大小の人影を発見した。


 「ルネ!! ルーチェ!!」


 ジンは前を歩くホビットとハーフエルフのコンビに声をかけた。

 すると二人は駆け足でジンの許へ向かってきた。


 「良かった、無事だったんだね」


 「捜してもみんな見つからないので、もう駄目かと思ったのです」


 仲間の無事に笑顔を見せるルネに、安堵のため息をつくルーチェ。

 その様子を見て、ジンは素行を崩した。


 「安心しろ、今のところうちの連中に被害は出てない。みんな談話室に集まってるぞ。あとはユウナとリサだが、リサが居るならこの二人も大丈夫だろうとは思う。二人がどこにいるか心当たりは無いか?」


 「リサなら闘技場に居るんじゃないかい? 闘技場近辺に怪我人が集まってるから、その治療をしてるんじゃないかな?」


 「ユウナさんは分からないのです。多分、ユウナさんの性格からいって今頃ジンを探し回ってるのです。……でも、集合場所が決まっているのならそこで待っていそうな気もするのです」


 ジンの質問に、ルネはライトブラウンの髪を指でいじりながら、ルーチェはこめかみに人差し指を当てながら答えた。


 「わかった。それじゃ、先に談話室で待っててくれ。全員揃ったら今後の方針を決めるからな」


 「了解」


 「分かったのです」


 ジンはそういうとエレンと共に闘技場に向かうことにした。

 闘技場に着くと、そこには避難してきた人が居た。

 中にはここに来る際に怪我をしたらしい人影も見える。


 「ジン、私は少し生き残っている兵士達を見てくるわ」


 「分かった。俺はリサを捜すから、終わったら声をかけてくれ」


 ジンはエレンと別れ、リサを捜すことにした。

 しばらく捜していると、カソックを着た赤い髪の女性が眼に入った。


 「ここに居たか、リサ」


 「まあ、一応怪我人の治療が私の専門だしね。アンタに関して言えば全く心配してなかったわよ」


 「そうかい」


 ジンの声に少しおどけた返答をするリサ。

 ジンはそれを受け取ると、周囲を見渡した。

 立派な石造りの闘技場の周りには、怪我人がまばらに横たわっていた。


 「……怪我人、少ないな」


 「……そうね、怪我人なんて全然居ないわ。むしろここに怪我人としていられるって方が幸運よ」


 暗い話題に、二人の顔に一瞬影が差す。

 その空気を換えるべく、ジンが話を振る。


 「ところで、ユウナは無事だったのか?」


 「ユウナなら無事よ。今頃アンタのことを捜し回ってるんじゃないかしら?」


 「それは良かった。他の連中は談話室に集まっているから、治療が終わったら来てくれ」


 「そ。分かったわ」


 ジンはリサとの話を終え、闘技場の入り口にやってきた。

 すると、ちょうどエレンが闘技場の中から出てきた。


 「待ったかしら?」


 「いや、今来たばかりだ」


 「そう、それじゃあ行きましょう」


 「ああ」


 ジンとエレンは歩きながらごく自然に合流し、そのまま肩を並べて談話室に向けて歩き始める。


 「兵隊の様子はどうだ?」


 「篭城戦で最低限戦える程度の人数は確保できそうよ。ただ、新兵の割合が大きいから実戦で上手く動いてくれるかどうか……」


 そう話すエレンの表情は芳しいものではなかった。

 必要最低限の人数であることに加え、訓練も不十分な兵士なのだから仕方のないことであろう。

 ジンはそれを聞いて、ふっとため息をついた。


 「つまり、相手が攻めて来るまでの間に急いで篭城戦に関する基本的な動きを覚えさせないといけないのか。まあ、戦力が確保できただけ御の字というところだな……個人的には、陛下が篭城戦をしてくれない気がする。ていうか、勝手に単騎掛けしてそうだ」


 「……全く持って否定する要素が無いわね……」


 ジンとエレンは護衛兵を置き去りにして敵軍のど真ん中に特攻を仕掛けていく国王の姿を想像して、重たいため息を吐いた。

 その後も二人は兵の様子について語りながら談話室に向かった。

 談話室付近はそれほど重要な施設が無く警備兵が少なかっため、比較的綺麗な状態で残っていた。

 ジンはドアを開けて中に入ろうとする。


 「ジン!!」


 「おおっと!?」


 開ききるが早いか、ユウナがジンに抱きついてきた。

 ジンの首に両腕を伸ばし、しっかりと抱きつく。


 「良かったぁ……貴方が無事で本当に良かった……」


 「俺もユウナが無事でよかったよ。不安にさせてごめんな」


 泣きじゃくりながらジンの無事を喜ぶユウナ。

 それに対し、ジンはユウナの頭を軽く撫でた。


 「ジン、悪いけど今は一刻を争うわ。全員揃っているようだし、早く会議を始めましょう」


 談話室の中を見渡して主要メンバーが全員揃っているのを確認したエレンが、ジンにそう言った。

 ジンはそれに頷いた。


 「そうだな、確かに今は一分一秒が惜しい。大筋だけでもすばやく決めてすぐに行動しないとな」


 ジンはそういうと、ユウナを放して着席した。

 ユウナはジンの後についていき、その隣に腰を下ろす。


 「さて、それじゃあ会議を始めるわよ」


 全員揃ったのを確認して、エレンは会議を始めることにした。



 ……何だろう、キャラのテンションが低すぎて細かい描写がし辛い。

 それにシリアスを書きたいのに話の中心にどうしても来る国王のせいでギャグ臭がむんむんと……どげんかせんといかん。


 それでは、ご意見ご感想お待ちしております。

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