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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
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しんくのしゅらとおうごんのとうしょう

 城の横にある、本来兵士の訓練が行われている石造りの大きな闘技場では兵士達が騒然としていた。

 その視線の先には二人の戦士が立っている。

 一人は、群青の髪で白銀の鎧と大剣を持ち、紅蓮の炎を周囲に噴かせる修羅。

 もう一人は極限まで鍛え抜かれた鋼の肉体に黄金のオーラを纏った闘将。

 その二人から発せられる強烈な闘気によって、闘技場全体に息苦しいほどの強烈な重圧が掛っていた。


「へ、陛下……」


 エレンは久々に見る国王の本気に絶句する。

 国王は本来とても聡明であり、用心深い人物である。

 それ故に、本来は手の内を隠し、絶好の機を以って切り札を切り、確実に勝利を得ることを好とするのである。

 しかし、その国王が己の枷を全て解き放つと言うことは、この場で切れる札を全て切ると言うことである。

 それは、国王は今後の戦場における自分の生死よりもこの一時の勝利を取る、と宣言することに等しいのだ。


「…………」

「…………」


 ジンと国王は無言で相手を見つめる。

 そこに言葉は必要なく、お互いはただ相手を睨む。

 そして二人は同時に笑みを浮かべ、


「おおおおおおおおおおおおおお!!!」

「はあああああああああああああ!!!」


 一気に相手に向かって走り出した。


「“火車の疾走(フレアドライヴ)”!!」


 まずジンが魔法を使って相手に仕掛ける。

 巨大な火の玉となったジンは、国王に向かって高速で突っ込んで行く。


「甘いわああああああ!!」


 国王はそれに対して真っ直ぐに右の拳を突き出した。

 まるで金属同士がぶつかり合うかのような衝撃音と共に、大気が振動する。


「ちぃぃ!?」

「ぐぅっ!?」


 ジンは王の拳によって後ろに弾き飛ばされ、国王はジンの炎によって身を焼かれる。

 しかしそれはお互いにとって想定済みのものであり、ジンは受身を取って衝撃を逃がし、国王は纏ったオーラで身を守って被害は軽微であった。

 弾き飛ばされたジンは空中で術式を組み、次の魔法を唱える。


「“固い銀の雨(アジェントール)”!」


 ジンの魔法によって空中におびただしい量の銀の矢が現れ、国王の頭上に降り注ぐ。

 空一面は銀に埋め尽くされ、太陽光を受けて輝く刃の雨となって襲い掛かったのだ。


「それが通用すると思うてか! だりゃああああああ!」


 それに対し、国王は気を一気に拳に込めると、黄金の光を放つ天に向かって突きあげた。

 するとその一撃は強烈な拳圧を呼び、それが周りの空気を巻き込んで空まで届くような巨大な竜巻を作り出した。

 銀の雨は国王に届く前にその竜巻に吸い込まれ、再び空へと打ち上げられる。


「そこだぁ!!」


 ジンはその竜巻の中で拳を振り上げた国王の腹に向かって斬撃を飛ばす。

 青白い刃は真っすぐに砂煙を巻き上げていた竜巻を切り裂いた。

 しかし敵を切り裂く手ごたえはなく、竜巻の消えたその場所に国王の姿は無かった。


「轟ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「くっ!?」


 直後、ジンの頭上に国王が現れ、ジンに向かって脚を振りおろした。

 彼は、自らの生み出した竜巻の風に乗り、空を飛ぶことで攻撃を回避していたのだ。

 ジンがその気配を感じて後ろに飛ぶと、流星のごとく降ってきた国王が着地したその場所が盛大にはじけ飛ぶ。


「疾っ!!!」


 国王はすかさず後ろに後退するジンに向かって追撃をかける。脚に溜めた力を爆発させ、渾身の体当りを仕掛けた。

 その速度は轟鉄砕を持っていた時とは比べものにならないほど速く、瞬く合間に二人の距離がゼロになるほどであった。

 体が宙に浮いていたジンは避けきれずにそれを受け、後ろに跳ね飛ばされた。


「がっ!!」

「まだまだぁ!! ふっ!!」


 その跳ね飛ばされたジンよりも速く移動して背後を取り、強烈なサマーソルトで空に打ち上げ、


「せりゃあ!!!」

「ぐあああっ!!」


 高く浮かびあがったジンに空中でかかと落としを仕掛け、地面に叩きつけてクレーターを作った。

 地面が揺れ、岩が砕けるほどの衝撃がジンを襲う。

 ジンは何とか気を込めてそれを受け、威力を軽減する。しかしその強烈な攻撃は確実にジンにダメージを与えていた。


「くっ、“火炎弾幕(エル・ブライト)”!!」


 ジンは起き上がる前に追撃を防ぐべく国王に炎の弾の嵐を見舞った。

 弾幕の名の通りの赤いカーテンが、ジンを守るように国王の前に立ちはだかる。


「ちっ、小賢しい!!」


 国王はそれを見て軽く舌打ちをし、自分に向かってくるそれに向かって正拳突きを繰り出した。

 その手から放たれた烈風の拳は炎のカーテンに穴を開け、周囲の炎をまるで排水溝から水が流れるかのように吸い込みながらジンに向かって伸びていく。


「でやあああああ!!」


 しかし炎の渦は次の瞬間に切り裂かれた。

 ジンは炎のカーテンに隠れている間に体勢を立て直し、国王が障害物を取り除く間に攻撃を仕掛けていたのだ。

 肘が伸びきった状態で残心を取る国王を仕留めるべく、銀の大剣の切っ先が飛んでいく。


「ふんっ!!」


 そのジンに対し、国王は素早く拳を引き戻して神速の右フックで迎え撃つ。

 その瞬間、国王の手からまるで魂をを刈り取る死神の大鎌のような闘気が噴出し、目の前を薙ぎ払った。


「まだまだぁ!」


 群青の髪が揺れ、銀の刃が深く沈み込む。

 黄金の死神の鎌は刈り取るべき首の上を通りすぎ、空気を切り裂くだけにとどまった。

 ジンは地を這うようにして国王の攻撃を躱すと素早く背後を取り、国王に組みついた。


「ぬうっ!?」

「逃がさん!! “等身大の蝋燭(アウナ・トーティス)”!!」


 意表を突かれて驚く国王のわずかな隙を逃さず、ジンは魔法を使った。

 またたく間に足元から巨大な火柱が上がり、国王の体を焦がす。


「ぐうううううう!!」

「放してたまるかよ、これで決めてやる!!」


 文字通り身を焼き尽くすほどの熱さに悶える国王を、ジンは絶対に放さぬように抑え込む。

 全力を注いで燃やされる炎の柱は周囲の風を巻き込み、巨大な火炎竜巻となって天高く伸びていった。


「おお、流石は修羅だ……」

「へ、陛下……」


 その光景を見て、観戦していた兵士達はジンの勝利を確信した。

 英雄の勝利に感心するものや、国王の敗北に落胆するものなど、さまざまな反応が観客席から表れる。

 しかし、次の瞬間それは崩れることになった。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」


 国王は肺が焼けつくことも恐れずに大きく息を吸い込み、もはや音として聞き取ることすらできないほどの強烈な咆哮を上げた。

 国王の声帯によって振るわされた空気は激しく振動し、触れたものにまるで鉄の壁にでもぶつかったかのような衝撃を与える。

 それによって、地面は悲鳴を上げて砕け、天に伸びた炎は粉々に引きちぎられてしまった。


「きゃああああああああああああ!?」

「うあああああああああああああ!?」


 その轟音はエレンや兵士達の鼓膜を揺らし、めまいを引き起こす。

 国王の咆哮は耳から入る音としてではなく、離れている観客にも頭の先から片足のつま先までの骨を直接殴られたかのような全身に響く振動として届き、失神するものが出るほどのダメージを与えていった。


「がああああああああああああ!?」


 そんな咆哮を至近距離で聞いたジンは堪ったものではなかった。

 音を減らす魔法を使う使わないに関わらず、その振動は鼓膜どころか頭蓋骨や脳を直接揺らし、全身の骨が激しく軋むほどの衝撃を受けたのだ。。

 それによりジンは一時的にブラックアウトを引き起こし、その場に崩れ落ちそうになる。

 それをこらえて何とか体に鞭を打って国王から離れ、剣を構える。

 剣を向けた先には呼吸を荒くした国王が立っていた。


「……これがジン殿の実力であるか……流石の強さよな……」


 国王は感嘆の表情を浮かべながら、絶え絶えの息でそう言った。

 流石の国王も、肺を焼かれることによるダメージは決して軽くない様であった。

 鍛え上げられた肉体には無数の火傷の痕が見受けられ、服もほとんどが焼け落ちている。 

 それでもその眼光は衰えておらず、戦いに餓えた獣王のごとき闘志は激しく燃えていた。


「アンタも、化け物じみた強さだと思うぜ? それに轟鉄砕持ってた時なんかよりも圧倒的に強いじゃないか。本当にあれで枷が付いていたんだな。と言うことは、俺は最初のうち手加減されていたと言うことか」


 一方のジンは剣を構えて立っているものの、中身はかなりガタガタになっていた。

 先ほどの強烈な咆哮により、左耳が全く機能しておらず、視界には霞が掛っていて、目の焦点が合っていない。

 白銀の鎧にはひびが入っており、国王の攻撃がいかに苛烈であったかを物語っている。

 しかし、彼が纏う気配はそれを感じさせない。俯いた彼からはおぞましさすら覚えるほどの危険な気配が漂っており、その心が激しく猛っていることが感じ取れる。


「勘違いするでない。轟鉄砕は敵兵の多い戦地においては最も頼りになる相棒だ。あれを振るうていた余は間違いなく本気であった。だが、あれはこのような一対一の決闘に向かぬ。一対一の決闘においての我が相棒は、やはり鍛えぬいた己の肉体のみなり。しかし、国王としての立場がそれを許してくれぬのでな……普段は己が肉体に制限をかけざるを得ないのだ」

「……はは、まさかそこまでアンタがこの闘いに賭けてくるとは思わなかったな。国王陛下、アンタにとってこの闘いは己が策を捨て、自分の命を賭ける程のものなのか?」


 国王は申し訳なさそうにジンに対してそう言い、それを聞いてジンは全てを察して愉快そうに笑った。

 その真意を問うジンの質問に、国王は首をゆっくりと横に振った。


「そんなことなどどうでも良い。確かに、切り札を隠し持ち、然るべき時に、然るべき札を切り確実に勝利を掴むのが賢いやり方であろう。だが、そなたと闘ってみて感じたのだ。あれほどの偉業を成し遂げた貴殿の様に、困難を正面から打ち崩してこそ真の王を名乗る資格を得ることができるのではないのかとな。故に、余は更なる高みを目指す最初の一歩として、全てを賭けて貴殿を倒す。それだけだ」


 瞳に気高い光を湛えながら、国王はそう口にする。

 つまり、国王は最初は国王であろうとしていたのだ。そのためにも、本当に必要な時のために己の戦闘能力を隠して偽りの本気を見せ、不意打ちを仕掛けてくる相手の更に裏を掻こうとしていたのだ。

 しかし、今の国王は違う。彼は国王であることよりも一人の戦士であることを選び、目の前にいる最強の英雄を倒すことを至上としたのだ。

 それは王であることを捨てたからではない。彼は自分が王であるために、今まで纏っていた王という殻をこの場で破り捨てたのだ。

 そんな彼を見て、ジンの瞳が激しく燃えた。


「俺が国王陛下の超えるべき壁になれるとは光栄だな。ならば、なおのこと俺はこの戦いに負ける訳にはいかないと言う訳だ……良いだろう、ならば俺も全身全霊を込めて切り札を切らせてもらう」


 ジンがそう言うと彼に向かって青白い光が集まり始めた。

 国王はそれに対して眼を見開いて全身に気を込め、ジンの攻撃に身構える。

 その様子を見て、ジンは笑みを浮かべながら右手を頭上に掲げた。


「まずは俺が最も信頼する切り札だ!! “牙を持つ太陽(レオーネ・ソルバルウ)”!!」


 ジンが手を振りおろした瞬間、集まっていた青白い光が大爆発を引き起こした。

 烈光と灼熱が、まるで津波のように国王に襲い掛かる。

 それに対し、国王は眼を閉じて静かに腕を振り上げた。

 その手には黄金に輝くオーラが渦巻いている。その気高い金の闘気は次々と集まり、一本の剣を作り出した。


「破ああああああああ!!」


 光が迫る直前、国王はその手を振りおろす。その瞬間、青白い烈光を黄金の剣が真っ二つに切り裂いた。

 ジンの魔法は国王の眼前で裂け、ジンの元に通ずる道を開く。


「……ハッ」


 ジンの顔は笑っていた。

 それは、まるで国王が自分の切り札の一つを超えてくることを確信していたかのようだった。

 自分の前に開かれた道の前に立ち、手にした大剣をゆっくりと振りかぶる。

 その刃は、まるで自らの役目を果たすことを渇望しているようであった。


「おおおおおおおおおおおおお!!!!」


 国王は剣を振りかぶった敵が待ち構えているその道を全力で駆け抜ける。

 今の彼には策など何もない。ただただ、真正面から己が全力をぶつけるのみである。


「ちぇりゃあああああああ!!」

「せえええええええええい!!」


 ジンの白銀の大剣と国王の黄金の拳がぶつかり合う。

 その衝撃は大気を振動させ、大地を揺らした。


「でやああああああああああああああああ!!!!」


 国王はジンに対して暴風の様な連撃を繰りだす。

 神速で次々と繰り出されるそれは、その攻撃の一つ一つが一撃必殺の威力を持って放たれている。

 しかしその拳は決してアッパーカットのような大技ではない。ボクシングで言うジャブの一発一発が、文字通り岩を砕く威力を持って放たれているのだ。


「……っと」


 ジンはそれを足捌きを使って避けながら間合いを取り、一撃を加えるべく剣を構える。

 それを受けて、国王は離れた間合いを詰めるべく、一気に踏み込んで右ストレートを打ち出した。


「はあああああああああ!!!」

「轟おおおおおおおおお!!!」


 激しい衝撃と共に両者の一撃はぶつかり、弾かれるように後退する。

 ジンはその勢いを利用して大きく後ろに飛ぶ。その彼の身体には、真紅の炎が纏わり付いていた。


「次の切り札だ、陛下!! “紅蓮の煉獄カーディナル・ヘルプリズン”!!」


 ジンがそう唱えた瞬間、闘技場全体を深紅の炎が覆い尽くした。

 闘技場はその魔法の名が示す通りの煉獄と化し、国王の体を焼きつくす。


「ぐうぅ……まだ、まだぁ!!」


 己が気を上回る修羅の炎に全身を焼かれながら、溶岩と化した床を踏みしめてジンに向かっていく。

 琥珀色の眼に宿った闘志は折れておらず、むしろ更なる輝きを放っていた。

 しかしその闘志とは裏腹に、脚は溶岩に焼かれてどんどん言うことを聞かなくなっていく。


「おおおおおおおおお!!」


 国王は焼かれた脚が動かないと思うと、己の気を込めた渾身の正拳突きをジンに向かって放った。

 その一撃は周りの獄炎を取りこんで、巨大な炎の渦となってジンに襲い掛かる。


「ぐっ……」


 ジンはその一撃を国王から眼をそらさずに躱す。

 あまりに巨大な一撃だったために避けきれず、左半身が丸ごと焼かれた。

 ジンは途切れそうになる意識を歯を食いしばって引き留め、魔法の制御を続ける。


「……ぐっ……あ……」


 己が力の全てを込めた渾身の一撃を放った王はとうとう力尽き、音を立てて燃え盛る紅蓮の炎の中、溶岩に倒れ込んだ。

 その体は溶岩に沈み、灼熱の炎に焼かれていく。


「…………」


 その最後まで自分の全てをかけて闘った誇り高い国王が焼かれていく様子を見て、ジンは気がつけば敬礼をしていた。

 そして、今ここに勝敗は決したのだった。


 *  *  *  *  *  



「……負けたか」

「……はい、私の勝ちです、陛下。もっとも、戦場であればあの後私は他の者に討たれていたでしょう」


 全てが終わった後の闘技場の真ん中で、激しく戦った両者が二人揃って倒れ込んでいた。

 国王はジンの攻撃で体力を根こそぎ奪われたため動けず、ジンは国王からのダメージと大魔法を連発したことによる精神の疲弊によって起き上がることが出来なかった。

 ジンの言葉を聴いて、国王は小さく笑った。


「ふっ……異なことを言う。余の最後の一撃、避けられなかったわけではあるまい。あれは、あえて避けなかったのであろう?」

「それは認めます。ですが、それをするには魔法を解除する必要がありました。一対一のこの場では、この手を取るのが一番確実だったのです」

「そうか……しかし初めてだな、負けたと言うのにここまで晴れ晴れとした気持ちになったのは」


 国王はそう言って目の前に広がる空を見た。

 空はその国王の心の様に晴れ渡っていて、平和を象徴する白い鳩がつがいで飛んでいた。


「陛下。負けたとはいえ、お見事な闘いぶりでした。あの雄姿はきっとこの場にいる兵士達の励みになることでしょう。ジンもお疲れ様。素晴らしい闘いだったわ」


 倒れている二人の元にエレンが歩み寄ってそう感想を述べる。

 それを聞いて、国王は笑みを浮かべる。


「そうか。それならば全力を出した甲斐があると言うものだ。それからジン殿、貴殿には感謝するぞ。これで余は更なる高みへ上るための一歩を踏み出せたのだからな。貴殿はその壁となり礎となってくれたのだ、感謝の言葉もない」

「……では私は、これからもそうあり続けられるように努力しましょう」


 国王の言葉にジンはそう言って頷いた。

 その横から、エレンが国王に話しかけた。


「ところで、国王陛下。お疲れのところ申し訳ございませんが先日の暗殺者の件に関して提案があります」

「……うむ、話すが良い」

「陛下はこのようにジンに敗北いたしました。そして、先日の暗殺者はジンと同等の強さを持っているとのことでした……陛下、どうか護衛に関して御一考をお願いいたします」

「そうか……それは楽しみだな」


 エレンの言葉を聞いて、国王は嬉しそうに笑みを浮かべてそう言った。

 その言葉に、エレンは嫌な予感を感じて上ずった声を出した。


「……へ、陛下?」

「エレン、護衛なんぞ要らぬ。もはや余はこの身に流れる武人としての血が滾って抑えきれぬのだ。ぜひとも真正面から戦って、余の糧にしたいのだ」


 その一言を聞いてエレンは驚きの表情を浮かべて長い耳をビクンと跳ね上げる。

 今まで来たら返り討ちにするとは言っていたが、まさか自分から撃って出ると言うとは思わなかったのだ。


「お、お待ちください陛下!! 陛下の身に何かあれば国務に障りが……」

「立法や行政に関しては宰相である貴殿に一任しているではないか。それに、年若くはあるがフィーナも余の代わりをするには問題は無かろう」

「だ、だからと言って陛下ご自身が暗殺者と戦うなど……」

「くどい!! 自らの危機に自分で対応できなくて国民が救えるものか!! 余は逃げも隠れもせん!! 暗殺者など真っ向から叩き潰してくれるわ!! 何故なら余は国王であるからな!!」


 かっかっか、と豪快に笑う国王に対して、エレンは言葉を失った。国王のその表情は、あまりにも晴れ晴れとしていたのだ。

 それは、まだ自分が高みを目指すことが出来ると言う喜びに満ち溢れたものであった。


「……ジン……貴方も陛下に何か言ってちょうだいな……」


 途方に暮れたエレンはジンの横に座り込んで、その手を縋るように握ってそう言った。

 エレンの耳は疲れた感情のせいか、しんなりと下がっていた。

 ジンはそれに溜め息をついて答えた。


「……はっきり言おう、大声を武器にする陛下に護衛を付けるのは無理だし、正直いらんと思う。大体、魔法がかかっている大剣を受けて無傷とか、暗殺者が悪夢を見るレベルだ」

「……まあ、貴方がそう言うなら良いけど……」

「まあ、とりあえず俺は当初の予定通りエレンの護衛についてりゃ良いだろ。陛下が本当に危ない時にはちゃんと俺が駆け付けるから安心しろって」


 心配そうな表情をするエレンを安心させるように、手を握り返しながらジンはそう言った。


「そうね……それじゃ、改めて宜しく頼むわ、ジン」


 エレンはそう言うと、握り返してきたジンの手を自分の華奢でなめらかな肌触りの手で撫で、安心したような笑顔を浮かべた。


「うむ、仲良きことは美しき哉。善哉也、善哉也……む?」


 国王がそうやってジンとエレンの仲の良さに感心していると、誰かが走ってくる音が聞こえてきた。

 三人がその音がする方向を向くと、


「ジン!! アンタぁ!! アタシの苦労を考えろおおおおおお!!!」


 リサが般若のような形相でこちらへ走ってきていた。

 その手には『日頃の恨み Mk-Ⅱ』と書かれた大金鎚が握られていて、殺ル気満々であることが見て取れた。

 ジンはそれを見て顔から一気に血の気が引いた。


「うわあああああああああ!!! リサ、ストップ、スタァァァァァプ!!!」

「じゃっかあしいわぁ!! 怪我人一気に千人もこさえて、何してくれてんのよアンタはああああああ!!」


 恐慌するジンの制止を、リサは怒鳴り散らすように一蹴する。

 なお、この怪我人千人とはジンが先ほど切り札の呪文で巻き込んだ、観戦していた兵士達である。


「天!! 誅!!」

「ぎにゃああああああ!?」


 リサは大金鎚を高々と振り上げ、情け容赦なくジンの頭に振りおろした。

 疲弊しきった状態でそれを防御できるはずもなく、ジンは見事にそれを受けて地面に沈み、真っ赤な花を咲かせた。 


「ジ、ジン!? ちょっと、しっかりしなさい!! ジン、ジーーーーン!!」 


 薄れゆく意識の中、ジンは自分の肩を抱いて必死に呼びかけるエレンの声を聞いて、意識を手放した。




 vs国王陛下はかろうじてジンの勝利。

 ……あるぇー? 俺、ネタのつもりでこの勝負書いていたつもりなのに、何だか無駄にシリアスな展開になっているのは何でだ?


 あと、国王のセリフがCV若○で再生されて困る。


 それではご意見ご感想お待ちしております。

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