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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
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ごえいにあいをこめて

 朝になり、ユウナと一緒に寝たことを冷やかす銀髪の男と赤髪のシスターに鉄拳をくれたジンは、約二名普段より身長が五センチ高い幼馴染ーズと共に談話室に向かっていた。

 談話室では、王族の護衛にあたっていたルネとルーチェ、そしてエルフィーナとエレンが待っていた。


「あ、おはようジェニファー。怪我だいじょーぶ?」

「ああ、おはよう。特に問題は無いから安心しろフィーナ」


 形の良い眉毛をハの字にしてジンに声をかけるエルフィーナ。ジンはそれに怪我をしていた左手を振って答えた。

 リサの治療はいつも通り効果抜群のようである。


「……眠いのです……」

「同感だね。流石に昼働いて夜も徹夜はキツイよ……」


 そのエルフィーナの横ではうつらうつらと眠そうに瞼をこするルーチェと、見るからに疲れた表情のルネがいた。

 二人ともエルフィーナの護衛で徹夜しており、ルネにいたっては昼間も情報収集で駆け回っていたために疲労困憊の様子であった。


「これが終わったら寝ても良いからもう少しだけ我慢しな」


 ジンは二人にそう声をかけると、談話室のガラスのテーブルを囲むように置かれているソファーの、エルフィーナの向かい側に腰をかけた。なお、前日にユウナが粗大ごみにしたソファーは修理中である。

 ジンの隣にはユウナが座り、レオとリサがジン達が座っているソファーの左側の、エレンの対面にあるソファーに座った。


「レオ! 我を置いていくなんて酷いではないか!」


 そんな中、銀の髪に白い服の幼女が、部屋に飛び込んでくるなり一直線にレオに向かって突撃する。

 そして、アーリアルはそこが自分の定位置であると言わんばかりにレオの膝の上に座るのであった。


「うむ! これでよし! さあ、話をするならするが良いぞ!」

「おもっくそ寝坊しといて、何偉そうなこと言ってんだテメエは!」

「あいったぁ!」


 満足げな表情で上から目線の言葉を発するアーリアルに、レオが一発拳骨をくれる。

 涙眼で頭を抱える彼女を含めた全員がそろったことを確認すると、エレンが話を切り出した。


「さて全員そろったことだし、話し合いを始めるとしましょう。今回は護衛について話し合いをしようと思うわ」

「え~っと、確か暗殺者さんが侵入してきたからそれに対応して護衛の付け方を変えるんだったよね?」

「ええ、そうよ。今後もまた暗殺者が侵入してくるとも限らないし、しばらくの間は警戒を強化しておかないといけないわ。そうなるとまず確認しておきたいのは、暗殺者が狙ってくる可能性がある人間ね」


 議題を確認するエルフィーナに、エレンは頷きながらそう言った。

『光と影』と言う一流の暗殺者が、城内の人間を狙って周囲に潜伏しているのだ。その対応を話し合うのは特に急がれる事象なのであった。

 それに対し、ルーチェが反応を示した。


「その前に、一つ尋ねたいことがあるのです。どうして一番その議題に関係ありそうな国王陛下がこの場にいないのです?」 


 ルーチェは辺りを見回し、獣王も格やと言わんばかりの風格を持つ国王の姿を捜す。

 しかしその姿はどこにもなく、更にその上で護衛の配置と言う重要な議題に参加していないことに戸惑いを覚えているようである。

 その質問に、エレンは苦い表情を浮かべた。


「……それについては後でお話しするわ。とにかく、今はこの場に居る者の護衛の必要性と配置を考えましょう? まずは、先程も言ったとおり暗殺者に一番狙われるのは誰かしら?」

「そんなことを言うとここにいる全員が暗殺者に狙われる可能性があるんだがね? まあ、特に狙われそうな人間と言えば、国王陛下にフィーナ、その次あたりにエレンかな? 俺達に護衛が出来るのはここまでが限界だ」

「普通ならそうね。でも、相手の性格を考えれば真っ先に狙われそうなのは、個人的な恨みを買っているジンとレオね。そこで私からの提案なのだけれど、ジンとレオを護衛に固定できないかしら?」


 エレンはそう言いながらジンとレオを紫色の瞳で見据えた。

 その提案に、ジンとレオが揃って首をかしげた。何故なら、確実に狙われる人間をわざわざ護衛におく理由が分からないからである。


「んあ? そりゃまた何でだ?」

「その方が暗殺者の出る位置を限定しやすいからよ。暗殺対象が固まっていた方が護衛の兵の分散も少なくて済むし、咄嗟の時の対応も取り易いわ。だから暗殺者に狙われそうな人間は固めておこうと思っているのだけれど、どうかしら?」

「クルードなら真っ先に俺を狙いそうなものなんだが、それでも俺を囮ではなく護衛にするのか?」

「ええ。何故なら、私が敵ならまず『光と影』を囮に使うことを考えるからよ」


 エレンのその説明を聞いて、二人は納得して頷いた。

『光と影』のもっとも価値のあるのは、二人掛りとはいえ世界に名を響かせる英雄であるジンをしばらく封じ込めることが出来るというところである。

 と言うことは、この二人がジンを抑え込んでいる間はその眼を掻い潜って行動できるということである。目の前に立ち塞がる大きな障害を排除できるが扱いが難しいのであれば、好きなようにやらせている間に自分の真の目的を果たすのが常道である。つまり、最強の護衛を引き剥がした上で、ゆっくり対象を料理しようと言うのである。

 しかし、対象の近くにジンが居座っているとなると話は別である。何故なら、この場合周りを気にせず大暴れをするクルード達が逆に障害になりかねないのだ。


「大体の話は分かった。問題は誰をどこに配置するかだが……」


 エレンの話を聞いてジンはあごに手を当てて考え込む。

 それに対してエレンはすでに考えがまとまっていたようで、すぐに話を切り出した。


「それに関してはジンを国王陛下に、レオを姫様の所につけようと今は考えているわ。私は自衛もそれなりに出来るし、基本的に国王陛下と話し合いなどで同席する機会も多いから、ジンには陛下と私両方を見てもらうことになるわね。ただ、一つ問題があるのだけれど……」

「問題? どう言うことだ?」


 表情を曇らせたエレンに、ジンが訳が分からずそう問いかける。

 すると、エレンは憂鬱な表情で顔を上げ、その理由を話し始めた。


「陛下、護衛を付けられることを極端に嫌うのよ。謁見の間の兵の配置を見ても分かる通り、自分の周りに兵士を置くこと自体が嫌いなのよ。兵士を信頼していない訳じゃないんだけれど、本人が自分の強さに自信があるから護衛なんかに頼らないとか言っているわ。実際、陛下も皇太子時代に武将として鍛錬を積んでいて、おまけに過去に暗殺しに来た刺客を咆哮で鼓膜を破って失神させた逸話もあるわ」


 エレンの言うとおり、一個大隊が整列してもなお余裕のあるほどの謁見の間であるにもかかわらず、中にいる兵士は数えるほどしかいない。

 これはたとえそこに数十人単位で突然攻め込まれたとしても、その兵士達で退けることが出来ないということでもあった。

 つまり、国王陛下の護衛嫌いは筋金入りであり、更にそれを実行できるところから自分のうえに確かな自信があることも推察できるのだ。

 想定外の事態にジンは頭を抱えた。まさか一国の王が護衛を付けるのを嫌うとは思ってもみなかったのだ。しかも、なまじ戦闘能力に自信があると言うことなのだから余計に手に負えない事態になっていたのだった。

 ……もっとも、お叱りを受けたときの様子から考えて、本気で護衛が不必要な可能性は否定できないが。


「……それじゃあ、どうやって俺は護衛すればいいんだよ……流石にそんなことじゃ護衛するには厳しいものがあるんだが……」

「だから、ジンには名目上私の護衛として働いて欲しいのよ。それであれば私が陛下の傍にいることでジンが陛下に近づきやすくなるでしょうしね」


 深々とため息をつくジンにエレンはそう提案する。

 しかし、ジンは首を横に振る。


「だがいつも国王陛下と一緒にいる訳じゃないだろ? その時はどうすればいいんだよ? そりゃあの筋骨隆々で金属製の杖を握りつぶしてちぎるような国王陛下は俺が見たって弱くはなさそうだが、流石にクルード辺りに襲われたらひとたまりもないと思うんだが……」

「ジン、それについてなんだけど、ちょっと良いかしら?」

「ん?」


 エレンは突如席を立ってジンに手招きをした。それに対して、ジンは怪訝な表情で彼女のほうへと近づいていく。

 二人は部屋の隅に行き、他に聞こえないくらいの音量で話し始めた。


「どうした?」

「姫様がいるからあまり大声では言えないのけれど、私は国王陛下や姫様が暗殺される可能性は低いと思うわ。主犯がこの城の関係者なら、なおさらね」

「はぁ? それまた何故だ?」

「何故なら、この国は表向きは王制だけど、実際はそうじゃないからよ。確かに国王陛下はこの国のトップではあるわ。でもこの際だから言うけれど、今の陛下は対外的な交渉と人事、そして国民の声を直接聞くことが仕事なっているのよ。そして陛下の命を受けて実際に法の整備や軍隊の指揮等の実務をこなすのは、私や私の部下が一手に引き受けているわ。仮に陛下がお隠れになったとしても実務をこなす人間は変わらないのだから、結果的に何一つ変わることは無いわね。これは姫様が狙われた場合にも同じことが言えるわ。王族が持っているのは、決定に意見する権利と対外的な顔の役割なのよ」


 エレンの話はこうである。

 このモントバンと言う国では、国王の仕事と言うのは外相の仕事しかないのだ。これは王の意向であり、自分が権力におぼれてしまわぬようにと言う自省の意が込められているのであった。

 代わりに、王は自分が信用を置ける人物を要職に任命し、権力を分散させた上で実際の政務を行わせている。そしてその間に自身は国内を見て周り、民が困窮していないかを見て回るのだ。

 つまり、この国の王は国内では国の象徴としての存在でしかなく、王を暗殺したところで実権を握れるわけではないのだ。仮にこの国を乗っ取ろうというのであれば、それこそ国そのものを倒さねばならない。

 それを聞いて、ジンは難しい表情を浮かべた。


「……と言うことは、今仮に国王陛下の暗殺をしても、すぐには実権は握れない。だが、名目上王制なら内外共に混乱は避けられないだろう?」

「ええ。だからこそ、相手は直接陛下を狙わないで客将でしかない貴方を狙いに来たんだと思うわ」

「ふむ、それはどういうわけだ?」

「もし私がクーデターの首謀者なら、その戦果を出来るだけ多く取りたいと思うわ。だって、それだけのリスクを犯しているわけですから。もちろん、その後の面倒があまり起きないようにもしたい。と言うことは、まず味方を多く作って、更に自分がそのトップになって周りを完全に抑えられないといけないわ」

「その方法が俺の暗殺か?」

「ええ。世界最高級の英雄を殺せる、少なくとも対等に渡り合える腕前の暗殺者を従えている。おまけにその相手の顔も何も分からない。これがどれだけ恐ろしいことか分かるかしら?」


 エレンは更にジンに自分の考えを告げる。

 つまり、首謀者は自分が最大の利益を得る……実権を持った王になるために、本格的な大騒ぎになる前に自分の味方をできるだけ多く集め、更にその上に確実に立てるようにしなければならない。

 その方法の一つが、ジンの暗殺。『修羅』と呼ばれて世界中に名の知られた英雄を暗殺できるものが子飼いに居るとなれば、王に恨みのあるものや欲に負けた者たちが勝ち馬に乗ろうとやってくる可能性も高くなるというのだ。

 それを聞いて、ジンは納得して頷いた。


「成程……俺を倒すことができる人間が味方についているとなれば、勝ち戦に乗ろうとする人間を巻き込んで勢力を高めることが出来るだろうしな。更に言えば、相手は冒険者の事情を幾らか押さえることが出来る筈だ。何しろ俺と因縁のあるクルードを当ててきた訳だからな」

「いずれにしても、狙われる可能性が現時点で高いのが私とジンであることは否定できないわ。もっとも、相手がどこまでこちらの事情を知っているのか如何では陛下が危険であることは変わらないのだけれどね」

「それに関しては問題は無いと思うがな。何しろ、この城に直接勤めている人間が間諜を務めているんだ。少なくともこの城の内情は知られているわけだし、行動速度から言っても城の高級幹部の中に獅子身中の虫がいるのは間違いないんだ。そして、恐らくそいつが相手方のトップかそれに近い位置の奴だと思うぞ」

「ねえ~エレン~? ジェニファー? 二人で何話してるのー?」


 二人が話していると、いつの間に近くに来ていたのかエルフィーナが二人に対して質問を投げかけた。


「ジンには陛下を守ってもらうのだから、それについてお話をしてたのよ」

「そーなのかー? それなら堂々としゃべればいーじゃん? 何で内緒話にしたのー?」


 エレンの返答にエルフィーナは琥珀色の瞳でじーっとエレンの眼を見つめながら質問を重ねる。

 そう言われてエレンが少し困り顔をしたところで、ジンが口を開いた。


「エレン、自分の護衛が入ることを忘れてるぞ? 話をしたのはそっちだろう?」

「ああ、そうだったわね。ジンには私の護衛もしてもらうことになるのだから、その話もね」


 エレンがそう言うと、エルフィーナは突然ニヤニヤと笑いだした。


「むふ~、エレンとゆーさまとジェニファーの三角関係に進展かぁ~……エレンも隅に置けないね~。にやにや」

「「わああああああ!!!」」


 特大の地雷発言にエレンは長い耳をビクッと跳ね上げてエルフィーナに縋りつき、ジンは血相を変えてユウナの元に駆け寄って刀を取り出せないように抱きしめる。


「姫様、私の命が惜しくば、お願いですからそのような冗談はおやめください!!」

「え~、お似合いだと思うんだけどなぁ?」

「そ、それでもですっ!!」


 エレンは無邪気な笑顔を浮かべるエルフィーナに必死で懇願する。

 自らの身の安全が掛っているのだ、その表情には鬼気迫るものがあった。


「ジ、ジン?」

「ユウナ、何でもないからな。だから落ち着いてくれよな?」

「え、ええ……」


 一方、顔を真っ青にしたジンはユウナを宥めるべく、彼女を抱きしめてその長く艶やかな髪を手で梳いた。

 ユウナは突然の展開に顔を真っ赤に染めて戸惑うが、それでもしっかりジンの背中に手を伸ばして抱きしめ返す。


「ちょっと奥様、見ました?」

「ホント、朝もはよから人目もはばからず……」


 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、口に手を当てながらレオとリサはそう話す。

 この二人、頭に特大の雪ダルマを作っておきながら、全く懲りていない。


「ユウナも離れようとしないね。本当に朝からごちそうさまだよ……」

「……すやすや……」


 ルネは眠そうにあくびをしながらそう話し、ルーチェに至ってはもう限界だったのかソファーに寝転がって夢の中へ旅立っていた。

 この混沌とした状況の中、ドアをノックする音が談話室に響き、ドアが開けられる。


「ご主人様ぁ~ お兄さん方~ 朝食の用意が整いましたよ~……って、皆さん何やってるんスか?」


 気だるげな声で朝食の時間を告げに来たキャロルは、目の前に広がる光景に訳が分からず固まった。

 それに対して、アーリアルが答えを返す。


「なに、いつもの寸劇と言うやつだ。それよりも朝食なのであろう? なれば速やかに向かうとしよう。行くぞレオ!!」

「分かってっから耳元で叫ぶんじゃねえの」


 レオはそう言いながら、アーリアルを膝の上から降ろして立ち上がる。

 すると、すかさずアーリアルはレオに飛び付き、肩の上までするするとよじ登っていった。それはあっという間の出来事で、実に手馴れた動作であった。

 そんな彼女を見て、リサはクスクスと笑い出した。


「アーリアル様ってば、本当にレオ登りが得意になっちゃってまあ……」

「む? 駄目だぞ、幾らリサでもこの場所は譲らんぞ!!」


 リサの声に反応して、アーリアルが自分の居場所を取られまいとレオの頭をがっしりと抱え込みながら声を上げる。

 耳元で大声を出され、レオは耳をふさいだ。


「だぁぁ!? こら、耳元で叫ぶなって言ってんだろうが!!」

「ああう、すまぬレオ……」


 レオに怒られて、アーリアルは一瞬でおとなしくなってレオにべったりと張り付いた。

 その姿はすっかりしょげてしまっているが、意地でもレオの肩の上は譲らないつもりのようである。


「そんなこと言わなくても取りゃしませんよ」


 その様子を見て、リサは笑いながらそう言った。


「お~い、ルーチェ。朝ごはんだよ~?」

「うみゅ~……」


 その後ろで、ルネはソファーで寝ているルーチェに声をかける。

 しかしそれに対してルーチェは全く起きる気配が無い。


「お~い、起きろ~ 起きないと僕が全部食べちゃうぞ~?」

「ふみぃ……」


 ルネはルーチェの長い耳を引っ張りながら声をかけるが、ルーチェは少し顔をしかめるだけでやはり起きない。

 そこまでやって、眠気で思考が若干停止しているルネはふと一つの考えに至った。


「あ、そうか……良く考えたらここでルーチェを眠らせておけば僕はルーチェの分までもらえるのか……よ~し、それなら途中で絶対に起きないように深く……」

「ふ、ふぁい!? 起きます、起きたのです!! ちゃんと起きたのですからその振りかぶった拳をしまうのです!!」


 食欲魔神の不穏な言葉を聞いて、ルーチェは一気に眠気が覚めて飛び起き、大慌てでまくし立てるようにそう口にした。

 彼女の目の前には、素人目に見ても魔人のような凄まじい気を振りかぶった拳にまとわせ、飢えた野獣のような瞳のルネの姿があった。

 その気迫たるや普段の訓練のときとは比べ物にならないくらい強く、訓練を受けていない人間が野生の虎に狙われているかのような迫力があった。


「……ちぇ。まあいいや、早く食堂に行こう」

「そ、そうですね、早く行くのです」


 ルネは起きた彼女を見て心底残念そうにそう言うと食堂に向けて歩き出し、命拾いしたルーチェも急ぎ足でそれに続く。

 一方、その隣では未だにひしっと抱き合っている二人組の姿が。

 ジンの顔は困り顔で、ユウナの顔は耳まで真っ赤に染まっている。


「あ、あの、ユウナさん? そろそろ放してもらえないと食堂に行けないのですが?」

「あ、あう、すみません……」


 ジンに言われて名残惜しそうにユウナはジンを解放した。

 しかし、名残を惜しむユウナの手はジンの手をしっかりと掴んでいた。


「……じゃあ、行くとしようか」

「はい……」


 二人はしばらく固まっていたが、そのまま固まっていても仕方が無いので手をつないだまま食堂に行くことにした。

 ……この二人、どうやら羞恥か何かで頭がショートしているようである。


「それでは姫様、私達も食堂に向かいましょう」

「む~……てやっ!!」

「きゃああ!?」

「うおわっ!?」


 その後ろからエレンが食堂に向かおうとすると、エルフィーナがエレンをジンに向かって突き飛ばした。

 体勢を崩したエレンは、ジンの背中に倒れこむようにしてぶつかる。


「はいそこで手を繋ぐ!!」

「「はい?」」


 よろけたエレンがジンにぶつかると、即座にエルフィーナが声を挙げる。

 何でそんなことを言うのか訳が分からず、二人はその場でポカーンと口をあけて固まった。


「むむ~ぅ……エレン、そんなんじゃゆーさまに負けちゃうよ? ほら、さっさと手をつなぐ!!」

「……はぁ……分かりました」


 エルフィーナの言葉にエレンは溜め息をつくと、ユウナと反対側の手を取った。


「あ、おいエレン?」

「悪いけど、姫様が拗ねると後が大変だから我慢してちょうだい」


 困惑するジンにエレンは諦観や羞恥などが混じった複雑な表情でそう言った。


「…………」

「あ、あの、ユウナさん?」


 エレンの様子を見たユウナは、無言で繋いでいた手を離してジンに腕を絡めた。

 エレンにジンを取られまいと、対抗意識を燃やしているのであった。

 そんなユウナの様子に何やらヤバイ予感を感じて、ジンは冷や汗を流す。


(じ~っ……)


 更にそれをエルフィーナが見て、今度はエレンにくりくりとした琥珀色の眼で視線で合図を送る。

 その視線には妙な迫力があり、見返していると段々と気圧されてくるようなものであった。


「……ごめんなさい、ジン」


 その合図を受け取ったエレンは繋いだ手を指と指を絡める恋人つなぎに変え、腕に抱きついた。

 エレンもさすがに恥ずかしいのか、頬に若干朱が差している。


「っ!?」


 それに対抗するように、ユウナもジンの腕にひしっと抱きついて、指を絡めあう。

 加えてユウナはジンを引っ張りながら歩き、エレンからジンを引き離そうとしているようにも見えた。


「……はぁぁぁ……」


 ジンはどうしてこうなったと内心呟き、大きくため息をつきながら食堂へ向かう。 

 図らずも一人の男を二人の女が取り合う形になり、自分がその中心になってしまって困り果てているのだ。


「♪~」


 その後ろをエルフィーナは満面の笑みを浮かべて付いていく。

 大好きな宰相兼講師であるエレンの恋を応援した気になってご満悦なのだ。

 結果として、ジン達の様子は朝の城内を大いに賑やかすことになったのであった。



 朝食の後、ジンは王に呼び出された。

 王は玉座に座り、獣王のような威圧感を持ってジンを迎え入れる。

 そして、ジンが自分の目の前にやってくると、にやりと笑みを浮かべた。


「……ジン殿。たった二日で我が国の宰相を落とすとは、そなたも隅に置けないのう。ん? いっそのこと、エレンと共にこの国を動かしてみるか?」

「……ほわっと?」


 ……エレンが宰相だということをすっかり忘れていたジンであった。


 フィーナ姫、小暴走。

 ジンとエレンは一定の発言を聞くと条件反射で大慌てします。


 そして国王陛下のスペックが御乱心。

 やっべえ、戦う王様超書きたい。


 そんなこんなでご意見ご感想お待ちしております。


 それでは皆様、See you next time♪

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