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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
33/60

あんさつしゃさんのこうさつ

 城内の大捜索の結果、侵入していたのがクルード達だけだと分かり、それぞれが兵士達が元も持ち場につく。

 その一方で、ジン達冒険者一行とエレンは会議室に集まり、緊急のミーティングを取り行うことになった。

 なお、王族の人間は安全のため王宮にある隠し部屋の中に避難している。

 ジンは部屋に戻り流れる血を止血してから会議室に向かうことにした。


「ジン!」

「おっと」


 会議室に入るなりユウナがジンに飛び付き、ジンは咄嗟に抱きとめる。


「良かった……襲われたって聞いて……私……」

「大丈夫だ、特に酷い怪我もないから安心しろユウナ」


 ユウナの眼には涙が浮かんでおり、ジンの腕の中で震えている。

 ジンはユウナに優しく声をかけ、頭を撫でたり、長い黒髪を梳いたりして落ち着かせる。


「左腕を包帯でぐるぐる巻きにしておいて何を言ってるのよ! 十分に酷いけがをしてるじゃないの! “この者たちに祝福を(ブレス・アリアル)”」

「サンキュ、リサ。助かった」


 ジンの血で真っ赤に染まった包帯が巻かれた左腕を見て、リサは大慌てでジンに治療を施す。するとジンの左腕を暖かな銀色の光が包み込んだ。

 ジンはそれに礼を返すと、包帯を外して席についた。その横ではルーチェがジンに気遣うような視線を送っており、ルネは何かを悔いるような表情を浮かべている。

 そんな中で、エレンがジンに向かって話しかけた。


「まずは侵入者を撃退してくれたことに礼を言わせてもらうわ、ジン。貴方のおかげで犠牲者が少なくて済んだし、陛下や姫様には何の被害も無かったわ」

「いや、今回に関してはそれは違う。今回の侵入者の目的は俺の暗殺だったんだからな。むしろ俺がいない方が犠牲者も出なかった筈だ」


 ジンは苦い表情を浮かべてそう言いながら、首を横に振った。

 それに対して、エレンはジンの言葉に対して同じように首を横に振った。


「確かにそうかもしれないわ。でも貴方がいたおかげで私は陛下や姫様の傍を離れずに済んだし、安心して全体を見ることができたのよ。だから自分を貶めるような発言は言わないで欲しいわね」

「そう言ってもらえると助かる」

「それにしてもジン、君を狙ってきた暗殺者は何者だったんだい? 君に怪我を負わせられるような相手がこの町に居るなんて情報は無かったはずだよ?」


 ジンとエレンの会話を遮ってルネが質問を挟む。

 ライトブラウンのショートヘアーに手が伸びていて、その表情は訳が分からないと言った表情だった。


「そりゃそうだ、奴らはギルドには登録していない、知っている奴は知っているっていうような奴だからな。だがクルード・ベトラとシャイン・シクストの二人の名前は闇情報を扱ったことがあるんなら少しは聞いたことがあるんじゃないか? その道の人間としてはかなりの有名人の筈だが?」


 ルネはジンの言葉を聞いて髪を弄る手を止め、青と緑の双眸を細めた。

 どうやら心当たりがあるようである。


「……それって、『光と影』の二人のこと? 確か、要人暗殺を得意にしている傭兵じゃ無かったかな?」

「そう、そいつだ」

「そんなバカな! そんな有名人がこの町に居たんなら裏の人間ならすぐに分かるはずだ! 何で今まで誰も気が付けなかったんだ!?」


 ジンの言葉に対してルネが声を荒げる。

『光と影』は、土地を統治している貴族達を次々に暗殺している。その十分に警備されているはずの人物を容易に暗殺する腕前は、裏の世界では名前を出せば誰でも分かるほど有名になっているのだ。

 裏のネットワークに通じているはずの自分が、そんな大物を引っ掛けられなかったことが信じられない様だった。


「……なあ、ルネ。今まで情報を集めていて、いつも懇意にしている情報屋が待ち合わせに来なかったことは無いか?」

「っ!? ま、まさか……」

「ああ、間違いなくクルードに消されたんだろうな。奴は目的を達成するために手段を選ばない。過去にあいつはたった一人を暗殺するためにその周りにいた護衛や使用人を全て殺したこともあるくらいだからな。自分の存在を知った人間を始末するくらいのことはしてのけるだろうな」


 その一言にルネは息を飲んだ。

 通常、情報屋というものは依頼、それも自分の信用のおける顧客のものは確実にこなす。何故なら、それを反故にすることは客の信用を失い、上客を手放すことになってしまうからだ。

 だと言うのに来なかったと言うことは、行くことが出来なかったと言う可能性が最も高いのだ。


「ところでジン、そのクルードとシャインって人はどれくらい強いのですか? ジンに手傷を負わせられるほどの強さが本当にあるのですか?」


 ルーチェはこめかみに人差し指を当てて首をかしげながらそう質問をした。

 実際に傷を見ても、ジンに怪我を負わせられる相手がいたことが信じられていない様だった。


「ああ、今回のこれは油断した……いや違うな、向こうの方が一枚上手だったと言うべきか。クルード本人は暗殺者らしく気配を殺して相手の死角を突いたりすることが異常に上手い。動きも素早いから、並の相手なら殺されたことすら気づけないまま首を取られるだろうな。それに奴は今回みたいに小細工を仕込むのも上手い。今回みたいに魔封陣とか仕込まれたら俺はともかく、ルーチェやエレンはひとたまりもないだろうな。相方のシャインは真正面から攻撃を仕掛けて自分に敵を引きつける役割が主だ。防御は固いし攻撃も巧みで、俺でもそう簡単には倒すことは出来ないだろう。それにこいつに構っていると大抵横からクルードに掻っ攫われるから、シャインと戦う時はクルードの襲撃も考えないといけない。かと言ってクルードに集中しようとすると、今度はシャインが一部の隙も逃さず攻め込んでくる。このコンビネーションがいつでも効いて来ると言うのだから手に負えない。この二人を確実に仕留めようとするならば分断しなければならないが、それが一番難しい。総合的に見ると、この二人に挑むのは俺でも簡単には出来ないレベル、と認識してもらえれば良い」

「そ、そんなに強いのですか?」


 自分が想像していたよりも遥かに強い相手だったことを知り、ルーチェは深緑の眼を丸く見開いた。

 ジンが容易に対処できないレベルと言うことは、自分が対処するのはまず無理だと感じたのだ。

 その言葉に、ジンは肯定の意をこめて頷いた。


「ああ、少なくとも俺に手傷を負わせ、大した怪我もなく撤退できるくらいはね。正直、相手側に奴らが付くのはあまり考えたくない。何しろ、奴らほど対人に特化した連中は居ないからな。戦場でのあの二人には俺も手を焼いたよ」

「で、でも、ジンは彼らを退けることができるのです。ならばあまり気にしすぎるのもどうかと思うのですが……」

「そりゃ今回みたいに手傷を負うこともあるが、奴らを倒すまでは行かなくても追い払うことは出来るさ。ただ、その時は俺が他の所に援軍に行くことはほぼ不可能と考えて欲しい。それに奴の本分は暗殺、仮に俺以外に標的を絞られるとかなり辛いことになる。必然的に俺は常時その標的になった人物に付いていないといけなくなるだろうな」


 ジンの言葉を聞いて、エレンは溜め息をついた。

 ただでさえ面倒なことが余計に面倒なことになり、更に相手がよからぬことを考えていることが明白になったからである。


「……やれやれ、想像以上に面倒な人物が相手に回ったものね。ジンが手を焼く、と言うことは外からの要因が加わればジンすらもどうなるか分からないと言うことですもの。ねえジン、そこまで相手のことが分かっているのなら何か弱点みたいなものは無いのかしら? 幾らなんでも全く弱点が無いとは言わないでしょう?」


 エレンは耳に掛った金茶色の髪を正しながらジンに質問を投げかける。

 するとジンはあごに手を当てて天を仰ぎ、少し考えて答えた。


「弱点ねえ……パッと思いつく弱点と言えば、執着かな?」

「執着? それはどういう意味かしら?」

「クルードは冒険者としては破綻していてね。シャインが居ないとまともに依頼も受けられないんだ。その原因が他者への執着、それも復讐に関する執着が特に強いことだ。何しろ暗殺対象の周囲に自分の復讐相手がいたら、暗殺対象そっちのけで自分の復讐をしようとするような奴だ。そしてその復讐のためならクルードは何でもする。それがたとえ仕事の依頼主の殺害であってもな」


『光と影』は優秀な暗殺者であるが、性格が破綻していることでも知られている。例を挙げれば、標的を倒す前に依頼人を殺害したり、意味もなく相手を痛めつけたりすることが多々あるのだ。

 更に、クルードは一度されたことは絶対に忘れない性格で、仕事中でも少し邪魔が入っただけで全力でそっちの復讐へと走る悪癖があるのだ。

 それを聞いて、エレンは頭の中で情報を整理して頷いた。


「つまり、クルードの行動をコントロールしたいのなら、彼が復讐をしたい相手を連れてくれば良いと言うことになるわね。でも、そんな人間が都合よく居るのかしら?」

「要るともさ、都合よく目の前に二人な。俺とレオがその対象だ」

「あ、やっぱり?」

「ちょ、ちょっと!? 何でレオがそんな復讐の対象になってるのよ!?」


 憂鬱な表情を浮かべて話すジンの言葉に、先程の行為を思い出していたレオは苦笑いを浮かべて頬を掻き、それを知らないリサは慌てた様子で声を荒げた。


「奴の行動原理の一つにな、やられたらそれに倍返しを自らの手ですると言うのがある。馬鹿にされれば相手の心を破壊するまで貶めるし、財布を盗まれたら全財産を奪いに掛る。そして、体に傷を付けられたらその相手を地獄の果てまででも追いかけて殺す。でもって、俺は随分前に奴に刀傷を負わせて、レオはついさっき放った一矢でクルードを吹き飛ばして怪我をさせたと言う訳だ。そうなったら最後、奴はどこまでも執念深く追いかけてくるぞ」

「ぐぬぬ……レオの命を狙うなど我が許さん! レオ、お前のことは我が守ってやるから安心するが良い!」


 レオの肩の上で唸りを上げていた、銀髪金眼で見た目幼女の神様がそう言って息を巻く。

 自分が慕っている相手に虫がつくのが余程我慢できないようであった。


「……ああ、頼もしすぎて涙が出るぜ、全く……」

「本当にな……」


 アーリアルのその様子に、レオは呆れたように溜め息をつき、ジンは遠い目をした。

 世界中の信仰を集めている彼女が本気で守るというのであればレオは安全になるのだが、その分世界中の信者への影響が心配されるからである。


「ジン、クルードに関しては大体わかった。でもまだその相方に関する情報が足りないよ。そっちの情報は無いのかい?」

「シャインか? シャインに関しては単純だ。何しろ奴はクルードの居る所にしか行かないからな」

「それは一体どういうこった?」

「そうなった経緯は良く分からないが、シャインはクルードに異常なまでの執着を持っている。いや、執着と言う言葉すら生ぬるい、崇拝と言うか、狂信の域にまで達しているかもしれないな。とにかくシャインはクルードが少しでも危険になると即座にすっ飛んできて身代わりを買って出るし、クルードが死地に赴く時は何があろうと絶対にそれについて行く。だからクルードを押さえてしまえば、勝手にシャインも釣れると言う訳だ」


 シャインのクルードへの執着もまた、彼らを知るものには有名なものである。

 彼女はクルードの行く先全てについていき、ともすれば護衛すべき依頼主をそっちのけでクルードの守備につく。そして、クルードの指示には文句を言いながらではあるが、それが例え自分達に不利な結果を招こうとも結果的に必ずクルードの望む方向へと持っていくのだ。


「と言うことは、クルードの動きを掴めれば自ずとシャインの動きも読めてくると言う訳だ……それにしても、今のは妙な話だね」


 納得したように返事をした後、再び髪を弄り始めるルネ。

 その様子に、リサが首をかしげた。


「妙な話ってどういうことよ?」

「だって、クルードは態々王宮から遠い一階の廊下で兵士を殺して、ご丁寧に痕跡を残して行ったんだよ? おまけに中庭には人払いの結界に魔封陣まで張られていたんだろう? 確かにジンが言うとおり、どう考えても最初からジンがターゲットだったとしか思えないんだよ。これっておかしいとは思わないかい?」

「だから、何がおかしいのよ? ジンが復讐相手だからここに来ただけじゃないの?」


 そう問いかけてくるルネの言いたいことが分からず、リサは腕を組んで顔をしかめる。


「……いえ、確かにおかしいのです」

「あ~もう! だから何がおかしいの!? そんな思わせぶりな言い方しないでサッサと言いなさいよ!」


 こめかみに人差し指を当てたルーチェがそう呟いた瞬間、リサは赤い髪をガシガシと掻きながらそう叫んだ。

 それをみて、エレンが宥めに入った。


「まあ落ち着きなさいな。何がおかしいかと言われれば、彼らが来るのが早すぎるのよ。私達が貴方達を雇ったのは昨日の話。城の中ではもう知れ渡っているかも知れないけれど、私達はまだそのことを公に発表はしていないわ。だと言うのに、何故か城に一歩も出入りしていない筈のクルード達が確実にジンの命を狙って来た。じゃあ、クルード達はどこからジンがここにいると言う情報を得たのかしら?」

「ちなみに言っておくが、俺がこの城に入るところを誰かに見られたってことは無いからな。一応これでも俺は有名人なんだ、人目に付くと何が起こるか分かったもんじゃないから、それに関しては常に気を配っているしな。仮に城勤めの兵士が外で言いふらしたとしても一日二日じゃ精々が噂程度、情報の確度は不十分だ。……そう言えば、シャインが依頼がどうとか言っていたな。恐らくシャインが受けた依頼の目的が俺の暗殺だったんだろう。となると、依頼人は確実に俺の存在を知っていることになる。以上のことを踏まえると……」


 ジンがやってきたのは、昨日の話である。しかも王女を護衛しながらと言う、非常に高い隠密性を要求される状態であった。当然ながら、ジンは魔法を使って周囲に見られないように入城している。

 更にジンの名声を鑑みれば、王家が世界最強クラスの英雄を雇うということは機密事項になるのである。何故なら、何の前触れもなく戦力を強化するということは近隣国の無用な警戒を招いてしまうからである。

 つまり、現時点ではジン達一行の存在が王城の外に漏れるはずがないのだ。仮に漏れたとしても精々が口伝で広がる程度であり、それを裏付ける証拠は何もないのだ。

 ところが、クルードは待ち伏せや罠の仕掛けなど入念な下準備をしてからジンとの戦闘に臨んだのである。

 そこまで聞いて、リサはようやく皆が何を言いたいか分かった様で、うんうんと頷いた。


「……ようやく分かったわ。つまり、城の中に敵のスパイがいるって訳ね」


 すっきりした表情を浮かべたリサに、ジンは頷くことでリサの言葉を肯定した。

 ジンの暗殺を「依頼」出来るということは、確実にジンが居ることを知っていなければならない。それが分かるのは、実際にジンが居ることを確認でき、その証拠を提出できる人物でなければならない。

 と言うことは、王城の中のかなり上位の人物に敵と内通しているスパイがいるということなのだ。


「そう言うことになるな。となると、そのスパイが誰なのかが気になるところだが……」

「それはこちらの管轄ね。内部調査はこちらでやっておくわ。分かったら貴方達に報告するから、それまでは今まで通り任務に当たってちょうだいな」

「了解。ところで、城の警邏もやる人間が必要か? 今日みたいにクルードみたいな奴が入り込んだら一網打尽にされる可能性がある訳なんだが?」


 ジンがそう言うと、エレンは唇に人差し指を当てて考えを巡らせた。

 世界最高峰の英雄でも手を焼く暗殺者が相手についている。そのことは、もちろん王家にとって脅威となりえる。

 しかしながら、ジンやレオと言う復讐対象がいる以上、クルードはそちらを優先して狙ってくると考えられる。ならば、その二人は相手に対抗できるだけの体力を温存しておかなければならない。

 そこまで考えて、エレンは首を横に振った。


「……いえ、当分の間は警備兵を増員する方向で考えましょう。貴方達に過労なんかで倒れられたら眼もあてられないわよ。しっかり休んで不測の事態に対応できるようにしておく方が良いと思うわ」

「なるほど、そう言うことならお言葉に甘えて休ませてもらおう。さて、大体の方針も決まったことだし、今日はこの辺で解散にしようか」

「そうね。護衛については姫様も交えて考えないといけないことだし、今日はもうお開きにしましょう。それじゃ、明日の朝に談話室で」

「んじゃま、皆とっとと寝るとしましょうや。明日の朝がつらくても知らんぞ?」


 ジンの一言に全員うなずき、一斉に自室に戻っていった。



 *  *  *  *  *



 ジンが部屋で武具の手入れを終えて寝る準備をしていると、突然ドアからノックの音が響いた。


「ん? 誰だ?」

「ジン? 起きてますか?」


 その声を聞いてジンはドアを開ける。するとそこには寝巻姿のユウナが立っていた。

 突然の来訪に、ジンは訳が分からず首をかしげる。


「ユウナか。一体どうしたんだ?」

「そ、それが……今日ジンが襲われたじゃないですか。それでまたジンが襲われたらと思うと不安で……」


 そう話すユウナの表情は暗く、余程不安だったのか、寝巻の肩の所に自分の肩を抱いたときに出来たであろうしわが出来ていた。

 その様子を見て、ジンは溜め息をついた。


「それで、眠れなくてここに来たってわけか」

「はい……」

「とはいえ、しっかり寝ておかないと明日がつらいぞ? 俺達の仕事は体力仕事なんだからな」

「はい、分かってます……ですから、一緒に寝てくれませんか?」

「…………は?」


 俯いてか細い声で話すユウナの言葉に、ジンの思考は停止した。

 そしてしばらくして、ジンは額に手を当てて俯きながらユウナに質問をした。


「……すまん、どう言うことか説明してくれないか?」

「私、ジンのことが心配で……ジンのことで頭がいっぱいになってしまって安心できないんです。だから、ジンに触れて、ジンがちゃんと無事で傍にいると言うことを確認したいんです。そうすれば、私は安心できますから……お願いです、今日だけでも一緒に寝てくれませんか?」


 そう言いながらユウナはジンのシャツの裾を掴む。潤んだ瞳の彼女は今にも泣き出しそうで、裾を掴む手は不安を抑えようとしている様に力がはいっていた。

 ユウナのその表情を見て、ジンは大きくため息をついて首を横に振った。


「……はあぁぁぁ……仕方ない、今日だけだぞ?」

「あ……は、はい! で、では失礼します……」


 嬉しそうな声でそう言うとユウナはそわそわとした様子で部屋の中に入り、真っ直ぐにベッドの中に入った。

 あとからジンが入ってくると、ユウナは即座に彼の肩に手をまわし、しっかりと抱きしめた。

 ただ添い寝をするだけだと思っていたジンは、そんな彼女の行為に眼を白黒させた。


「……さ、流石にくっつきすぎじゃないか?」

「良いんです。こうでもしないと私の不安が晴れないんです」

「さいですか……」


 ユウナはそう言いながらジンを抱きしめる腕に力を込め、頬を寄せ合う。ジンの頬にユウナの吐息がかかるくらいの距離であったのだが、彼女にはそれでも遠かったようである。

 それに対しジンは少し頬を染めたまま何も言えず、しばらく無言の時間が過ぎた。

 すると、ユウナがくすくすと笑いだした。


「……なんだか懐かしいですね、こうやって二人で寝るのは」

「そりゃもう十五年以上前の話だからな。懐かしくもなるだろう」

「ふふふ……昔はお化けが怖いからってジンの方からこっちに来てたんですよね」

「……やめてくれ、今思うと情けなくて涙出てくる……」


 ユウナがそう言うと、ジンは恥ずかしそうにユウナから顔をそむけた。やはり大の男がお化けが怖かったなどと言うのは、思い出しただけでも恥ずかしいもののようであった。

 それを見て、ユウナは柔らかい笑みを浮かべて再びジンの顔を抱き寄せた。


「良いじゃないですか、可愛い貴方の過去なんですから。ああ、そういえば……」


 それからしばらく二人は話を続けた。

 ユウナの昔話に、ジンは懐かしさを覚えながらも何でそんなことまで知っているのだろうと疑問を抱きながら付き合った。

 そしてその内、ジンから規則正しい寝息が聞こえてきた。


「……寝ちゃいましたか……くすっ、可愛い寝顔ですね……」


 ジンの顔を覗き込んでそう言いながらユウナは微笑む。無防備な姿を見せてくれて、自分が信頼されているのを実感したのだ。

 ユウナはそんなジンの顔をまじまじと見つめていた。そして、その視線がある一点で止まった。


「そう言えば、ジンは今日エレンさんと……」


 ユウナの視線はジンの唇に止まっていた。

 ユウナの脳裏にはジンとエレンが動物薬を飲まされ、その影響で二人が唇をむさぼり合っていた件が再生される。

 それを思い出して、ユウナは少し胸が痛んだ。

 それと同時に、ユウナの頭の中にとある考えが浮かんだ。


「……す、少しくらいなら、い、良いですよね?」


 黙っていては恐らくずっと叶わない。なら奪ってしまえば良い。何よりエレンさんが不可抗力とは言えあれだけしてたじゃないか。私が貰っても何の問題は無いはずだ。

 ユウナはそう理論武装をして覚悟を決める。


「え、えと、失礼しま~す……」


 ユウナはそう言うと、ジンに段々顔を近づけていく。近づいていくにつれどんどんユウナの顔は赤くなっていき、心臓が暴れだす。

 相も変わらずジンは規則正しい寝息を立てており、ユウナの行動に気付く様子は無い。

 ジンの吐息が掛るほど近付き、そして。


「……や、やっぱり駄目です……」


 ユウナは恥ずかしさに耐えきれずに顔を離し、掛け布団の中に引っ込んだ。


「ううっ……私のいくじなし……」


 ユウナはそう言いながら布団の中で膝を抱えてのの字を書く。

 十分ほどそうしていじけた後、ユウナは布団から顔を出しジンの顔を見た。

 ジンは穏やかな寝顔を浮かべており、ユウナはそれを見て心が温かくなっていくのを感じる。 


「ジン……いつかきっと……」


 ユウナは誰にも聞こえないように呟くと、ジンの腕を抱き、肩に頭を預けて眠りについた。





 そして翌朝。


「いよぉ、ジン! イチャラブした後の目覚めはどうだい!?」

「ユウナも、昨夜はお楽しみだったのかにゃ~?」

「「あっついねぇ、お二人さん!」」


 そこには、ニヤニヤと笑いながら騒ぎ立てる銀色男と赤髪シスターがいて、


「よし、お前らそこに直れ」

「……はぅ……」


 それに対して拳を鳴らす群青の英雄と顔を真っ赤に染め上げた黒髪の幼馴染がいた。


 以上、暗殺者どもの説明回+αでした。

 ……何故だろう、書いてるうちにクルードがすんげえ強キャラ化するわシャインのキャラの雲行きがどんどこ怪しくなってくるわ、これは一体どういうことなんだ?

 ユウナさん、ちょっと勇気を出してみたらご覧の有様だよ!!

 可愛いヒロインが書ける人が羨ましい。

 

 それからちょっと質問したいのですが、どうすればもっと多くの人に見てもらえるか考えた結果、投稿時間を毎回変更してみようと思うのですがどうでしょうか?

 その理由として、毎回同じ時間に投稿した場合その時間帯の読者様は毎回同じ方々になると思うのです。そこで、時間帯をずらして読者層を変えてみようと思っております。

 この件に関して読者の皆様方のご意見をお聞きしたいと思っております。


 それではご意見ご感想よろしくお願いいたします。

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