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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第2章 おうじょさまのいらい
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えいゆうさんのむかしばなし

就活って大変だなぁ……


 キャロルの必死の看病によりしばらくしてジンとエレンが復帰し、この日の業務が始まった。

 ジンの仕事はユウナと一緒にエルフィーナの護衛である。

 と言う訳で、ジンとユウナはエルフィーナと時折話をしながら傍についている。

 現在、三人は自由時間と言うことでエルフィーナの部屋にいた。

 エルフィーナの部屋は白い大理石に覆われた石造りの立派な部屋で床の中央に金縁で青紫色の絨毯が敷かれており、大きな窓から柔らかな日の光が差し込み白い石の床を照らしている。

 箪笥や鏡台などの調度品は部屋に合わせて白く塗られ、そのシンプルなデザインにアクセントとして王家の象徴である剣と杖の金細工が施されている。

 三人は部屋に置かれている白いテーブルに付き、女中が持ってきた紅茶を飲みながら雑談を楽しんでいた。


「ねー、ゆーさま。ジェニファーってゆーさまと幼馴染なんだよね?」

「はい、そうですよ」

「それじゃー、ジェニファーって旅に出る前はどんな感じだったのー?」


 期待に目を輝かせたエルフィーナにそう言われて、ユウナは微笑んだ。

 その隣で、ジンが「余計なことを言うなよ」と言わんばかりの微妙な顔をして紅茶を飲んでいる。


「ええ……とってもやんちゃな男の子でしたよ。いつもレオと一緒に喧嘩や悪戯ばかりしていました」

「ほほ~ それで~?」

「村じゃジンとレオは何て言うんでしょうか、問題児と言うか、一種の名物だったんですよ。冒険者相手に喧嘩売ったり、魔導師の頭の良さを試したり、時には二人して女湯を覗きに行ったり、」

「ん、んぐっ!? お、おい! 何故知っている!?」

「……とにかく、エストックの悪童として名が通ってました」


 ユウナの発言で黒歴史を暴露されてジンは大いに慌て、女中から白い視線を受ける羽目になった。

 その一方で、ユウナはその様子を微笑ましいものを見る様な表情で見つめていた。


「ふむふむ。英雄さんも男の子だったと言う訳ですな~ にやにや」

「やかましい!」


 意地の悪い笑みを浮かべながら、エルフィーナはジンを見つめてそう言った。

 それに対してジンが顔を真っ赤にして叫ぶと、ユウナはくすくすと笑って話を続けた。


「でも、悪いところだけじゃなかったんですよ? 昔からジンもレオも他の子が弱い者いじめをしているとどこからともなくやってきて、それをやめさせるんです。ジンが言葉で丸めこんで、殴りかかってきたらレオが力でねじ伏せる、そんな感じでした」

「……そんなこともあったな……俺達はレオの親父の教育を受けていたからな……強者が弱者を痛めつけているのを無視しようものなら、俺達が親父達から折檻を受ける状態だったんだよな」


 ユウナの話を聞いて、ジンは昔を懐かしむ表情を浮かべてそう言った。

 それを聞いて、眼をまんまるに見開いてエルフィーナは感嘆の声を上げた。


「おお~っ、ジェニファーは小さいころからヒーローだったんだ。それでそれで~? ゆーさまとはどうして知り合ったの~?」

「最初はただのお隣さんだったんですよ。その内お互いの両親が仲良くなって、家族ぐるみで付き合いが始まったんです。その中にジンが居たんです。小さいころの私は引っ込み思案でなかなか声をかけられなかったんですが、ジンは構わずに私に声をかけてくれました」


 肩に掛った長くて艶やかな黒髪を直しながら、ユウナはそう話す。

 ジンは嬉しそうに話すユウナを見て、ぽつりと呟いた。


「……良く考えりゃ、あれから十八年経つのか。旅に出ていた期間を抜いても十五年か、ずいぶんと長い付き合いになったな」

「ええ。あの時のことは良く覚えてますよ。お祖母ちゃんの後ろに隠れていた私に、「ねえ、君いくつ?」って名前も聞かずにそう訊ねて来たんですから」

「え~、何で?」

「い、いや、それはだな……」


 のほほんとした表情で紅茶を飲んでいたエルフィーナに詰め寄られ、ジンは困り顔を浮かべた。

 それに対し、ユウナはまたくすくす笑いながら楽しそうに答えた。


「ふふふ、後で聞いたら「話しかけるのに緊張して忘れてた」って答えが返ってきました」

「おやおや、これまた可愛い答えだねー」

「……ほっとけ」


 ユウナとエルフィーナに生温かい視線を送られ、ジンは拗ねたようにそっぽを向いて紅茶に口を付ける。

 が、カップが空だったらしくジンは苦い表情を浮かべてカップに紅茶を注ごうとして、女中にポットを取り上げられてやるせない表情を浮かべていた。

 それを見て二人して笑うと、エルフィーナはユウナに話の続きを促した。


「それからー?」

「それで年齢を言ったら「じゃあ、僕の方が年下なんだね。ジンって言うんだ。宜しくね、お姉ちゃん」って返って来たんですよ」


 ユウナの言葉に、ジンが呆れたような溜息をついた。

 その表情は少しバツが悪そうなものだった。


「そんなセリフ良く覚えてるな……」

「だって、初めてのお友達でしたから。その時はどうすればいいのか良く分からなくてただ頷くことしか出来なかったんですけどね。それ以来、ジンは私のことをお姉ちゃんと呼ぶようになって一緒に遊ぶようになったんです」

「あれ~? ジンの方が年下なの~?」


 ユウナの方が年上という事実に、エルフィーナが意外そうにそう声を上げた。

 それに対して、ジンが答えを返す。


「ああ。ユウナは俺より一つ上だ。ちなみにレオがユウナと同い年で、リサはそのもう一つ上だな」

「そーなんだー……ってあれ~? でも、今ジェニファーはゆーさまのことをユウナって呼んでるよ?」

「ええ。お姉ちゃんって呼ばれてましたけど、お姉ちゃんらしいことは全然出来ませんでしたから。私はいつもジンの後ろを付いて回って、ジンのしていることを横から見ているばかりでした。それに、何となくこれは違うなって思ったんです。だから、ジンと対等の立場に立つためにそう呼ぶように頼みこんだんです」


 ユウナは若干苦笑しながらそう話した。

 すると、ユウナは何かを思い出したようで笑みを深いものに変えた。


「ああ、そうでした。ジンと言えばこんな話がありましたね。私がジンと知り合ってしばらく経った頃、私は周りから良くからかわれていたんですよ。そしたらジンは、「お姉ちゃんをいじめるな!」って言って毎回どこからともなく飛んできて、皆を追い払って居たんです」

「へ~、やっぱ小さいころから英雄さんだったんだ。かっくい~♪」

「よせよ、所詮は子供の遊びだ。それ位の事なら男だったら少なくは無いだろう?」


 キラキラと眼を輝かせて持ち上げるエルフィーナに、ジンはくすぐったそうにそう言って紅茶に口を付けた。

 それを聞いて、ユウナはくすくすと笑った。 


「あら、それにしてはジンの場合は凄かったと思いますよ? 私が泣いたりしたら相手が泣くまで殴るのをやめなかったし、相手がどんな年上でも一歩も引かず、どんなに一方的に殴られても絶対に私に被害が行かないようにしてましたし。あと、ジンは相手に負けるたびに大泣きしては必死で努力して、最後には絶対一矢報いてましたね。一矢報いたその時の言葉が、「今度お姉ちゃんに手を出してみろ、立ち上がれないくらいボコボコにしてやる!」だったんですよ。そうですね、その時のジンには男の子の意地を見ましたね」

「当たり前だ。女の子、それも友人となれば男が守ってやるのが当然だ。それに負けっぱなしじゃ幾らなんでも守った女性に面目が立たんのだ、そりゃ意地にもなるわな」

「素でそんなこと言っちゃう辺り流石は英雄さんだね。ところでさ、ジェニファーって恋愛に関してはどうだったの? 顔も悪くないし、この性格なら結構モテたんじゃないかなー?」


 相変わらず琥珀色の瞳をキラキラと輝かせながらエルフィーナはジンに問いかけた。

 やはりエルフィーナも女子として恋愛事には興味津々の様だ。

 ジンはそれに対し、深々と憂鬱なため息をついて答えた。


「いや、そんなことは無かったぞ? 何しろ俺、村に居た時レオと一緒に「モテないブラザーズ」なんて結成してたくらいだぞ? モテた覚えなんてこれっぽっちも無いな」

「あれ~、意外だな~? ほんとーなの、ゆーさま?」

「さあ、どうでしょうね」


 ユウナは敢えて口をつぐみ、紅茶と共に言葉を飲み込んだ。

 実際の所は村の中でジンやレオに想いを寄せる女性は多かった。しかしジンにはユウナが、レオにはリサが付いて回っていたために伝えるチャンスが無かっただけなのだ。

 そんなこんなで、モテないと勝手に錯覚した二人が「モテないブラザーズ」を結成することになったのだった。

 なお、「モテないブラザーズ」は「みっともないからやめろ」と言う理由でユウナとリサが速やかに解散させたのであった。


「んじゃさ、れおぽんとリサねーは? どうやって知り合ったの?」

「最初はレオが私にちょっかいを掛けて来たんです。当時のレオは凄い暴れん坊で、気に食わないことがあったらすぐに手が出る子だったんですよ。そんな感じでしたから、最初はジンとレオで大喧嘩になったんです。二人は日が暮れるまで喧嘩をし続けていたんですが、あんまり遅かったのでお互いのお父さんが迎えに来たんですよ」

「……あったな、んなこと。もう十六年前の話だ。俺もレオもボロボロになって、二人とも立ってるのがやっとだって時に来たんだよな。そしたらあの親父どもときたら、どっちの息子が強いか、とか言い出して親父同士で喧嘩おっ始めやがったんだよな」


 当時を思い出して、ジンは溜め息をついた後に苦笑した。

 予想の斜め上の展開を行かれたエルフィーナはぽかーんと口をあけて固まった。


「ええ~っ……それで、どうなったの?」

「後日再戦と言うことになって、トレーニングすることになった。んで、レオとまた殴り合うことになったんだが、その当日は何故か村を挙げて喧嘩祭りになったんだよな……」


 遠い目をして話すジン。

 その顔は楽しい思い出に浸るような、それでいて呆れ果てたような複雑な表情を浮かべていた。

 それに対して、ユウナが渇いた笑みを浮かべた。


「あはは……あの時は特設のリングまで作って大騒ぎになりましたよね……確かジンとレオのお父さんもリングに上がって戦ったんですよね」

「そうそう、俺とレオがダブルノックアウトしたもんだから、どっちが強いか親父の強さで白黒つけるとか訳のわからんこと言い出してリングに上がったんだよな。あの時俺は何とか見ることが出来たんだが、これが凄まじくてな……レオの親父が力でねじ伏せに掛ればうちの親父が技で返す、一進一退の互角の試合だったんだ。気がつきゃ隣にレオが居てな、二人で互いの親父を応援したもんだ」

「ほえ~ ジェニファーのおとーさんも強かったんだ~ で、それから?」

「それがこれまたダブルノックアウトで決着つかず。この時ばかりは隣にいたレオと喧嘩していたことも忘れて大爆笑したもんだ。そんでもって話してみれば意外と話せてな。その時からレオとは友人飛び越して拳で語り合った親友になったんだ。ついでに親父同士も強さを認め合って晴れて飲み仲間になったと言う訳だ」

「今にして思えばその瞬間にエストックの悪童と悪餓鬼が誕生したんですよね……ジンはレオと出会って悪事を覚えて、レオはジンに出会って知恵を手に入れたんですから、二人揃うと手がつけられなかったんですよ」


 ジンは当時の様子を楽しそうに語り、ユウナはしみじみと思い出に浸る。

 エルフィーナはそんな二人に続きを促すことにした。


「ねー、まだリサねーが出てないよ? リサねーはどう知り合ったの?」

「リサか? 俺のファーストコンタクトは木槌による痛打だったぞ?」

「何で?」

「レオと一緒に少しばかり遊んでいてな。それで悪ふざけの加減を誤って怒られる羽目になった」

「当たり前ですよ、お金が欲しいからって金庫を持ち出した揚句に火薬を使って爆破しようとしたんですから。そのせいで広場が大変なことになったじゃないですか」

「うわ、ジェニファーそれは流石に……」


 呆れ口調でユウナがそう話すと、エルフィーナはジンにジト目をくれた。

 ジンはそれを受けて、しみじみと語りだした。


「そうなんだよな……やるんなら頑丈な外壁を爆破するんじゃなくて比較的もろい錠を破壊することを狙う方が効率が……いや全く、下手を打ったもんだよ」

「そう言う問題じゃないでしょう!?」


 的外れなことを言うジンにユウナは思わずそう叫んだ。

 ジンはその様子を見て、からからと笑いだした。


「はっはっは。まあジョークはさておき、俺とリサの馴れ初めはそんなもんだ。後はレオとつるんでいるうちに自然とリサとも話すようになったと言う訳だ。レオとリサは大概一緒にいたからな」

「私はジンがレオとリング上で戦っているときに初めて話しました。ジンの応援をしていたら、隣でリサがレオに向かって威勢よく応援をしていたんですよ。それから試合の後でお話をして友達になったんです」

「それ以降は大体その四人でつるむ様になったな。レオが馬鹿をやってリサがそれを阻止してユウナがそれを見て笑うって感じでな」

「ジン、そのレオの馬鹿を加速させていた貴方が抜けていますよ?」

「違いない。まあそれにしても、まさかそのメンバーで旅に出ることになるとは思わなかった訳だが……」

「ねーねー、そう言えば何でジェニファーは一人で旅に出たの? お友達も居て、楽しく過ごせる場所があったんでしょ?」

「一人で旅に出た理由か……それは……ん」


 ジンが話そうとすると、部屋の古く趣のある柱時計が低い音で鳴り始めた。

 時計の針は自由時間の終了を告げていた。


「休憩時間が終わったみたいだな。続きはまた今度話すとしよう。あーっと、次の予定は何だっけか?」

「お城の中の査察だよ。あ、おとーさまが貴族の人たちと会議してるから第一会議室は入らないでね」

「了解、それじゃあぼちぼち行くとしようか」


 三人は紅茶の片付けを女中に頼むと服装を整え、部屋を出た。



ジン幼少期の話。

ジンとレオは相当な悪餓鬼で力があったため性質が悪かったという設定。


ジンの一人旅の道中とかはその内やろうと思っています。


……感想こないなぁ……少し悲しい気がする。

感想を書くほどのインパクトがないのかな?


まあとにかく、ご意見ご感想をお待ちしております。


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