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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第1章 じゅんびきかん
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おともだちぼしゅうちゅう

 四人が旅に出てから三日が経った。

 その間、特に魔物も盗賊も現れる事は無く、消耗も少なくて済んだ。

 これは碌に補給が出来なかったジンにとってはありがたいものだった。

 現在、眼の前には巨大な外壁に囲まれた街が見えている。

 その中心部には荘厳な城がそびえたっていた。


「お、あれが最初の目的地か? ジン?」

「目的地っつーか……中継地だな。あの村じゃ復興に追われて旅の準備なんざ出来なかったしな」

「にしても、城壁がやけにでかいわね。うちのとことは大違いじゃない」

「当たり前だ、俺達の村であるエストックは冒険者が多い宿場村で、規模もそんなに大きい訳じゃない。と言う事は、冒険者によって村人が守られやすいと言う事になる。対して、ここは城下町。冒険者も居ない訳じゃないだろうが、街の規模が違う。冒険者や軍隊を集めたって全部を守る事は出来ない。必然的に街を守るための堅牢な外壁が必要になると言う訳だな」

「ええと、あの街は何と言う街でしたっけ?」

「フランベルジュ。一応このモントバンの首都だぜ?」


 初めて見る城下町にテンションが上がっているのか、ジン以外の三人は浮かれ顔である。

 ジンはそれを見て、深々と溜息を吐くのだった。

 と言うのも、この国の治安は他の国と比べてもあまり良いものでは無かったからだ。


「おいおい、初めてここに来るからって浮かれるのは分かるが、中に入っても気を抜くなよ? 人間は魔物なんかよりもよっぽど怖いんだからな」

「どういう事ですか?」

「ま、そりゃそうだよな」


 ジンの一言にユウナは首を傾げ、レオは納得したように頷いた。

 レオのその発言に、リサはレオの方を向き直った。


「どういうことよ? こういう所なら自警団とかがしっかりしていそうなものだけど?」

「あのなあ、さっきジンが言ってただろうがよ。騎士団や自警団がこんなバカでかい街全体を管理しきれる訳ねーだろうが。それに、スラムなんかに迷い込んでみろ。あっという間にオケラになるぜ? あ、でもお前からスるような命知らずは鋼鉄粉砕「ゴールディオン、ハンマァァァァァァァァ!」うぎゃああああ!?」


 次の瞬間、リサはドヤ顔で話すレオの頭に金槌を振り下ろした。

 ズガン、という強烈な音が辺りに響き、レオは光になった頭を抱えて悶絶することになった。

 そんな二人を尻目に、ユウナはジンに話しかけた。


「本当ですか、ジン?」

「……まあ、その通りだな。気が緩んでるとこんなことになる」


 そう言うと、ジンは懐から財布を取りだした。

 それは、何故か三つあった。


「あ、あら?」

「ちょっと、それアタシの……」

「いてててて……て、テメ、いつの間に!?」


 それを見て、ユウナ達は眼を丸くして驚いた。

 ジンの取りだしたそれは、今朝まで自分が確かに持っていた財布だったからだ。

 三人のその様子を見て、ジンは小さくため息をついた。


「スッたのはここに着く直前だ。俺の場合、お前らが何処に財布をしまっているか分かっていたから、全く苦労せずスリとれたわけだが……俺が技術を教わった本職のスリはもっと凄いぜ?」


 ジンはそう言うと財布をそれぞれの持ち主に返した。

 そんなジンをユウナがジト目で見つめる。


「……何でそんな技術を学んだんですか?」

「そりゃ必要だったからだ。何しろ、俺に回ってくる仕事は滅茶苦茶な奴が多かったからな……」


 ジンはそう言うと遠い目で天を仰いだ。

 今まで様々な依頼を受けていたが、中には机上の空論をそのまま依頼されたりしたものもあったため、かなりの苦労を強いられてきたのであった。


「苦労してたのね、ジン……」


 リサはその煤けた背中を見てホロリと涙を流すのであった。


「んでよ、いつになったら中に入るんで?」

「確かにここで話していても仕方が無いな。さっさと入るか……とその前に、“偽りの貌(フェイスフェイカー)”」


 ジンがそう言うと、ジンの輪郭がぼやけ、中から金髪の男が現れた。

 銀の鎧は革の鎧に、背中の大剣はみすぼらしい無骨なものに変化している。


「うおっ!? なんじゃこりゃ!?」

「ジンの髪と鎧が……」

「俺は少しばかり有名になりすぎたからな。面倒なことに、街に入る時もこうしないと大騒ぎになる」

「……本当に、有名なのも困りものなんですね……可哀想に……」


 ユウナは心をこめてそう言うと、ジンの頭を撫でた。

 その行動に、ジンはガクッと力が抜けた。


「いや、別に慰められる様な事じゃ……」

「おい、そこなバカップル! 早いとこ中に入ろうぜ!」

「ぶっ!?」


 既に門に向かって歩き出していたレオの一言に、ジンは思いっきり噴き出した。


「あ、あのな、レオ!」

「は~い! 今行きます!」

「あ、おい!」

「さあ、早く行きましょう!」


 ジンが自己弁護する間もなく、ユウナはジンの手を取ってレオ達のところへ走り出す。

 ユウナは満面の笑みを浮かべていて、手をひかれるジンの顔は赤く染まっている。

 その光景を見て、レオとリサは大いにニヤけるのだった。




 門の詰所で名前(ジンのみ偽名)を書き、大通りに出る。

 そこには、眼の前には背の高い石造りの建物が並んでいた。


「うわ……大きいですね……」

「噂には聞いてたけど、想像以上だな」


 町の中に入ると、ユウナとレオは物珍しそうに上を見上げながら辺りを見回した。

 それをみて、リサが少しあわてた様子で声をかける。


「ちょ、ちょっとアンタ達、おのぼりさんみたいに見られたらどうするのよ!?」

「……確かにな。新鮮なのは分かるが、その反応は不味い。それからリサ、何だかんだ言ってもお前もキョロキョロ……」

「う、うるさい!」

「うおっ!?」


 ジンは「実際にそうじゃねえか」と思いつつ、リサの振り回す金槌を避ける。

 そうしている間に、見知らぬ男が近寄ってきた。


「やあ、君達。見たところこのフランベルジュは初めてみたいだね。案内してあげるよ。有名な場所やみんなが知らないような穴場まで全部ね」


 男は中性的な声そう言うと、ユウナに詰め寄った。

 そしてユウナが何か言い返す間もなく、男は彼女の手を握った。


「どうかな? 何なら、素敵なディナーを御馳走させてもらうけど?」

「え、ええと……」

「悪い、俺は何度か来た事あるから、案内は結構だ」


 言い淀んでいるユウナと男の間にジンが割り込む。

 それでも、男はなおも食い下がる。


「まあまあ、そう言わずに。何度か来たくらいじゃこの町の良いところは分からないって。だから、僕と一緒に」

「……一つ言っておく。押し売りはやめた方が良い。さもないと、強盗に間違われるぞ?」


 ジンはその灰青色の眼で男を睨みながら、低く強い口調でそう言った。

 それに対して、男はユウナの手を離してやれやれというように溜息をつきながら首を横に振った。


「はぁ……確かにそうだね。他を当たるとするよ」

「待て、一つ聞きたい事がある」


 立ち去ろうとする男に、ジンは声を掛ける。

 男は、立ち止ってジンに振り返った。


「何だい?」

「この町で、黒い甲冑を纏った騎士を見た事はあるか?」


 ジンの質問に、男は少し間を置いてから答えた。


「……三か月前に。ただ見かけただけだ」

「……そうか。礼だ、受け取れ」


 ジンはそう言うと、男に金貨を三枚手渡した。

 それを見て、男は眼を見開いた。

 一般的な中流家庭の一月の収入が平均で金貨六枚であるのだ。

 一つの情報、しかも無益なものに対する報酬としては、あまりにも高い。


「……随分と羽振りが良いんだね、君は」

「それはその程度の情報にもそれを払う分だけの価値があるからだ」


 ジンはそう言うと男から視線を切った。

 すると、男は慌ててジンに詰め寄った。


「ま、待ってくれ! 流石にこれだけもらって「はい、さようなら」って言うのは納得いかない! 少しくらい役立たせてくれ!」


 それに対して、ジンは頭を掻いた。


「と言われてもな……今はそんなに困っている事もないしな……」

「アイテムの鑑定とかそう言うのは無いのかい?」


 その発言で、ジンはピタリと固まり、眼の前の男を見た。

 ジンの眼には疑問の色が浮かんでいる。


「おい……お前、ひょっとしてホビット族か?」

「あ、ああ、そうだ。少し待っててくれ、変身を解くから」


 そう言うと男の輪郭が崩れ、代わりにライトブラウンの髪の少女が現れた。

 眼は青と緑のオッドアイで、着ている服は動きやすいオレンジ色のシャツと青いハーフパンツ。

 見た目の年齢は人間で言えば十歳くらいの外見をしている。


「……この格好では誰も相手にしてくれないからね。騙したみたいで悪いけど、これが本当の僕の姿さ」


 ホビット族は成人しても人間の子どもの様な姿をしている。

 性格は総じて好奇心旺盛な傾向があり、ほとんどのホビットは手先が器用である。

 そのため、大部分がアイテムの管理や鑑定、工芸品の作成等を生業としているのだ。

 ジンは、男が最初にアイテムの鑑定を口にした事によって、眼の前の人間がホビットである事を疑ったのだった。 


「成程な。しかし、見事な変わり身だな。魔法の気配はほとんど感じなかった」

「ふふふ、褒めてくれてありがとう。『修羅』に認められたなら僕の変身も一流かな?」


 ホビットは薄く笑みを浮かべながら、変装しているジンにそう言った。

 その一言を聞いた瞬間、ジンは僅かに眉をひそめた。


「……そう思う根拠は?」

「一つは君の付けている鎧。見た目は革製だけど、それに付与されている魔法はどう考えてもその鎧のそれじゃない。何しろ、特殊な銀にしか載らない様な魔法が掛っているからね。剣も同じだ。ただの剣かと思いきや、その正体は極上の魔剣。付与魔法は四つくらいで、相乗、吸収、強化、加護かな? 売り飛ばせば、少なくとも三代までは遊んで暮らせる価値はあると思うよ」

「……どっかでその修羅が死んでいて、俺がたまたま拾った可能性だってあるんだぞ?」

「そりゃ無いね。何しろ、この世界で最も過酷な迷宮の奥深くにあるはずの代物だよ? そんなところにあるものを手に入れられる人間がそう簡単に死ぬものかい?」


 ジンはそれを聞いて、「殺せる奴が居ない訳じゃねえんだけどな」と、心の中で思った。

 その視線が、先程からおいてけぼりを喰らっている三人に向けられているのは言うまでもない。

 それを気にせず、ホビットは話を続ける。


「……それに、僕の眼には君の青い髪がはっきり見えているんだけどな。解けかかってるよ、魔法」

「何?」


 ジンはそう言うと、頭に手をやろうとして、それをやめた。

 ジンの顔が苦虫を噛み潰したように歪む。


「ふふふ、引っかかったね。さあ、まだ言い逃れを試してみるかい?」


 その反応を見て、ホビットは悪戯を成功させた子供の様な笑みを浮かべた。

 どうやらカマをかけて反応を確かめたようであった。

 その言葉に対してジンは溜息を吐き、肩をすくめながら答えた。


「ふう……俺の負けだよ。で、これからどうする気だ? あ~……」


 ジンが言い淀んていると、ホビットは思い出したように手をたたいた。


「ああ、そう言えば名前を言っていなかったね。僕の名前はルネ・ラロッサ。ルネで良いよ。この町で道案内と情報屋をやっている。君の名前は言うまでもないよね、ジン・ディディエ・ファジオーリ」

「あ~、その名前は勘弁してくれ。どこぞの王様からもらった名前を呼ばれるのは慣れてねえんだ。ジンで良い」

「ふふっ、じゃあそう呼ばせてもらうよ」


 どこかむず痒い表情をしたジンの自己紹介を聞いて、ルネは嬉しそうに笑った。

 その笑顔は可愛らしい見た目と裏腹に、大人びていてかつ自然なものだった。

 ジンはその顔を見て少し考えた。


「ルネ、その鑑定眼を見込んで提案がある。俺に雇われてみないか?」

「あれ、即決して良いのかい? 僕よりも凄いのが居るかもしれないよ?」


 ルネはそう言いながら、涼しげな笑みを浮かべた。

 それに対して、ジンも小さく笑みを浮かべる。


「良く見せてもいない上に偽装までされた俺の剣を、柄を見るだけで見るだけでそこまで正確に鑑定出来るのなら十分すぎる程だろ。知識もある様だし、居ると便利だろうと思ってな」

「おや、これまた随分と高く買われたものだね」

「それに……」 


 ジンは縹渺とした態度のルネをつま先から頭頂部まで見据えた。

 その様子を見て、ルネは顔を赤くして一歩引いた。


「……君はそう言う事を望むのかい?」

「何を想像してんだ何を!? 俺はただ、身のこなしからお前が盗賊関係のスキルを持っているんじゃないかと思っただけだ!」 


 大いに慌てたジンの声を聞いて、ルネは笑いだした。


「くっくっく、分かってるよ、それくらい。少しからかってみたのさ。ふむ、確かに僕はスリやピッキングとかも出来る。しかし、それが分かるってことは君も出来るってことじゃないのかい?」

「……旅の連れが初心者でな、俺がそれをやっている間に襲われたら対応できん。どの道これからギルドで盗賊を雇うつもりだったのだが……」

「そう言う事なら願ってもない。喜んで雇われようじゃないか」


 ルネはそう言うと、ジンと固く握手をした。

 一方、いきなり承諾を受けてジンは唖然としている。


「……今まで疑っておいて、手のひら返すの早すぎないか?」

「そりゃ、雇い主が馬鹿じゃ話にならないからね。自分を選んだ根拠ぐらいは聞いておきたいものだよ。まあ、杞憂だったけどね。それに、僕としても君について行けば確実に良い宝物が手に入ると言うのは魅力的だ。その背中にある魔剣や君の付けている鎧だって僕はもう見るだけで興奮して仕方がないんだ。さあ、早速契約と行こう。報酬はどうする?」


 ルネは興奮した様子でジンにそうまくし立てた。

 やはり彼女もホビットであり、宝物には目が無いようであった。

 そんな彼女に、ジンは少し考えて口を開いた。


「報酬は基本月金貨六枚であとは出来高と危険手当で色を付ける。死亡時には場所を指定してもらえればそこにこれまでの報酬を支払う。これで良いか?」

「それだけあれば十分さ。そう言う訳で、宜しく頼むよ、ジン」

「んじゃま、契約は成立だな。こちらこそ宜しくな、ルネ」


 ジンはそう言うとルネの手を握り返した。

 ルネは満足そうに笑うと、口を開いた。


「さて、後ろで待ちぼうけをしている君の連れも紹介してくれないかな? あまり待たせてるのも悪いしね」


 ルネの一言にジンが後ろを振り返ると、そこにはうずくまって哀愁を漂わせているユウナがいた。


「ユ、ユウナ?」

「いえ、良いんです……どうせ私は田舎者で話について行けませんよ……」

「んなこと気にするこたぁねえだろ。ほれ、奴を見てみろ」


 落ち込むユウナに話しかけながら、ジンはある方向を指差す。

 ユウナがその方向に眼をやると。


「失礼フロイライン、少しばかりこの田舎者にこの町を案内してもらえないかい?」

「あ、あの……」


 そこには何処から取り出したのかタキシードを着てシルクハットをかぶり、モノクルを付けてバラの花を持ったレオが女性に絡んでいるところだった。

 女性は明らかに迷惑そうな顔をしている。


「おや、このバラの花が気になるのかい? 良いだろう、持って行きたまえ。さて、何処に案内してもらえるのかな?」

「え、あの……」 

「ちぇりゃああああ!!」

「んごふぅ!?」 


 そんな大迷惑男の頭に容赦なく金槌が振り下ろされる。

 レオはもんどりうって倒れ、ピクピクと痙攣し始めた。


「ウチの馬鹿がどうも失礼致しました……」


 そう言うと、リサは相手の女性の返答を待たずにレオを引きずってこちらにやって来る。

 ジンはそれを見届けると、再びユウナに向き直った。


「見たか? あいつらみたいに平常運転で良いんだよ。分らなけりゃ訊けばいい。そんなに落ち込むこたぁねえ」

「……アンタらは何やってんのよ」


 ジンがユウナを慰めている光景を見て、リサは呆れた声を出した。

 それを見て、クスクス笑うものが約一名。


「くっくっく、ジン、君の連れは思っていたよりも随分と面白いね」

「……アンタ誰よ?」


 くすくす笑うルネにリサは不機嫌そうにそう問いかける。

 それに対して、ルネは深々とお辞儀をした。


「ルネ・ラロッサ。たった今ジンに雇われた鑑定役さ。ホビットだからこんな身形だが、今後宜しく」

「あら、良く見れば随分と可愛い子ね。アタシはリサ・ファリーナ・パトレーゼよ。で、今眠ってるこいつはレオ・アスカーリ。宜しくね、ルネ」


 リサが自己紹介を終えると、突如痙攣していたレオが悶絶しながら飛び起きた。


「うぎゃああああ!! いてええええ!! 追いコラこの撲殺魔神、テメェ俺の頭が陥没骨折起こしたらどうするつもりだ!?」

「別に? 普通に治すだけよ。と言うか、あの程度じゃアンタ死なないでしょ? そんな事より自己紹介しなてもらいさいな」

「ん? 自己紹介?」


 レオは怪訝な顔をしてリサの指差す方向を見た。

 そこには、笑顔でその光景を見つめるルネの姿があった。


「……誰、この可愛い子ちゃん?」

「ルネ・ラロッサ。つい先ほどジンに雇われた。宜しく」

「あ~っと、レオ・アスカーリだ。……おい、ジン!」


 レオはそう言うとジンのところに駆け寄った。

 そして肩を組むと、周りに聞こえない様に話を始めた。


「なあ……お前、ペドの気でも」

「死ね」

「ごふぅあ!?」


 ジンのレバーブローを受けて、レオはその場に崩れおちる。

 それを見て、ルネはジンに話しかけた。


「ねえ、彼っていつもああなのかい?」

「俺の記憶にある限りじゃ平常運転だ。あの程度なら十秒で全快する」

「けど蹲ったままだけど?」

「大方構って欲しくてそうしてるんだろ。放っておけ。っと、最後はユウナだな」


 ちなみに、ジンにレオが殴られて十秒で全快したのは三年前の話。

 ジンの頭の中からは、自分が『修羅』と呼ばれる強者にまで成長していた事はすっかり抜け落ちていた。

 ジンは後ろで悶絶しているレオを無視して自己紹介を進める。

 ユウナは、少しためらいがちにルネの前に出て、小さな声で自己紹介をした。


「あ、あの……ユウナ・セベールと言います。よ、宜しくお願いします!」

「うん、こちらこそ宜しく。君、東方系の人なのかな?」

「え、ええ。祖母がムラクモの出身で……」


 早速ルネはユウナに興味を持ったのか、ユウナと話しこみ始めた。

 しかし、その二人にリサとジンが割り込む。


「ちょっとアンタ達、入口でたむろしててもしょうがないんだから、歩きながら話しなさいよ」

「心配せんでも話す時間はあるだろ? 時間は有限、さっさと用事を済ませよう」


 そう言うと、一行は街中に向けて歩きだした。(レオは置いていかれそうになっていたところを根性でついてきた)

 その途中、人混みの中から走ってきた男がジンにぶつかりそうになる。


「おっと」

「え?」


 その瞬間、ジンはその男の手を掴んでいた。男の手は、ジンの腰のポーチに向かって伸びていた。

 抵抗しようとする男をジンが睨みつけると、男は蛇に睨まれた蛙の様に動かなくなった。


「次はもっと相手をよく見てからやれ」

「は、はいいいいい!」


 ジンが手を離すと、スリは一目散に走り去っていった。

 その一部始終を見ていたルネは、ジンに向かって拍手を送る。


「流石だね、ジン。あの男、中々の手練だと思ったんだが……アレを見抜くんなら君はスリの心配はいらないみたいだね」

「まあ、あれくらいならな。もっとも、俺の師匠なら俺に気付かれることなく背中の剣を抜きとる事が出来るだろうよ」


 肩をすくめてそう話すジンに、ルネは眼を丸くした。


「本当かい? ふむ、そんな達人が居るのなら、一度会ってみたいものだね」

「難しいぜ? 何せ、放浪癖持ちの根なし草だからな……何処に居るやら見当もつかん」


 ジンはそう言いながら、どこで何をしているか分からない自分の師の一人を思い出して首を振った。

 そう話している最中、ユウナが話に割り込んできた。


「あの……さっきのスリ、捕まえなくて良いんですか?」

「ああ、あれを捕まえるのは無理だ。何しろ、被害に遭っていないからな。証拠不十分で釈放されるのがオチだろう」

「そうなんですか?」


 ジンの話を聞いたユウナは、ルネに確認を取る。

 ルネは首を横に振って答えた。


「ジンの言う通り、あれを捕まえるのは難しいだろうね。それに、この町のスリは組織を組んでいて、その一部はこの国の中枢に繋がっているという噂だってある。突き出したところで効果は無いとみて良いね」

「国の人間が、犯罪行為を容認してるとでも言うんですか!?」

「容認ではなく、利用しているとみた方が良いだろうね。と言うより、その実例が眼の前に居るんだけどね」


 ルネは憤慨しているユウナにそう言うと、ジンを見た。

 それに対して、ジンは額に手を当てて溜息を吐いた。


「……何とまあ察しの良い事で」

「スリと言うものは時として情報源にもなる。まあ、そう言う事さ」


 ルネの言葉を聞いて、ユウナは納得がいかないと言う様に黙り込んでしまった。

 そんな一行が向かった先は、国立博物館だった。


 御閲覧頂きありがとうございます。

 ども、F1チェイサーです。

 SS書くのは難しいですね。

 何かこうした方が良いというアドバイスや感想等があったらお願いします。


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