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拝啓、親父殿。幼馴染が怖いです。  作者: F1チェイサー
第1章 じゅんびきかん
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どうくつはあそびば

花粉症で死ねる。

 一か月の戦闘訓練を終え、一行は再び広場の噴水前に集まった。

 中央の噴水は勢いよく水を吹き上げ、周りには待ち合わせをしている人々で溢れかえっている。


「んでよジン、この後どうするつもりなんだ?」


 黒鉄色の鎧を着て少し長めの銀髪を後ろで束ねた男、レオがジンに対して質問を投げかけた。

 ジンと呼ばれた群青の髪の男はそれに答えを返す。


「次は実際にダンジョンに潜る。この町の近くに練習用のダンジョンが設置してあってな、しばらくはそこで実戦訓練をするつもりだ」

「それでは練習にならないのではないのですか? 何度も攻略されているということは罠とかもばれているわけですし……」

「ところがぎっちょん、練習になる。その洞窟には蘇生と再構成の魔法が掛けられていてな、中で死んでも復活するし、入るたびにダンジョンの内容が変わる。まるであつらえたかのように昔からそこにあるダンジョンは、いつからか不思『検閲により削除』のダンジョンと呼ばれている」

「難易度はどうなんだい? 僕たちが潜るところはどう考えても初心者向けじゃ無さそうなんだけれど?」


 体の小さな青と緑のオッドアイのホビットの少女がライトブラウンのショートカットの髪を指でいじりながら、ジンにそう質問をする。

 ルネの質問は尤もなものであり、ジンの行く先はそんなにぬるいものでは無い筈であるからだ。


「それが不思議なことに、それぞれのレベルに合わせて自然と調整されるんだよ、ここは。それに、俺の行く先は必ずしも難易度の高いダンジョンとは限らない。魔物が滅茶苦茶強いだけでダンジョン自体の難易度は低い、なんて言うところもあるしな」

「それはそうと、何で最初からそこに行かなかったのよ? そっちの方が絶対にもっと早く旅立てたんじゃないの?」


 肩に少し掛った赤い髪を後ろに払いながら、リサがそう言った。ジンを見る瑠璃色の眼には、わずかながら不満の色が見て取れた。

 それを聞いて、ジンは首を横に振った。


「それはだな、弱いうちから言ってもあんまり為にならないからだ。あのダンジョンは冒険者のレベルに合わせて姿を変える。難易度の高いダンジョンに挑戦するには戦闘力を上げるのが一番早いんだが、単純に戦闘力を強化するには訓練所の方が圧倒的に良い。元よりダンジョン内で戦う時だって基本は何もないところで戦うのと変わらないからな、下手に最初からダンジョンで訓練して変な癖をつけたくなかったのさ。だから基本を徹底的に学ばせた後にその応用としてここを使うことにしたという訳だ。さて、時は金なりと言うし、早いとこ行くとしようか」


 広場の前から、一行は町のすぐ近くにある洞窟に足を運んだ。洞窟の周囲は苔むしており、中は暗くてよく見えない。

 その洞窟の中を、レオの肩越しに銀色の髪の少女が覗き込んだ。


「ここがその不『検閲により削除』議のダンジョンか。ふむ、見た目はただの洞窟だが、強い魔力がこの中で渦巻いておるな……おお、これはあれではないか!」


 突如としてパッと宝物を見つけたかのような表情をうかべるアーリアル。

 そんな彼女を見て、リサがアーリアルに質問を投げかけた。


「知っているのか、雷d……じゃなかった、アーリアル様!?」

「うむ、ここは遊技場だ!!」

「「「「「「遊技場?」」」」」」


 そう言って金色の眼を輝かせるアーリアル。その十歳児の見た目相応の笑みを浮かべる彼女の言葉に、全員首をかしげる。

 それに対し、興奮した様子でアーリアルは説明を始めた。


「神なぞ暇なものでな、退屈しのぎに色々と遊んだりするのだが、大概は遊び場を自分で作るのだ! これは戦神等が暇つぶしに訓練を兼ねて遊ぶために作った施設であろう! まさか地界にあるとは思わなんだ!」

「……これが遊び場ですか……」

「さあ、早く行くぞ! 我は前からこの遊技が好きなのだからな!」

「あ、おい引っ張んな!」 


 どうやら我慢できなかったらしく、アーリアルはレオの肩から飛び降りてその袖をぐいぐいと引っ張って洞窟の中に入っていく。

 レオの抗議の声など全く耳に届いていない様だった。


「……訓練開始、ですか?」

「……そう、なるな……」


 すみれ色の着物を着た女性の呟きに短くそう返すと、ジンは洞窟に入って行った。




「おりゃああああ!」

「ギャアアアアア!」


 中に入って行くと、アーリアルはそこら辺にいた魔物に対してジンからふんだくった白銀の剣を振りおろした。

 敵は真っ二つに裂け、そのまま絶命した。


「どうだ、レオ! 敵を真っ二つにしてやったぞ!」

「んなの見りゃわかるっての。大体この程度の奴らならアンタにゃ楽勝だろうがよ……」


 褒めろと言わんばかりに胸を張るアーリアルを、レオは軽くあしらう。

 すると、アーリアルは不満げに頬を膨らませた。


「むぅ……ノリが悪いぞ、レオ。せっかく遊んでおるのだからもっと楽しめ!」

「へーへー、次の敵さんが出てきたらな」


 そう言いながらレオに参加を促すアーリアルと、少々疲れた表情をするレオ。 

 それを見て、ルネはクスリと笑みを浮かべた。


「苦労するね、レオ。あ、アーリアル様、そこから三歩先に罠があるので避けてください」

「おお、危ないところだった。感謝するぞ、ルネ!」


 ルネの一言に、アーリアルは罠を確認して礼を言う。彼女の三歩先には、不自然に開けた空間があった。よく見ると、そこは落とし穴になっているようである。

 はしゃぎまわるアーリアルを見て、レオは呆れたようにため息をついた。


「あんなにはしゃいでまあ……おかげでかなり振り回されてるぜ……」

「っ! レオ、そこを動くな!」


 突如、ルネがそう叫んだ。その言葉にレオは即座に従いその場で立ち止まる。

 するとルネは、レオの足の先にある石を青と緑の眼で注視した。 

 よく見ると、その石の周りには不自然な隙間があり、踏んだ瞬間に罠が発動する仕組みになっているのが分かる。


「これは……危ないな。こんなのが発動したら何が起きるか分からない、マーキングしておこう」


 ルネはそう言うと、スプレー状の塗料で罠の石にマーキングを施した。

 レオはそれをじっと眺めている。


「すげえな。よくあんな罠とか見つけられるな」

「ふふっ、マッピングとトラップの発見と解除は情報屋の必須技能さ。屋敷なんかに忍び込むときに必要なのさ」

「いや、それもうスパイって言わね?」


 レオの一言に、ルネは愉快そうに笑みを浮かべるだけだった。




「……?」


 しばらく歩いていると、ジンが不意に立ち止まって辺りを見回した。

 それに気がついて、深緑の瞳のハーフエルフがジンの元にやってくる。


「どうしたのですか、ジン?」

「いや……一瞬魔力の流れがおかしかった気がしたが……気のせいか?」


 ジンがそう言うと、ルーチェは深緑の眼を閉じて辺りの魔力を探った。

 そしてしばらくすると、ルーチェは首をかしげた。


「う~ん、今調べましたけど、特に異常は見当たらないのですが……」

「そうか……だが、何があるか分からん。一応ルネに言ってマップに書き残しておこう」


 ジンはそう言うと、ルネに現在地に印をつけておくように言うのだった。




 更に先に進むと、巨大な扉がジン達一行の前に立ちふさがった。

 その扉の前で、リサとユウナが右往左往している。


「う~ん……どうなってるのかしら、これ?」

「……何か書いてあるみたいですけど、読めませんね……」


 ユウナは扉に書かれた文字らしきものを眺めている。それは、一角一角が鋭利な刃物を思わせるような文字だった。

 その扉の文字を見て、ジンがルーチェに声を掛けた。


「ルーチェ、出番みたいだぜ?」

「はいなのです……むむむ、これは古代剣文字といって、約七千年前にこの地方の王族や貴族に使われていた文字なのです」


 ルーチェは文字を見るなり、即座にその文字の正体を周囲に告げ、手帳を開いて解読を始める。

 彼女はしばらくすると小さく目の前に書いてある言語を読み上げ、それに頷くと手帳を閉じた。

 そんな彼女に、ユウナが質問を投げかける。


「なんて書いてあるんですか?」

「『武器を掲げ、王に栄光を捧げよ』と書いてあるのです。つまり、この場合はこの三つの像のうちの二つに武器を持たせて、残りの一つに栄光を示すものを捧げればいいのですよ」


 そう言ってルーチェが指差す先には、三体の石像が立っていた。

 一つは胸当てをつけた像、一つは馬にまたがり鎧をまとった像、最後に見るからに豪奢なローブをまとった像の三つが並んでいた。

 それらの石像は全て右腕を振り上げており、何かを持たせられるようになっている。

 それを見て、アーリアルが納得して頷いた。


「ふむ、と言うことはその『武器』と『栄光』をこの中から探し出してこやつらに持たせればよいのだな?」

「そう言うことなのです。と言う訳で、さっさと探すのですよ~」


 ルーチェのその一言と共に、一行は『武器』と『栄光』を探し始めた。




 しばらくして、一行は三つの像に持たせられそうなものを発見して戻ってきた。

 それらの物を床に並べると、ルーチェを除く一行は首をひねった。


「で、見つかったのが剣と槍と杖か」


 床に置いてあるのは、燃え盛る炎の様な装飾の施してある剣、吹き荒ぶ風を連想させるような刃の槍、そして先端に大きな青い宝玉を埋め込まれた杖だった。

 それらと目の前にある三体の像を見比べて、ユウナは首をかしげた。


「どれにどれを持たせるんですか?」

「豪華な服装の像に剣、馬に乗った像に杖、残った一つに槍を持たせるのです」


 ユウナの質問にルーチェは迷うことなくそう答えた。

 その回答に、リサが首をかしげる。何故なら、彼女は馬に乗った像は槍を持った騎兵で、豪華な像は杖を持つ魔法使い、残る一つは歩兵だと思っていたからである。


「……何かそれおかしくない?」

「合っているはずなのです。だまされたと思って持たせてみるのですよ」


 一行はとりあえずルーチェの言うとおりに像に物を持たせてみた。

 すると、重厚な音と共に石の扉が開き、道が現れた。どうやらこれが正解のようである。


「う、嘘、これで正解なの!?」

「当時の兵隊は歩兵に槍を持たせて魔導師に剣を持たせていたのですよ。剣は儀礼と護身の役目を兼用するものとしていたのですね~」

「……アンタいつの間に白衣とメガネを……」

「そんなことはどうでもいいのです」

「……釈然としないわね……」


 瑠璃色の眼を見開いて驚くリサに、ルーチェが説明を始める。

 とこから取り出したのか白衣とメガネを装着しているが、気にしてはいけない。


「じゃあ、杖は王の杖と言う訳か?」

「そのとおりなのです。この地方は良質な金属が多く取れる代わりに宝石の類はほとんど取れない地域なのです。ですので、大きな宝石があしらわれた杖はとても貴重なものだったのです。そう言う訳で、こういう杖は栄光と富を示すものとして扱われていたのですよ」

「だけどよ、何で馬に乗ったのが王様だってんだよ? 豪華な服装をしている奴の方が王様っぽくね?」

「さっきも言った通り、王の杖は栄光と富の証なのです。王はそれを見せつけることで自分の権力を主張するのですよ。そう言う訳で、戦場では鎧を着こんで馬に乗って、周りに杖を見せつけるのです。魔導師の服が豪華なのは、大がかりな魔法を使うための儀礼用の服装だからなのです。ですので、戦場では王様より魔導師の服装の方が豪華になるのが当たり前だったのですよ」


 ルーチェは仲間達の質問に的確に答えていく。

 その知識を聞いて、ジンは感心して頷いた。


「流石は考古学者と言ったところだな。これからも頼りにしてるぜ?」

「どんとこいなのです」


 ジンが頭をポンポンと手のひらで軽くたたくと、ルーチェは豊満な胸を張って自信たっぷりの表情でそう言うのだった。


戦闘ができるだけでは冒険はできぬ。

というわけで、トラップマスターと考古学者のご降臨。

あと、神様遊び場見つけて大ハッスルなお話でした。


う~む、皆様の反応が気になる。

お気に入り登録が増えているから気に入らない訳じゃないんだろうけど……

意見や希望などを感想とかに書き込んでもらえれば反映させられたりもできるので、宜しければどうぞ。

皆様のご意見、ご質問およびご感想をお待ちしています。

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