ただいませつめいちゅう。
気がつけばPV10000越え。
読者の皆様には感謝です。
……最初思ったよりも早かったな……
「チッッッッッキショーーーーーーーー! 分かっちゃいたがあんなあっさり負けんのかよ!」
「うっさいわよレオ!」
「アガヴッ!?」
控室にレオの悔しげな叫びが響く。そのあまりのやかましさに反応してリサが金槌を投げ、レオは額にそれを受けて沈黙した。
闘技場は元の控え室に戻っており、しばらく休んで二人の体力は回復しているようであった。
「それはそうと、何でジンまでそこで伸びてるんだい? 確か、最後まで一発ももらわなかったって話だけど?」
ライトブラウンのショートヘアを指でいじりながら、ルネが横を見て疑問を投げかける。
そこには、圧倒的勝利を収めたはずのジンが、ベンチの上で完全に伸びきっているのであった。
するとルネの疑問に、アーリアルが横から答えるべく口を開いた。
「なあに、貴様らを倒すのに全力を注ぎこんで精神的に疲れているだけの話だ。つまりこやつには初心者である貴様らに全力で挑んだわけだ。……大人気ないとは思わんのか、ジン?」
「るっせー! お前ら人外共をまとめて瞬殺するにはああするっきゃなかったんだよ! ユウナと切り結んだら剣は両断されたし、レオの攻撃を受けたら吹き飛ぶだろうし、リサは早く片付けないと傷一つ負わせられねえし! こちとらお前らに勝ってんのは経験だけなんだ、これぐらい当然だろうが!」
意地の悪い笑みを浮かべるアーリアルに、ジンが抗議する。曰く、大本のパワーは負けているのだから、その分戦略を使うしかなかった、と言うのが彼の主張である。
しかし、それに黙っていないものが約一名。
「何を言うのですか! 私がジンに感じた魔力はエルフの高位魔導師以上だったのですよ!? それにあんな滅茶苦茶な状態であの大魔法とか人外以外の何物でもないのです! というか貴方がたいったい何なのですか、チートなのですか? ああもう、さっきから私の常識が崩壊しかかっているのです!」
三つ編みにされたブロンドの長い髪を振り乱しながらルーチェが叫ぶ。
本人も初見でAランクをクリアしている時点で十分常識はずれなのだが、それを言うのは野暮というものだろう。
「ねえ、魔法って言えばアンタ達詠唱に時間がかかるとか言っておきながら結局“大地の大牙”とか“微熱の蛇”とかしか言ってないじゃない。あれってどういうことなの?」
群青の眼でジンを見ながらリサは質問を投げかける。それに対してルーチェが長い耳をピクッと動かした。
「ああ、それは魔法の完成には何も全ての呪文を詠唱する必要はないのですよ。呪文を頭の中で思い浮かべて、最後の発動のキーとなる一言を言えば発動するのです。ですから魔導師の戦いでは、いかに素早く頭の中で呪文を並べられるかが勝負になるのです」
「それだけじゃない。呪文を頭の中で並べると発動せんでも待機状態になる。つまり、自分がが何を使おうとしているかが事前にバレちまうという訳だ。これを防ぐためには魔力の制御を上手くやらないといけない。当然、口に出して詠唱するのはよっぽど集中したいときじゃないとご法度だわな。上手くやれば何の予兆もなしに魔法を放つことが“激流の水柱”」
説明の途中で突然ジンが魔法を放つ。
すると仰向けになっているレオの顔面に、大黒柱ほどの水の柱が落ちてきた。
「ぶふぁぁ!? な、何だぁ!?」
「……とまあ、喋りながら突然魔法を撃つことが出来るようになるという訳だ」
「……テメェ何か俺に言うことが「ねえよ」……覚えてやがれ」
銀色の髪から水を滴らせながらレオは恨み言を言うが、ジンはそれをスルーした。
「しかし何故に全員まとめて瞬殺する必要があったのだ? 我が見る限り、ジンの実力であれば一対一で時間をかければ全員抜けると思うのだが?」
白いドレスが濡れないように、自分の力でレオの髪を乾かしながらアーリアルが質問をする。
髪が乾くと、アーリアルは即座にレオの肩によじ登った。どうやらレオの肩の上が彼女の定位置のようである。
「SSSランクをクリアした程度で満足してもらっちゃ困るんだよ。確かにこいつらは初心者でありながらSSSをクリアするほどのアホな位の能力を持っている。だが、使いこなせないと五人がかりでもご覧の有り様ってわけだ。まあ、それを思い知らせるためにも俺も有りえん戦い方をしたわけだが……」
「あり得ない戦い方? どう言うことですか、ジン?」
群青色の髪の毛を掻きながらのジンの一言に、戦いの基本を知らないユウナは首をかしげた。
「最初に、俺がフィールドを森に変えたろ? まず、ここが既にもう魔導師として異端だ。そうだろ、ルーチェ?」
「ええ、あれだけの規模の森を維持するのにどれだけ魔力を使うかを考えると、普通は実行しないのです」
「そう、それが普通の考え方。あの魔法の本来の使い方は、森の中に魔力で編んだ樹を二~三本忍ばせておいて、敵が近付いたら攻撃を仕掛ける罠として使う。まあ、今回は全部を俺の魔力で補ったからそうはしなかったがな」
「じゃあ、何でわざわざそんな手を仕掛けたんだい? 君なら、最初から全員魔法で吹き飛ばすことだってできただろうに」
今度はルネが青と緑の双眸で下からのぞきこむようにしてジンに質問をした。
ジンはそれに軽くうなずいて答えた。
「ああ、そりゃ無理だ。それをやると確実にリサが生き残る。仮にそういう手段をとったとしても、発動まで時間がかかってその間にリサの防御は完璧になっちまう。もし発動に間に合わなかったとしても、恐らくレオがリサの盾になって時間を稼いで終わり。後は気合いで生き残るであろうレオを回復させて、二人で俺を攻撃しにかかるだろうな。だから、まずは何としても一番最初にリサを倒す必要があった」
「森を召還したのは相手の気をそらして行動を妨げるためか。では、あの口上は何のために?」
「罠があると思わせておけば迂闊には動けないだろ? まあ、今回に関しちゃ大して役に立ってないがな」
ジンはそう言うとため息をひとつついた。それは言外に「お前らもう少し考えて動け」と言っていた。
「それと、最後の爆発は一体何だったのですか? ジンがどれだけの高速詠唱が出来るのか知りませんが、幾らなんでもあんな大威力の魔法を使う時間は無かったはずなのですが?」
ルーチェは額に人差し指を当てて、その光景を思い出しながらそう質問した。
最後の魔法を使ってから、地面が揺れている僅かな時間で闘技場全体を吹き飛ばすような魔法を繰り出せるとは到底思えなかったのだ。
「そいつのタネは俺が召喚した樹にある。あの森を作り上げたときに何か違和感がなかったか?」
「ん? 違和感なんざ特にねえと思うぜ? 指パッチンで森を作るなんてキザったらしいとは思ったけどよ」
ジンの問答に対し、レオはあごに手を当てて首をかしげながら答えた。
すると、ルネがハッと何かに気がついたように声をあげた。
「あ、最後の一言を言っていないのか!」
それに対し、ジンは微笑を浮かべてうなずいた。
「正解。実はあの時魔法は完成していなかったんだ。あの樹が爆発して初めて魔法が完成するってわけだ。あの樹は呪文をいじって詠唱途中の待機状態が罠の樹になるようにしたものだ。ただまあ、その状態でも魔力を食うから消耗が凄まじいんだがね。本来ならあの樹一本で半径百メートルの範囲でカバーできるものだしな」
「ちょっと待ってほしいのです。魔法が完成していないのに次の魔法を使える筈がないのです。これについてはどう説明するのですか?」
「それについては企業秘密だ。そう簡単に教えるわけにはいかんね。さて、今日はもうお開きとしよう。全員ゆっくり休んで……」
「待ちなさいよ。さっきアーリアル様が言っていた通り、時間をかければ全員に勝てるのよね? 何で急いで決着をつける必要性があった訳?」
腕を組みながら納得がいかない顔でリサが質問を投げかける。
「ああ、それはだな……」
「まもなく閉館の時間でございます。皆様、今日も当訓練所をご利用いただき、誠にありがとうございました」
ジンが質問に答えようとすると、館内放送が営業時間の終わりを告げる。
それを聞いて、ジンは小さく頷いた。
「……という訳だ。……そのおかげで、軍隊をまとめて相手にするための戦い方をする羽目になったけどな」
「幾らなんでも大げさすぎませんか? 私たち五人と軍隊が同レベルなんて……」
困惑した様子でユウナがジンに質問をすると、ジンは首を横に振った。
「そうでもない。SSSクラスの冒険者を捕まえようとすると、場合にもよるが少なくとも千人単位で人が必要になる。大体レオや俺があんな大技使えるんだ、十人やそこらで捕まるわけないだろ? それにああせざるを得なかったのはユウナ、お前が原因なんだぞ?」
「私が?」
ユウナが白い頬に手を当てて首をかしげると、ジンは大きなため息をついた。
「お前さっき俺があの大魔法使うまで一発も攻撃もらってないだろう。それどころか、俺が避けられないように撃った魔法すら避けた。そんな規格外に確実に攻撃を当てるためにはもうフィールドごと爆破するしかなかったという訳だ。……正直レオやリサも十分脅威だが、ユウナだけは絶対に敵に回したくないね。さて、もう時間も過ぎていることだしさっさと出て飯でも食いに行きましょうかね!」
「賛成、ぶっちゃけ腹が減って死にそうだぜ……」
レオのつぶやきにこたえる様に全員うなずくと、訓練場から出て行った。
今回は説明のみ。
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