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7 賢者タイムと次代の王の器

 聖女が叫びと共に消えた後、講堂にいた帝国の貴族子息たちは、文字通り「灰」のようになっていた。


 元凶の魅了魔法が消えたことに加え、ソフィアのハーブティーと鎮静魔法の効果で正気に戻った彼らの手元には、つい先ほどまで「真実の愛」の証だと思い込んでいた、黒歴史の結晶たるポエムや婚約破棄の宣言書が残されている。


「……あ、ああ……。俺は、なんてことを……」


「セレスティーナ、済まない……僕は、君を悪役になんて……死にたい、消えてしまいたい……」


 あちこちで響く嗚咽と絶望。その光景を冷ややかに見下ろすリンとガイの側で、ずっと沈黙を守っていたクロヴィスが、ゆっくりと立ち上がった。


「まずは、この場の責任者に問いたい」


 その声は決して大きくはなかったが、騒然としていた講堂を凍りつかせるに十分な威厳があった。


 クロヴィスは壇上へ歩を進め、崩れ落ちている帝国学生たちではなく、その奥で震えている教員や高位貴族たちを見据えた。


「一人の無関係な少女を呼び出し、自国の都合を押し付け、あまつさえ彼女の心が壊れていくのを見過ごした。それが『予言の国』を自称するゼノスのやり方か?」


「そ、それは……予言では遺跡が暴走すると……」


 言い訳を並べようとする教官を、クロヴィスは鋭い一瞥で黙らせた。


「予言に頼り、自ら考えることを放棄した結果がこれだ。彼女が最後に放った言葉を、よく刻むがいい。彼女を『聖女』という型にはめ、一人の少女としての悲鳴を無視した罪を知れ」


 クロヴィスに、先程までの何となく偉そうに座ってた「曖昧な王子」の影はどこにもない。一国の未来を背負う、冷徹で慈悲深い「王」の顔をしていた。


「……だが、幸いにも我が国の魔導士たちが彼女の願いを聞き届けた。彼女は今、あるべき場所へ帰った。……さて、残されたのは『正気を取り戻した、しかし未来を失いかけている若者たち』だ」


 クロヴィスは視線を落とし、頭を抱える学生たちへと言葉を継いだ。


「犯した過ちは消えない。……セレスティーナ嬢。君の元婚約者を含め、彼らには『挽回の機会』を与えてはもらえないだろうか。彼らが犯した恥辱を、これからの帝国を立て直すための原動力として使い倒してほしい。……それが、隣国の友人としての、私からの提案だ」


 セレスティーナは、クロヴィスの意図を即座に汲み取った。


 ここで彼らを断罪し尽くしてしまえば、帝国の子息たちは再起不能になる。クロヴィスはあえて彼らに『一生消えない恥ずかしさ』という首輪をかけ、彼女が彼らを御しやすい状況を整えたのだ。


「……承知いたしました、クロヴィス殿下。身に余るお気遣い、感謝いたしますわ。勿論、あの恥ずかしい台本ついても、きっちり添削させていただきますわ」


 セレスティーナの微笑みに、学生たちが別の意味で震え上がる。


 「……様になってるなぁ、殿下。予言が外れたのは自分のせいなのにねぇ…」


 「自分もポンコツだったから、『若気の至り』には優しくしてぇんじゃねぇの」


 ガイがボソリと零すと、リンが応える。


 「……リン、ガイ」


 しかし、すぐさまソフィアとナディアに見つめられて、肩を寄せ合い小さくなる。


 「「ナンデモアリマセン」」


 クロヴィスはこの騒動を「帝国の弱み」として握るのではなく、「帝国が自立するための貸し」に変えた。


 これが、後にアルテミスとゼノスが強固な同盟を結ぶきっかけとなる、最初の一歩であった。


 一方、その頃。


 アルテミスの『星屑の天球儀(アストラル・オーブ)』地下では、エレオノーラが報酬の計算書を前に、恐ろしい笑顔を浮かべていた。


「あら……。開発中の魔方陣可視化眼鏡の試作品に、精密聴覚魔法が施された集音魔導具……。開発費も高額だというのに、一つは壊してしまったのね、困った子達ね。リン、ガイ。貴方たちの報酬、また『赤字』になりそうだわ」



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