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3 ターゲット・クロヴィス

 帝国学園の中庭は、まるで舞台装置のようだった。


 中心には、可憐な白いワンピースを纏った聖女サクラ。その周囲を、帝国の未来を担うはずの子息たちが、うっとりと陶酔した表情で囲んでいる。


 そこへ到着した、アルテミス王国の馬車からクロヴィスが降り立った。


「……あれが、聖女か」


 クロヴィスが呟く。その隣には、完璧な姿勢で控えるリンとガイ。


 リンの耳には、ソフィアとナディアの「……リン、姿勢!ガイにも伝えなさい!」という、通信魔具越しのご指導が呪いのように響いている。


「あ……」


 サクラの視線が、クロヴィスを捉えた。


 これまで出会った誰よりも気高く、それでいてどこか「鍛えられた」男の気配。サクラは無意識に、最大級の『魅了(バグった守護魔力)』を放射した。


(――私を、見て。私を一番に愛して!)


 桃色の魔力の波動が、物理的な風となってクロヴィスを襲う。


 背後のリンの眼鏡が、ピシリと亀裂を深めて、そのままパキッと割れた。


「……おいガイ、来るぞ。最大出力の『はしたない』やつだ」


「えええ!破廉恥だね!!!」


 二人が身構えた瞬間。

 魔力の波動は、クロヴィスの体をすり抜け、何の影響も与えずに霧散した。


「……?」


 サクラが目を丸くする。

 クロヴィスは、頬を染めることも、跪くこともなく、「ふむ」と鷹揚にうなずくだけだった。


「……顔色が悪いようだが、大丈夫か? 貧血なら、我が国の侍女が淹れるハーブティーがよく効く。……少し、多すぎるほどあるからな」


 想定外の反応にサクラは絶句する。


「え……? ぁ、あの、私は……」


 その時、リンがクロヴィスの背後に音もなく忍び寄り、まるで秘書が予定を告げるかのような平坦な声で耳打ちした。


「……殿下、ソフィアさんから『名乗れ』と、温かいご指摘です」


「そうか」


 短く返事をして、クロヴィスはおもむろに聖女に向き合った。


「失礼した。私はアルテミス王国第一王太子、クロヴィス・アルフォンソ・ヴェリエだ。……君が、予言の聖女か」


「……っ!どうして…??」


 まっすぐに視線を向けられたサクラがたじろぐ。彼女にとって、自分の微笑みが通用しない男など、この世界に来て初めてだった。


 だが、事態をより悪化させたのは、周囲の「親衛隊」たちだ。


「貴様……! サクラ様が気圧されているではないか!」


「不遜な! 王太子とはいえ、聖女様に対してその態度は何だ!」


 激昂した数人の生徒が、剣を抜き、あるいは攻撃魔法を展開してクロヴィスへ詰め寄る。

 その先頭にいたのは、セレスティーナの婚約者であるはずの騎士団長の息子だ。


「おいおい、不遜はどっちだよ。……お行儀が悪いな、帝国のエリート様たちは。国際問題一直線じゃねぇか」


 リンが壊れた眼鏡を、懐へ仕舞い込む。


「ガイ。お姉さんたちが見てる。……『お掃除』は、スマートにな」


「了解! ……所作を乱さず、だよね?」


 襲いかかる騎士候補生に対し、ガイは剣を抜かない。


 出立前に叩き込まれた「王族の護衛として」の「無駄のない最短の動き」で剣を構えた相手の懐に滑り込み、瞬く間にそれを払い落とした。


「なっ……!?」


「あ、すみません。ホコリがついていましたよ?」


 ニコニコと笑いながら申し訳なさそうに伝えるという器用なことをしている間に、リンがペン先を弾く。


 その軌跡が空中に光の糸を引くより早く、ガイの魔力は、リンが空中に刻む『答え』を、描かれる端から一分一秒の狂いもなく実体化させていく。


「ガイ!」


「はーい」


 ガイの魔力がリンの描いた数式に、火を灯すような速さで流れ込む。


 直後、リンとガイに放たれようとしていた火球は、瞬時に生み出された清冽な水球に包み込まれ、蒸気一つ上げずに消失した。


「火遊びはほどほどにしておけよ?」


  襲ってきた者たちは、指先一つ傷つけられていない。だが、自分たちの誇る攻撃が、まるで不用品のように「処理」された事実を前に、学園中が静まり返った。


「……失礼いたしました、殿下。聖女様、少々、周囲の『整理整頓』が必要だったようで、お騒がせして申し訳ございませんでした」


 リンが、ナディアが定規で測るかのように厳格に指導した、一分一秒の揺らぎもない「完璧な三十度」の礼を披露する。


 その目は一切笑っていなかった。


 その冷徹なほどに完璧な所作と、慈悲のない解析の視線。サクラは、自分の『愛の魔力』が通用しないどころか、自分という存在を『部品』のように扱われている感覚に、背筋を凍らせた。


 そして、その横で場違いなほど明るくガイが笑っていた。


「ちゃんとお行儀よくできてるのに、ビビられてるよ、リン!」






リンは製図をするけど魔法は使えないので、魔法の発動そのものはガイ任せです。

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