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死んだら、契約だった

「お前は死んだ」


そう告げられた瞬間、俺はまだ知らなかった。

これから、

“生き残れば天国、間違えれば即死”という任務が始まることを。



俺は、ただ言葉を失った。


それなのに、

何を言えばいいのか、分からなかった。


目の前には、男が立っている。


特別な服装でもない。

威圧感も、神々しさもない。

役所にいそうな、ごく普通の男だった。


「……死んだ?」


自分の口から出た声を聞いて、

ようやく少しだけ落ち着く。


「事故だ。珍しくもない」


男は淡々と答えた。

感情の起伏は、どこにも見えない。


周囲を見渡す。


白い空間。

壁も天井もあるはずなのに、

距離感だけが曖昧で、輪郭が定まらない。


それでも、

足は地面についている。

体の重さも、感覚も、確かにあった。


俺は、自分の手を見る。


形は、元のままだ。

生きていた頃と、何も変わらない。


「……もしかして、神様ですか?」


男は一瞬だけ視線を外した。

何かを確認するような、短い間。


「そう認識して構わない」


誇張もない。

ただ事実を読み上げるだけの声だった。


「説明する。簡潔に」


空気が、わずかに変わる。


「お前は、別の世界へ送られる」


一拍。


「人類側の魔術学園に入り、

卒業まで生存しろ」


唐突すぎて、理解が追いつかない。


「卒業できた場合、

天国への移行を許可する」


天国。


救済。

安息。


そんな言葉が、遅れて頭に浮かぶ。


だが、男の声は続いた。


「卒業できなかった場合――

お前は“次に回される”」


それ以上の説明はなかった。


「……俺に、選択肢は?」


男は答えなかった。


ただ、そこに立っている。


「……俺は、何なんですか?」


自分でも驚くほど、

素直な問いだった。


男は、わずかに間を置いてから答える。


「一時的な観測用個体だ」


個体。


人ではなく、

物のように扱う呼び方に、

胸の奥がざらついた。


「立場を誤れば、

個体としての機能が失われる」


淡々と、付け足される。


「そういう“仕様”だ」


その言葉で、

俺は初めて理解した。


――助けられたんじゃない。

――使われるんだ。


その時だった。


視界の端に、違和感が走る。


指先の内側を、

淡い光の筋が通っていた。


瞬きをしても、消えない。


指を動かすと、

光は一瞬遅れて追従する。


――遅れて?


まるで、

俺の動きを確認してから、

記録しているみたいに。


これは空間に浮かんでいるものじゃない。

この身体を通っている。


だが、俺のものじゃない。


視線を上げる。


男の輪郭の内側にも、

同じ流れが見えた。


ただし、密度が違う。

俺より、ずっと整っている。


「……今、俺に見えているこれは?」


問いかけると、

男は俺を見ずに答えた。


「付与処理は完了している」


「内容の理解は、

契約成立の条件に含まれない」


説明は、そこで終わりだった。


「生存期間中は、

別の管理者が割り当てられる」


一拍。


「魔族側を統括する存在だ」


「通称――魔王」


その名を聞いた瞬間、

胸の奥が、嫌な形で沈んだ。


理由は分からない。

ただ、感覚だけが拒否している。


視界が、大きく揺れる。


足元が消え、

世界が裏返る。


意識が引き剥がされる直前、

どこか歪んだ無機質な声が重なった。


「――観測対象、特定。

 引き継ぎ、問題ない」


その言葉と同時に、

俺は、人類最強の魔術学園へ送られた。


生き残れば天国。

間違えれば、即死。


――まだ、自分が

どれほど不利な条件を背負わされているのかも知らずに。

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