第二幕 四面の歪み
結局のところ、年末が近づいても課題もテストも減らないわけだ。その流れに身をおいて、少しずつひしゃげていくような自分を傍から見てると、客観性も冷静さも手放して飛び込まなければならない時がやってくる。特に今回は四面体の飲料容器をデザインするなんて課題だったもんで、計算にといちいち理由付けの工夫にと、ズシズシとその大変さがその日が近づくにつれて分かってくる。
ええ何かって、実際に考案したアイデアは発表しなきゃいけないの。だって人前で話すのが好きな人なんてこの年でなかなか見ないよ。それに準備期間なんてのもかなり短いもんで。私はどんよりしがちだった。グループでの活動は私が臥せている間に少しだけ進んでいる。
いつも四面体が頭の中を転がっている。電車の中でも、友達とのおしゃべりにも、お昼ごはん食べてる時も、授業中も。その課題に向き合ううちには、人間の活動に電卓が欠かせなくなっていることをよく感じた。平方根とか割り算とか小数点の下にはいつも、限りなく数字が並んでいるから。
今までの私の歴史の中で間違いなく数学は進化を続けていた。私は示したことがないが、同じ表面積で作れる最大の体積を持った三次元の立体は球なのはよく知られている。なのに四面体ときたら同じ表面積でも最大でその54%くらいらしい。わざわざなぜ四面体を使わせるのかというのは、意味はないがすぐ言いたくなる愚痴の中でもかなり上位にいた。誰もが癪に思っていた。ずっとそんな計算をして、その度にため息をついて、少し詰まった鼻が通らないか確認するのを繰り返す。もう風邪は勘弁なのに。
冬が深まる予感と言うべき寒さと風、太平洋側の冬は乾いている。朝、家を出て歩けば鼻のあたりが冷たくなって、だんだんその感覚が失われていく。手も、耳も同じような感じだ。
昨日の夜はさんざん四面体に敷き詰められた部屋で、頭をガラガラ鳴らしながら回転させていたのだ。それも11時過ぎまで。今日は金曜日、ここ一週間の間に練り上げた私達の四面体を公に放り出すのだ。できるだけ丁寧に包装したいものだが、私の乱雑な手つきではその良さが皆に伝わるかただ不安だ。
人前での発表。多くの小中高の全ての学生の間では、できればやりたくない最悪の課題だったろう。いや、これは私の意見であってみんな思ったより悪く思ってなんていないかもしれない。ただあらゆる可能性を吟味する冷静な思考はいつも正論を遠回りで見つけるわけではない。当たり前のことは、ある程度の人に持たれている偏見も第一印象も普通に正しい。とにかく人前で話すなんて好きな人はいるわけがないんだから。
学校についてからも、その時に備えて四面体の利便性についてその仲間と議論を重ねる。この密度はたいてい本番が近づくにつれてその値が高まっていき、本番と同時に無限に発散する。だが頭の中で自分からオーバーフローを起こしては、発表もままならない。ここは落ち着いて深呼吸だ。
それでその直後のことなんだけど、この記憶ってやっぱさっきいった通り本番の前が一番強く残ってるんだよね。だから発表当時のことがあまり感覚的に書けないのはゆるしてほしいです。ではまた。
なんだかんだうまく行ったらしい。この前の英語でスピーチするときは手を組むと印象が悪いのではと思ったから、今回はそのことばかり考えて、後ろで組んだ手の汗をそでに擦り付けていたのだけ覚えている。最後にお辞儀をして席に戻る時、使った自分のパソコンを前に置き忘れたときのこともよく覚えている。だが質疑応答の時間が設けられたときの私はあまりにも早口に加え、少し厳しい語調に聞こえてしまった。
人前に出たときは態度が大きくなってしまうものだ。まだ若いのは恥ずかしながらに認めて、努力しなければならないと言われた気がした。
とか立派な感じに言ってはみたけどさ、私としては正直態度が悪いとか全然気にすることじゃないと思うんだよね。時間が経って冷静になった今でもよく理解できない指摘っていうかさ。 確かに誠意を込めた喋り方について考えたことはなかったよ。でも質問者とのまじめな議論は、私が知っている内容をただ一方的に伝えるような質問だったし、感情的な何かをそう簡単に読み取った気になって悪く言わないでほしいよね。それ自体はなんとかなったんだけど。
授業が終わった時、自分が身をおいている金曜日の華が、ぶわっと舞って香った。
今週も終わりだ、そしてまた年の終わりが近づくんだ。暖房の効きすぎた、いや緊張で火照った体で教室を出て、早くも日が落ち始めた冷たい空が頬に触れる。なんて心地良いの。きっとすぐにまた寒さに、震えようというのは分かるけど、分かってても知ってどうするのって思える。今だよ。大切なのは今なんだから、今年をもっと愛でておこう。私はそういうマインドが好き。やっぱりもう寒くなってきたかも。
作者の若い感性はちょっと時間が経ってから読み直しても、面白い人だなと思えます。
日記が揺れ続ける私を映し出します。




