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転生したらレベル1の雑魚ゴブリンだったけどやることがないので魔王になります



第一章 レベル1の雑魚

東京都内の片隅。曇り空の下、田中大輔は疲れた足取りで帰路を急いでいた。年齢は三十歳、独身、中堅企業に勤めるサラリーマンで、今日もまた終電ギリギリまでサービス残業に追われていた。

「はぁ……もう嫌だ、全部嫌だ。来世ではマグロか何かになって、海底でボーっと生きたいわ……」

独り言がこぼれる。電車を降り、コンビニで安い缶ビールを一本買い、暗い住宅街を歩いていた、その時――

「……っ!?」

突如、背後から鈍い衝撃。肩を強く引かれ、視界が歪む。振り返る暇もなく、冷たい刃が腹を貫いた。

「なん、で……?」

声にならない。体温が逃げていく感覚。視界の端に見えたのは、帽子を深くかぶった男の背中と、遠ざかる足音だけだった。

そのまま、世界は闇に包まれた。

♦︎♦︎♦︎

意識が戻った時には見知らぬ暗い洞窟の中にいた。

「死んだのか…?」

体の様子がおかしい。身長がいつもより低い。手を見れば、小さな緑色の皮膚。水たまりを覗き込むとそこにはゴブリンが映っていた。「まさか、異世界転生ってやつか…?」混乱している脳内

に電子音が鳴り響いた。

《システムメッセージ:個体名「タナカダイスケ」、種族:ゴブリン(劣等種)、レベル:1、スキル:なし

ゴブリンになってしまった。しかもレベルは1スキルはなし。雑魚中の雑魚だ。

混乱したまま洞窟から外に出ると、そこは中世風のファンタジー世界だった。小さな村もあり、冒険者たちがモンスター討伐に出て行く様子が見えた。

「まじか…」

しかしここで呆然と立っていても何かが変わるわけでもない。

彼は決めた。せっかくだ、毎日サービス残業の毎日から解放されたし魔王にでもなろう。あと暇だし。


第二章 レベルが上がらない呪い

しかし、大輔の転生生活は順調とは言えなかった。冒険者にころされそうになったり、ゴブリンだから人間の村にもいけない。やれることは同レベルのモンスターを木の棒で倒すことぐらいだ。しかしモンスターを倒してもレベルが全然上がらない。モンスターと戦っても成長が見られず、雑魚のまま時間だけが過ぎていく。

「なんで…レベルが上がらないんだ?」

わからないことがあってもこの世界に詳しい仲間がいるわけでもない。どうにかこのことを聞ける仲間を探していると、オークの村についた。

「こんにちはー」声をかけてみたが村にオークの気配がない。

「誰かいませんかー」その時背後から斧を突きつけられた。

「何者だ!」背の高いオークが言った。

「落ち着いてください!俺はただこの世界に詳しい人を探しているだけです!」

「そうか…とりあえず村長の所へ連れて行く。怪しい行動はするな。その時にはお前の首が飛ぶ」

「はっはい!分かりました!」言われるがままオークについて行くと、周りの家より一際豪華な家があった。「村長、客人を連れて来ました」オークがそう言うと古びた書物を読み耽っていた年寄りのオークが顔を上げた。

「要件はなんじゃ?」年寄りのオークは無愛想に言った。

「なぜだかわからないんですけど俺のレベルが一向に上がらないんです」

それを聞いたオークは本棚から埃をかぶった本を見せた。そこにはこう書かれてあった。

「かつて、異界より来た者があった。その者はゴブリンの姿で生まれ、魔王となる資質を秘めていた。だが、真の魔王がそれを恐れ、己の魂の一部を分けて呪いを全てのゴブリンかけた――"永遠に成長せぬ者"として」

「つまり俺がそいつの呪いを受けているのか?」

「そうじゃ。その呪いを解くには真の魔王を倒すしかない」

話を聞くうちに、大輔は呪いを解くため、そして世界を救うため真の魔王を倒す決意を固める

………決して暇だからとかではない。


第三章 魔王討伐に向けて

いざ魔王を倒そうとなっても自分はレベルが上がらないから一生強くなれない。1人じゃ歯も立たないだろうから仲間を集めたい。が、自分はゴブリンなので仲間を集めようにも雑魚ゴブリンしか集まらない。どうしたものか。

頭をそこそこ回転させてひとつの考えがでた。

「人間の街に行き、喋る珍しいゴブリンとして注目を集め、そこからうまく仲間を集める」

今自分にできるのはこれくらいだ。

無害そうなオーラを出しながら街に近づいたが、見張りに槍を突きつけられた。

「そこの魔物!近づくな!ここは人間の街だぞ!」

「待ってくれ、襲うつもりはない。話を聞いてくれ」

「ゴブリンが喋った…?」

「おい!喋るゴブリンがいるぞ!」

騒ぎを聞きつけた冒険者パーティーは大輔を取り囲み、剣を構えていたがそのうちの1人が「喋るゴブリンか…上手く使えば強いかもしれない。よし、俺たちの仲間になれ」

「おいおいマジかよ」

「リーダーが言うならいいよ」

「よし!多数決でこいつを仲間に入れるでいいな」

なんか成り行きでこのパーティーに加わるようだ。

まず俺をパーティーに入れた奴はリーダーで戦士のロウ・バルタス、次に魔法使いのグルード・ハーゲン、そして盗賊のミーナ・レイス

一通り自己紹介を済ませたところで、今後の活動方針を聞いた。

どうやらロウ達は皆家族を殺されていて復讐をするために魔王を倒しに行くらしい。俺と目的は一致している。「じゃあみんなで魔王を倒し行くってことでいいな?」

「ああ」

「じゃあ新たな仲間が加わったことだし、景気付けにパーティーしようぜ!」


第四章 パーティーと決意

「「「「かんぱーい!」」」」

冒険者ギルド近くの酒場で、ささやかな宴が開かれた。テーブルの上には粗末だが香ばしい肉の串焼きや、酒場の女将が用意したパンとスープが並ぶ。大輔は、木製の小さな杯を掲げながら少し緊張していた。何せ、人間とちゃんと一緒にご飯を食べるのはこの世界に来て初めてだ。

「喋るゴブリンって、最初は冗談かと思ったけど……案外まともなんだな、お前」

魔法使いのグルードが酔いに頬を赤らめながら言う。

「ま、あたしは気に入ってるよ。あんた、変わり者だけど根性あるじゃん」

盗賊のミーナが笑いながら肉をかじった。彼女の笑顔を見て、大輔は少しだけ安心した。拒絶されなかった。怖がられもしなかった。ただのゴブリンではなく、「仲間」として受け入れられたのだ。

「……ありがとう」

自然と口からこぼれたその言葉に、ロウは静かに頷いた。

「俺たちは皆、魔王に人生を狂わされた。仲間が必要だった。……お前も、理由があるんだろ?」

「……ああ。俺は、呪いを受けてる。このままじゃ、絶対にレベルが上がらない体なんだ」

一瞬、場の空気が凍りつく。だが、大輔は話を続けた。

「この呪いを解くには、真の魔王を倒すしかない。俺にとって、それが唯一の道なんだ」

その言葉を聞いて、ロウは拳をテーブルに叩きつけた。

「だったら尚更だ。呪われたままでも、戦う理由があるなら、俺はお前を仲間として認める」

「当然でしょ。呪いだろうが雑魚だろうが、一緒に戦えるならそれでいいのさ」

ミーナが笑う。グルードも黙って杯を掲げた。

「俺、ちょっと泣きそうなんだけど……」

冗談めかして笑いながら、大輔は心の奥に小さな火が灯るのを感じた。異世界で雑魚ゴブリンとして転生した冴えないサラリーマン。だが今は、小さな希望と仲間がある。

「よし。明日から本格的に訓練を始めよう。俺にできることは少ないかもしれない。でも、お前らの役に立てるよう、やれるだけのことはやる」

「その意気だ!」

ロウの拳と、大輔の小さなゴブリンの拳がぶつかり合った。

宴は夜遅くまで続いた


第五章 雑魚なりの戦い方

翌朝、宿屋の裏手にある広場では、早くも訓練が始まっていた。

「よーし、まずは基礎体力からだ! 腹筋100回! ゴブリンでも手加減しねぇぞ!」

ロウの号令とともに、大輔は地面に寝転がりながら腹筋を始めた。

レベルもスキルもクソだけど筋肉は裏切らない!

一方、ミーナは木の棒を使って簡単な武器の使い方を教えてくれた。

「まずは突き、次に払い。でもアンタは力がないから、それを補う動きを覚えなきゃね。相手のスキを突くこと。あと逃げ足も大事!」

魔法使いのグルードは、魔法についての基礎知識をレクチャーしてくれたが……

「……ダイスケ、お前は魔力がゼロだな。まるで石ころに呪文をかけるみたいだ。……まぁ、爆発物としてはワンチャンあるかもな」

「爆発物って……俺は爆弾かよ」

笑いながらも、大輔は必死にメモを取った。今の自分にできるのは、「工夫」と「理解」。体も弱ければ魔力もない。ならば知識と機転で勝つしかない。

訓練と並行して、彼らは魔王城への情報を集めるべく、近隣のクエストもこなしていった。

・森で暴れるイノシシ型モンスターの討伐・古代遺跡での簡易探索・盗賊団のアジトへの偵察任務

どのクエストも大輔にとっては命がけだった。武器を持ってもろくに攻撃が通らない。だが彼は戦いの中で、「雑魚なりの動き方」を見つけていく。

イノシシ型モンスターの時は、森の地形を利用してわざと罠に誘導し、仲間が仕留められるように立ち回った。

遺跡の探索では、ゴブリンならではの小さな体と鋭い嗅覚で隠し扉を発見し、トラップを未然に防いだ。

盗賊団との戦いでは、敵の注意を引きつける囮として大胆に突撃し、背後からの奇襲を成功させた。

俺は、雑魚だ。けど、雑魚だからこそ“当たり前にやられる役”を逆手に取れる。

仲間たちも、そんな大輔の立ち回りに次第に信頼を寄せていく。

「お前、最初は喋るただのゴブリンかと思ってたけど、案外頼れるな」

「今じゃ、いないと困るくらいよ」

ミーナの軽口に、大輔は照れくさそうに鼻をこすった。

「まぁ、暇つぶしのつもりだったけどな。本気出さなきゃ、やってけない世界だって分かったよ」

仲間、目的、役割。そして……失われた人生を取り戻すための執念。

大輔の中で、かつて会社員だった頃の“無気力な自分”が、少しずつ死に始めていた。


第六章 VS魔王軍幹部

ギルドに張り出された一枚のクエストが、冒険者たちの注目を集めていた。


緊急依頼:北の峠に“魔王軍の旗”が確認された。周辺の村が次々に襲撃されている。これを率いる魔王軍幹部の討伐を依頼する。難易度:Aランク以上。十分な戦力を整えること。


「……ついに来たか」

ロウがつぶやいた。グルードも表情を引き締め、ミーナはダガーをくるくると回しながらニヤリと笑う。

「ってことは、こいつらが真の魔王の手先ってわけだな」

「ここを通らなきゃ、魔王城には近づけないはず。つまり、これは避けて通れないってことか」

大輔もその紙を見つめながら、静かに頷いた。

「……俺の呪いの元凶、叩けるなら行くしかない」

♦︎♦︎♦︎

数日後、パーティーは北の峠へと向かった。

空は曇り、冷たい風が吹きつける。辺りは焼け焦げた木々と、崩れた石垣。かつて村だった場所が、無残な姿を晒していた。

そして、その廃墟の中央。堂々と立っていたのは、一人の男いや、“獣人”だった。

「来たか、人間ども。そして、喋るゴブリンか。噂には聞いている」

その男は全身が灰色の毛に覆われ、片目に黒い眼帯をしていた。手には巨大なハルバードを構えている。

「名乗っておこう。我は魔王軍幹部ザグラ・ヴァルド。貴様らはここが墓場になるのだ」

「おいおい、いきなりボス戦かよ……!」

大輔が身構えると同時に、ロウが剣を構えて前へ出る。

「下がってろ、ダイスケ。こいつは俺たちが――」

「いや、違う」

大輔が一歩前へ出た。

「こいつは魔王の魂に繋がってる。俺の呪いとも関係がある。だから俺も戦う」

「戦うってお前、戦力にならねぇだろ」

グルードが冷静に言う。ミーナも不安そうに見ている。

だが、大輔は小さな背中に決意を宿していた。

「俺が雑魚でも、ゴブリンでも、やらなきゃいけないんだよ!」

そして戦いが始まった。

ザグラは圧倒的だった。一振りごとに地面が砕け、ロウの剣すらまともに受け止める。グルードの火球魔法も毛皮に阻まれ、ダメージはわずか。

「チッ化け物かよ!」

だがその時、大輔が叫んだ。

「グルード、左足に魔力が集中してる! 多分、そこが弱点だ!」

「っ……わかった!」

「そんなことがわかっても貴様らに勝ち目はない!」

ザグラはハルバードを振り回す。

大輔はザグラの注意を引くために、小石や瓦礫を投げ、翻弄し続けた。瓦礫に隠れては飛び出し、攻撃をかわして誘導する。まるで“狩り”のように。

そして、ついに

「今だッ!!」

ロウの剣が、グルードの魔法と同時にザグラの左足を直撃!

「ぐ、ああああああああ!!」

巨体が崩れ落ちた瞬間、ミーナがすかさず喉元へ刃を突き立てた。

あたりに血が飛び散る。

ザグラは力無く倒れ、最後の力で顔をあげ、大輔を見た。

「……あの時、魔王は恐れていた。お前のような、意思を持つ異物の存在を。まさか……本当に、ここまで来るとはな……」

そのまま、ザグラは死んだ。

静まり返った戦場に、勝利の余韻と疲労だけが残された。

「おい、ダイスケ……お前、普通に役に立ってたぞ」

「いやほんと、戦術眼すごすぎでしょ。ゴブリンとは思えないよ」

「照れるな」

仲間たちと笑い合いながら、街に戻っていた。

その時彼の脳内に、再び電子音が響いた。

《システムメッセージ:呪いの束縛が一部解除されました》

《スキルが発現します:「統率ユニットコントロール」》

「スキルが……!」

ようやく、動き出した――雑魚ゴブリンから、魔王への歯車が。


第七章 統率

《スキル取得:「統率ユニットコントロール」》《効果:自分よりレベルが低い魔物に命令を与え、強制的に行動させることができる。命令成功率は統率力と対象の忠誠心に依存》

「……統率、か」

大輔は空を見上げた。新たな力の獲得に戸惑いながらも、胸の奥に湧き上がる熱を感じていた。

♦︎♦︎♦︎

翌朝大輔たちはスキル《統率》の検証を始める。

「おい、お前らちょっと来い!」

ゴブリン村の周囲にうろついていた野生のゴブリンたちを呼び止め、意図的にスキルを発動してみた。

《統率発動:対象に簡易命令『整列』を試行中……成功》

ゴブリンたちが一列に並ぶ。

「……おお!すげえ、言うこと聞いた!」

「雑魚を束ねてる雑魚って、なんか新しいね」

ミーナが笑うが、大輔は真剣だった。

「俺はこいつらを“ゴブリンの軍隊”にする。訓練して、戦えるようにする。雑魚でも、数が揃えば力になる。あいつらのためにも、俺は

王にならなきゃいけない」

グルードは小さく感心したように呟く。

「統率スキルって、基本的に上位魔族しか持ってないはずだぞ……。やっぱりお前、ただのゴブリンじゃねぇな」

♦︎♦︎♦︎

こうして、即席ゴブリン軍団の育成が始まった。

最初は言うことを聞かず、勝手に逃げたり、仲間同士でケンカを始めるゴブリンばかりだった。だが、大輔は粘り強く彼らを指導した。

・武器の持ち方・連携しての攻撃・罠の使い方・撤退と回避のタイミング

「お前ら、一人じゃ雑魚でも、まとまれば強い!俺たちは弱い!でも、それを武器にしてやる!」

訓練が進むにつれ、ゴブリンたちの目に輝きが戻ってきた。自分たちが雑魚から兵士へと変わりつつあることに気づいたからだ。

やがて、統率スキルのレベルが上がる。

《スキルレベルアップ:「統率Lv2」》《副効果解放:「ゴブリンクラス限定:士気上昇・簡易知能強化」》

「士気と知能強化だと…!?」

ゴブリンたちは言葉こそ簡単だが、動きに理性が宿り、フォーメーションも複雑になっていった。

これなら……いける

ゴブリン軍の規模は20体を超え、最低限の戦術行動が可能な部隊にまで育った。見た目こそ雑魚でも、それはいくつもの戦場を生きて来た兵そのものだった。

「これなら次の将軍とも戦える」

ロウが、大輔の成長ぶりに目を細める。

「お前、本当に魔王目指してるんだな」

「暇だから、ってのも……最初は冗談だったけどな。今は違う。王になるって、決めたんだ」

大輔は真剣な声で言った。

かつては毎日残業と上司の機嫌に怯えていた男。今は、自分より弱い者の先頭に立ち、戦う道を選んでいる。

その背中はもはやゴブリンには見えなかった。


第八章 もう1人の自分

ゴブリンたちとの訓練が一段落したある日、大輔の耳に奇妙な話が入ってきた。

「最近、北東の鏡湖に近づいた冒険者が、全員自分そっくりの敵に襲われたって話だ」

冒険者ギルドの情報屋がそう語った。その言葉に、大輔の心はざわついた。

自分そっくりの敵?

胸騒ぎが止まらなかった。なぜなら彼には、かつて現実で見た自分という存在がいたからだ。

♦︎♦︎♦︎

鏡湖―その名の通り、空をそのまま写すような穏やかな湖だった。水面は風ひとつなく、完全な鏡のように静かだ。

「ここに、真の魔王の影があると?」

グルードが眉をしかめる。

「……湖に映る影が本体じゃなくて、“鏡の世界”の魔物が出てくるって噂は昔からある。でも今は違う。これは……世界の結び目かもしれない」

大輔がそっと湖面に触れたその時だった。

「っ……!?」

視界が白く染まり、気がつくと、大輔はまったく同じ景色の中にいた。ただし、そこはすべてが左右反転した鏡の世界。

「来たか、田中大輔」

対岸に立っていた男はまさに大輔と瓜二つの人間の姿だった。ただし、その姿は完璧な鎧を纏い、目は深い紅に染まっていた。

「……お前、まさか」

「そうだ。俺も、かつてこの世界に転生してきた。だが俺は早々に気づいた。この世界の理不尽さ、運任せの成長システム、そして自由意思の欠如にな」

男――真の魔王を名乗るもう一人の大輔は淡々と語る。

「俺はこの世界のルールを超越するために、魂の一部を使って制御を始めた。お前が成長できなかったのは、その一環だ」

「ふざけるな!」

大輔は拳を握る。すべての元凶が自分自身だったという衝撃に、膝が震えた。

「なぜこんなことを……!」

「答えは一つだ。俺たちは、まだ死んでいない。この異世界は、死の間際に意識が逃げ込んだ並行領域。肉体はまだ現実世界にある」

「……!」

「そしてこの世界には出口がある。だが、それは魔王の魂を統合しなければ見つからない」

「つまりお前を倒さなきゃ、現実世界に帰れないってことか」

真の魔王は、静かに頷いた。

「だが一つ、警告しておく。もし俺を倒し、魂を統合したら――お前は魔王となる。この世界を構築する意思を持つ、支配者の資格を得る」

「………」

「まあ、そんなことは無理だろうけどな」

真の魔王が炎の剣を振ると同時に戦闘開始のゴングが鳴った。

戦闘での力の差は歴然だった。

真の魔王は完全な人間の姿の大輔として、すべての可能性を実現していた。剣術、魔法、指揮、あらゆる能力がMAXだった。

それでも大輔は諦めなかった。

ゴブリンとうまく連携を取り、真の魔王を翻弄したがウィンドバーストによって全員吹き飛ばされた。

「これで終わりだ弱い大輔」

真の魔王の炎の剣が大輔の心臓を刺した。


第九章 BADEND?

次に目を覚ました時は自分のアパートのベットの上だった。体もゴブリンの姿じゃなくなり、人間のすがたに戻っていた。確かに大輔は真の魔王によって殺されたはずだ。それなのになぜ現実世界に戻って来たのだろう。疑問に思いながらふと、時計を見ると自分が殺される10分前ということに気がついた。

「もしかしたら…また殺されるかもしれない」

とりあえず身を隠してやり過ごそう。考えるのはそれからだ。

包丁を持ち、ベットの下に大輔は隠れた。ついに殺される時間だ。

その時部屋のドアが開けられた。おかしい、鍵は閉めたはずなのに。

黒い靴を履いた人物がベットに近づいてくる。

「っ……!」

ベット下から引きずり出されると同時に首を絞められた。

必死にもがいたが、相手はびくともしない。包丁も奪い取られた。

「こっちの世界でもお前は弱いのか」

「お前…!真の魔王か……!」

真の魔王は奪った包丁で自分の心臓を突き刺した。

痛い熱い痛い熱い

血が止まらない。意識がぼんやりとしていく。

また………死ぬのか……………?


続編に続く

初めて小説を書いてみました。是非感想を書いていってください。

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