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魔獣の肉の煮込みご飯と中毒の真相

翌日の正午、戦車は廃棄された宿駅の下にある岩窟で停車した。堇はエンジンを切り、「爆炎イノシシ肉」の塊を魔導冷蔵箱から取り出し、重さを確かめてから肉の層を切り開き、筋繊維の様子を観察した。


これは高温地域で産出される第四級魔獣で、体表に自発燃焼性の魔力脂肪を持つため、解体前には神経中枢を完全に遮断する必要がある。堇は焼き針を腱に刺し、一刺しごとに炎の温度を精密に制御した。ボイラーの温度が上がるにつれ、濃厚な肉の香りが隙間から立ちのぼり、岩窟内を渦巻いた。


ノアは傍らの岩に腰かけ、わずかに警戒した様子で調理の一連の流れを見つめていた。堇の包丁さばきには一切の無駄がなく、米粒からスープに至るまで、すべての火加減を冷徹なまでに掌握していた。


「その肉は直接炒めたらダメだって、分かってるだろ?」とノアがついに口を開いた。「脂が高熱に触れたら爆発する。」


「だから煮込むのよ。」堇は魔法恒温鍋の蓋を閉じた。「低温で旨味を引き出して、腱膜が柔らかくなれば、内部の魔力も安定する。」


鍋の縁には淡い青の符紋が浮かび、煮込みに最適な温度帯に達したことを示していた。


炊き込みご飯には煮込んだ魔獣の骨スープに、山椒、魔キノコ、鉱塩などの香辛料が加えられていた。堇は仕上げに微細な魔霊粉末を振りかけ、香りの流れを活性化させた。その香りはまるで実体を持つかのように岩窟に満ち、車外にまで溢れ出し、遠くの空を飛ぶ魔虫までも引き寄せた。


ノアは背筋を伸ばし、その香りに初めて表情を揺らがせた。


「……この匂い、王都の宴会場とは違う。」


「当然よ。」堇は鍋の泡立つ様子を見下ろしながら答えた。「私は御膳の流儀なんか使わない。私が作るのは、本当に腹を満たす飯だけ。」


炊き込みご飯が炊きあがった頃、ノアは懐から黒いガラス瓶を取り出し、堇に手渡した。


「蓋を開ける前に、これを見てくれ。」


堇は瓶を受け取り、栓を抜くと、灰色の粉末がふわりと舞い上がり、瞬時にご飯の香りに吸い寄せられた。


ノアはゆっくり言った。「これは王室研究所で小分けされた精神安定粉末で、その魔力脂肪と極めて強く反応する。」


堇の眉が動いた。「つまり……?」


「爆炎イノシシ肉は、昨年から『高リスク調味素材』に指定された。市場には出回らず、すべて『閉鎖型実験機関』にのみ供給されている。」


「閉鎖型?」


「王国研究所、神殿の栄養基地、そして勇者育成の中枢施設。」ノアは堇を見た。「君が今作っているのは、ただの料理じゃない。システム介入の模擬実験だ。」


堇はしばらく黙り、鍋を火から下ろして魔力を切った。彼女はしゃがみ込み、香り立つ炊き込みご飯を見つめた。


「つまり——私は今、制御剤を主食に仕立てるところだったってこと?」


ノアは答えず、鍋の底にできた金色の沈殿を指さした。


「あれは油じゃない。抽出された神経触媒粉末だ。真の制御中核は、料理そのものではなく、食物と神経系の接触反応にある。」


堇は小さく罵り声を漏らし、飯をすくい取り、岩窟の隅にある火口へと投げ入れた。


「こんなもん、王国は誰に食わせてるのよ?」


ノアは火口の奥で炎に焼かれる残飯を見つめながら、冷たく答えた。


「君が聞くべきなのは——すでにどれだけの人に食わせたか、だ。」


ノアはまつげを伏せ、空になった魔獣炊き込みご飯の残ったスープを見つめながら、木製のスプーンの柄を指先でそっとなぞった。

「味は確かに完璧だった」低い声で言う。「でも、あと1分煮込んでいたら、中の触媒連鎖が完全に発動していた。」


堇の手が止まる。もう一杯よそうとしていたが、その言葉を聞いた瞬間、眉をぴくりと寄せた。「どういう意味?その肉自体が毒ってこと?」


「違う、改造されているんだ。」ノアは懐から手のひらほどの金属製の円形ケースを取り出し、開くと、蝉の羽のように薄い感応符紙が数枚入っていた。そのうちの一枚をスープの残りに近づけると、符紙の縁が青く光り、脈打つように震え始める。「これは毒じゃない。『栄養剤』だ。正確には『王室標準・勇者強化食』の一部だ。」


堇は数秒沈黙し、目を上げる。「強化食と植え込み制御、何か関係があるの?」


ノアは符紙を自分の手首に貼りつける。血管のような紋様がうっすらと浮かび上がった。「この煮込み肉には安定型魔導配合剤が加えられていて、食事はあくまで媒体にすぎない。一定量を摂取すると、魔力循環を通じて脳内に特定周波の魔力回路が形成される。その回路が元々の神経接続を徐々に侵食していく。」


少し間を置いて、こう付け加えた。「多くの人はこれを『服従インプラント』と呼んでいる。食べ過ぎれば、思考がシステムの設定値に近づいていく。」


堇は鍋の中のスープを見つめ、長い間黙っていた。


「なぜあの騎士たちが君と同じ人間なのに、目が虚ろだったのか知りたいか?」ノアは遠くの夜の闇を見つめながら言った。「それがこの……『勇者栄養剤』さ。もともとは王城が勇者を選抜する際の特供品だった――『恐怖』と『迷い』という感情を消し、戦闘効率を倍増させるって。だが後に、大量に騎士団、魔導訓練施設、さらには学童食堂にまで広まった。」


堇は拳を強く握りしめ、指の隙間から炎がゆらめいた。


「そして今や」ノアの表情は冷ややかだ。「彼らが食べているのは、もう『食事』じゃない。封印なんだ。一口ごとに、自分の意思に釘を打ち込んでいるようなものさ。」


堇は低く問う。「じゃあ、私がさっき作ったのは……?」


「まだ暴走していない。」ノアは身体を向け、少し影になった顔の輪郭を見せた。「君の料理はインプラントに必要な温度まで達していなかった。塩分も少なかったし、何より『精神安定剤』のあの調味料を入れてなかった。」


「……あれは防腐剤かと思って捨てたの。」堇の声はかすれていた。


ノアは珍しく微笑んだ。「それで俺たちは救われたってわけさ。」


遠くから魔導機関車の唸る音が聞こえ、堇が振り返ると、神殿魔導官の銀色のマントが夜の縁に現れていた。


彼女は立ち上がり、冷たい目で前を見つめた。


「これから、知らない人の料理は絶対に食べないで。不明な食材を勝手に炒めるのも禁止。」


ノアは頷き、平静な声で言った。「じゃあ、君に料理を任せる。俺は生き延びる。」


堇は鍋の蓋を押し開けた。再び炎が燃え上がった。

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