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第四話「発見!落第生徒候補!」


商店街のアーケードを抜けると、

懐かしい景色が広がった。


この町。


俺が、子どもの頃を過ごした町。


少しだけより現代化が進んでいたが、

素朴な空気は変わっていない。


道沿いには、自動販売機が並び、

ちょっとしたバフ付きの飲料が当たり前のように売られている。


「飲めば声が低くなるジュース」

「目が光る炭酸」

「耳から蒸気が出るホットミルク」


覚醒度合いにかかわらず誰でも楽しめるので大人気だ。


公園には『魔獣注意』の看板。

広場では、子供たちが木の棒でスキルごっこをしていた。


俺は、自分の能力を思い出す。

大学までの努力によって手に入れたステータスをチェックする。


───────────────────


【名前】 与田よだ 総司そうじ

【年齢】 22歳


【レベル】 Lv.49


【魔法適性】 B

【力量補正】 C+

【身体素質】 C+

【精神強度】 A-

【速度補正】 C

【スタミナ】 C


【魔法】

 七曜属性(日月火水木金土)操作中級 精神幻術上級

 水晶占星術 下級精霊召喚 回復中級 鑑定初級 


【スキル】

 威圧感増大 中距離探知 幻術魔法強化 幻術看破 軽度催眠 簡易変装 声帯操作


【潜在ランク】

 C+


【祝福/バフ】

・善良の加護Ⅰ:

 邪念を少し抑え、善意を呼び起こす。悪事の成功確率が少し下がる。


・邪悪なる指導者Ⅴ:

 生徒を落第者に育てるとランクが一段階昇段し、レベル5アップ。

 優等生に育てるとランクが一等級降級し、レベル10ダウン。


・???????:

 ■悪■■■に対■■■■■■■■■■祝■。■■■善■■導■■、■■真■■■■。

 ■■■■1■下■■■■■999■■■逆■■、■■■■■■■■■■ン■■昇■■■。


――――――――――――――――――――


魔法はかなり頑張って陰陽系統の七曜属性を習得し終えた。

精神強度ももともと高かったので幻術系と幻術看破もほぼ天賦のように習得。


潜在ランクも少しだけ上がり、普通に生きるなら十分な力。


これをまっとうに使うことができたなら立派な人間だ。

が、魔法とスキル内容はどう見てもまともなもんじゃない。


心の中で、苦笑する。


俺はもうまっとうになる気なんかない。

悪に生きたほうが便宜な祝福ももらてるんだ。仕方ねぇだろ。


そう、自分に言い聞かせながら、

街のざわめきにまぎれて歩を進めた。


そして――


路地裏から、不穏な声が漂ってきた。


「うわ、また出しゃばってんのかよ、ゴ〇カスが」

「魔法適正E-ランクしかないくせに。ウケる」

「なーに正義ヅラしてんだよ、どけよ!」


コンビニの脇、狭い路地裏から冷たい女子グループの声。


囲まれているのは、

まだ中等生――いや、今年高等生になったばかりか。


少し小柄で、小さなポニーテールをした少女と、

少しぽっちゃりしていて泣いている少女だった。


ポニーテールの子が、ぽっちゃりな子をかばうような立ち位置になっている――


「はーい、おとなしくしてね!」


リーダー格の少女が、ポニーテールをぐいっと乱暴に引っ張った。


少女は声も上げず、力で振り払う。


「チッ……生意気が……」


苛立ったいじめっ子が、指先に魔力を集めはじめる。


小さな電撃が、パチパチと弾けた。


だが、リーダー格の子がすぐにそれを叩き落とした。


「バカ、やめなさい。能力で怪我とか、死なせたりしたら面倒くさいじゃん!」


冷静に、だが悪意たっぷりに釘を刺す。


「……もっと、楽しく、上手くやんなきゃ」

「ね、そっちのおデブちゃん」


力だけではポニーテールをどうにかできないとわかったからか、心を揺さぶりにかかる。


「今ここで、そいつにビンタできたら……あんた、仲間に入れてあげる」

「どう? いいでしょ」


ぽっちゃりした少女は、涙を浮かべながら震えた。


典型的ないじめだ。


どの世界でも珍しくない。能力や見た目で区別のみに止まらず、差別をするのが人間だ。

ポニーテールの子は能力ランクがE⁻にもなっていないと言われていたな。かわいそうに、恵まれなかったんだな。


……待てよ?


俺は思った。

いい落第者候補じゃねぇか


覚醒しても弱く、

夢を見るしかできない、可哀想な存在。


――最初から、落第してるようなもんだ。


俺は、ゆっくりと歩み寄った。


ここは助けて恩を売ってやろう。入会させるのにいいきっかけだ。


ぽっちゃり少女は、助けてくれようとしたポニーテールを見つめる。


人は基本利己的だ。

震える手を、覚悟を決めたように振り上げた――


その瞬間。


俺は、静かにスキルを発動させる。


スキル――【威圧感増大】


空気が沈んだ。


まるで、空そのものが砕け、

鈍く重たい破片となって世界に降り注いでくるような。


どこからともなく感じる圧力は、頭上から背筋、地面までじわじわと突き刺さり、

呼吸すらも重たくなる。


耳鳴り。

足元を削るような震え。


いじめっ子たちは顔を引きつらせ、

小動物のように、無意識に後ずさる。


そして路地の入口にいる驚異的存在を感じ取る。


ちょっとでも強く見せないと格が出ないってもんだ。

まあつい最近までJCだった子たちに対してやりすぎだってのはわかる。


いや、相手は凶悪ないじめっ子たちだ。これくらいがちょうどいいのかもしれないな。


かなり派手な表現になるが、あくまでこれは幻術、感覚にしか伝わらない。


問題はないはず...


「その制服は星見ヶ丘(ほしみがおか)女子高だな。」


「新学期早々、集団でいじめか。教師に報告するだけじゃ済まないかもな」


「それとも……保護者に直接話を通したほうがいいか?」


小さく、しかし確実に届く声で脅す。

社会ルールを知る大人の脅し。


無言の圧力が、少女たちを追い詰めた。


「や、やばい、逃げろ!」


ぬかしていた足と腰がようやく動き、

少女グループは蜘蛛の子を散らすように走り去っていった。


残されたのは、

路地裏に、呆然と立ち尽くす少女が二人。


一人は目に光をなくしたまま、

肩を震わせ羞恥におぼれていた。


打算に負けた自分自身への、深い後悔。


それらが混じり、地面に縫いとめられたかのように立ちすくんでいた。


もう一人は光を失いかけていた目に、

微かな――希望の色が戻り始めていた。


その目には憧れや感謝が垣間見れ、目の前の「強者」を見つめる。


「お前」


俺は、ポニーテールの子に声をかけた。


ビクリと体を震わせる少女。

けれど、逃げ出しはしなかった。


「強くなりたいか?」


静かに、重く。

強者のような口ぶりで、俺は言った。


少女は目を見開いた。


俺は、さらに続ける。


「私なら――お前を強くしてやれる」

「あの子たちじゃ比にならないくらいに、な」


少女の顔が、輝いた。


信じることに、迷いはなかった。

そういう性格なのだろう。損をしやすい性格だ。


「……なりたい!」

「強く、なりたいです!!」


今にも泣きそうな顔で、それでも強がった顔で少女が答える。


ただその声には、曇りはなかった。


俺は――ニヤリと、笑った。


いい子だ。けど残念だ……


立派な落第者に育ててやる


心の中でそう呟きながら。


このときの俺は、まだ知らなかった。


この少女が、

俺の思惑とは、まるで違う方向に、

育っていくことになることを――

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