第一話「詐欺師!転生する!」
人を騙すのは、呼吸みたいなもんだ。
俺、与田 総司は、
詐欺師稼業を始めて、もう十年近くになる。
嘘を吐くのに、性別も年齢も関係ない。
赤ん坊みたいな顔をしたジジイだろうが、純真な女子高生だろうが、情け容赦なく食い物にする。
今日のターゲットは、地方の小金持ち一家だった。
少し時間をかけて営業付き合いをして探りを入れて
古びた家宝を「鑑定士です」と言って引っ張り出した。
「これ、贋作ですね。鑑定した以上、贋作登録か、処分しかありません」
「登録はしたくない? では処分ですね。こちらで引き取りますので、処分料として……」
と、適当に話を盛りに盛った。
そのまま俺が「処分」という名目で料金と家宝を引き取り、
あとは適当な業者に流して、ちゃちゃっと現金化だ。
結果、今日の収穫はざっと三百万。
「ったく、ちょろすぎだろ……」
タバコに火をつけながら、夜道を歩く。
秋の風が冷たい。
ポケットには重たい封筒。
背中には、薄っすらと罪悪感――なんてものは、欠片もない。
俺は、そういうふうにできている。
アパートの前まで来たときだ。
街灯に照らされて、女がひとり、ぼんやりと立っていた。
長い黒髪、細身のシルエット。
フードをかぶっているが、べっぴんさんに間違いねぇ。
家出少女かな、今夜は寂しくならずに済みそうだ……
「おーい、どうした嬢ちゃん? こんな時間に」
軽いノリで声をかけた。
瞬間。
女が、ぐっと距離を詰めた。
そして――
ザクッ。
腹に鋭い衝撃。
身体が崩れ、自然と膝を折った。
「っ……あ?」
目の前の女は、泣きそうな顔で、笑っていた。
憎しみと後悔と、絶望を全部混ぜたような、ぐちゃぐちゃの笑みだった。
「覚えてないんだ……? 私のこと……」
女の声が震える。
脳裏に、過去の「仕事」が蘇る。
……ああ、思い出した。
この女、三年前、田舎の小さな工場を潰したときの……社長の娘、だ。
俺のせいで、家族も、未来も、めちゃくちゃにされた。
でも、今さらそんなこと、どうにもならない。
どうにもならない、のに。
俺の意識は、地面に叩きつけられるみたいに、真っ逆さまに落ちていった。
世界が、真っ黒に塗りつぶされる。
最期に思った。
「……はぁ。
詐欺師冥利に尽きるな。
来世があったら、もっと徳を積んどかなきゃ……な」
それが、与田総司の、詐欺師として過ごしたクソみたいな人生の幕引きだった。
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気がつくと、俺は――無限に広がる暗い空間に立っていた。
「……ここは?」
周囲には何もない。
ただ、黒。黒。黒。
やがて、空間に光が満ちる。
「与田総司」
頭上から静かな声が降り注ぐ。
見上げると、そこにいたのは、女神だった。
純白の衣は光を纏い、琥珀色の瞳には、ただ優しき威厳が満ちていた。
透き通るような白金の髪が、風もない空間を静かに揺らいでいる。
わずかに露出する肌は光に溶けるように滑らかで、整った顔立ちは、息を呑むほどに美しい。
その美しさは、まるでこの世に在ってこの世にあらざるものだった。
一切の欲望を寄せつけず、見る者の胸中のざわめきすら静めてしまう。
善性そのものが、この世に形を持ったかのような存在。
神然たるその姿に、思わず自分の今までを懺悔したくなる。
「私は、世界の善を司る者。
あなたに審判をくだし、そして最後の償いの機会を与えに来たわ」
女神の瞳が、静かに俺を見つめる。
「……随分と多くの人を騙してきたのね」
ああ、そうだ。
俺は、そうやってこの人生を過ごしてきた。
「本来ならばあなたは地獄に堕ち、煉獄の炎にて魂を燃やし尽くされるはずだわ。
だけど、あなたがここに来たということは、まだ救いの余地があるということね」
「来世で善良に生きるなら、あなたの魂は次も輪廻できるかもしれない」
そう言って女神は、手をかざす。
すると、目の前に数十枚のタロットにも似たカードが現れた。
「新世界でのあなたの使命を選びなさい」
俺は少し迷って、一番端のカードをめくる。
カードの内容は――『教育者』
「教育者……?」
「簡単に言うと教師ね。人に教え、育て、善意を広めることができる使命よ」
女神は説明を続けた。
「あなたがこれから転生する世界は、あなたが元いた世界の変異世界――パラレルワールドよ。
魔法や科学、特殊能力など様々な可能性が満ちているわ」
「最後にあなたに祝福を授けるわ。この世界で自分の使命を果たし、立派になりなさい」
「ちょっとまっ……!」
まだ混乱から覚めない俺を置いて、
女神はまるで何かに急かされるように、俺を転生へと送り出す。
俺は自分の「身」が軽くなっていくのを感じた。
意識がどんどん上に浮いていく。
最後に、ほんのささやくような声が聞こえた。
「どうか邪悪に負けないように……もう一つ祝……」
女神のいる空間から離れ、いよいよ新しい世界に向かうのかと思った時、異変が起きた。
穏やかな気配が、ぐにゃりと歪む。
温かな光が引き裂かれ、代わりに、どこからともなく滲み出すように黒い靄が這い寄ってくる。
ぬめるような闇が、感知できる空間の一片から染み出す。
耳鳴りにも似た、意味をなさない囁き声が、心の奥へ染み込むように響いてくる。
精神に激しい痛みが走り、囁き声が次第にはっきりしてくる。
「……世界の悪を司る者が貴様に祝福を与える。善良に生きることなどできまい。
地獄が貴様を歓迎しよう。堕ちてくる時を楽しみにしているぞ」
「フハハハハハ……」
ここまで読んでくれてありがとう!
作者は社会人なので、
更新ペースは“ゆっくりめだけどサボらない”をモットーにやっていきます!
次回もお楽しみに。
よろしくどうぞ!