第23話3/3 最後の鍵
「呑気な顔で寝ちゃってさぁ……」
淡い月明かりの中、タクシャカは自分に抱きついて寝るエクスの顔を眺めた。
すやすやと、警戒心のない顔だ。
もっとも、こいつの創った不思議な手錠のせいで逃げられないのだが……。
『その手錠、私から10m以上離れられないようにしてあるから、逃げようとしても無駄だよ』
と言っていた。
そんな馬鹿なとさっき試してみたら、10mより離れた途端にこいつの元まで一瞬で飛ばされた。
しかも不運な事にそこは風呂場、そのまま服を脱がされ洗われてしまった。
(いったいどんな仕組みなんだ……)
壊そうと思っても、自分の力ではどうにもならなかった。
見たこともない技術で作られた手錠を見つめながら、タクシャカは考えた。
自分はこれから、どうすればいいのだろう。
確かにこいつらは八闘士を残り1人まで倒した。
でもウトパラカには敵わないだろう。
でも、もし勝てたら……?
その時、自分はどうするんだろう。
そう考えているうちに、タクシャカは眠りについた。
――――
次の日――。
「綺麗だと思わない?」
「……」
街が見渡せる丘に、エクスとタクシャカは寝そべっていた。
「私もみんなも、この景色を残すために戦ってる」
「ふぅん……」
まあ悪くはない。
タクシャカは横目で街を眺めて思った。
「キミは?」
「え?」
「なんのために戦ってるの?」
「そりゃあ……」
タクシャカは言葉に詰まった。
八闘士だから――それ以上の理由が見つからなかった。
「えっと……」
必死になにか見つけようとするタクシャカだったが……。
「こんなところで何をしている?」
その時、背後から声がした。
(この声は……!)
その突き刺すような声色に、タクシャカは背筋が凍るような感覚が走る。
振り向くと、ウトパラカが立っていた。
「ウトパラカ!」
エクスが銃を構えるより速く、ウトパラカの掌から放たれた波動が彼女を吹き飛ばす。
まるで読まれていたかのような攻撃を受け、防御機構を働かせる時間もなくエクスは気絶した。
「た……助かったよウトパラカ!」
タクシャカは動揺を抑え、ウトパラカを待ち望んでいたかのように演じ始めた。
「奴らに捕まってしまって、逃げようとしたんだけどこれが取れなくて……」
タクシャカが手錠を見せると、ウトパラカは波動により即座にそれを破壊した。
「こんなものに何を手こずっていたのだ?」
「あはは……」
「それよりも」
「あぐっ!?」
ウトパラカはタクシャカの首を掴み、持ち上げた。
「虚はどこだ?」
「ぬ、ヌル!?」
タクシャカはその名を出され、狼狽えた。
ヌル――それはニーズヘッグの再生を司る部位。
ヌルがなければニーズヘッグも、その身体から生まれる八闘士の再生速度も鈍る。
八闘士とニーズヘッグにとって、ヌルはまさに生命線とも言える存在なのだ。
「母様の身体にヌルが存在しなかった。何か知らぬか?」
「何か知らぬか?」
「あ……あぁ、実はボクも虚を探してこの国に来たんだよぉ」
タクシャカは歯切れの悪い言葉を返す。
ウトパラカにヌルが見つかればニーズヘッグは復活してしまう。
そうなるといくらエクスやカナリアたちでも敵わない。
世界は滅び去り、自分はまた八闘士としての役割を押し付けられる。
なんとしても誤魔化さなければならない。
なぜなら……。
ヌルはこの街に居るのだから――。
「……そうだったか」
「ふぅ」
地面に下ろされ、タクシャカが首元を擦る。
「それにしても八闘士を捕らえるとは……こやつは侮れん。今のうちに始末しておこう」
そう言うと、ウトパラカは意識を失ったままのエクスに掌を向け、波動を溜め始めた。
「なっ……!?」
タクシャカの心に激しい動揺が走る。
ウトパラカの攻撃を受ければ、彼女の命はない。
八闘士の立場なら彼女は大きな敵だ。ここで始末するべきだ。
だが、仮に、もし、彼女たちがウトパラカに勝てるなら……。
賭けに出るしかない。
0か100、勝ちか負け、どちらかしかない大きな賭けだ。
でも、それでも、何かが変わるなら――。
タクシャカはウトパラカの前に身を乗り出し、叫んだ。
「じ、実は今ちょうどヌルの居場所を見つけたところなんだ!」
「なに……!?」
重大情報に、ウトパラカが思わず手を止める。
言ってしまった。
言いたくはなかった。
タクシャカは汗を垂らしながらそう思った。
「それで今から……あ、ぐあああああぁ!」
「なぜ、それを早く言わぬ」
タクシャカの額に、ウトパラカが人差し指で触れる。
ただそれだけで、タクシャカの全身に耐え難い激痛が走った。
「今すぐ手に入れろ。私が奴らを断罪する間にな」
「わかった! わかったから! やめ……」
指が離され、タクシャカは崩れ落ちる。
「必ず果たせ」
そう言うとウトパラカは空へ舞い上がり、街の外へと飛んでいった───。
――――
「───はっ!」
エクスが目を覚まし、記憶を反芻する。
なにやら街が騒がしい。
それに何か光が見える。
街の外へ目を向けると、異様な光景が広がっていた。
「光……」
大地に太陽が現れたかのごとく、強烈な閃光が発されている。
その中心に現れる黒い影。
後光が指すかのように、黄金の蓮華座に金色の闘士が立っていた。
「あれが……」
「ウトパラカ……」
エクスとタクシャカ。
それぞれが違う場所で、同じ方向を見つめていた。
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