第23話2/3 はぐれもの
「ふぁぁ……、これからどうしよっかな」
大樹の枝に寝そべり、あくびをかいてタクシャカは今後の身の振り方を考えていた。
これまで通り八闘士としての役目をこなすか、それとも……。
そんな事を考えていると、下の方が騒がしくなってきた。
「お前らがいるから、あいつらが襲ってくるんじゃないのか!」
「なんだと!?俺たちだってあいつらのせいで酷い目にあってきたんだ!」
住民同士が言い争っている。
身なりからして、王国の民が避難してきた帝国民に言いがかりをつけているのだろう。
「何言ってんだか……」
タクシャカは呆れた。
自分たち八闘士が狙うのは知的生命体の負念。
国なんてどうでもいい括りだ。
避難民がいようがいまいが、この王国は襲われる運命にある。
「くっだらないなぁ……昼寝の邪魔だよ」
タクシャカが術をかけると、人々は怒りを忘れたように離散していった。
静けさが戻ったところで、また昼寝を始める。
「……まさかこんな近くにいたとはね」
聞き覚えのある声にタクシャカが樹の下を見ると、エクスが立っていた。
どうやら術を使った際に察知されたようだ。
「どこにいようと、ボクの勝手だろ」
「王国に入り込んで、今度は何を企んでいる?」
降りてきたタクシャカに、エクスが銃を向ける。
「企んでなんかいないよ。キミに身体を取り返されちゃったからね。今のボクじゃキミたちには敵わない」
タクシャカは焦ることなく、いつもの飄々とした態度で答える。
「とにかく、拘束させてもらう」
「出来るものなら……やってみなよ」
タクシャカが挑発すると、エクスはすぐに引き金を引いた。
もう少し躊躇するかと思っていたタクシャカは身動きすらできなかったが、放たれた光弾はタクシャカの脇を掠め、通り過ぎていった。
「ふ……ふん、どこを狙ってるんだい?」
見当違いの方向へ飛び去った光弾を見て、タクシャカは余裕ぶった顔で向き直る。
だが、エクスが銃口をクイと上げると光弾は方向を変え、タクシャカの背中に引き寄せられるように命中した。
「あばばばばっ!?」
着弾と同時に身体が強烈に痺れ、タクシャカは意識を失った───。
――――
「これは……!?」
ニーズヘッグの不調の原因を確かめるため、その身体をくまなく調べていたウトパラカは驚愕した。
本来、そこに在るはずの物が無かったのだ。
――――
「ん……」
朧気な意識で、タクシャカは目を開く。
たしか、あいつに銃で撃たれた。
ここはどこだ?
「むぐっ!?」
起き上がろうとしたタクシャカを、腕が押さえつける。
と、同時に何か柔らかい物が顔に押し付けられた。
「目が覚めたかい?」
身体をよじり目線を上げると、エクスがこちらを見ている。
抱きしめられ、寝かされているようだ。
「なにこれ……?」
タクシャカには状況が理解できなかった。
こいつの半身を奪い、戦争を引き起こし、人間たちを散々弄んだんだ。
目が覚めた時は磔にでもされて、煮るなり焼くなりされるだろう。
そう思っていたのに、なんだこれは……。
「つらかったね」
「……は?」
どういう意味だと、タクシャカは戸惑った。
「キミから身体を取り戻した時、残っていた君の記憶に触れたんだ」
「……!?」
「自分のやりたいことが出来なくて……、窮屈で……、自分は何のために存在しているんだろうってずっと思い続けてきたんだね」
「……」
エクスの言葉に、タクシャカは息が詰まるような感覚になった。
ニーズヘッグ、それは本能に従って星を塗り潰す存在。
様々な星で生物や物質を取り込んでいくうちに、自分たち八闘士が生まれた。
闘士たちは圧倒的な武力で逆らうものを薙ぎ倒し、星を恐怖と怨嗟で黒く染めていく。
だけど、その中で自分だけが違っていた――。
力押しが不得意で、相手の心を操ったり策謀を巡らすのが得意。
星を制圧するのに、そんな手の込んだ事は不要だった。
降り立った星に面白そうなものがあっても、他の闘士たちがすぐさま壊してしまう。
他の闘士たちが星を蹂躙する様を、後ろで眺めているくらいしか出来なかった……。
この世界に戻って、他の闘士が眠りについていると知った時は本当に嬉しかった。
やっと自由になれた! やっと自分のやりたいことができる! と思った。
念には念を入れて、ニーズヘッグ本体にも細工も施した。
その後、世界を巡ってあの帝国に流れ着いた。
巨人の骸を見て、これを動かせたら面白そうだと思った。
どうやって動かすか考える間も、得意の魔術を使って上手く動かせる様になった時も、本当に楽しかった。
帝国の歴史を知って、戦争を煽った。
面白いものが見られると思ったから。
そしたらあのエインヘリアルだ。
驚いたけど、予想を超えた事態にワクワクした。
冥鬼兵をぶつける相手ができたと。
こいつがあの天使どもを繰り出してきた時は本当に憤慨したけど、内心楽しかったよ。
初めて現れたライバルだ。
負けるかとスレンドラとヴィグネシヴァを作った。
自信作だった。
でも、突然出てきた牛野郎にヴィグネシヴァがやられて、スレンドラは激昂したカナリアによって撃破されてしまった。
そして、自由時間はそこまでだった───。
ゲオルギウスが他の闘士を復活させたことで、自分はまた窮屈でつまらない役目を果たさなければならなくなった。
いつになれば、この役目から解放されるのか。
「泣いてる?」
「……うるさい!」
図星を指され、タクシャカはエクスの腕を振りほどいた。
心を見透かされた恥ずかしさ。
それと同時に、今まで誰も理解してくれなかった悩みを知ってくれた少しの嬉しさ。
「タクシャカ……」
起き上がり、ベッドの端に腰掛けるタクシャカを、エクスが背中から抱きしめる。
「私たちの側に付きなよ」
耳元で囁かれ、ギュッと優しく圧迫される。
味わったことのない暖かな感触にタクシャカの心は戸惑う。
「ふん、まだウトパラカとゲオルギウスが残ってる。君たちに勝ち目は無いよ」
「私たちは負けない」
「わかってないね。ウトパラカには未来が見えるんだよ」
「未来……?」
「予知ってやつさ。どんな攻撃を仕掛けても全て予測される、そんな相手にどうやって勝つって言うんだい?」
「……どのタイプの予知かわかれば、戦いようはある」
エクスは静かに、しかし力強く答えると、古びたローブを取り出しタクシャカに手渡した。
「貴重な情報ありがとう。じゃあ、これを着て」
――――
エルダに頼まれた買い物メモを持って、エクスが街を歩く。
その後ろをローブで顔を隠し、手錠を繋がれたタクシャカがついていく。
「なんでボクがこんなこと……ゲッ!?」
とある人物を見つけた瞬間、タクシャカは慌てて物陰に隠れた。
「どうしたの?」
「……あれ」
指差す先にいたのは、帝国皇帝クルル。
「陛下か……。会いたくないの?」
「会ったら殺されちゃうだろ!」
皇帝を初め、帝国の民にとってタクシャカは国を滅ぼした大罪人。
彼らの気持ちを鑑みれば、今この場でタクシャカを突き出し、裁かせるのが筋なのかもしれない。
だけど───。
「行こう」
エクスは見つからないようタクシャカの手を取り、その場を去った。
身勝手なことをしているかもしれない。
邪悪な存在を助けているのかもしれない。
(それでも私は───、この子を救いたくなってしまったんだ)
エクスの心に、彼女もまだ知らない感情が芽生えていた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけたら
↓の★★★★★を押して応援してくれると励みになります。
感想もお待ちしております。完結できるように頑張ります。




