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天霊戦騎エインヘリアル  作者: 九澄アキラ
第21話「奪還」
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第21話4/4 エクス覚醒

 アナヴァダッタと相対するカナリアの脇に、ヒョウガとクライオーネも並び立つ。

 2射目のレーザーが放たれる直前、ビフレストによって冥鬼兵たちの前に一瞬で移動したカナリアは魔術障壁(バリア)を張った盾でレーザーを受け、受けきれない分のエネルギーは剣に吸収させることで防ぎきったのだ。

 

「ここからは、俺たちが相手だ!」

 

 そのまま3人はアナヴァダッタと激しく斬り結び始める。


「あーあ、戻ってきちゃったか」

「タクシャカ!」

 

 戻ってきたカナリアたちを見て嘆息するタクシャカに上空からビームが降り注ぐ。

 

「今日こそ、私の身体を返してもらう!」

 

 バリアで防いだタクシャカへエクスのワルキューレ・トライアンフが銃口を向ける。

 

「いい加減諦めなよ。ボクには勝てない」

「今の私には魔術がある!」

 

 エクスが魔法陣から魔術の鎖(バインド・チェーン)を放つ。

 

「いいねぇ。なら魔術対決といこう!」

 

 タクシャカも鎖を躱しつつその両掌から魔術を放ち、熾烈なせめぎあいが始まった。


 

 ――――


 

「来ないでっ!」

 

 化け物の頭部に飛び移り、自身に向けて歩を進めるマグニに対して、アルティナは触手で鞭打ち拒絶する。

 

「あんたがいるから、スルーズは私を見てくれない!消えてよ!私とスルーズの前から!」

 

 アルティナは内心、とても酷いことを言っていると自覚していた。

 だけど、今はほんの少し思っただけの、冗談のような想いも本気で叫んでしまう。

 彼に本当に死んでほしいと思っていたわけじゃない。

 ただ、もう少しだけスルーズとの時間が欲しかった。

 わがままで、なにも出来なくて、自分の気持ちも素直に伝えられない。

 そうだ――。

 こんな醜い心を持っているから、あいつに利用されたんだ。

 アルティナが自己嫌悪に陥っている間にも、マグニは歩みを止めなかった。

 

「……いやだ」

「なんでよっ!?」

「好きだから」

 

(えっ……?)


 予想外の答えにアルティナは動揺し、触手の動きも止まる。

 

「俺はさ……いつもガサツで、横暴で、プンスカ怒ってる姫様が好きなんだよ。そんな風に泣いてる姫様は見たくない」

 

 絡みついた触手を力で引きちぎり、アルティナの眼前にまでマグニは迫る。

 

「それに王様になるなら……女の子の1人くらい、助けられるようにならないとな!」


 アルティナの肩を抱き、マグニは血塗れの身体でニカッと笑った。

 立っているのもやっとな身体で、アルティナを安心させるために強がり、自信に満ちた表情を彼女に送る。

 

(ほんとバカ……)

 

 俯いたアルティナの(まぶた)から涙が溢れた。

 

「だったら、助けなさいよ……」

 

 涙ぐんだ顔をマグニに向ける。

 己の弱さを全て(さら)け出すように。

 

「あぁ、絶対助ける!」

 

 マグニがアルティナを安心させるように啖呵を切ると、その背後にある大きな目玉が彼を見据える。

 

(あれだ!)

 

 マグニは直感でそれが化け物の中枢だと見抜き、天界から持ってきた赤い鉱石を握りしめ駆け出す。

 もはやアルティナの意志とは無関係に、化け物は自身の生体コアを奪わせまいと攻撃を仕掛ける。

 何本もの触手がマグニの身体へ巻き付き、突き刺していく。

 

「マグニ!」

「……はぁあああ!」


 マグニは叫ぶ。

 アルティナの笑った顔、怒った顔、意地悪な顔。悲しんでいる顔。

 守りたい者を強く意識した時、彼の身体から稲妻が迸り、触手が焼け落ちていく。

 雷鳴とともに飛び上がったマグニの雷拳が目玉を撃ち抜く。

 貫かれた目玉が悲鳴を上げアルティナの拘束が解かれると、マグニは彼女の身体を強く抱き寄せた。

 生体コアの消失とともに周囲の肉壁が崩れ始める。

 

「ここから出よう!」

 

 外へ飛び出ようとした矢先、暴れ始めた化け物が拘束を振り解き、頭部を閉じたことで2人は閉じ込められてしまう。

 

「なっ!?」

 

 周囲の肉壁が狭まり、2人をまとめて取り込もうと迫り始めた。


 

 ――――


 

 タクシャカの魔術に徐々に押され、トライアンフが傷ついていく。

 

「やるしかない……」

 

 エクスは捨て身の秘策を実行に移した。

 

「万策尽きたかい?」

 

 回避を止め、一直線に突撃してくるワルキューレへタクシャカは光弾を浴びせかける。

 だが、それに気を取られている隙に回り込んだトライアンフの浮遊シールドがタクシャカの眼前に移動し、その視界を塞いだ。

 

「なっ!?……くっ!」

 

 シールドを押しのけると、トライアンフの姿がない。

 

「どこへ……?」

 

 困惑するタクシャカの背中に大きな加重がかかる。

 トライアンフが背後から組み付いたのだ。

 

「なにっ」

「トライアンフ、ごめん!」

 

 エクスは魔術でトライアンフの筋肉組織である植物を異常成長・増殖させ、タクシャカの身体に絡み付かせた。

 

「は、離せ……!」

 

 タクシャカの身体がまるで大樹の幹に呑み込まれたように拘束される。

 その隙にエクスは腹部にあるコクピットのハッチを開け、内部へと乗り移った。

 見覚えのあるコクピットは侵食され、黒い物体が絡みついている。

 エクスは懐からカードを取り出し、コンソールにあるスロットへ読み込ませようと手を伸ばすが、そこに黒いオーラが触手のように絡みついてくる。

 

「なら、今度は君ごと支配してあげるよ!」

「くっ……。そうは……いかない!」

 

 エクスは触手を振りほどき、コンソールにカードを突き入れる。

 すると、まばゆい光がコクピットから溢れ、タクシャカの全身を包んでいく。

 

「こ、この光は……まさか!」

「うあああああああ!」

 

 バルドルの浄光――。

 その光は邪悪な存在を消し飛ばし、善き存在だけを遺す。

 マハーナーガとの戦いの際、タクシャカがこの光で怯んだのを目撃したエクスはバルドルに頼み、その光をサンプリングし習得していたのだ。

 

「くっそおおおお!」

 

 虹色の光の柱が天を貫き、浄光に耐えられずタクシャカは投げ出された。

 光の中ではトライアンフが分解され、タクシャカの依代となっていたエクス本来のボディへと吸収・再構成されていく。

 やがて光は人の形へと収束し、時空を突き抜ける蒼き戦士が姿を現した。

 両肩から垂れた赤いマント、背中に担いだ大剣。

 この世界に完全に対応したエクスの真の姿ナイティック・スタイルだ。

 

「くっ……」

 

 タクシャカはその様を見て、屈辱の表情で姿を消した。


「おりゃあ!」

「ギャオオオオオオッ!」

「うわああああっ!」

 

 カナリア、ヒョウガ、クライオーネが同時攻撃でアナヴァダッタに傷を付けるも、反撃のレーザーが薙ぎ払うように放たれ3人が吹き飛ばされる。

 

「……!?」

 

 後方からの眩い光に気付いたアナヴァダッタはその発生源であるエクスを視認すると、剣を構え猛然と走り始めた。

 それに対してエクスはゆったりと歩を進める。

 至近距離まで迫ったアナヴァダッタの炎燃えたぎる剣がエクスに振り下ろされる。

 

「……!?」 

 

 だが、その刀身はエクスが抜き放った剣の一撃で砕かれた。

 何が起きたかわからず、折れた剣を見て動揺するアナヴァダッタへエクスは怒涛の連続攻撃を繰り出す。

 虹色に輝く刀身が真紅の外殻を斬り裂き、アナヴァダッタはたまらず膝をつく。

 

「ナイティック・エクスラッシュ!」

 

 続けざまに放たれた必殺剣はアナヴァダッタに体勢を立て直す猶予を与えず、将軍とカナリアたちが負わせた傷をなぞるよう、深くX字にその身を穿った。

 

「グギャオオオオオオオ!?」

 

 断末魔が上がる。

 己がなぜ負けたのかも分からないまま、アナヴァダッタは爆発四散した。

 

「八闘士を……」

「あっという間に……」

 

 アナヴァダッタを一瞬の下に葬り去ったエクス。

 その圧倒的な強さに、周囲は唖然としてその姿を見つめる。

 

「誰か!2人を……マグニとアルティナを助けて!」

 

 そこにスルーズの助けを求める声が響き、エクスの眼光が化物の内部に囚われたマグニとアルティナの姿を捉える。

 

「カナリア!私と君でバルドルの浄光を増幅させる!息を合わせるんだ!」

「わ、わかった!」

 

 エクスとカナリアは化け物の前に並び立ち、互いに剣を合わせる。

 重なり合った剣から光が発生し、次第に強くなっていく。

 

『マグニ!アルティナ姫を守れ!』

 

 エクスは思念を送り、それを聞いたマグニはアルティナの身体をぎゅっと抱きしめた。

 

「いくぞ!」

「おう!」

「はぁー!」

 

 2人が同時に突き出した剣先から巨大な白光がビームのように放たれ、化け物を呑み込む。

 

「うおおおおお!」

 

 邪悪なる者のみを消滅させる光の濁流と衝撃の中、化け物の肉体が消滅していく。

 マグニはアルティナを離すまいと強く抱きしめ続けた。

 

 光が収まると、マグニとアルティナは地面に投げ出されていた。

 すぐに意識を取り戻した2人は互いの無事を確認しあう。

 

「よかった……」

「ありが……とう」

 

 自身の方がボロボロなのに他人のことを心配する。

 アルティナは少し恥じらいながらマグニに感謝を返した。

 彼女の身体にもう侵食の痕はなく、落ち着きを取り戻している。

 

「ふぅ……」

「ところでエクス、お前声が……」

「ん?」

 

 敵も居なくなり、一段落したところでカナリアは気になっていたことを尋ねた。

 エクスの声についてである。

 本来の姿を取り戻してから、エクスの声が女性から男性のものへ変わっているのだ。

 

「あぁ、そうか。この声で喋るのは初めてだったね」

 

 エクスはその時の姿によって声を変えている。

 人間体の時は女性を模しているため女性の声。

 機巧体の時はその風貌に合わせて男性の声にしている。

 だがこの世界では、人間体でいた時間のほうがずっと長い。

 

「以前のが良いなら戻せるけど……こっちの方が良いかい?」

 

 喋りながらエクスの声が男性から女性のものに変わる。

 

「出来れば……」

 

 カナリアは素直に心情を答えた。

 エクスのことは今まで特殊な力を持った女の子だと思っていた。

 機巧体のことは聞いていたが、まさか声まで男性になるとは予想外だ。

 もしかしたらこのまま人間の姿へ戻ったら男……おっさんになっていたりするのか?

 それはすごく嫌だ。

 認識の混乱を防ぐためにも、以前のままでいてくれたほうが良い。

 

「じゃあ、今後もこれでいこう」


 エクスが機巧体から人間の姿、大きさに戻っていく。

 カナリアは機巧体を取り戻しても彼女が彼女のままであることに安堵した。


「それにしても八闘士を一撃で倒すなんてな」

「私だけの力じゃない。みんながやつに傷を与えてくれていたから出来たんだ」

「マグニ!起きて!目を開けて!」

 

 喜びも束の間、アルティナがマグニの身体を揺すりながら声を上げる。

 マグニが意識を失ったのだ。

 

「マグニ!マグニ!」

 

 ぐったりした身体を前にアルティナは必死に彼の名前を呼び続けた。



最後までお読み頂きありがとうございます。


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