第21話3/4 VSアナヴァダッタ
「まだかケートゥス!」
「ずっと全速力である!」
王国へ向かうケートゥスの中でカナリアが苛立ちの声を上げる。
八闘士に襲われている王国に一刻も早く戻らなければならない。
先ほどバルドルから、タクシャカだけでなくアナヴァダッタまで現れたと報が入った。
だが、王国がケートゥスのビフレストの射程範囲に入るにはまだ時間がかかる。
自分たち抜きで戦っているみんなが心配だ。
「焦っても仕方がない。怪我もまだ治ってないんだ。ほら集中して」
「でも……」
カナリアはヴァスキとの戦いで負った背中の傷がまだ完治していない。
「信じよう……彼らを」
彼を治療しながらエクスは、マグニとガレスたちが持ちこたえてくれることを祈った。
――――
地の邪悪を剛健なる刃が斬り裂き、空の邪悪を唸りを上げる連装砲が穿つ。
新生冥鬼兵は剣で、戦斧で、槍で、砲撃でナーガルジュナを蹴散らしていく。
「全機、方円の陣!」
ガレスの指揮の元、陣形を次々に変えながら巧みな連携で王国へ敵を寄せ付けない。
彼らが操る機体――バリムオーはタクシャカの術が解け、稼働不能に陥った冥鬼兵をワルキューレと同じ駆動機構を用い改修したものだ。
ランヴェルスとゴズマの甲冑の運用データを元に非飛行型・重装甲・集団戦をコンセプトに製作され、背部のエネルギー式2連キャノン砲、サブアームに接続された一対の大型盾が固定武装のほか、大型ランスを基本に剣、戦斧など兵士それぞれが選んだ武器を装備している。
内部が骨のみだった旧冥鬼兵より重量が大幅に増したことで、近接戦闘におけるパワーと耐久性が特に向上し、複数のナーガルジュナに組み付かれても引けを取ることはない。
最も特徴的な変更点はコクピットが複座になったことだ。
魔術が扱える者を同乗させることでホバーによる高速移動、防御障壁による盾の強化、キャノン砲を散弾に変えるなど、魔術を駆使した様々な運用が可能になっている。
基本的な操縦を帝国兵が、魔術関連をダークエルフが担当する。
この運用を考案したエクスは当初、ダークエルフ達に専用のワルキューレを用意するつもりだった。
だが、ワルキューレの動かし方を1から教えるより、同乗させ魔術に専念させる方がそれぞれのパフォーマンスを最大にできると判断し、この形となった。
「ダクネ殿、頼む!」
「了解した!」
ガレス機が速度を上げ、大型ランスで地のナーガルジュナを次々と突き貫き、その隙を狙う空からの攻撃をダクネが盾に障壁を張り防ぐ。
帝国兵とダークエルフ。
ともにこの国の人間ではない、やむを得ない理由で移住してきた者たちだ。
種族も、国も異なる者たちがこの国を、世界を守るために力を合わせて戦っている。
その様子を帝国皇帝クルルは女王とともに王城から心配そうに見つめている。
ともに八闘士と戦うことが、タクシャカに唆され戦争を始めた事へのせめてもの罪滅ぼしになればと……。
そんなクルルの心情を察してか、女王は静かに彼女の肩を抱いた。
前線のガレスも、皇帝と同じ想いを抱いていた。
以前、カナリアと戦った際に命を救われた。
そればかりか祖国を失った皇帝と民を自国に迎え入れ、今こうして自分たちに再び戦う機会と力を与えてくれている。
その恩義に報いなくては……。
侵略ではない。
今、己の背後には守るべき陛下と民がいる。
あの時の彼も、カナリアもこんな気持ちだったのだろう。
やましい事などなにもない、純粋に命を守るための戦い。
(この歳で教わることがあるとはな……)
ガレスは己の心に煮えたぎるものを感じていた。
(こいつらのせいで……)
ダクネがナーガルジュナを睨みつける。
彼女たちダークエルフが森を追われたのも、元を辿ればニーズヘッグの一部であるカースがオーク達に異常な力を与えた事が原因だ。
そしてそのオークを血祭りにあげ、故郷の森を穢したのは八闘士のサーガラージャ。
エクスがともに彼らと戦うことを頼んだ時、彼女たちは迷うこと無く快諾した。
ともに八闘士に因縁がある者同士。
彼らの怒りが、気迫が、動力のコズミウムを通してスペック以上の力を冥鬼兵に与えている。
ほどなくしてナーガルジュナは殲滅され、ガレスたちの目線がアナヴァダッタへと集まる。
「……」
小手調べとばかりにアナヴァダッタは剣から炎の刃を飛ばし、冥鬼兵が散開する。
「全機一斉射!」
アナヴァダッタから見て扇状に展開した冥鬼兵から背部キャノンが一斉に放たれる。
迫る数十の光弾を避けること無く、アナヴァダッタは両手を広げ敢えて受けてみせた。
着弾の衝撃波と爆炎が砂塵を巻き上げる。
その手応えに何人かの兵士とダークエルフが歓声を上げたが、ガレスとダクネは険しい表情を崩さなかった。
八闘士がこれで終わるはずがない……。
砂塵が収まると、アナヴァダッタは無傷のままそこに立っていた。
「……っ!」
ガレスが歯噛みする。
倒せなくとも、少なからずダメージを与えたと思っていた。
だが、まさか無傷とは……。
アナヴァダッタが身体に付いた土埃を払う。
まるで「この程度か」と言っているかのようだ。
「ならば近づいて!」
得物を構え、突撃してくる冥鬼兵に対しアナヴァダッタはその力を開放する。
「むおっ!?」
アナヴァダッタを中心に暴風を伴う爆発的な熱波が発され、瞬く間に周囲を包みこんだ。
熱波の圧力に阻まれ、冥鬼兵の前進が押し止められる。
アナヴァダッタに近い位置の草木や住居が自然発火し、地面が焼けている。
焦熱地獄――。
それがアナヴァダッタの展開する地獄だ。
アナヴァダッタに近づくほど温度は上昇し、エネルギー砲すら届くこと無く掻き消えてしまう。
「はぁ……はぁ……」
「熱い……」
兵士やダークエルフ達から苦悶の声が上がり始める。
ダークエルフ達が魔術障壁で熱をある程度防いでいるにも関わらず、コクピット内の気温は60度近くまで上昇している。
汗が吹き出し、吸い込む空気で喉が焼けそうになる。
人間には長く耐えられそうにもない。
涼しい森の中で長年暮らしてきたダークエルフ達にとってはより危険な状況だ。
――――
「マァグニィッ!」
バリアを破った化け物は依然としてランヴェルスへと攻撃を続けていた。
「アルティナ!もうやめて!」
満身創痍のランヴェルスを守るようにスルーズのエスペランサが両手を広げ立ち塞がり、化け物が動きを止めた隙にゴズマとガルディエーヌがその身体を押さえつけた。
「このっ……暴れるな!」
「姫様、もうやめてあげて!」
「なんでよ……なんでそいつのそばにいるのよ!なんで……私のそばに居てくれないのぉ!」
アルティナの悲痛な叫びがスルーズの胸を穿つ。
守ろうとしたのにこんなにも追い詰めていたのだ。
「マグニのせいだよね?マグニが消えれば……私のそばにいてくれるんだよねぇ!」
「アルティナ、それは違うよ!」
「……姉ちゃん、どいてくれ」
「マグニ?」
ランヴェルスがゆっくりと化け物へと近づいていく。
触手で次々に機体を串刺しされても、歩みを止めることはない。
ランヴェルスはそのまま化け物の頭に指をかけ、強引に開こうとする。
「うおおおお!」
パワーを上げるにつれ、触手に突き刺された箇所から赤い循環液が噴き出す。
「放して!放しなさいよ!」
徐々に頭部が開かれ、アルティナの姿が見えてくる。
それを嫌がるようにコクピット目掛けて触手が伸びる。
「てりゃああぁっ!」
刺し貫かれる直前、マグニはコクピットを開き、アルティナ目掛け宙へと躍り出た。
――――
「このままでは……」
焦熱地獄の熱波が更に強くなり、冥鬼兵の筋肉組織から水分が蒸発し始める。
ただ立っているだけのアナヴァダッタに手が出せない。
「こうなれば……あれをやるぞ!」
たとえこの身を犠牲にしてでも陛下と民を守る。
ガレスは覚悟を決め号令を放つ。
「全機!鋒矢の陣!ダインスレイヴでやつに仕掛ける!」
先頭のガレス機が大型ランスを構え、冥鬼兵が隊列を組む。
接続ユニットを兼ねる両肩のサブアームシールドに部下たちの冥鬼兵が槍を連結。
他の機体も同じように連結を繰り返し、やがて全ての冥鬼兵が1つに繋がり巨大な鏃と成った。
ダインスレイヴ――。
全冥鬼兵のエネルギーを1つにし敵へ突撃する新生冥鬼兵、最大の攻撃。
たとえ冥鬼兵でも多くの力を合わせればエインヘリアル並みの力を出せ、八闘士に対抗できるとエクスが設計段階から仕込んでいたものだ。
「将軍機にエネルギーを集中!」
「魔術障壁を1つに合わせろ!」
青白いエネルギーが全体を包む。
アナヴァダッタは一切動じることなく、待ち構えるように佇んでいる。
「突撃ぃ!」
全機が一斉に推力を全開にし、猛然とアナヴァダッタ目掛けて突き進んでいく。
アナヴァダッタに避ける気配がない。
どうせ効きはしないと高を括っているのか?
(その驕りを刺し貫く――!)
ランスの切っ先が触れる刹那――。
「むうっ!?」
アナヴァダッタはわずかに身を翻し切っ先を躱すと、白熱するランスを自ら掴んだ。
高熱を操るアナヴァダッタにとって、この程度の熱はなんの苦にもならない。
そのままアナヴァダッタは突撃の勢いをたった1体で抑え込んでしまった。
「ぐっ……うっ……」
冥鬼兵の装甲が焦熱地獄の中心であるアナヴァダッタの超高熱により溶解し始め、アナヴァダッタは表情を崩さないまま、その眼に笑みを浮かべた。
だが――ダインスレイヴの真価は突撃にあるのではなかった。
「踏み込めぇ!」
ガレスの号令と共に部下達が一糸乱れぬタイミングでペダルを踏み込む。
動力がフル稼働し、発生したエネルギーをダークエルフたちが1点に集約させる。
「……!?」
己の掴む刀身に強大なエネルギーが集まるのを見て、アナヴァダッタが初めて驚きの表情を見せる。
次の瞬間、放たれた巨大なエネルギーの刃が彼を吹き飛ばした。
「はぁ……はぁ……」
焦熱地獄が解除され、冷たい風がコクピットに吹き込む。
ダークエルフ達はすぐに魔術で冥鬼兵の頭上に発生させた魔法陣から雨を降らせ、機体の冷却を始めた。
高温化した装甲に雨が触れると、ジュウジュウと音を立て水蒸気が上がる。
「全員、無事か……?」
部下たちの身を案じるガレスに全員が無事だと返した。
「やつはどうなった……?」
砂煙の向こうを凝視するとよろよろと立ち上がる影が見える。
「まだ終わってない……!」
歯噛みするダクネだったが、彼らの乾坤一擲の一撃は確かなダメージを与えていた。
地面に滴る黒い血。
姿が顕になったアナヴァダッタは胸部から腹部にかけて大きな傷を負っていた。
下等な生命の決死の攻撃を押し止め、力の差と絶望を与えるつもりだった。
だが、その下等な相手に傷を負ったことを、掌にべっとりと付いた血糊が物語る。
それがアナヴァダッタのプライドを傷付け、発火させた――。
「ギャオオオオオオオ!」
「……!?」
突然アナヴァダッタが咆哮し、自身の身体を組み替え始める。
各部がギチギチと回転し、位置を変え、その姿を変えていく。
「形が変わった……!?」
「なんだあの姿は……!?」
「ギシャアアアア……」
異形の半獣が咆哮する。
二足脚のエリマキトカゲを彷彿とさせる姿へと変貌したアナヴァダッタに、人型であった時の超然的な雰囲気は無く、本能だけで暴れまわる獣のような荒々しさを放っている。
アナヴァダッタは大地を踏みしめると、そのトカゲのような頭部を冥鬼兵たちに向け、口内にエネルギーを収束し始める。
「全機!急いで体勢を立て直せ!」
光を見て何が来るかを察したガレスは冥鬼兵を立ち上がらせ、防御を固めようとする。
だが焦熱地獄でダメージを受けた機体の動きは重い。
アナヴァダッタの頭部を囲む襟部分からも口内にエネルギーが照射され、その輝きが更に増していく。
「来るぞ!」
特大のレーザーが放たれる。
「うわああああああ!」
地面が融解をさせながら迫った熱線が着弾し、大爆発を引き起こす。
かろうじてバリアを張るのが間に合った機体も、着弾点の地面が融解・爆発した物理的衝撃により宙へ投げ出され、地面に叩きつけられる。
「ぐ、うぅ……」
ガレスはなんとか地に伏した機体を起き上がらせようとするも、アナヴァダッタは既に第2射の用意に入っていた。
再び口内に光が集まっていく。
「ここまでか……!」
機体が動かず、防御することも叶わない。
無慈悲にも放たれた2射目が冥鬼兵を包み込み、再び大きな爆発を起こした。
「ギャオオオオオオオ!」
眼前に広がる爆炎を見て、アナヴァダッタが勝利の雄叫びを上げる。
下等な生物を今度こそ確実に消滅させたと――。
「ギャ……?」
だが様子がおかしい。
広がった爆炎が1箇所へ向け、まるで吸い込まれるように集まっていく。
アナヴァダッタは変形を解除し、それを凝視する。
やがて炎の向こう、青白い光とともに姿を現す――剣と盾を構えた白翼の騎士。
「みんな、ありがとう。あとは俺たちがやる!」
天霊戦騎カナリアが今ここに帰還した。
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