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天霊戦騎エインヘリアル  作者: 九澄アキラ
第21話「奪還」
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第21話2/4 新生冥鬼兵

 タクシャカの企みにより化け物に囚われたアルティナ――。

 その身体と精神は侵食され、赤黒い触手が身体中に纏わりつき、両眼は覆われている。

 

「姫様!?」

「アルティナ!?」

「マ……グ……ニィ……ッ!どこ……なの!?」

 

 変わり果てた姿となった友達に2人が困惑している間にも、アルティナは呻くようにマグニの名を呼び続けている。

 

「アルティナに何をしたの!?」

「素直になるよう心を解放してあげただけさ。君のことを随分と怨んでるようだったよ」

 

 スルーズの追及にタクシャカは悪びれる様子もなく答え、マグニの乗るランヴェルスを指差した。

 

「俺を……?」

「詳しいことは彼女から直接聞くといい」

 

 タクシャカが再び指を弾き、化け物の頭部が閉まると、視覚を共有しているアルティナがランヴェルスの姿を捉える。

 

 「そ、こ……かあああ!」

 

 耳をつんざく叫びとともにランヴェルスへと襲いかかっていく。

 

「やめてくれ、姫様!」

「あんたが……、あんたがぁっ!」

 

 怨嗟と悲しみの叫びが塊となってマグニを襲う。

 どうしてアルティナが自分を執拗に攻撃してくるのかわからない。

 操られて……いや、自分にタクシャカは怨みがあると言っていた。

 でも心当たりがない。

 理由を考えている間にも化け物の爪や牙、触手が叩きつけられる。

 

「やめて!」

「いぎゃあああああ!」

 

 たまらずスルーズのエスペランサが触手を剣で斬り落とすと、化け物とアルティナが同時に悲鳴を上げる。

 

「い……た、いぃ……!」

「アルティナ!?」

「彼女の痛覚はそいつと共有されている。君たちが攻撃すればするほど、彼女を苦しめることになるよ」

「そんな……」

「てめぇ!」

 

 悪びれることのないタクシャカにマグニの怒りが爆発する。

 悪辣(あくらつ)――。

 そうとしか形容しようがない。

 友達をこんな目に合わせたアイツを、今すぐブチのめしたい。

 だが、タクシャカはさらに残酷な事実を突きつける。

 

「そうそう、早くしないとお姫様の肉体がそいつと完全に一体化して助けられなくなるから、頑張ってね」

「なっ!?」

「なんですって!?」

 

 マグニ、スルーズが視線を向けると、化け物の触手が再生し始めていた。

 一刻も早くアルティナを化け物から助け出さなくてはならない。

 だが攻撃すれば苦痛を与えてしまう。

 どうすればいい……。

 思い悩む2人は防戦一方になってしまう。

 

「ふはは」

 

 人間が思い悩み、悶える様――。

 これこそ自分が見たかったのものだと、タクシャカは満足げな笑みを浮かべる。

 このまま高みの見物と洒落込もう。

 そうしようとした矢先にチェーンナックルが飛来し、顔を反らして躱す。

 

「ちっ……」

「この陰険(いんけん)野郎!」

 

 射出したチェーンナックルを巻き取りながら、ゴズマが猛然と走ってくる。

 

「また君か、しつこいなぁ。観戦の邪魔をしないでくれよ」

「胸糞悪いやり方しやがって!」

 

 真っ向勝負を誇りにするゴズマにとっても、タクシャカの行為は卑劣極まるものだ。

 チェーンナックルと新たに搭載された左腕のエネルギー砲で地面を抉るほどの苛烈な攻撃を放つ。

 だが、慣れない甲冑を操作しての攻撃ではどうしても俊敏さが足らず、繰り出す攻撃はタクシャカにひらりひらりと。

 その裏でマグニとスルーズは徐々に追い込まれていた。

 

「早く助けないと!」

「でも、どうしたら……」

 

 アルティナを傷つけずに助ける方法が見つからない。

 しかも時間も制限されている。

 いつも頼りになるカナリア、エクスも今は居ない。

 スルーズが魔術の鎖で化け物を縛るも、未熟な魔術では抑え込むことはできず、拘束を解かれてしまう。

 反撃で何本もの触手が突き刺すような動きでランヴェルスへと迫る。

 

「くっ!」

 

 だが、その触手の切っ先はいくつもの浮遊シールドによって阻まれた。

 デシレアのガルディエーヌが放ったものだ。

 

「しっかりしなよ!」

「デシレアさん……」

「アンタらの友達でしょうが!」

「で、でもどうしたらいいか……」

「あぁもう、2人とも集まって!」

 

 浮遊シールドから衝撃波が発され、化け物を押し飛ばす。

 そのままワルキューレ3体を囲うように整列したシールドが球状のバリアを形成する。

 化け物はバリアへ攻撃するも堅牢な障壁は簡単には破れない。

 

「これで少しは時間が稼げるわ」

 

 バリアの外で化け物が攻撃を続けている。

 

「マグニ!アンタとりあえず姫様に謝んなさい!」

「へ?」

「アイツが言ってたでしょ!姫様はアンタのことを怨んでるって」

「それが、心当たりがなくて……姉ちゃんなにか知らないか?」

「私にもわからない……」

「無くても謝んなさい!」

「えぇ……。それで助け出せるならいくらでもやるけど……」

 

 マグニが謝罪し、アルティナがそれを受け入れれば攻撃を止めてくれるかもしれない。

 でも何故マグニをここまで怨んでいるのか?

 マグニ、スルーズともに心当たりはないと言う。

 なら、3人の関係を外から見なければわからない事なのかもしれない。

 デシレアはしばし沈黙したあと、口を開いた。

 

「アンタら、最近姫様と遊んだ……?」

「……いや」


 マグニが答える(かたわ)らで、スルーズはハッとした。

 帝国との戦争が始まってから、アルティナと会う機会が減ったのは感じていた。

 戦争が終わると思った矢先、より強大な八闘士が現れた。

 大切な人たちを守るため、より力をつけるために魔術の修行や訓練に明け暮れる日々。

 たまにあって話す程度ならともかく、遊ぶ機会なんて無くなってしまった。

 以前は王城に泊まって、一緒に寝ることだってあったのに……。


「2人は気づいてないかもしれないけど……姫様、最近寂しそうだったんだよね」

 

 デシレアは女王の親友であり、代々続く聖女の血族である。

 怠惰(たいだ)奔放(ほんぽう)な性格ゆえエクスにその座を譲ったが、本来彼女こそが聖女となる立場だ。

 その関係上、タダ飯目当てに王城で女王と食事することも多く、娘であるアルティナが一緒にいることも普通だった。

 強引にワルキューレのパイロットにされてからはマグニ、スルーズと同じく訓練やあれやこれやで王城で食事を取れないことも増えた。

 だがそれゆえに、デシレアにはアルティナの様子がだんだん暗くなっていくのが段階的にわかっていた。

 思い返せば、会う度にマグニとスルーズの予定を聞きにきていた。

 そしてその度にどこか寂しそうな……。

 これはマグニとスルーズにはわからない。

 2人と一緒にいない時のアルティナを知っているデシレアだから気付けたことだった。

 

「ごめんね姫様。気づいてあげられなくて」

「私たち、戦いのことばかりで大切な人が見えなくなってたみたい……」

「でも、どうして俺を……?」

 

 唯一残った疑問をマグニが問う。

 その答えだけはスルーズにも、デシレアにもわからなかった。

 2人と会う機会が減ったのならスルーズにも怨み節の1つあっていいはず。

 だが、アルティナはマグニだけを標的にしている。

 きっとまだ見落としているものがあるはずだ。

 度重なる攻撃により次第にバリアが損耗し、細かな破片が降り始める。

 

「アタシは……姫様に元気がないのは戦争が終わらないせいだと思ってた。でも、多分そうじゃない……」

 

 姫様がこうなって、マグニを執拗に襲い続ける理由は?

 姫様、マグニ、男女、寂しい。

 デシレアの中で抽出されたワードが都合よく繋がり、ある結論が導き出される。

 年頃の男女がこうなる理由なんて1つに決まっている。

 

「あ、もしかして姫様ってマグニのことが好――」

 

 デシレアがその言葉を言いかけた瞬間、バリアが破られ、触手の束によってガルディエーヌが大きく吹き飛ばされる。

 

「ぶへっ……」

 

 腰と首の骨が折れそうなほどの衝撃がコクピットを襲う。

 まるで「それだけは絶対に違う――!」と姫様が言っているような……。


 

 ――――


 

 3人が話し合っている間にもタクシャカとゴズマの交戦は続いていた。

 だが、割って入るように天から降りそそいだ火球にゴズマが吹き飛ばされる。

 

「どわぁ!?」

 

 ガルディエーヌが吹き飛ばされた近くにゴズマも倒れ込んだ。

 

「なにが……起きた?」

 

 空を見上げると、そこに浮いていた炎の塊がタクシャカの側へと降り立った。

 次第に炎は人の形を成し、真紅の闘士が姿を現した。

 ニーズヘッグ八闘士の1人、焦熱(しょうねつ)火災竜(かさいりゅう)アナヴァダッタである。

 

「やぁ、アナヴァダッタ。君もここに決めたのかい?」

 

 タクシャカが問いかけてもアナヴァダッタは無反応だ。

 コイツがこういう性格なのは知っている。

 タクシャカは一方的に話を続けた。

 

「あっちはボクの獲物だから手を出さないでね。代わりにキミの邪魔もしないからさ」

 

 タクシャカはそう言ってマグニとスルーズを指差す。

 アナヴァダッタはタクシャカを一瞥すると、肯定も、否定もせず王国へ歩み出した。

 

「OKってことね」

「ちょ、ちょっと!2体いるとか聞いてないわよ!?」

 

 2体目の八闘士の出現にデシレアが激しく狼狽する。

 ナンダとバーナンダ戦のように、八闘士を2体同時に相手にするのはカナリア達エインヘリアルが揃っていてもギリギリの勝利だったのだ。

 自分と今のゴズマだけで抑えることなんて出来るはずがない。

 ただでさえ姫様を助けるので手一杯のときに……。

 デシレアはカナリア達が一刻も早く戻ってくれることを祈るしかなかった。

 

「……」 

 

 アナヴァダッタはナーガルジュナの軍勢を呼び出し王国へと向かわせる。

 ゴズマとデシレアは応戦するもたった2人でカバーできる数ではない。

 

「ちっ!」

「数が多すぎるわよ!」

 

 大多数が攻撃をすり抜け、王国へと迫っていく。

 その様子を静観していたアナヴァダッタだったが。途端に顔をしかめることになる。

 突如、地上から発射された無数の光弾がナーガルジュナの群れを薙ぎ払い、一瞬で約半数が蹴散らされたのだ。

 

「……!?」 

 

 射線の元へ目を向けるアナヴァダッタとタクシャカの目に映ったのは、土煙を上げ疾走してくる銀色の軍勢。

 

「あれは……」

 

 鈍い光を放つ銀の甲冑に刻まれたナグルファー帝国の紋章がきらめく。

 

気焔万丈(きえんばんじょう)!誇り高き帝国の精兵たちよ!ついにこの時が来た!新たな仲間とともに、我らの国と皇帝陛下の御心を弄んだ化け物どもに、今こそ裁きを下すのだ!」

 

 足裏の魔法陣により地面を滑るように高速移動する機体からガレス将軍の激が飛ぶ。

 その後ろ、新たに複座となったコクピットにはダークエルフのダクネが同乗し、魔術系統をコントロールする。

 

「全機突撃!生まれ変わった冥鬼兵の力を見せてやれ!」

 

 将軍の号令が高らかに響き、呼応した兵士達が雄叫びを上げる。

 新生冥鬼兵(バーリム・デーバ)は怒涛の勢いでナーガルジュナ掃討を開始した。



最後までお読み頂きありがとうございます。


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