第21話1/4 惑う姫君
カナリアたちがヴァスキ捜索のために天界へ上がった頃……。
王国の姫君アルティナはそうとは知らずにスルーズを訪ねてワルキューレの格納庫を訪れていた。
格納庫ではイルとアードルフを始めとする整備士たちと、帝国から避難してきた軍人たち、そしてダークエルフたちが忙しなく動いている。
最近知らない人が増えた。
アルティナはそう思いながら、歳が近く見知った顔であるイルにスルーズの居場所を尋ねるが……。
「スルーズさんならみんなと天界へ行きましたよ。敵が見つかったみたいで」
「そ、そう……」
アルティナは沈鬱な表情で格納庫を後にした。
まただ。
また会えなかった……。
「……なんなのよもう!」
たまった不満から思わず声が出た。
八闘士が現れてから……いや、帝国との戦いが始まってからスルーズと会う機会はめっきり減った。
それに会えたと思ったら、やれマグニが怪我しただの、どう活躍しただの……マグニのことばっかりを話す。
「……」
鬱屈した気持ちを足元の小石にぶつけ、アルティナは己の過去を振り返る。
物心付いた時から、自分のそばにはずっとスルーズがいた。
兄妹もおらず立場上同世代の子供となかなか遊べない自分にとって、親衛隊長の娘であるスルーズは唯一の遊び相手だった。
優しくて、とても頼もしくて……実の姉のように想っていた。
でも……いつしかアイツが、マグニが自分たちの間に入ってきた。
森で拾われてきた、誰の子ともわからないアイツがスルーズの弟になった。
それ以来、スルーズはずっとマグニの面倒を見ている。
そして今、自分はその2つも歳下のマグニに守られている。
それが気に入らない。
もっとスルーズと……スルーズとだけ一緒に居たい。
本当はわかってる。
スルーズたちが戦わないと、この国や多くの人が死んでしまうことくらい。
私を守るために戦っていることくらい。
理屈ではわかっていても、この気持ちはどうにもならない。
それに本当につらいのはそこじゃない。
「なんで……私はダメなのよ」
真に嫌なのはスルーズの力になれない自分自身だ。
自分もワルキューレに乗って共に戦えたら、自分に力があったら……。
「お困りのようだねぇ」
頭の中で不満をループさせていたアルティナに、森の中から呼び掛ける者がいた。
「誰……!?」
黒いローブに身を包んだ、髪で片眼の隠れた人物。
アルティナは知らない。
彼が八闘士の一人、タクシャカであることを。
「キミの悩み、解消してあげるよ」
タクシャカは微笑みを浮かべ、その手に持った黒い欠片をアルティナに見せる。
「それは……なに?」
「力だよ」
力……。
その言葉に囚われた心の隙をタクシャカの催眠術が捉える。
アルティナの意識は朦朧となり無防備に歩み寄ってくる彼女の胸に、タクシャカは躊躇なく欠片を突き立てた。
「はうっ」
「ふふふ……」
突き立てられた欠片が黒い波動を放つ。
それはオークたちとの戦いでエクスが回収し、その後タクシャカの手へ渡ったニーズヘッグの一部【カース】。
カースがアルティナの身体に沈み込むと、周りから1つ目の小型モンスター龍樹が無数に現れ、アルティナの身体に群がっていく。
「む……むぐっ……!」
顔に、脚に、腕に。
身体を覆うように組み付いた龍樹により、次第にアルティナの姿は見えなくなる。
やがて山のように積み重なった龍樹の塊は形を変え、胎動を始めた。
――――
「これは……」
しばらくして、ただならぬ気配を察知したシルヴィがその場所へ辿り着いた。
そこには木々がバキバキと薙ぎ倒された異様な光景が広がっていた。
まるで巨大な怪物が暴れたような有り様に、なにか良からぬことが起きるとシルヴィは息を呑んだ。
――――
「エクスさん、俺たちもそっち行こうか?」
『いや、巨人を刺激したくない。それにいま来ると、この子たちのおもちゃにされるよ』
「うっ、それは嫌だ……」
「小僧、ちょっと来い」
「ん?」
ゴズマがマグニを呼び、2人は人気のない場所に移動する。
「ほら」
ゴズマは自身の腰に巻いていた帯を取り、魔術で小さくするとマグニへ投げ渡した。
「っと……なんだよこれ?」
「メギンギョルズ、別名力の帯。身に着けた者の力を倍にする代物だ。着けてみろ」
言われた通り腰に巻くと、マグニの身体から力が湧き上がった。
「なんだこれ……おぉぉ、すげぇ飛べる!身体が軽い!」
マグニがゴズマの身長をゆうに超える高さまで飛び上がる。
ゴズマは自身の自爆後、残骸からメギンギョルズの切れ端を見つけ出し、エクスに頼んで直してもらっていたのだ。
「でも、なんで俺に?大切なものじゃないのか?」
「今の俺が着けても意味ねえからな。やるよ」
機械の甲冑に乗り込み、操縦しなければ戦えない今の自分の力を2倍にしたところで宝の持ち腐れだ。
「ありがとう! 大切にするよ!」
飛び跳ねながら礼を言うマグニを見て、ゴズマはある事を思い出していた。
あれはラグナロクの直前……。
――――
「実はなゴズマ、もうじき俺の子供が生まれるんだ」
酒を酌み交わしながら、雷神トールは嬉しそうにゴズマへ秘密を明かした。
「ほう、そいつはめでてぇ」
「し・か・も、念願の男の子だ!」
「ほぉ~そいつはいい。アンタの子供ならきっと強いんだろうな!」
「あぁ、きっと俺よりも強くなる」
そう言いながら夜空を眺めるトールの顔には未来への希望が溢れていた。
「偉大な戦士に」
「未来の雷神に」
2人はジョッキを合わせ、更に酒をあおった。
――――
(そういや、子供がどうなったのか聞いてねえな……)
もしかすると、眼の前の少年が?
いや、そんなはずはない。
あれから何百年も経っているのだ。
「小僧、お前は……」
「2人ともすぐに戻ってきて!王国に八闘士が現れた!」
ゴズマの声を遮るようにスルーズから通信が入る。
「なんだと!?ちっ…… 行くぞ小僧!」
「お、おう!」
2人は駆け出し、ビフレストへ向かった。
――――
王国の正面に佇むタクシャカ。
人々が慌てふためき、守備戦力が居ないにも関わらず、彼は行動を起こさない。
まるで誰かを待っているようだ。
そこに光の柱が降り注ぎ、マグニたちが現れる。
「タクシャカ!また来やがったか!」
「待っていたよ。おや?いつものあいつらは居ないのかい?……そうか、ヴァスキのところへ行ったのか。これは都合がいい」
都合がいい。
タクシャカの言う通りカナリアたちが居ない以上、この4人で八闘士を抑えなければならない。
今まで八闘士に勝ててこれたのは全てエクスとエインヘリアルたちのおかげだ。
ワルキューレ3体と今のゴズマでは戦力は心もとない。
この国を攻めるには都合がいいだろう。
だが、マグニたちの考えとタクシャカが指し示す内容は違っていた。
「いったい何しにきやがった!?」
「ふっ、今日は君たち二人にプレゼントを用意したんだ」
タクシャカがマグニとスルーズを指差す。
「俺たちに……?」
「気に入ってくれるといいな」
タクシャカがパチン、と指を弾くと森の木々が慌ただしく揺れ始め、そこから大きな影が飛び出す。
「うおっ!?」
影は一直線にランヴェルスへ組み付いた。
「グアアアアァァァル!」
「なっ……なんだ、こいつ!?」
影の正体は醜悪でグロテスクな姿をしていた。
6本の脚に、4本の腕。
人間の皮膚が爛れたような汚い乳白色と血のような赤黒い色の塊が狼のように噛みつく動きを見せる。
コクピットに大きな口、そして巨大な牙が迫る。
「離れろ!」
マグニは化け物を殴り返す。
「ギャアアアアアアア!」
ランヴェルスの拳が化け物の首にめり込み、出血させると化け物はまるで女性の叫び声のような悲鳴を上げ、よろめく。
「!?」
醜悪な見た目には不釣り合いの叫びにマグニは驚き、その隙に化け物は体勢を立て直した。
「どこに……いるの?マァグニ……マグニィ……!」
「喋った!?」
大きな牙を剥き出しにした、人語を喋るとは到底思えない化け物から声が響く。
「マァグニ……マグニィ……!」
唸るようにマグニの名を呼び続けるその声にマグニとスルーズは聞き覚えがあった。
「あの声、まさか……!?」
「ご明察」
タクシャカが指を弾くと化け物の頭部が開く。
中から現れたのは衣服がボロボロになり、変わり果てた姿で肉壁に囚われているアルティナだった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
今回よりばら撒いた伏線を回収していく段階に入りました。
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