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天霊戦騎エインヘリアル  作者: 九澄アキラ
第20話「本当の調和」
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第20話3/4 嵐の予兆

「ちっちゃーい!」

小人(こびと)さんだー!」

「妖精さんだよ!」

(君たちが大きいんだよ……)

 

 エクスは少々引きつった笑顔で子供たちに手を振る。

 カナリアたちが森に入った頃、里の広場では子供たちがエクスをひと目見ようと、切り株の上の虫かごを取り囲み騒いでいた。

 

「ボクにも見せてよー!」

「さわらせてー!」

「だめだよ!アゾ姉からひとじち?だから預かるように言われてるんだ」

「そうだ。見るだけにしろ」

 

 伸びた手から虫かごを庇うようにキゾが子供たちの手を遮る。

 後から来たスコーグも子供たちに注意し、別の切り株に腰を下ろした。

 

『エクスさん、俺たちもそっち行こうか?』

 

 天界で待機しているマグニから通信が入る。

 

「いや、巨人を刺激したくない。それにいま来ると、この子たちのおもちゃにされるよ」

『うっ、それは嫌だ……』

 

 2人が話している間にスコーグは子供たちを座らせ、質問は一人ずつするように諭した。

 

「はいはーい!妖精さんはどこから来たのー?」

 

 まず手を上げた少女が元気に質問を投げかける。

 

「ここからずっと南にあるイーダウォール王国だよ」

「それどんなところー?」

「とても綺麗で……そうだ!せっかくだから映像で見せよう」

「えいぞー?」

 

 エクスは自身が乗っていたワルキューレを遠隔操作で飛翔させ、広場に降下させる。

 子供たちが驚き、スコーグも警戒して斧を向ける。

 ワルキューレはそのまま地面に座り込み両手を広げ、両掌の魔法陣から空中に映像を投影し始めた。

 

「なにこれー!?」

「絵が動いてるー!」

 

 映像には王国の風景、そこに住む人々が映し出されている。

 

「これがイーダウォール王国だよ」

「きれ~」

「大きなおうち~!」

「小人のだから小さいよ」

「行ってみたーい」

 

 初めて見る映像に子供たちの心が沸き立つ。

 スコーグも同様、監視を忘れるほど映像に眼が釘付けになっている。

 エクスはこれまでの自分たちのあらすじを説明し始めた。

 

「この王国にはかつて国を守ったエインヘリアルの石像が(まつ)られていた。そこにナグルファー王国が冥鬼兵と呼ばれる人型兵器で攻撃を仕掛けてきたことで、エインヘリアルのカナリアが蘇ったんだ」

 

 カナリアと冥鬼兵の戦いを子供たちは興奮した様子で見つめている。

 

「それから帝国との戦いで多くの仲間が加わった。でも、実は帝国の人々はある存在によって操られていたんだ。それがニーズヘッグ八闘士の一人、タクシャカ。タクシャカはかつての巨人の王、スルトルを復活させ帝国を滅ぼしてしまった。さらに時空を超え、かつてエインヘリアルを狩っていた龍狩りの騎士ゲオルギウスが現れ、蘇った八闘士との新たな戦いが始まったんだ」

 

 画面には八闘士達との戦いの記録とともに、彼らが作り出した地獄の光景も映し出されていた。

 

「こわーい!」

「あんなのがここに来てるの!?」

 

 子供たちが怯えた声を上げ、泣き出しそうな子もいる。

 

「おい、子供たちを怖がらせるな!」

「ご、ごめん」

 

 そんなつもりでなかったエクスは慌てて八闘士を撃破する映像に切り替える。

 

「でも大丈夫、これまで私たちは八闘士を3体も倒してきた。今度も倒して、君たちを守ってみせるよ」

「悪いやつらが来てもおいらがやっつけてやる!」

 

 映像を見て興奮した子供の一人が掌を宙に向けると炎がボワっと吹き出し、エクスは目を見開いた。

 

「へ……?」

「わたしもやっつける!」

 

 今度は女の子の掌から冷気が吹き出し、その隣の子は葉っぱが渦巻く小さな竜巻を起こしている。

 それぞれ炎、氷、山の巨人に備わった能力だ。

 

「巨人はみんな、ああいうことができるの!?」

「そうだよ。俺もこうやって……ほら!」

 

 キゾは両腕に冷気を(まと)わせ氷の拳を作り出しエクスに見せつけた。

 

 「へぇー、みんなすごいね」

 

 巨人が皆こういう能力を使えるのならエインヘリアルと戦えたのにも納得がいく。

 それにもし、彼らが仲間になってくれらた心強いことこの上ないとエクスは胸を高鳴らせた。

 


 ――――

 

 

「うっ……さっきから虫が多いな」

 

 眼の前を飛ぶたくさんの羽虫にヒョウガは顔をしかめ、払い除ける。

 探索を初めて30分、森の奥に行くにつれ虫の数が多くなっていく。

 豊かな森ということなのだろうが……ヒョウガは虫の類が苦手だ。

 

「森なのだから当たり前だ」

「あんたら平気なのかよ」

「身体に虫除けを塗っている」

「それ、俺にもくれ!」

 

 後ろ歩きで手を差し出すヒョウガ。

 ゴウカはアゾネに「渡してもいいか」と視線を送る。

 

「くれてやれ」

「……ほれ」

 

 ゴウカは小さな壺を取り出すと中身のペーストをヒョウガの掌に落とした。

 

「うぇっ……これか?」

「身体にすり込め」

 

 ドロリとした濃緑色のペーストにヒョウガは顔をしかめる。

 だが、顔や身体に刷り込んでいくとハーブのような良い香りがした。

 

「あ……なんかいいかも、これ」

「なんだ?ここは……」

 

 ヒョウガが自身の腕の匂いを嗅いでいる傍ら、カナリアとクライオーネは現れた不思議な光景に目を奪われていた。

 

「船がたくさん……」

 

 そこはいくつもの朽ちた帆船(はんせん)が木々に隠れ佇んでいた。

 

「これ、巨人たちが使っていた飛行船か」

「お前、これが飛んでるの見たことあるのか!?」

 

 船に近づくカナリアの言葉に、ゴウカが食いつく。

 この船たちは彼らが生まれる前からここにあるもので、昔はこれで空を飛んで天界へ攻め込んだというおとぎ話のような伝承だけが残っているだけだったからだ。


「あぁ、乗り込んだこともある」

「マジかよ。話でしか聞いたことなかったぜ」

「……そうか。本当に飛んでいたのだな」

 

 カナリアの話にアゾネも感慨深い表情を浮かべる。

 

「動かないのか?」

「飛ぶために必要な浮き袋がない」

「浮き袋?」

「この船を浮かすための材料だ。かつては空に浮かぶ玉のような魚から獲っていたらしいが、今では見かけなくなってしまった。残っているものも破れていて使えない。元々、劣化したら新しいものに変えるものだったようだ」

「今は物置として使ってる。……ん?」

 

 ゴウカの鼻先を小さな虫が通り過ぎる。

 ハエに似た姿だが、頭部には鋭い角がいくつも生えており、その羽音はブフ……ブフフフと笑い声のようだった。

 

(見たことのない虫だな……)

 

 虫はヒュンヒュンと飛びながら森の中へ消えていった。

 

「ゴウカ、行くぞ」

「お、おう」

 

 かすかな違和感を覚えながらもゴウカはそれ以上気にすることはなく、アゾネとカナリアたちを追いかけた。

 


 ――――

 


 エクスは子供たちと交友を続け、人間の世界のことを話したり、ワルキューレに興味を持った子供の頭を遠隔操作で撫でたりしていた。

 

「……ん?あ、カブタン!」

 

 キゾがゴソゴソとした物音に振り返ると、倒木の上にカブトムシのようなモンスターがどっしりとしがみついていた。

 

「お腹すいたのか?」

 

 キゾは嬉しそうな顔でズボンのポケットから蜜の入った瓶を取り出し、栓を開ける。

 モンスターは口元に寄せられた壺の中身へブラシのような口を伸ばし、舐め始めた。

 

「そ、そのモンスター……飼ってるの?」

「うん。前はその虫かごに入れてたんだけど、大きくなってきたから外に出したんだ」

「危なくないのかい?」

「全然。こいつ、他の虫から食べられそうになってたところを助けたんだ」

 

 彼がカブタンと呼んでいるの虫は、王国ではティタノビートルと呼ばれ恐れているモンスターだ。

 その体格ゆえに移動するだけで人間を吹き飛ばし、脚の爪で斬り裂かれれば致命傷になりかねない。

 それが巨人の里ではペットのように可愛がられている。

 そういえば里に降りた時、放牧をしている区画があった。あそこにいたのもモンスターだ。

 大きさが違うだけでこうも違うのだと、エクスは深く感じ入った。

 

「ん……?」

 

 スコーグはざわざわとした不吉な気配を感じ、立ち上がった。

 

「森の様子が変だ……」

 

 それは森の奥から漂ってきている。

 見つめていると、黒い波のようなものが森から一斉に沸き出してきた。

 

「お前たち!家に戻れ!」

 

 危機を察知したスコーグが子供たちへ逃げるよう叫ぶ。

 だが子供たちが事態を把握するより早く、黒い波は里を飲み込んだ。

 

「これは……虫か!?」

 

 黒い波の正体は無数の虫だった。

 大群で嵐のように飛び回り、子供たちがパニックに陥る。

 

樹海壁(じゅかいへき)!」

 

 スコーグは地面から円状に幹を生やし、子供たちを守るドームを作り出した。

 中に入り込んだ虫もスコーグとワルキューレによって処理され安全が確保されたかに思えたが……。

 

「カブタン!?」

 

 尻もちをついたキゾが戸惑った表情でカブタンを見つめる。

 カブタンの目が赤く染まり、暴れ始めたのだ。

 

「キゾ、どけ!」

「ダメだよ!カブタンは俺の友達なんだ!」

 

 槍でカブタンを突こうとするスコーグをキゾが制止する。

 

「私に任せて!」

 

 エクスはワルキューレを介し魔術の縄でカブタンを縛り上げ、傷つけることなくドームの壁に括り付けた。

 

「いったい何が起こっている……」

 

 外ではまだ虫たちが飛び交っている。

 身動きが取れない彼らは状況に変化が訪れるのを待つしかなかった。

 

 

 ――――



「なんだこの虫は!?」

 

 里が襲われているころ、カナリアたちもまた虫の嵐に飲み込まれていた。

 

「ええい、鬱陶(うっとう)しい!」

 

 ゴウカが口から炎を放ち、周りの虫を焼き尽くす。

 ほとんどの虫は燃え尽きたが、高熱をものともしない異形の虫たちがゴウカ目掛けて突撃し、その肉を抉った。

 

「うぐぁっ!」

「ゴウカ!?」

「こ、こいつらは!?」

 

 ゴウカの皮膚を食いちぎった複数の虫は先ほど彼が見かけた不思議な虫だった。

 たまらず膝をつくゴウカに再び虫が迫る。

 

氷嵐(ひょうらん)!」

「フリージングウェーブ!」

 

 アゾネとクライオーネが同時に冷気の衝撃波を発し周囲を凍てつかせる。

 異形の虫もたまらず吹き飛ばされ、ひとまず安全が確保されたが森の上空にはまだ虫の大群が蠢いている。

 里を襲っていた虫たちも合流し、ひとつの塊となった虫たちはやがて巨大な人型を形成していく。

 

「ブ()フフ()フ……」

 

 カナリアたちが見上げるほどの巨体から(いびつ)な声が辺りに響きわたり、ニーズヘッグ八闘士が一人、ヴァスキが姿を表した。



最後までお読み頂きありがとうございます。


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