第19話3/3 決意の剣
人として生きたい――。
カナリアのその叫びにバルドル、エクスは驚きつつも納得の笑みを浮かべた。
「俺たちはエインヘリアル! この世界の調和を守るため……俺たち自身の願いのため、お前たちと戦う!」
「ふはははっ、見事だね。本当に見事だ。羨ましいよ」
堂々と見得を切ったカナリアに、タクシャカは拍手を送る。
「でも勝てるかな?……自分自身に」
マハーナーガが泥を再び纏い、カナリアたちを模した黒い姿へと変貌を遂げる。
「こいつらはキミたちの力をそのまま再現している」
「魂のない人形に、俺たちが倒せるか!」
3人は自らのコピーと戦い始める。
その脇を抜け、エクスとゴズマはタクシャカへと立ち向かう。
「タクシャカ! 今日こそ私の身体を返してもらう!」
「前にも言ったけど、出来ない相談だね!」
エクスは自身の半身を奪ったタクシャカへ怒りをぶつけ、ゴズマは慣れない甲冑を操作し殴りかかる。
「趣味の悪いことしやがって!」
「あれぇ?キミは動揺してないのかい?」
「俺が何から生まれようが知ったことか! どんな惨めな姿になろうが、闘うだけだ! エインヘリアルとしてなぁ!」
「単細胞はからかい甲斐がなくてつまらないねぇ。……そらっ!」
「うおっ……どわぁ!」
甲冑の足を払われ、ゴズマが転倒する。
自身の身体と違い、甲冑は操作しなければならない分、反応が遅れる。
こういう事に慣れていないゴズマにとっては、立ち上がるのすら面倒な操作だ。
さらに繰り出される追尾光弾、魔術障壁、幻影……。
エクスとゴズマがタクシャカの魔術に翻弄されている頃、カナリアたちは己のコピーと技をぶつけ合っていた。
「蒼炎紅蓮斬!」
「メテオ・グレイシャー!」
「斬滅光輪!」
コピーは全く同じ技を、同じ威力で返してくる。
「アイツの言った通り、力は互角ってか」
ヒョウガが苛立つ。
だが、彼らには心がありコピーにはない。
それは大きな差だった。
「ヒョウガ! 姉さん! 俺たちの心を燃やすんだ!」
激昂し、コピーに勝る力を振るうカナリア。
いくら能力をコピーしようが、心のない存在に激昂することは出来ない。
「負けちゃいられねえな!」
「今の私たちなら、きっと! ……はあああああっ!」
「うおおおおお!」
気合を入れるヒョウガとクライオーネの身体から闘気が迸る。
凝縮された気が半透明の鎧となり、2人は激昂ヒョウガ、激昂クライオーネへと変化を遂げた。
激昂ヒョウガの3重になった腕のブレードが光る。
脚には黄金のブーツを履き、首元からは2対の大きなマフラーがなびく。
クライオーネは頭部に冠と背面に後光のような光輪が装着され、トライデントへと変化した杖を構える。
「ギャオォッ!」
唸り声を上げ、コピーヒョウガが高速移動で斬りかかるも、斬りつけた瞬間ヒョウガの姿は消えた。
「遅いぜ」
直上からの声。
見上げたコピーヒョウガの眼に、逆さまになって空中に静止するヒョウガが映る。
自身を創造した神から与えられた、どんな場所でも歩いていける黄金のブーツ。
その力を使い、ヒョウガは空中を走り、跳び、コピーと激しく斬り結んでいく。
「シャアアアッ!」
コピーが打ち出したつららの魔術がクライオーネに迫るも、背部の光輪が触手のように動き、術を打ち砕いていく。
「術が甘いわね。お手本を見せてあげる!」
トライデントを振るうと光輪の触手が連動して複数の魔法陣を描き、吹雪、つらら、複数の術が同時にコピーを襲う。
「グギャアアアッ!」
心の強さで己の模造品を蹴散らす3人。
だが、彼らの意識はすでにその先へ向いていた。
「カナリアも姐さんも、これで満足してねえよな?」
「あぁ、こいつらに勝つだけじゃだめだ!」
「私たちが倒さなければならない相手は……ゲオルギウス!」
本当に乗り越えなければならない敵、それはあのゲオルギウス。
あの大凶刃に打ち勝つため、もう二度と負けないために……。
3人は強い決意を込め、新たな技を発動させる。
「幻影殺・刃輝一閃!」
さらに速度の上がったヒョウガの高速移動が無数の分身を生み出し、一斉にコピーへ斬りつけ粉微塵にする。
「グリーディ・バッカルコーン!」
コピークライオーネの脚元に現れた魔法陣から伸びた触手が、冷気とともにコピーを空中へ放り投げる。
「咲けよ氷華!極大氷結魔法!フロス・スティーリア!」
無防備になったコピーの周囲を無数のつららが取り囲み、次々に突き刺さっていく。
刺さり続けるつららは次第に氷の花を形成し……。
「散華!」
弾け飛んだ。
「2人の力を俺に!」
ヒョウガとクライオーネの激昂装甲の一部が外れ、カナリアの剣へ合体する。
「ゲオルギウス!これが俺たちの答えだ!」
カナリアが剣を振り上げると周囲に五芒星を描くように5つの巨大な魔法陣が展開し、それぞれから巨大な光刃が発生する。
「破龍・星烈斬!」
五芒星の中心、光刃の輝きに照らされたカナリアが剣を振り下ろし、星と星を繋ぐ5つの光刃がコピーカナリアを一斉に斬り裂く。
破龍……ゲオルギウスを撃ち破る決意の剣が模造品の身体を跡形もなく消滅させ、爆発の光が3人を照らした。
「あーあ、やられちゃった。またね」
「待てっ!」
タクシャカはマハーナーガが撃破されたのを確認すると、闇となって姿を消した。
またも身体を取り戻すことが叶わず、エクスは歯噛みする。
だが、今の戦いで戦闘データは確かに蓄積された。
次こそは必ず……。
「よっしゃあー! どうよ、激昂した俺は!」
「やったなヒョウガ、姐さん」
「私たち自身の願いの強さが、きっかけになったのかもしれませんね」
ヒョウガは初めて激昂態になれた喜びではしゃいでいる。
激昂はエインヘリアルとして一人前になった証。
落ち着いているが、クライオーネも内心は同じだ。
「ひよっこだったお前らも、ようやく一人前ってことか……」
「おっさんも安心したろ。これからは俺たちに任せて休んでていいんだぜ?」
「バカ言え。どんな姿になろうが、俺は最後まで戦士だ」
ちんちくりんになってもゴズマの心の炎はいまだ消えていない。
「おっちゃん、本当にありがとう」
「神として、これくらいはしてやらねえとな」
「でも、どうしてニーズヘッグの事を話した時に本当の事を言わなかったんだい?」
「そりゃあほら……俺の優しさだよ」
「なんだよそれ」
エクスの問いにバルドルは気まずそうに応え、カナリアは苦笑した。
「叶うといいな。お前の願い」
「あぁ……」
「それじゃ、助けたお礼に地上の酒を呑ませてもらおうか!」
「腹減ったぁ~!」
バルドルを先頭に、王国への帰路につく一同。
カナリアも後を追おうとした時――。
(繋がりを忘れるな……)
「師匠……?」
澄んだ青空から、師の声が聞こえた気がした。
――――
その夜――。
天界では解析中だった破片の解析と復元が完了した。
それは半月状の刃を持つ斧のようでもあり、刃の分厚さから鎚のようでもあった。
そして、鈍く銀色に輝く硬質な表面にはこう刻まれてあった。
ミョルニルと――。
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