第19話2/3 エインヘリアルの正体
ゲオルギウスとの戦いから数日後――。
「見てみてゴズマ!」
「なんだ、こりゃ?」
イルに連れられ格納庫にやってきたゴズマの眼に、頭部のない銀色の甲冑が映る。
「ゴズマ用の戦闘服だよ!」
「これが、俺の……?」
「乗り込んで動かすの!ほら、ここに座って」
「お、おい!」
甲冑の背中が開き、操縦席が現れる。
ゴズマはイルに背中を押され、強引に乗せられる。
「レバーを引いて」
「うおっと……!」
言われるがままレバーを動かすと、背中が閉まり甲冑が立ち上がった。
起立したその姿は、以前のゴズマの体躯を彷彿とさせる力強いフォルムを誇る。
「ワルキューレの仕組みを応用したの。フレームは巨人の骨の代わりに月鋼でね」
「つまり、俺にこれで戦えって?」
「そう」
「こんなもんでなぁ……」
こんな機械に頼って闘うなど自分らしくない。
だが、こうでもしなければ闘えない身体になってしまったのもまた事実。
足元のペダルを踏み込むと、甲冑が前進を始める。
自身の体ではない五体を両手のレバーと両足のペダルで操作する。
経験のない行為だ。
それでもゴズマは再び戦うため、新たな死に場所を見つけるため、イルに指導されながら操作を続ける。
「ゴズマさんって、イルちゃんの言うことなら聞くんですねぇ」
「旦那のやつ、あんな姿になってもまだ戦う気かよ」
「あの折れなさ、俺たちも見習わないとな」
「あ、エクスさん。ランヴェルスもう治った?」
「まだかかるよ。今、動かせるのはトライアンフだけ」
「手酷くやられたもんねぇ」
各々特訓から戻ったエインヘリアル3人がそれを眺め、やがてエクス、マグニ、スルーズも集まってきた頃――。
「やぁ、お揃いかい?」
彼らにとって、最も忌々しい声が聞こえた。
「お前は……タクシャカ!」
格納庫を覗くようして現れたタクシャカが、ずけずけと中に歩を進める。
「てめぇ、何しに来やがった!?」
「あれぇ?君、生きてたの? ……まいったなぁ、君の分は持ってきてないんだよなぁ」
「何を言ってやがる!?」
存命のゴズマに予想外とばかりの顔をするタクシャカ。
「タクシャカッ!」
そこへ銃を構えたエクスが走り出す。
「おっと、今日はキミたちに用はないんだ。大人しくしていてもらおうか!」
「なっ!?」
エクス、ゴズマ、ワルキューレ操者たちが一斉に魔術の紐で拘束される。
「ついてきなよ。ここで戦いたくはないだろ?」
「待て!」
タクシャカはエインヘリアルの3人に呼びかけ、人気のない場所まで移動する。
「この辺りでいいか」
「ついに決着をつける時が来たな、タクシャカ!」
「ん……? ボクにその気はないよ。今日は君たちに見せたいものがあるだけさ。……はっ!」
タクシャカが出現させた3つの魔法陣から、全身が鋭利に尖った見たこともない怪物が現れた。
「なんだ、そいつらは!?」
「これはマハーナーガ。ナーガルジュナの上位種さ」
「あいつら……ニーズヘッグの映像で見たやつだぜ」
天界で見た過去のニーズヘッグの映像。
そこには天を覆うナーガルジュナの他に、何体ものマハーナーガが大地を蹂躙する様が映っていた。
「でも、見せたいのはこいつらじゃないんだ」
タクシャカが腕を振ると、マハーナーガの表面が泥のように溶け、黒い地肌に金のラインが走る人型の素体が現れた。
見た目は人の形をしているが眼や口に当たる部分はなく、泥を纏っていた時の生物的な姿形とは対照的に、無機質で機械的だ。
表情がなく微動だにしないその様子はまるで、魂の入っていない人形のように見える。
「なんだ、そいつらは?」
「ふふふ、なにって……これは君たちさ!」
「はぁ……?なにを言ってやがる!」
タクシャカの突拍子もない発言に、ヒョウガから呆れた声が漏れる。
「あれが俺たち?」
「何を証拠に、そんなことを……」
当然、3人は信じようとしない。
その反応を見てククク……と嗤うような仕草でタクシャカはマハーナーガの掌をカナリアたちに向けさせる。
「この手に見覚えはないかい?自分の手を見てみなよ」
「……あ!?」
カナリアは思わず自分の掌を見る。
マハーナーガの掌に刻まれた金の紋様、それはカナリアたちエインヘリアル全てに共通するものであった。
「それにこの腕の紋様、キミがゲオルギウスに傷を負わされた時に見えたのと同じだ。どうやったかは知らないけど……君たちは間違いなく、このマハーナーガを元に生み出された存在!ボクたちの仲間だったんだよ!」
「なん……だと?」
タクシャカの言葉に3人は動揺する。
それが本当なら、エインヘリアルそのものが……。
「ゲオルギウスが君たちを執拗に狙ったのも、マハーナーガである君たちを殺してエネルギーを回収するためだろうね」
「信じられるか!そんなこと!」
カナリアはタクシャカの言葉を手を振り払い否定する。
「なら何故、君はこの世に蘇った。何百年も死んだように眠りながらも朽ちもしない。その不死性そのものがボクたちの眷属たる証拠さ!」
「ぐ……」
それで理屈は通るのかも知れないが、感情では受け入れられない。
「じゃあもう1つ、面白い話をしよう。君は初めて帝国に来たとき、戦争にならないよう皇帝へ訴えていたね。……なのに突然暴れだした。あれ、どうしてだと思う?」
「どうして……って」
カナリア自身も、あの時の自分の行動にはずっと疑問を持っていた。
あの行動がなければ、帝国との戦いはもっと穏便に済んでいたかも知れない。
だが、なぜタクシャカが今さらこの話を切り出したのか、カナリアには分からなかった。
「あれはね、ボクがキミを操ってやらせたんだよ!」
「なんだとっ!?」
「ボクは生物の感情を操ることができる。あのまま和平なんてつまらないからね。一芝居打ってもらったんだ」
「そうか……。全部、お前の掌の上だったってことか。……タクシャカ、お前だけは許さない!」
「ずいぶん術が効きやすいと思ってたんだけどそれはそうだよね。君はマハーナーガ、僕らの仲間だったんだから!」
カナリアの怒りをさらに煽るように、タクシャカは挑発を続ける。
「ふざけるな!俺たちはお前らとは違う!」
「そうかな?」
3人の動揺を突き、マハーナーガの脚元で蠢いていた泥が襲いかかり、まとわりつく。
「うわっ!」
「なに、これは……!?」
「このっ……離れやがれ!」
「ボクらの仲間になりなよ……」
泥は3人の身体を取り込むように侵食していく。
――――
「おい、まだか!」
「もう少し……」
その頃、格納庫では拘束を脱したエクスがゴズマの甲冑の術を外そうとしていた。
「よし外れた! 次は……」
「エクスさん! 俺たちはいいから、はやくカナリアたちを助けに行ってくれ!」
カナリアたちとタクシャカのやりとりを通信で聞いていたエクスもそれが最善だと判断し、トライアンフへ乗り込んだ。
――――
「ぐ、うう……」
自我が薄れ、闇に堕ちていくような感覚がカナリアを苛む。
自分たちがニーズヘッグから生まれたなら、これまでの戦いはなんだったんだ。
人として死に……エインヘリアルとなってからも多くの戦いと別れを経験した。
力尽き、再びこの時代に蘇って守りたいものがまた出来た。
なのに……全ては無意味だったのか?
「俺は……、俺は……」
必死に抵抗しようとするも、3人の意識は徐々に侵食されていく。
「カナリア!……うっ!」
格納庫から飛び出したエクスとゴズマが援護に入ろうとした時、天から虹色の光が降り注いだ。
中から現れたのは天界の神々唯一の生き残りである光の神、バルドルだ。
「おりゃああっ!」
飛び上がったバルドルが、身体からまばゆい光を放つ。
「うっ!?」
タクシャカも怯むほどのまばゆい光がカナリアたちの精神汚染を打ち消す。
「カナリア!」
「バルドルの……おっちゃん」
「あいつが言ったことは確かに事実だ! 親父たちはニーズヘッグを封印した後、残されたあの人形を使ってお前たちを生み出した。巨人に対抗するためにな!」
(ほう……?)
タクシャカも話に興味があるのか、邪魔立てすることなく静かに耳を傾ける。
「じゃあ俺たちは本当に……」
「だが、そんなことは関係ねえ!もうお前らは自由だ!」
「自由……?」
「たとえその身体がニーズヘッグから生まれ……神に造られたとしても、お前たちの心はお前たちのもんだ!お前たちがどういう存在で、どう力を使うかは、どうやって生きるかはお前ら自身で決めていいんだ!」
「俺たち……自身で」
バルドルに続き、エクスも呼びかける。
「そうだ!思い出すんだカナリア! 君たちがこれまでなんのために戦っていたのかを! 誰を守りたかったのかを! エインヘリアルの使命じゃない……君たち自身の願いを!」
「俺自身の……」
カナリアに過去の記憶がフラッシュバックする。
家族と過ごした日常。
仲間と鍛錬に励んだ日々。
あの娘と……ミーナと過ごした温かい時間。
重なる過去と現在。
(ソラ……)
ミーナと重なる、エルダの笑顔……。
(そうか……俺は……!)
カナリアはようやく、自身の望みに気付いた。
エクスに言われた通り、それは無意識に諦めていたこと。
だけれど、出来るならもう一度その時間を持ちたい。
そう強く願う、心からの想い。
「うおおおおおおぉっ!」
叫びとともに、金色の輝きが纏わりついていた泥を弾き飛ばし、3人は力強く立ち上がる。
「そうだ……私は、世界中に魔術を広めたい!」
「俺は世界中を走り回りたい!」
ヒョウガとクライオーネがそれぞれの願いを叫び、カナリアも大きく息を吸う。
「やっとわかった……」
そうだ。出来るならもう一度……。
「俺は……人として生きたい!」
カナリアは強く、心の底からその言葉を叫んだ――。
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