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天霊戦騎エインヘリアル  作者: 九澄アキラ
第17話「鮮血の森!殺刃鬼婦人サーガラージャ」
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第17話4/4 母なる森

 獰猛(どうもう)なる本性を現したサーガラージャとカナリアが激しく斬り結ぶ。


「そらそらっ!ヒャハハハッ!」

「くうっ……!」


 挟み込むように振られた刃を、カナリアは剣と盾で受け止める。

 だが、続けざまにサーガラージャの背から生えた3対6本の多脚がカナリアを次々に斬りつける。

 先端がチェーンソーのごとく躍動(やくどう)する刃は、触れただけで容易く獲物を傷つける。


「ぐ、う……っ!」

「アハハハッ、腕が2本だけだと大変だねぇ!」

 

 白い甲冑が血飛沫で汚れ、斬り裂かれた翼から羽根が舞い散る。

 膝をついてもなお、カナリアは盾を構え、必死に打開策を見出そうとする。

 

「やめろ、不埒者(ふらちもの)!」

「あぁ?」


 その時、響いた怒声がサーガラージャの足を止めた。


「ダクネ!?」


 気付けば、ダクネがバリアの外に出ていた。

 森の全てがサーガラージャの支配下にある今の状況では、いつ木々が襲ってくるかもわからない。危険極まりない行為だ。


「なんだい、アンタは?」

「私はダークエルフの長、ダクネ。よくも我らの母なる森を(けが)してくれたな!この森全ての生命を代表し、必ずや貴様を葬る!」

 

 それでもダクネはサーガラージャへ剣を向け、怖じけることなく啖呵を切った。


「虫けらが……」


 取るに足らない下等生物。

 縛り上げるか、叩いて潰そうか。

 見下しながら、余裕ぶった笑みを浮かべるサーガラージャ。

 だがその嘲笑は、ダクネの発した次の一言で消え去ることになった。

 

「自分の姿を観たことがないのか? 私には虫けらよりも醜悪な顔に見えるがな」

「っ……!こいつぅっ!」


 自身の芯に刺さる煽りに、怒り狂ったサーガラージャが刃を振り上げる。

 木々など使わぬ。

 己が手で直接叩き斬らなければ、満足できるものか。

 

「オラァッ!」

「ぎゃぶっ!?」

 

 だが刃を振り下ろすより早く、その身体は赤い閃光に跳ね飛ばされた。


「ふぅ、やっと戻ってこれたぜ」


 土埃(つちけむり)の中からヒョウガが姿を現す。

 

「ヒョウガ!どうやって!?」

「腕のブレード外したんだよ」

 

 ブレードに毒を打ち込まれ、高速回転し空に消えたヒョウガは上空でブレードを分離し戻ってきたのだ。


「ぐっ、貴様ァーッ!」

「おっと、後ろにご用心!」

「なにっ……?ぐぎゃああっ!?」


 起き上がったサーガラージャを背後からのブレードが斬り裂いた。

 多脚の半数が喪失し、断面から激しく血が噴き出す。


「はっ!」

 

 ヒョウガのブレードがいまだ毒で操られているのを察したカナリアは、すれ違いざまに炎剣でブレードを熱し、浄化されたブレードはヒョウガの腕へ戻った。


「サンキュー、カナリア」

「形勢逆転だな」

「舐めてんじゃないよぉっ!」


 サーガラージャは戦意衰えることなく、カナリアとヒョウガに襲いかかった。

 


 ――――



「ダクネ、どうしてこんな危険なことを……?」

「少しでも奴を油断させられないかと思ってな。それより、どうすれば奴を倒せる?」


 ヒョウガが加わってもサーガラージャは森の木々を巧みに操り、互角の戦いを繰り広げている。


「考えがある」


 ダクネとともにバリアの中に戻ると、自身の作戦を伝えた。

 

「私たちの力で毒を浄化する」

「だが、森全体を浄化するとなると、我々だけの力では……」

「大丈夫、あの子たちがいる」


 オークの子供たちを見るエクス。

 その意図を察したダクネは子供たちに近づき、呼びかける。


「お前たち、森を取り戻したいか?」

「う、うん……」

「いいか。あいつはお前たちが怖がり、怯える姿を見て楽しんでいる。だから、あんなやつに負けるな。強さに負けるな。お前たちが強く願えば、ここは元の綺麗な森に戻る」


 ダクネの言葉に、子供たちはその瞳に確かな意思を宿らせ頷いた。



 ――――



 ヒョウガが高速移動でサーガラージャの周囲を駆け回る。


「後ろに目はねえだろ!」

「いくつあると思ってんだバァカ!」

「がはっ……!」


 背後から斬り掛かったヒョウガが弾き飛ばされる。

 頭部を囲むように並んだ眼から、サーガラージャは周囲全ての動きを捉えている。

 

「本命はこっちだ!蒼炎(そうえん)紅蓮斬(ぐれんざん)ッ!!」


 だが、眼がいくつあったとしても身体は1つしかない。

 ヒョウガに意識が向いた隙を突き、カナリアの必殺剣が放たれる。


「ぬうう……があああぁっ!」


 受けきれなかったサーガラージャの身体が斬り裂かれ、撒き散らされた血飛沫がカナリアとヒョウガに降り注ぐ。


「やったぜ!……うっ!?」

「ぐっ……、これは……!?」


 突然、カナリアとヒョウガは激しい目眩と身体の痺れに襲われた。

 手足の力が抜け、身動きが取れない。


「やっと、効いてきたようだねぇ……」


 血まみれのサーガラージャが、ゆっくりと起き上がる。


「なにを……した?」

「アタシの体にはね。地獄の河が流れてるのさ、すなわち猛毒の血さね」

 

 カナリアは身体を燃やし、毒を浄化しようとするも効果がない。

 

衆合(しゅごう)瞋恚(しんい)の毒……。あんたの炎でも、これを消すことはできないよ」

「くっ……」

「けど、アタシもここまで追い詰められるとは思わなかったよ」


 自身の出血を利用するこの攻撃は、サーガラージャにとっても諸刃の剣。


「たっぷりお礼をしてやらないとねえ……」

 

 よろよろとした足取りで、サーガラージャはカナリアに近づいていく。


「清き心を持って闇を(はら)え!ピュアリフィケイション! 」


 その時、エクス、ダクネ、クライオーネ、そして子供たちの祈りの魔術が聖なる光となって森全体に広がり、サーガラージャの毒を打ち消した。


「なんだ!?」

「身体が……動く。はぁっ!」

「がぎゃあっ!?」


 動揺するサーガラージャをカナリアが蹴り飛ばす。

 

「貴様ら、何をしたぁっ!?」

「森を返してもらったんだ!」

「ブランチ・マニッジ!」

「がっ!ぶはっ!げぎゃっ!」

 

 ダクネが魔術を使うと、森の木々が今度はサーガラージャに襲いかかる。

 操られたお返しのように枝で殴り、叩き、ボコボコにしていく。

 そして木々が幹を反らし、森の中にまっすぐ道が開いた。


「ヒョウガ、奴を森から引き離すんだ!俺も後から追いかける!」

「おう!」


 カナリアはそう言うと、ガンバンテインをヒョウガに手渡した。

 その意図を察したヒョウガは、高速移動でサーガラージャを運び去る。


「おりゃあああああっ!」

「ぎゃっ!……こ、ここは!?」


 あっという間に森から離され、サーガラージャは何もない荒野に放り出される。


「ここなら逃げ場はねえ!」

「クソガキがぁ!」


 ヒョウガはガンバンテインを宙へ投げ、再びサーガラージャと斬り結ぶ。

 その頃、森に残ったカナリアはエクスとクライオーネの元へ駆け寄る。

 

「エクス、姐さん。俺に掴まれ!」


 差し出されたカナリアの腕にクライオーネと再起動したトライアンフが掴まると、カナリアは転移魔術を発動し3人は瞬時にガンバンテインの元へ移動した。


「なっ……!?」


 サーガラージャは一気に1対4の劣勢へ追い込まれる。


「ヒョウガ!」


 エクスの創成した縄がヒョウガに投げ渡される。

 

「さぁ、仕上げだ!」


 ヒョウガは高速移動でサーガラージャの周りを周回し、縄で縛り上げた。


「こんな、ものっ……」

 

 縄から抜け出そうとするサーガラージャに、上空から光が差す。

 そこにはライフルを構え、エネルギーを収束するエクスのトライアンフ。

 魔法陣を展開し、巨大な氷塊を生み出すクライオーネ。

 今までの鬱憤を晴らすが如く、ブレード手裏剣で巨大な光輪を構えるヒョウガ。

 そして、大きな翼状のエネルギーを吹き出す弓を構えたカナリアがサーガラージャに照準を定めていた。


「あ、あぁ……」


 今まで獲物に痛みを与えることに歓喜し、恐怖を与えることに愉悦していたサーガラージャが、初めて動揺するような姿を見せる。

 

「カルネージシュート!」

「メテオ・グレイシャー!」

豪炎(ごうえん)烈翔尖(れっしょうせん)!」

斬滅光輪(ざんめつこうりん)!」


 各々の必殺技が、一斉にサーガラージャに炸裂する。


「うぎゃああああっ!」

 

 巨大な爆発とともにサーガラージャの身は瞬く間に消滅し、黒い霧となって去っていった。


(この屈辱は必ず晴らしてやるよ……っ!)



 ――――

 

 

 その後、ダクネはオークの子供たちを引き取り、ともに王国で暮らすことに決めた。

 

「……いいのかい?」

「あぁ」

 

 エクスの問いには、森に戻らず自分たちと共に八闘士と戦う道を選んでくれるのかという意図も含まれていた。

 それを理解した上でダクネは今、己がいるべき場所はここなのだと答えた。



 ――――



「あーあ、負けちゃったわぁ」

 

 ニーズヘッグの体内に帰したサーガラージャがため息をつく。

 戦闘時の昂揚が解け、再び気怠そうなふるまいだ。


「だから(あなど)るなって言ったのに」

「下準備は完璧だったのよぉ?」


 タクシャカがほれ見たことかという態度で呆れる。


「よい。負念(ふねん)は順調に集まっている。肉体を再生したのち、また争えばよい」

「それがボクらの強みだもんねえ♪」


 ウトパラカが針の進んだ柱時計を指し示し、マナスヴァインが笑いながら頬に指を当てる。


「だが奴らが邪魔には変わりない。母様(マータ)の復活までに数を減らせるなら減らしたいものだが……」


 ザンッ――。

 ウトパラカの言葉に反応したのか、ずっと沈黙を保っていたゲオルギウスが立ち上がり、唸りを上げる。

 負っていた傷も徐々に治り、完全に回復するまであと少しだろう。


「やる気みたいだね……。こりゃ大変だ」


 タクシャカは、これから大きな厄災に見舞われるであろうカナリアたちを憐れんだ。



最後までお読み頂きありがとうございます。


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