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天霊戦騎エインヘリアル  作者: 九澄アキラ
第17話「鮮血の森!殺刃鬼婦人サーガラージャ」
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第17話3/4 脱皮

「この森全体が、あいつの支配下……!?」

「馬鹿な!そんなことが……!」


 ダクネは魔術で木々に問いかけようとするが、術が弾かれてしまう。

 どうやら完全にサーガラージャのコントロール下にあるようだ。


「あなたとナンダの戦い、見させてもらったわぁ。あの面倒そうな術は使わせなぁい」

「くっ……!」


 先の戦いで、サーガラージャはカナリアの転移術の要が剣であることを見抜いていた。

 剣の動きを封じれば自在な転移を行えない上に、カナリアは主たる武器も喪失する。

 カナリアが剣を手放すのを、サーガラージャは待っていたのだ。


「カナリア、これを!」

「すまない。借りるぞ!」

 

 見かねたエクスがトライアンフの剣を投げ渡し、カナリアは受け取るとビームブレードで迫る木々を斬り裂いていく。


「あいつら、邪魔ねぇ」


 カナリアをいたぶる楽しみを邪魔されたサーガラージャは、木々をエクスとダクネに差し向ける。

 

「エクス!ダクネ!」

「ディフェンスフィア!」


 しかし、液状化し拘束から抜け出したクライオーネが周囲を包むように障壁を張り、攻撃を防いだ。

 

「ありがとうクライオーネ!」

「だるぅ……」


 唇を歪ませ、不快感を露わにしつつもサーガラージャは攻撃を緩めない。

 障壁への絶え間ない攻撃でクライオーネを釘付けにしつつ、再びカナリアに意識を向ける。


 ザシュッ――。

 カナリアに斬り落とされた木々の枝が、次々と水面に落ちていく。


「あぁ、かわいそう。あなたが斬った木をよく見てみなさぁい」

「なっ……!?」

 

 斬られた木々はまるで痛みを感じているようにのたうち、焼け(ただ)れた断面から赤い水が滴り落ちる。

 

「森が泣いてるわよぉ?」

「お前が操っているんだろ!」

「そんなの、斬られた側には関係ないわぁ」

「くっ……」

 

 罪悪感でカナリアの剣筋が鈍り、打ち付ける木々に防戦一方になっていく。


「どうしたら……」

「うぅ……ぐすっ……」


 エクスとダクネが考えあぐねていると、どこからかすすり泣く声が聞こえてきた。

 2人が声の元へ向かうと、そこには木の洞で身を寄せ合い隠れているオークの子供たちがいた。


「君たち、どうしてこんなところに!?」

「あ、あいつが……みんなを襲ったんだ。だからボクたちここに隠れて……」

「お姉ちゃん、パパとママはどこ?」


 不安な表情で女児が尋ねる。

 ダクネは先程までの凄惨(せいさん)な光景を思い出し、口を(つぐ)んだ。

 あれをそのまま伝えるなど出来るはずがない。


「そんな……ウソだよね?」

「パパとママ、死んじゃったの?」

「う……うえぇぇぇん」

 

 だが、ダクネの表情を見て残酷な事実を察したのか、子供たちはより一層大きな声で泣き始めてしまった。

  

「あっはぁ……良い悲鳴。まだ生き残りがいたのねぇ」

「ふざけるなぁっ!」


 恍惚(こうこつ)に浸るサーガラージャに憤ったカナリアが盾を構え、突進する。

 障壁をまとった盾が木々の枝を弾き、一気に肉薄する。


「あらぁ?」


 予想外のパワーに驚きつつも、サーガラージャはのらりくらりと剣戟(けんげき)をかわしていく。

 

(剣が重い……!)


 トライアンフのビームブレードは大型ライフルを兼ねている。

 それ故にカナリアの剣より大きく、重い。

 繰り出される大振りな攻撃は、背中の多脚を駆使し人型では不可能な体勢を繰り出すサーガラージャには当たらない。


「そんなんじゃ当たらないわよぉ?……それっ」

「がっ……!?」


 空振りした隙を狙われ、カナリアの胸に毒針が突き刺さる。


「カナリアっ!」

「あなたも操り人形になりなさぁい」

「ぐぅ、ああぁ……」

 

 注入されていく毒、カナリアの精神が(むしば)まれる。

 意識が薄れ、黒い感情に心が塗りつぶされていく。

 毒が十分に注入されると毒針は引き抜かれ、サーガラージャはカナリアが苦しむ光景をニタニタとした笑みで眺めていた、が――。


「う……うおおおおおおぉ!」

「えぇ?」


 突如としてカナリアの身体から蒼い炎が吹き出し、全身が燃え上がる。


「おおおおおおぉ!」

「なにしてるのぉ……?」

「てりゃあっ!」


 自分で自分の身体を燃やす。

 不可解な行為にサーガラージャが困惑していると、炎が一層光を放ち、激昂(レイジ)したカナリアが姿を現した。

 闘気に満ちたその姿に、毒の影響は感じられない。

 

「どういう……ことぉ?」

「俺の炎が、お前の毒を燃やし尽くしたんだ!」


 カナリアは己の炎で体内を燃え上がらせ、毒素を消毒したのだ。

 同時に激昂(レイジ)に呼応したガンバンテインが拘束から抜け出し、カナリアの手に戻る。

 

「お前の毒は俺には効かない!」

「だるぅ……」


 形勢逆転、カナリアの素早い剣戟がサーガラージャの多脚を次々に斬り落としてく。

 サーガラージャに操られた周囲の木々も、カナリアの発する熱波によって近づけない。

 

「こりゃ、たまんないわぁ」

「逃がすかっ!」


 逃げ出したサーガラージャにカナリアは魔術で延長した尾羽根を巻き付かせ、引き寄せる。

 

「あらぁ~」

「もらったぁ!」


 カナリアの剣がサーガラージャの胸部を深々と刺し貫いた。

 勝った――。

 戦いを見守っていた誰もがそれを疑わなかった。

 だが、一番にそれを確信するはずのカナリアは違和感に苛まれていた。

   

(……なんだ、この軽さは?)


 手応えが軽い。

 身体を貫いたのに、薄皮一枚ほどの抵抗しかない。


「なっ……!?」


 カナリアは気付いた。

 サーガラージャの背中が割れていることに。

 何かが抜け出したように、中身のない皮だけになっている。

 まさか……と、何が起きたのかカナリアが察すると同時に、頭上からけたたましい声が響いた。


「キシャアアアアッ!」

「うおぉっ!?」


 落下してくる得体の知れない影と殺気。

 剣で受け止めるも、鋭い斬撃が幾重にも重なったような一撃に吹き飛ばされる。

 周囲の木々が一斉に斬り裂かれ、倒れていく中、”それ”は姿を現した。


「やってくれたじゃないか……」


 てらつく白い甲殻。

 苛立ちを表すかのようにメキメキと動く指先。

 肥大化し、より凶悪になった複眼と口元のクラッシャー()

 それが脱皮したサーガラージャだと理解するのに、さほど時間はかからなかった。

 だが、様子がおかしい。


「下等生物の分際で、アタシにこれを使わせるなんてねぇ……。お遊びはここまでだよ。お前たち全員、斬り刻んであの世へ送ってやるから覚悟しなぁっ!」


 サーガラージャは脱皮した自身の皮を持ち上げ、投げ捨てると、これまでのアンニュイな態度と打って変わって凶悪で強烈な意思をむき出しにする。

 同時に展開した背中の多脚に、カナリアは目を疑った。

 多脚全てが再生している上に、その先端が全てノコギリ状の刃を備えたブレードへと変わっていたのだ。

 

「お前を血まみれにしてやるよッ!」


 殺刃鬼婦人(さつじんきふじん)――。

 その真の恐怖が始まった。



最後までお読み頂きありがとうございます。


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