第17話2/4 血の池地獄
「創成……、目的は未知の破片の解析と復元」
自室に戻ったエクスはテーブルの上に破片を並べ、解析用の装置を創成する。
装置が起動すると破片が宙に浮き、ロボットアームがピッタリと符合する破片を組み合わせ始める。
「ナビ、出来たら教えて」
「了解しました」
――――
「エクス殿!」
自室を後にしたエクスが外を歩いていると、生地の薄いローブに身を包んだ女性が声をかけてきた。
オークに追われこの国に避難してきたダークエルフたちの長、ダクネだ。
「ダクネ!ここでの暮らしはどう?」
「悪くはない。シルヴィ殿には良くしてもらっている。だが、ここは我らには明るすぎてな。このような衣装も必要になる」
ダクネが腕を広げ、ローブを見せる。
深い森で暮らしていた彼女たちには、ここの日差しは強いのだろう。
「それと……」
「なに?」
「男たちの視線が気になるな……」
ダクネは街の男たちと目が合うたび、さっと顔を背ける。
ダークエルフに男はいない。
シルヴィを含め、純血のエルフは異性との交配ではなく、木や果実から自然に生まれてくる。
それ故、男というものに免疫がないのだ。
「みんな良い人たちだよ?」
「いや、そういう話ではなく……」
ダクネの言いたいことを理解できないエクス。
そこにカナリアからの緊急通信が入った。
『エクス、八闘士が動き出したらしい!今すぐ来てくれ!』
「わかった!ダクネ、じゃあまた!」
急ぎ格納庫へ向かうエクス。
その後をダクネは追っていった。
――――
通信画面に、瘴気渦巻く森が映し出される。
「なんだこりゃ……」
「いかにも八闘士がいるという感じね」
ヒョウガとクライオーネが画面に呟く。
「エクス、この場所って……」
「うん、ダクネたちの森だ。今いるのはオークたちだけど」
その場所はダクネたちダークエルフが住んでいた森だった。
「ゴズマの調子は……?」
「修理はまだかかるよ。腕が全部なくなっちゃったからね」
八闘士ナンダによって義手を全損させられたゴズマはまだ戦線復帰できない。
「なら私とカナリア。ヒョウガと、クライオーネも来てくれるかい?」
「おう」
「もちろんです」
エクスの提案に2人は快く応えた。
「私も行く」
「ダクネ!?」
その時、物陰から様子をうかがっていたダクネが声を上げた。
「盗み聞きしてすまない。だが我らが母なる森をこれ以上、不埒な輩に荒らされるのは我慢ならない」
「……わかった。行こう。他のワルキューレは同時襲撃に備えて待機」
マグニたちに連絡を入れ、5人は現地へ向かった。
――――
深い森にビフレストが射し、カナリア、ヒョウガ、クライオーネ、トライアンフが降り立つ。
と、同時に足元でビチャリ――と音がする。
「うわっ!?水……?」
「いや、水じゃない……。なんだこれは……?」
周囲一帯が冠水している。
流れる液体は赤黒く、水面下が見えない。
ピチャ――。
頭上から落ちた赤い水滴がヒョウガの頬を伝う。
「なんだ?……お、おわあぁぁっ!?」
上を向いた瞬間、ヒョウガは悲鳴を上げた。
「どうしたヒョウガ!?」
「あ……あれ見ろ!」
「なっ……!?」
ヒョウガが指差した方向を見た一同は驚愕した。
血まみれになった大量のオークたちが、糸で宙吊りにされていたのだ。
「オークたちが……!」
「まさか、この水全部……」
オークから滴り落ちてくる大量の血。
足元を浸す液体は、彼らの血液によって作られたものだった。
「なんとむごい……」
トライアンフに同乗しているダクネが、口に手を当て驚く。
自分たちを森から追い出した野蛮な連中とはいえ、こんな目にあっていると心が痛む。
それに森の木々の様子がおかしい。
以前は清らかな生気に満ちていた森が邪悪な気配に包まれ、木々もねじ曲がり歪な姿へと変わっている。
「八闘士の仕業か……!」
「周囲の索敵を――」
ガクン――。
「トライアンフ?うわっ!?」
エクスが八闘士を探そうとした時、突然トライアンフの脚が痙攣し始め、膝をついた。
「どうしたんだ、トライアンフ!?」
脚部を中心に機体パラメータが『組織汚染』の異常を示している。
(まさか、この液体が?)
足元を浸す液体の成分が、トライアンフの筋組織に何らかの障害を与えた。
毒か――?
そう考えたエクスは即座に檄を飛ばした。
「みんな、早く水から出るんだ!」
「うおっと!」
「危ねえ!」
カナリアとヒョウガは木に張り付き、クライオーネは宙に浮く。
「3人とも平気?」
「なんともないぜ」
「私も」
「俺たちは大丈夫みたいだ」
「あらぁ、貴方たちには効かないのねぇ」
「!?」
トライアンフから出たエクスがそれぞれの無事を確認していると、空気にそぐわぬ気怠げな声が頭上から響いた。
「お前は!?」
木々の隙間から糸を垂らすように、上下逆さまの体勢で現れたのは、毒蜘蛛を想起させる女性型の怪人。
「ニーズヘッグ八闘士が1人、サーガラージャよぉ。よろしくねぇ」
「お前がこれをやったのか!?」
「私の血の池地獄、気に入ってくれたかしらぁ?それにしてもこいつら強靭ねぇ。ついさっきまで良い声を聞かせてくれてたわぁ」
サーガラージャが腕を振るうと、オークたちを吊るしていた糸が一斉に切れ、ビチャリビチャリと血の池地獄に沈んでいく。
「貴方たちもぉ……すぐ同じようにしてあげるわぁ」
「気色わりいヤツだ!斬滅輪!」
ヒョウガが両腕のブレードを分離、合体させ手裏剣のようにサーガラージャへ飛ばす。
「あはぁ♪」
サーガラージャは身を翻して斬滅輪をかわす。
「ちっ!……おわっ!?」
ブレードが戻った途端、ヒョウガの両腕が激しく動き出した。
「どうしたんだヒョウガ!?」
「わからねえ。う、腕が勝手に!」
血の池地獄に落ち、両腕を振り回すヒョウガ。
「あははぁ、おもしろ~い」
「ヒョウガに何をした!?」
「さっきその刃に私の毒を打ち込んでやったのぉ。私の毒はね……なんでも操っちゃうのぉ。それっ♪」
サーガラージャがヒョウガを指差すと、ヒョウガの身体がその場で回転し、浮き始める。
「うおおおお!?誰か止めてくれー!」
「ヒョウガーッ!」
そのままヒョウガは独楽のように回転したまま、森の上空に消えていった。
「さっそく1人、ご退場ねぇ」
「くっ!」
「アイシクル・レイ……あうっ!?」
「姐さん!?」
氷結魔術を使おうとしたクライオーネが突然、背中を打たれ体勢を崩す。
「なに、攻撃されたの……?」
振り返るも敵の姿はない。
八闘士サーガラージャは依然としてカナリアと対峙している。
いったい誰が……?
「うふふ……」
その様子を見て、サーガラージャは不敵に笑う。
「うおおぉっ!」
カナリアがサーガラージャ目掛け斬りかかる。
何が起きているかわからないが、サーガラージャを倒せば全て解決するはずだ。
そんなカナリアを嘲笑うようにサーガラージャは木々の隙間を自在に逃げ、カナリアを引き離していく。
「ガンバンテイン、やつを追え!」
カナリアはガンバンテインをサーガラージャへ投げ飛ばし、転移魔術で一気に距離を詰めようとする。
しかし……。
ガシッ――。
「なにっ!?」
突然、木々の枝がガンバンテインを絡め取り、動きを封じてしまった。
「どういうことだ……ぐあっ!?」
驚き、動きが止まったカナリアの身体をうねる樹木が打ち付ける。
「カナリア!あうっ……!?」
助けに入ろうとしたクライオーネの背後から樹木が巻き付き、その身体を拘束する。
「木が……!」
戦いを見守っていたエクスとダクネは目を疑う。
森の木々がうねり、次々にカナリアを襲い始めたのだ。
「私の毒はなんでも操れる。そう言ったでしょぉ?」
「まさか、この森全部が……!?」
「せぇか~い♪」
敵は、自分たちを取り囲む環境全て――。
八闘士サーガラージャ、その驚異の能力に一同は戦慄した。
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