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天霊戦騎エインヘリアル  作者: 九澄アキラ
第02話「エインヘリアル」
6/68

第02話1/5 カナリアvs巨人

 かつて、この世界では複数の種族が入り乱れ争いを繰り広げていた。

 これを憂慮した天界の神々は戦乱を鎮めるため、種族間の争いを鎮圧する戦士たちを生み出した。

 それが調停者 エインヘリアルである……。


 

 ――


 

(誰だ、この子は……)

 

 朧気な、夢を見ているような感覚の中、カナリアは自身の足に触れる少女を見ていた。

 青く長い髪の、翡翠色の瞳をした少女。

 少女が去ってからしばらくして、沢山の人達が集まってきた。

 食事を楽しみ、歌を楽しみ、踊りを楽しんでいる。

 どの人達も幸福そうだ。

 

 ……なんだ?

 人々が慌てて逃げていく。

 

(あれは……巨人!?あいつら、まだ生き残っていたのか!)

 

 あの少女が一人で巨人に立ち向かって行くのが見える。

 自分と同じように空を飛んで戦っている。

 敗れ、吹き飛ばされた彼女が足元に転がってくる。

 

(や……めろ……)

 

 近づいてくる巨人を止めに入ろうにも、身体はまるで岩のように動かない。

 一歩、また一歩と巨人は彼女に迫っていく。

 

(やめろ……!)

 

 ありったけの力を振り絞る。

 ビキ……ビキ……と身体を覆い拘束しているものにヒビが入っていくのを感じた。

 少女の眼前に迫った巨人は振り上げたメイスを今まさに振り下ろさんとしている。

 

(やめろおおおおぉ!!)

 

 バグンッ!

 

 剣を強く握り大地を蹴り砕かんばかりに踏ん張ると、自分を抑えつけていた物が砕け散り、身体に掛かっていた負荷が一気に消えた。

 

「ウオオオオオォ!」

 

 剣を引き抜き、振り下ろされた巨人のメイスを受け止め弾き飛ばす。

 そのまま振り上げた剣に両手で掴み、怒りと破壊の意志をもって振り下ろす。

 大質量の剣が音速を超える速度で巨人の頭部に直撃し、全身を諸共に叩き伏せる。

 骸と化した巨人の鎧からは光る紋章が空に消えるように消失していく。

 

(あの娘は……?)

 

 カナリアは振り返り少女の、エクスの無事を確認する。

 彼女は驚いた様子でカナリアを見ていた。

 

「エクスさん!」

 

 駆け寄ってきたエルダの肩を借り、安全な場所へ退避していくエクスを見て、カナリアは無事で良かったと安堵した。

 向き直り、前方で待ち構える残り2体の巨人を見据える。

 まだ身体があちこち固い。

 

「……ウオオオオオオオオオォ!」

 

 気合を入れるため、巨人を威嚇するため、全身に力を込め、叫ぶ。

 翼を広げ、震わせると古くなった羽根が辺りへと舞い散る。

 剣を構え、大地を力強く蹴る。

 翼を羽ばたかせ、後ずさる巨人へ一気に距離を詰める。

 2体目の巨人の眼前で身体を屈ませ、脚を狙って剣を横一文字に振るう。

 脚を両断され倒れた巨人の頭部を、飛び上がったカナリアは脚で踏み潰した。

 

 残るは1体。

 踏みつけた巨人を足場にし、最後の標的へ向け走り出す。

 迫るカナリアへ向け、巨人は小さな玉を投げた。

 苦し紛れの攻撃か。

 カナリアが投げつけられた玉を腕で弾こうとした。

 その時──。


 バン!

 

「ぐあっ!」

 

 突然、目の前で爆発が起きた。

 熱さと衝撃、そして耳をつんざく破裂音。

 未知の攻撃を受け、思わず立ち止まってしまう。

 防いだ腕がジンジンと痛む。

 

「く……!」

 

 それはカナリアにとって見知らぬ武器だった。

 彼が知っている巨人の遠距離武器は弓か投石程度のものだ。

 

(巨人の奴ら、いつの間にこんな武器を……)

 

 驚いたが、ダメージはたいしたことない。

 再び距離を詰めるカナリアへまた爆弾が投げつけられる。

 何度も同じ手は食わないと、剣で弾き飛ばされた爆弾が空中で爆発する。

 急ぎメイスを構えようとする巨人の脇腹へ剣を突き刺し、勢い任せに押し出していく。

 壊れた城門を抜けたところで勢いは止まり、カナリアは突き刺した剣を抜こうとする。

 

「……ん!?」

 

 だが、抜けない。

 巨人が腕で剣を抑えている。

 巨人は一矢報いようと、もう片方の手でメイスを振り上げている。

 剣を手放せば振り下ろされるメイスを避けられるだろう。

 だが、その必要はない。

 巨人が抑え込んでいるものは、本当の剣ではないからだ。

 

 カナリアは剣……もとい、鞘の留め金を外し、中に納められた本当の刃を抜き放つ。

 引き抜いた勢いのまま身体を回転させ、巨人のメイスが振り下ろされるよりも速く、その身体に銀色に輝く剣を逆袈裟斬りに走らせた。

 巨人の動きがピタリと止まり、剣のなぞった軌跡そのまま、胴体が2つに割れる。

 巨人は水柱を上げ、背後の河中へ没した。


「ハァ……ハァ……」

 

 斬りつけた体勢のまま肩で息をする。

 カナリアは周囲を警戒し、潜んでいる敵がいないか気配を探る。

 どうやら他に敵はいないようだ。

 剣の血振りをし、拾い上げた鞘に収める。

 

「……ん?」

 

 ここに来て彼は、ようやく自身が置かれている状況に気付いた。

 

(ここは……どこだ?)

 

 振り向くと、巨大な城壁の奥に煌々と明かりの灯る街が広がっている。

 かつて自分が守っていた小さな村とはまるで違う。

 何もかもが見知らぬ風景だ。

 

(俺は……どのくらい眠っていたんだ?)

 

 今しがた倒した巨人も以前戦っていた連中とは少し違う。

 怪しい紋様の浮かぶ甲冑を身に着け、知らない武器を使う。

 これほどの変化、いったいどれほどの刻が流れたのか。

 あの娘はもう、この世界に居ないのだろうか……。

 思い出が脳裏に浮かぶ。

 左手に巻いた約束のブレスレットを見ようと、カナリアは己の手首に目を向けた。

 

「……え?」

 

 そこにブレスレットは無かった。

 それに魔術の指輪も無い。

 

(無い……どこかに落としたのか!?)

 

 汗がブワッと吹き出るような感覚が走り、カナリアは辺りを調べ回る。

 

「誰か!誰か来て!私の家が燃えちゃう!」

「水だ!水を持ってこい!」

 

 自分の事で頭がいっぱいだったカナリアの耳に、助けを求める声が聞こえてきた。

 街を見ると家がいくつも燃えている。

 巨人の爆弾によって燃え広がった炎は、人間が消火できる範囲を明らかに超えていた。

 カナリアは慌てて城内に戻り、燃え盛る炎の中心で剣を天高く掲げる。

 彼が剣に願うと、周囲の炎が帯のように剣に吸い込まれ、鎮火していく。

 

 彼が持つ剣は女神フレイから授けられた聖剣。

 その刀身には特別な力が宿っている。

 今使った「エネルギーの吸収」もその1つだ。

 カナリアは刀身に集めた炎のエネルギーを空へと打ち放つ。

 剣の軌跡に沿って炎の弧線が空に描かれ、消えていく。

 

 鞘に剣を収めると、周りから歓声が聞こえてきた。

 

「うおおおおおおおおおおおおぉ!」

「守り神が!エインヘリアル様が救ってくれた!」

「エインヘリアル様ー!」

 

 突然湧き上がった歓声にカナリアはビクリと驚く。

 叫びながら拳を突き上げる人もいれば、手を合わせて祈る人、平伏する人までいる。

 まるで崇拝するかのように振る舞う人々にカナリアは戸惑いを隠せない。

 眠っている間、本当に何があったのだろうか……。

 人々を見渡しているとあの青髪の少女が、赤髪の少女の肩を借りて立っていた。

 怪我はしているが命に別条はなさそうだ。

 

「……っ!」

 

 青髪の娘のそばに見覚えのある柄の紐を見つける。

 無くなったブレスレットと同じ柄だ。

 人を避けながらそれを拾い上げる。

 ほとんど色が抜け落ち、酷く汚れていたが間違いなくあの娘との絆の証のブレスレットだった。

 

「あっ……」

 

 だが、ブレスレットは吹き付けた風で粉々に崩れ、小さな宝石を残して宙に消えてしまった。

 自分と過去を繋ぐ唯一の品は、長い刻の中で触れれば容易く掻き消えるほど風化してしまっていたのだ。

 虚無の感触が残る掌を、悔しさと悲しさを噛みしめるように強く握り、震える。

 人間の世界がこれだけ変わってしまっているのなら、天界は一体どうなっているのか。

 自分と同じ様に生き残っている神々やエインヘリアルがいるかも知れない。

 居ても立っても居られなくなったカナリアは焦る様に、哀しみを紛らわす様に月夜へ飛び上がった。

 

「これは……」

 

 カナリアが去った後、エクスは彼の手から零れ落ちた切れ端をそっと拾い上げる。

 空を見上げると、彼の翼から剥がれた羽根が軌跡のように空を舞っていた。

 

 

 ――

 

 

 それから街は怪我人の手当に追われた。

 家を失った者は教会に集められ一夜を過ごしている。

 光り石の点灯時間が切れたため、正確な被害状況の確認は夜が明けてからとなった。

 エクスは全身打撲を負いエルダの家のベッドに寝かされている。

 幸い、家は広場から離れた位置にあったため、被害もなくエルダ達に怪我もなかった。

 一体あの巨人達は何者なのか、何の為にどこから来たのか。

 そして、自分と街を助けてくれたあのエインヘリアルはどこへ去ったのか。

 ズキズキと痛む身体で答えの出ない疑問を考えながら、エクスは眠りについた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

感想・高評価をいただけるととても励みになります。

完結できるように頑張ります。

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