第14話1/3 ダークエルフのダクネ
「エクス!エクス!ちょっと一緒に来てくれ!」
ドタドタと足音を響かせ、慌てた様子でカナリアが格納庫に入ってきた。
「こいつを見てくれ」
カナリアとともに天界に上がったエクスは、バルドルが普段下界を覗いている望遠鏡を見せられる。
そこには深い森にそびえる、薄く切り立った三日月状の山が映し出されていた。
「あの山がどうかしたの?」
「それ、エインヘリアルなんだ」
「……はい!?」
エクスは長い沈黙の後、カナリアが言っている事を理解し驚いた。
「今、見えてるのは胸ビレだけ。あれはケートゥス。かつて俺達エインヘリアルを乗せて戦場を飛び回った、クジラのエインヘリアルだ」
「あれが……エインヘリアル」
――――
ビフレストを抜け、エクスとカナリアは現地へ降り立つ。
そこはカナリアの身長を遥かに超える木々が生い茂る大樹林だった。
「この山自体がエインヘリアルの身体……?」
「俺たちの移動拠点になってたやつだからな。それだけデカいんだ」
壁のようになっている山肌からカナリアが土を落とすと、その下に金属の光沢が現れる。
「間違いなくケートゥスだ」
長い間に身体の上に土や埃が堆積し、植物が生えるまでになったのだろう。
「エクス、こいつも蘇らせられるよな……?」
「君やゴズマと同じならね」
「よし、頭は向こう側だ。口が開いてればそこから中に入れる」
周りに薄く霧が張る中、頭部へ向け移動する。
巨大な樹木が傘のように日光を遮っているのか、地面にはあまり草が生えていない。
存外歩きやすくて助かる、とエクスは思った。
移動しながら飛び交う羽虫や、周りの動植物をスキャンし記録していく。
「足跡だ!」
「誰かいるってことか」
「でも、この形は……」
地面に2種類の足跡があった。
片方は靴を履いた人間。
だがもう片方は素足で、2足歩行ではあるが獣じみた形状をしている。
「とにかく注意して進もう」
武器を構え、慎重に歩を進める。
足跡は頭の方に向かっているようだ。
「ここだ」
「これが……入り口?」
山の先端に当たる部分にたどり着くと、山肌に縦一直線に走る亀裂があった。
「どうやら横倒しになってるみたいだな」
「カナリア、ここで足跡が消えてる……!」
だが、私の言葉を聞き終わる前にカナリアは中へと踏み込んでしまった。
瞬間。
──ビュンッ!
一筋の矢がカナリアの頬を掠め、地面に突き刺さった。
「えっ?」
「止まれ!何者だ!」
声に振り向くと弓を構えた浅黒い肌の女性。
いや、エルフが2人を見据えていた。
さらにその一声で周囲に身を潜んでいたエルフたちも現れ、取り囲まれてしまった。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
「貴様ら、オークの仲間か!?」
「オーク……?違う、俺はエインヘリアルのカナリア!俺たちはこの山を調べに来ただけだ!」
「エインヘリアルだと……?」
その名を聞くと周囲のエルフがざわめき、リーダーらしき女も弓を下ろした。
「突然、押しかけるような真似をしてすまない。私たちは貴方がたと敵対する気はない。どうか武器を収めてほしい」
エクスが手を広げて訴え、カナリアも敵意がない事を示すように跪く。
「人か。……わかった。入るがいい」
どうやらわかってもらえたようだ。
亀裂の中に……ケートゥスの口内に入ると、外からは想像できないほど広い空間が広がっていた。
「迎え入れ感謝します。私はエクス。こちらはエインヘリアルのカナリア。私たちはイーダウォール王国から来ました」
「私はダクネ。我らダークエルフの長を任せられている」
ダークエルフ――。
肌が暗褐色で、髪が銀髪な以外はシルヴィさんら他のエルフと変わらないように見える。
「カナリア殿、会えて光栄だ」
「どうしてエインヘリアルのこと知っているんですか?」
「我らの伝承にその名がある。天より降り立ち、あらゆる戦いを仲裁する戦士だと――」
どうやら過去にエインヘリアルと関わりがあったらしい。
「あぁ、その通りだ」
「ならば頼みがある!どうか我らをオークの手から救ってくれ!」
「え……?」
「先程も言っていた、そのオークというのは?」
「古来から我々と敵対している部族だ。豊かな森を巡って我らは一進一退の戦いを続けてきた。しかし近頃、奴らの中にカースという巨大な化け物が現れるようになった。その強さに我らは太刀打ちできず、ついにこの最後の砦まで追い込まれてしまった」
ダクネに奥の方へ案内される。
「うぅ……」
「苦しい……」
「水を……」
そこには何十人もの負傷したダークエルフたちが寝かされ、うめき声を上げていた。
「これは……」
「皆、カースにやられた」
ひどい状況だ。
無事な者より負傷者の方が遥かに多い。
「こんな状況、黙って見てられないよね。カナリア?」
「あぁ。ダクネさん、俺たちに協力させてくれ」
「おぉ、感謝痛み入る。それで、そなたらがここに来られた理由は?この山を調べに来たと言っていたが……」
――――
「この岩山そのものがエインヘリアルだと……!?」
「そうだ。俺たちはこいつを目覚めさせるために来た」
「それでカナリア、ケートゥスの中枢は?」
「この奥だ」
「……待ってくれ!」
カナリアとエクスが奥へ歩を進めようとした時、ダクネが呼び止めた。
「そのエインヘリアルが目覚めたらどうなる?」
「どうって泳ぐように空を飛んで……あっ……」
カナリアは少し遅れてダクネの質問の意図に気づいた。
そうだ。このエルフたちの住処はもうこのケートゥスの中だけなのだ。
ケートゥスを目覚めさせたらエルフたちはどうなる?
「去ってしまうのだな……?」
「ダクネさん、あの……」
「すまない。少し考えさせてくれ」
そう言うと、ダクネは去ってしまった。
カナリアとエクスの心に罪悪感が残る。
「ともかく、まずはケートゥスを蘇らせよう。考えるのはそれからだ」
「そうだな……」
中枢へ向かう2人の前に断崖絶壁のように深い穴が現れる。
恐らく本来は横の通路であり、船体が90度近く傾いているためこのような深い穴になっているのだろう。
明かりもなく、深淵のような闇が広がっている。
「暗いな……」
「私が照らすよ」
エクスは天霊装となり、装備の光量を上げて周囲を照らす。
「よし、降りるぞ」
通路は翼を広げられるほど広くないため、カナリアは壁面を掴んで降りていく。
飛行できるエクスの方が移動は快適だ。
「確かこの先だ」
通路を抜け、中枢らしき部屋に出る。
そこには1体のエインヘリアルがカプセルに収められていた。
海賊帽に眼帯、さらに左手の先はフックになっている。
「これがケートゥスの本体。自分の身体と船を接続して動かしてるんだ。それじゃエクス、さっそく頼む」
「わかった」
カナリアがカプセルをこじ開け、私がコズミウムを注入する。
カナリアとゴズマを蘇らせたのと同じやり方だ。
コズミウムが充電されるにつれ、カプセルから床や壁に光の筋が伸び、計器や照明が点灯していく。
「……むぅ」
部屋全体に光が行き届いたところでケートゥスが目覚めた。
「ケートゥス。俺だ、カナリアだ」
「……あぁカナリア、君であるか。それと……人間。ん、おぉ?1人だけではないのか?なぜ我輩の中にこんなにも人が?それに身体が……船が動かんである!」
「ケートゥス、落ち着いて聞いてくれ」
カナリアは自分たちが置かれている状況に簡潔に伝えた。
「なるほど、我輩が飛び立てばこの者たちは住む場所を失ってしまうのであるか」
カプセルから出たケートゥスはそう言いながら、部屋に散乱した私物を拾い集める。
「だからどうしようか迷ってて……」
「この状態から飛び立つことは?」
「反重力を起動して、スラスターを全開にすれば可能である」
「なら、後はダクネの選択次第だ」
カナリアとエクスがダクネの元へ向かおうとすると……。
「敵襲ー!」
外から聞こえた警告に、緊張が走った。
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