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天霊戦騎エインヘリアル  作者: 九澄アキラ
第12話「潜入」
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第12話1/2 エクスの過去

 戦いが終わり人々が街に戻ってきた。

 被害は大きく王城も燃えてしまったが、人々の団結は固く、復興はすぐに始まった。

 その中に帝国の捕虜たちの姿もある。


「また建て直せばいいわ。皆が無事だった事がなによりだもの……」

「そうですね」


 女王は安堵と希望の眼差しで、戦いの傷痕を残す国土を見つめた。

 


 ――


 

「帝国に潜入する!?」


 ワルキューレの修理が進む格納庫。

 エクスの提案に、カナリアと操者たちの驚きの声が響く。


「そうだ。帝国に行ってアドラーから私の身体を取り戻す」

「ちょっと待って、エクスさんの身体ってどういうこと?」

「そうだよ。だってエクスさんはここにいるし……」


 皆、エクスの話に理解が追いついていなかった。

 

「エクス、以前言ってたよな。自分は別の世界から来たって。お前は、いったい何者なんだ……?」

「わかった……。みんなには全てを話そう」



 ――



 無限に広がる並行世界。

 エクスは元々、機巧体(きこうたい)と呼ばれる巨大な機械の肉体を持ち、様々な世界を渡り歩く力を持つ旅人だった。

 ある日、エクスは自身の基点となる世界へ戻るため、次元と次元の狭間に広がる空間「ラプラス境海(きょうかい)」を移動していた。

 左右を揺らめく次元の膜に挟まれた、上下に際限のない空間がどこまでも続く。

  

「なんだ、あれは?」


 境海を漂う黒い物体を見つける。

 それは龍の首のような形で、表面はタールのように黒くドロドロとしている。

 見たこともないその物体を調べようと、手を触れた瞬間――。


「なっ……離せ!」


 黒い触手がエクスに纏わりつき、その身を飲み込もうとする。

 逃れきれないと判断したエクスは自身の魂である人間体を機巧体から切り離した。

 そしてエクスは境海に生じた時空の渦に落ち、気がつくとこの世界に来ていた。



 ――

 


「という訳なんだ」

「その黒いやつの正体がアドラーで、お前の機巧体を乗っ取っているってことか」

「うん、おかげでハッキリしたよ。……アドラーは人間じゃない。私と同じ、外の世界から来た魔物だ」


 導き出された結論に皆がざわつく。

 

「……まだちょっと飲み込めてないけど、エクスさんがすごく遠くから来た人なのはわかった」

「だから俺たちが見たことのない物を作れたり、変な格好してたんだな」


 マグニの言葉にエクスは軽く咳払いをし、言葉を続けた。


「潜入は私一人で行く」

「え、ダメだ。危険すぎる!俺も一緒に!」

「私は一人でも戦えるから心配ない!それに君が着いてきたら潜入にならない」


 エクスは強硬に主張する。

 奪われ、探し求めていた自身の半身がようやく見つかったのだ。

 なんとしても取り戻さなくてはならない。

 それに、アドラーを討てればこの戦争は終わる。

 虎の子の兵器を失ったばかりとはいえ、また何か企んでいるに違いない。


 「でも、エクスさんにもしもの事があったら……」


 スルーズの心配はもっともだった。

 敵地に潜入するとなれば、不測の事態も考えられる。

 ましてやアドラーと直接対峙することになるのだ。

 もしエクスが術で操られでもしたら、これまでの苦労が水の泡になってしまうだろう。

 とは言うものの、マグニやスルーズを連れていけば逆に彼らを危険に晒すことになりかねない。


「……あ、そうだ!」


 皆が頭を悩ませる中、カナリアの頭にふさわしい人物が思い浮かんだ。


 

 ――

 

 

「俺?」


 バルドルが自身を指差す。


「おっちゃん強いだろ?神だから力強いし頑丈だし」

「お前なぁ……俺はもう戦いは……」

「エクスを守ってくれるだけでいいからさ!それに、おっちゃんもたまには下界に降りたいだろ?」

「……仕方ねぇな」


 バルドルは渋々承諾した。

 カナリアの言う通り、たまには地上の酒を呑みたい気持ちもあった。


「だが、ビフレストは誰が操作する?」

「俺がやるよ。ワルキューレが修理中で暇だしさ」


 マグニが手を挙げる。


「俺は2人を見送ったら王国に戻る」

「うん。みんなを手伝ってあげて」

「よし、ビフレストを開け!」

 

 バルドルが号令し、マグニがレバーを引くと虹色の光が地に向かって降り注ぐ。

 エクス、続いてバルドルがビフレストに駆け込むと、2人はあっという間に帝国近くの森に出た。

 移動時間は5秒もなかっただろう。

 隠れながら2人は帝国の様子を探る。


「まずは……」


 エクスは行き交う人々の服装をスキャンし、同じような服を生成し着替える。

 目立つ髪色も黒に変え、なるべく質素で目立たない格好に整える。

 

 「これでよし」

 「随分地味になったな」

 「いつもの格好だと目立ちすぎるからね。バルドルさんは……そのままでも大丈夫か」


 小汚い格好のバルドルを連れ、エクスは街へ向かった。


 

 ――

 

 市場に出た2人を立ち並ぶ露店が出迎える。

 戦火に疲弊している王国と違い、戦時中かも疑わしい活気がある。

 露店では冥鬼兵を模した人形も売られ、子供達はぶつけ合って遊んでいる。


「想像してたのと違うな。もっと不気味なとこだと思ってたぜ」

「うん」


 王国の被害は大きいとは言え、結果で見れば帝国の侵攻は失敗続きだ。

 にも関わらず、人々からは緊迫感や悲壮感と言ったものは感じられない。

 まるで何も知らされていないかのように……。


「それで、この後は?」

「あの城に潜り込む」

 

 街の中央に聳え立つ、三日月状の巨大な城を目指して市場を歩いていく。

 

「あれ?バルドルさん?」

「おーい、おばちゃん。その酒とつまみをくれ。2つな」

 

 ふとバルドルの姿が消えていることに気づいたエクスが振り返ると、彼は露店で酒を注文していた。


「ちょっと、なに考えてるんだ!?」

「そう焦るな。潜入するんだったら溶け込まなきゃな。そのためには呑む!喰う!これよ」


 グイッと目の前に木製のジョッキを差し出される。


「呑みたいだけじゃないのかい……?」

「2つで16ナグね」

「あ、金持ってないんだった。嬢ちゃん払ってくれ」

「え……!?」


 バルドルのある種豪胆さに驚きつつ、エクスは周りから見えないように掌の中に帝国の貨幣を生成し、店主に手渡した。


「はい」

「まいどあり。呑み終わったら器は返却しておくれ」

「あいよ」

 

 ガレス将軍を捕えた際、当然のことながら所持品は細かく調べられ、その中には帝国の貨幣もあった。

 構成する成分や彫り物のデータを採っておいたのが役に立ったというわけだ。


「ほれ、嬢ちゃんも食え」

「うん……」

 

 支払いをエクスに任せ、バルドルはそのまま広場に並べられたテーブルに腰を据えた。

 一刻も早く城に潜入したいエクスはもやもやしつつ、対面に座る。

 バルドルは酒の肴が入った包みを広げ、グイッと酒を呑んだ。

 すると──。


「まっず!なんだこの酒は!?」


 バルドルは苦悶の表情を浮かべ、ペッペッと口に残った酒を吐き出そうとする。


「ど、どうしたんだい?」

「ゲホッゲホッ……。お、お前も呑んでみろ」


 エクスが渡された酒を呑むと、口内にえも言われぬえぐみ、苦味、渋み、そして酸味が炸裂する。

 

「うっ……、なんだこれは?」


 いくら酒は苦いものだといってもこれは……。

 順調に快復していた体調が一気に逆戻りするかのような不味さだ。

 分析すると成分中に未知の化合物が大量に含まれている。

 これが不味さの正体か。


「おい……ツマミもヤバいぞ」

「本当だ……」


 ツマミは植物の根を揚げたもののようだが、こちらも酒と共通する不味さがあった。

 こうなると、どうやら土壌に問題があるようだ。


「嬢ちゃん。水をもらってきてくれねえか」

「わかった」


 先程の露店で水をもらい、口内を洗い流す。

 水も王国ほど清らかではないが、まだ飲める味だ。

 

「ここの連中はいつもこんなもん食ってるのか?腹壊すぞ」


 バルドルの言葉に、エクスは帝国の捕虜たちが王国の料理に感動していたのを思い出した。

 悪い土壌に不味い作物。

 これも侵攻を後押しした一因だろうか。


「……おい、聞いてんのか嬢ちゃん」

「えっ……何?」

「カナリアの傷をあっという間に治したって嬢ちゃんの話だよ」

 

 バルドルがシニューニャの事を尋ねる。

 先の戦いの際、シニューニャは瀕死のカナリアを不思議な力で癒やした。

 しかも人間なら蒸発してもおかしくない攻撃を受けながら、傷ひとつ負わずに起き上がったのだ。

 ”エルフみたいに成長の遅い種族の子なんじゃないかって”――。

 シニューニャと初めて出会った時、エルダが言った言葉を思い出す。

 

「いったい何者だ?」

「こっちが聞きたいくらいだよ。バルドルさんなら、ああいう力について何か知ってるのかと」

「魔術でないなら、俺も心当たりがない。エインヘリアルの治療は本人たちの治癒能力任せだったからな。医者の真似事してる奴はいたが……」

「そっか……。まぁいいや、それよりそろそろ城に向かおう」

 

 エクスはそれ以上考えることはしなかった。

 シニューニャが何者であっても、彼女が優しい娘なのは一緒に暮らして知っている。

 あの治癒能力が常に使えるのなら、頼もしい。

  

 ……でも何故、あの時アドラーはカナリアではなくシニューニャを撃ったのだろう?


 これからアドラーに直接聞けば済むことか。

 そう考えつつ、エクスはバルドルとともに城門へ向かった。



 ――


  

「衛兵がいるな」

「これを」


 城門では衛兵が城内を出入りする者に目を光らせている。

 物陰からその様子を確認したエクスは透明でひらひらした服を生成し、バルドルに渡す。


「なんだこりゃ?」

「光学迷彩ローブ。着ると透明になって周りから見えなくなる」


 ローブを纏ったエクスの姿が消える。


「うおっ!?……まるでマルレラだな」

「マルレラ?」

「こんな風に姿を消せるエインヘリアルがいたんだよ」

「……もっと話を聞きたいけど、透明になれる時間は20分しかない。急ごう」


 バルドルもローブを羽織り、2人は城門へ向け歩き出した。

 ローブの内側からは透明になっている仲間が赤く表示されているため、互いを見失うことはない。

 周囲の景色と同化した2人は、難なく城内へ潜入した。

 

「潜入成功。このままアドラーを探そう」


 エクスは自身の機巧体の反応を頼りにアドラーを探す。

 アドラーが機巧体を乗っ取っている以上、機巧体を追えばアドラーに辿り着くはずだ。

  

「見つけた……」


 そして、エクスは通路を歩くアドラーの姿を捉えた。

 周りに人は居らず捕らえるには絶好のチャンスだ。

 

「バルドルさん、準備は……あれ?」


 振り返るとバルドルの姿がない。

 いつの間にかはぐれてしまったようだ。

 仕方なく1人でアドラーの背後に忍び寄るエクス。

 銃を取り出し、素早くアドラーを拘束を試みようとした……が。


「ハッ!」

「がっ!?」

 

 振り向いたアドラーの掌から波動が放たれ、エクスは壁に拘束されてしまった。



最後までお読み頂きありがとうございます。


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