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天霊戦騎エインヘリアル  作者: 九澄アキラ
第01話「復活の日」
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第01話3/3 天使羽ばたく

「巨人……?」

 

 崩れた城門から現れた巨人は城内へと歩を進める。

 紫色に発光する文字らしき紋様が刻まれた濃緑色の甲冑。

 頭部には天使や死者を彷彿とさせる輪のような装飾が光を放ち浮かんでいる。

 そこから時折、張られた糸を辿るように線状の光が身体の各部へ流れている。

 体高は約12m。

 家屋に囲まれていてもその上半身がハッキリと見える。

 その手にはメイスを携え、光る4つの眼が城内を物色するように蠢いている。

 

 それが見える限りで3体。

 一番後ろにいる巨人のみ、頭の飾りが違い、左肩からは赤いマントを垂らしている。

 人々が呆気にとられていると、先頭の巨人が玉のようなものを放り投げた。

 投げられた玉は着弾と同時に爆発し、先程より遥かに近い位置から衝撃と爆炎が広場を襲った。

 

 炸裂式のハンドグレネード。

 さっきまでの爆発の正体はこれだったのだ。

 

「きゃああああああ!」

「うわあぁ、みんな逃げろー!」

「巨人だ!巨人族が蘇ったぁっ!」

 

 狂乱し逃げ惑う人々。

 

「み、皆落ち着きなはい。城へ、城へ逃げるのれす……」

 

 女王がなんとか皆を落ち着かせまとめようとしているが、かなり酒に酔っているのかその足元はおぼつかない。

 結局、衛兵に馬車へ担ぎ入れられ城に退避していった。

 巨人達は城門から真っ直ぐにこちらに向かってくる。

 

「撃てー!」

 

 兵士達が弓クロスボウで矢を射掛けるが、ほとんど甲冑に弾かれてしまう。

 柔らかそうな関節部に刺さった矢もあるが、巨人は全く意に介していない。

 

「エルダ!シニューニャ!お母さんと一緒に逃げるんだ!」

「エクスさんは!?」

「あれを食い止める」

「無茶だよ!」

「いいから!」

 

 エルダとシニューニャの背中を叩き、母親の元へ逃げさせるとエクスは駆け出した。

 巨人の行動からは明らかな敵意を感じる。

 こんな素晴らしい人達がいる場所を壊させはしない。

 今の自分にどこまでやれるかわからないが、ただ見ていることなど出来るはずがない。

 

「待て!」

 

 目の前に立ちふさがったエクスへ、巨人が視線を向ける。

 エクスは臆することなく胸のペンダントにタッチし、戦闘モードを起動。

 着ていた服がナノ化され、スーツの上から装甲と翼状スラスターが装着されていく。

 ポニーテールに大きなリボンを付け、腰からロングスカートをなびかせるその姿は白い天使か、魔法使いのようにも見える。

 最後に召喚された大型の銃剣を掴み、彼女の変身は完了した。

 

「はああああああああぁ!」

 

 スラスターを吹かし、エクスは巨人の眼前に飛びかかる。

 狙いは頭部。

 人型である以上、頭部を破壊すれば動きを止められる可能性が高い。

 大剣の先からビームが発し、長大な光刃が巨人へ向け振り下ろされる。

 その一振りは本調子であれば巨人を容易く両断しただろう。

 だが……。

 

「くっ……!」

 

 振り下ろした刃は巨人の甲冑に容易く受け止められた。

 光刃の触れた箇所は徐々に溶解しているが、その速度は気が遠くなるほど遅い。

 装備のステータスを確認したエクスは顔をしかめた。

 出力が普段の10%も出ておらず、エネルギー残量もすでに底を尽きかけている。

 まだこの世界に順応出来ていないにしても酷すぎる状態だった。

 

(この状態でどこまでやれるか……)

 

 そのまま斬り裂かれることを許すはずもなく、巨人は腕を振るいエクスを払い除ける。

 だが、人間が宙に浮いていることに驚いたのか、巨人は後退りし動きを止めた。

 

「ならこれで!」

 

 もっと強力な攻撃でなければ倒せない。

 動きが止まっている今がチャンスだ。

 エクスは大剣をライフルにモードチェンジさせ、エネルギーを収束させる。

 銃身に桃色のエネルギーが集まり、トリガーを引く。

 

「カルネージ・バスター!」

 

 ライフルから照射された巨大なエネルギーの奔流が巨人の身体を包みこむ。

 そして巨人が見えなくなるほどの爆発が起き、立ち込める爆煙が周囲を覆い隠した。

 

「や、やった……」

 

 エクスがひどく疲れた様子で構えたライフルをだらりと下げる。

 残ったエネルギーのほぼ全てを使った一撃だった。

 装備の出力は2%、飛行状態を維持するのがやっとだ。

 エクスが地上に降りようとした矢先、煙の中から巨大なメイスが振り下ろされた。

 

「がっ……はっ!」

 

 壁のように巨大な鉄塊がエクスを吹き飛ばす。

 そのあまりの衝撃に、地面に叩き付けられたエクスの身体は何回もバウンドし、砕けた装備が辺りに散らばっていく。

 エインヘリアル像の前でやっとエクスの身体は静止した。

 噴煙の中から表面の焼けただれた巨人が姿を現す。

 ライフルの出力不足か、それとも巨人の装甲に施された紋様の力によるものか。

 巨人はその行動になんら支障をきたしていないようだ。

 エクスは残存エネルギーを咄嗟に防御へ回したおかげで辛うじて意識を保っているが、装備は破損・消滅してしまい、痛みで身動きも取れない。

 そんな彼女にとどめを刺すかの如く、巨人が近づいてくる。

 

「エクスさん!」

 

 遠くから微かにエルダの叫びが聞こえる。

 無事に避難してくれただろうか。

 この身体さえ万全なら……と、悔しさがこみ上げる。

 巨人がゆっくりとメイスを振り上げる。

 エクスがそれを目で追っていると、頭上にあるエインヘリアル像と目が合った。

 

(エインヘリアル、君は一体どこから来たんだ?何故そんな姿になっている?君が見せてくれた記憶にどんな意味があったのか、知りたかったな……)

 

 静かに目を閉じたエクスへ、鉄塊は無慈悲に振り下ろされた。


 ガキィン!


 鳴り響く金属音……。

 だがエクスにとって来るはずの衝撃が来ない。

 顔に当たる砂のような感触に目を開けると、彼女の頭上で剣が鉄塊を受け止めていた。

 受け止めた剣の表面から……いや、エインヘリアル像の表面から堆積物が剥がれ、純白、そして黄金の輝きが現れる。

 動き出したエインヘリアル像はメイスを払い除けると、両手で持った剣を力強く振り下ろし、一撃のもとに巨人を叩き潰した。

 その光景を見ていた残りの巨人は動揺し、大きく後退る。

 

 2つの月明かりが白く美しい身体を照らし、天霊の戦騎は静かに立ち上がる。

 もはや像でも、御伽噺の存在でもない。

 悠久の時を超え、エインヘリアルは復活したのだ。

 

「ウオオオオオォ!」

 

 雄叫びとともに、エインヘリアル=カナリアはその翼を大きく広げた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

なるべく毎日、21時40分ごろに更新できるように頑張ってまいります。

感想・高評価をいただけるととても励みになります。

完結できるように頑張ります。


【キャラクター紹介】

・エインヘリアル=カナリア

挿絵(By みてみん)

戦死した人間の少年ソラが天界の神々の力で転生した姿。

全高12mほど。ラグナロクを唯一生き残る。

武器は剣と盾。


・エクス

挿絵(By みてみん)

マルチバースを旅する存在。

この姿とは別に巨大な姿を持つが、ある出来事によりその力のほとんどを失いエインヘリアルの世界へ漂着する。

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