第11話6/7 業火天彗
砲身を打ち砕いたランヴェルスはそのままバリアの内側に着地し、マグニは達成感といっときの安堵に包まれる。
「なっ……!?」
「これでお前の企みも御破算だな!」
アドラーの動揺の隙を突き、カナリアは拘束から脱する。
しかし、アドラーは深呼吸すると落ち着きを取り戻した。
「なに言ってるんだい?これで終わりな訳ないじゃないか」
「なんだと!?」
轟音とともに再びヴィグネシヴァが動き出した。
それも今までよりも速い速度で王国へ向かって走っていく。
「何をした!?」
「このままあの国に突っ込んで自爆させるのさ!」
「なんだって!?」
あの巨体が爆発すれば街どころか辺り一帯が吹き飛ぶ。
避難している人々も巻き込まれるだろう。
『マグニ!今すぐヴィグネシヴァを破壊するんだ!君しか出来ない!』
「わかった!……でも、脚が!」
スレンドラが護衛している限り、ヴィグネシヴァのバリアを破る事はできない。
バリア内に入ったマグニだけが唯一の希望だった。
しかし、先程の攻撃によってランヴェルスの右脚が大きく損傷していた。
落雷のエネルギーと、砲身破砕時の衝撃に機体が耐えきれなかったのだ。
「クソクソクソッ!止まれよ!止まれぇ!」
足を引きずりながらもランヴェルスはヴィグネシヴァの脚に取り付き、殴打による破壊を試みる。
ヴィグネシヴァは速度を上げ、一歩一歩確実に王国に近づいている。
これ以上、自分たちの国を壊させてたまるか。
その想いで機体を動かし続ける。
だが次第にヴィグネシヴァの表面が赤熱し、バリアの解除とともに発生した衝撃波がランヴェルスを弾き飛ばした。
「うわああああっ!」
王国の正面まで飛んだランヴェルスが地面に叩きつけられる。
ヴィグネシヴァに再びバリアが張られ、全てが振り出しに戻ってしまった絶望がマグニを襲う。
しかも衝撃波によってランヴェルスの両腕は損壊し、もはや攻撃もままならない。
残された手があるとすれば、ハイパーブーストを使った体当たりしかない。
だが、もし威力が足りなかったらバリアを突破する前に機体はバラバラに砕け、自分も死ぬだろう。
それでもいい――。
一か八かでも、それで故郷とみんなを守れるなら……と、ランヴェルスの出力を上げていく。
前方から迫るヴィグネシヴァ。
王国までもう500mもない。
マグニがハイパーブーストを発動しようとしたその時だった。
「なんだぁ、ありゃあ?」
背後から声が聞こえた。
この作戦中、一度も聞いたことのない声。
ほとんど人が居なくなった王国に残っていた、事態を全く把握していないただ唯一の者の声だ。
「ゴズマ!?」
「おい小僧、なんだあのデカいのは」
「ゴズマ!助けてくれ!コイツをなんとかしないと俺たちの国がなくなっちまうんだ!酒だって飲めなくなる!」
「そいつは困るな」
「でもバリアが張られてて手出しできないんだ……」
「ふぅん、バリアねぇ。……下がってろ」
「え?」
「何するかわかんだろ?」
ニヤッと笑うゴズマの表情からマグニは全てを察した。
アレをやるんだと――。
「ヌオオオオオオオォ!」
迫るヴィグネシヴァの前に悠然と立ちふさがったゴズマが気合を込めると、周囲の土や岩が浮き始め、大気が蜃気楼のように歪む。
激しくうねる真紅の闘気が形を成し、次々とゴズマに鎧が装着されていく。
「ぬおお……!ふんっ!」
以前は不完全に終わった義肢にも無理矢理装着し、ついに完全なる激昂ゴズマが顕現した。
巨大な角はより大きく、剛腕はより力強く、豪脚はより逞しく。
ヴィグネシヴァに比べれば小さい身の丈だが、その威容と満ち溢れる闘気は物質的大きさを超越した気迫を感じさせる。
「おおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「何だアイツは!?」
「ゴズマ!」
雄叫びが激しく大気を震わせる。
それは上空のアドラーの元まで響き、彼は驚愕した。
あんなエインヘリアルがいるとは聞いていない。
というより、ここ最近はスレンドラとヴィグネシヴァの開発に没頭していて外の情報など仕入れていなかった。
だが慌てることはない。
エインヘリアルが一人増えたところで、今更ヴィグネシヴァが止められるわけはないのだ。
あのまま轢き潰されるだけだろうと、アドラーは思った。
「牛頭・轟天突覇!」
ゴズマが肩を突き出し、バリアに向けて一直線にタックルをぶちかます。
その威力にあれだけ堅牢だったバリアがいとも容易く粉砕され、アドラーの顔から笑みが消えた。
「噴ッッッッ!」
バリアを突破したゴズマはそのままの勢いでヴィグネシヴァの前脚に掴みかかると、なんとヴィグネシヴァそのものをその身ひとつで持ち上げてしまった。
「う、嘘だろ……!?」
剛力どころではない。
文字通り、山を動かすほどの怪力乱神。
見ている者全員が口を開け、呆然とする。
「どおりゃああああああ!」
ゴズマがそのままヴィグネシヴァを振り回し、フルスイングで宙に放り投げた。
それを追撃するようにゴズマの打ち出したチェーンナックルが上空へと伸びていく。
足りない長さを闘気で補い、高く高く、ヴィグネシヴァの真上へと伸びた掌は闘気を纏い、巨大な握り拳へと変化した。
「牛頭・業火天彗!!」
振り下ろされた巨大な拳が落下するヴィグネシヴァを撃ち、さながら落下する隕石のように山岳地帯へと突き落とした。
山の向こうで閃光が放たれ、巨象の断末魔たる爆発と衝撃波が空へと昇っていった。
「……よっしゃああああああ!」
マグニと避難していた人々の歓喜の叫びが木霊する。
王国は、自分たちの故郷は救われたのだ。
「ゴズマ、本当にありがとう!ゴズマがいてくれなかったら今ごろ……」
「ちっ……壊れちまった」
マグニの感謝の声を背中で聞きつつ、ゴズマは闘気で焼け焦げた自身の義肢の方に愚痴をこぼしていた。
「あ……ていうか、もっとはやく起きてくれよ!初めからゴズマがいたらこんなに苦労すること無かったのにさ!」
「悪い悪い。昨日呑みすぎた」
いまだ戦いの最中だという事を忘れ、マグニとゴズマが談笑し始めた時だった。
ズガン!
衝撃とともに2人のそばに何かが落ちてきた。
振り返るとそこには……。
「カナリア!?」
身体中が焼け焦げ、傷だらけになったカナリアが倒れていた――。
【次回予告】
スレンドラに敗北したカナリアは自身の無力さに打ちひしがれる。
そこに現れた少女、シニューニャ。
彼女の不思議な力と、大切な者を失った哀しみと怒りがカナリアの新たな力を呼び覚ます。
次回、カナリア・激昂
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