第11話3/7 決戦へ
王国に戻ると、既に慌ただしく避難が始まっていた。
女王と防衛に関わる人員以外は王国から一時退去するように命令が出され、その中には捕虜になった帝国の兵士も含まれている。
「俺たちの事はどうでもいいって、宰相様がそう言ったのか!?」
「あぁ、だから君たちも一緒に避難してくれ」
「俺たちをなんだと思ってるんだ……!」
エクスから説明を受けた捕虜たちに、ざわざわと動揺が広がる。
後のことを兵に任せ、エクスは作戦会議へ向かった。
バルドルの報告によると、再び動き出したヴィグネシヴァは現在王国から約20kmの地点を進行中。
やつが王国を視認できる地点に来るまで、残された猶予は2時間弱。
それまでに作戦の立案と、ワルキューレ各機の整備と改修を済まさなければならない。
時間も戦力もギリギリの戦いになるだろう。
そんな状況だというのに……。
「ゴズマ!起きてくれゴズマ!」
「んあ……んがぁ……Zzz」
ゴズマが酔い潰れて全く目を覚まさない。
カナリアを超えるパワーを持つゴズマなら、あのバリアを突破できるかもしれないのに……!
「ゴズマー!起きてくれー!」
「んが……うるさい……」
「うわぁ!」
エクスが顔の上で怒鳴るも、寝返りされて転げ落ちる。
「エクス、もういい」
「でも……」
「ゴズマは戦士だ。戦いのニオイを嗅ぎつければ必ず目覚める」
カナリアに諭されたエクスは、仕方なくゴズマ抜きで作戦を立てることにした。
◆◆◆
ワルキューレ格納庫――。
地形図と敵味方それぞれを模した人形が置かれた机を前に、エクスが作戦の概要を説明する。
「ヴィグネシヴァは現在この位置。山岳地帯を谷に沿って移動している。そして、やつが王国を視認できるようになるのがこの位置だ」
エクスがヴィグネシヴァの人形を山岳地帯と平野の境目に移動させる。
「必然的に砲撃を放つのもこの地点ということになる。砲撃の瞬間を狙ったカウンタースナイプでやつの砲門を破壊する。これが作戦の第一目標だ」
「砲撃の瞬間を狙うって……一歩間違えたら撃たれちまうんじゃないのか!?」
「1発でも王国に撃たれたら大変なことになるぞ!?」
作戦への不安にマグニとカナリアが声を荒げるも、エクスは話を続けた。
「やつのバリアを破れない以上、こうするしかない」
先の戦闘時の挙動からしてヴィグネシヴァはバリアの内側からは砲撃できず、砲撃の際にはバリアの一角を解除し、外に鼻先を出さなければならないと考えられる。
そのためにあの長く伸縮する鼻があるのだろう。
バリアが破れないなら、このタイミングを狙って破壊するしかない。
「狙撃は新造した大型戦弓ユニットを装着したワルキューレによって行う。担当は君だ……スルーズ」
「わたし!?」
「キミなら出来ると信じている」
「で、でも私よりエクスさんがやった方が……」
「私とカナリアはスレンドラの相手をしなければならない。キミしかいないんだ」
スルーズは不安げな表情を浮かべる。
作戦の成否は自分の狙撃にかかっている。
チャンスは一度、失敗は許されない――。
失敗すれば……故郷が無くなる。
「姉ちゃんなら出来るって」
そこにマグニの屈託のない眼差しが向けられる。
自分の姉なら出来ると、何の疑いも不安も感じさせない笑顔。
見れば他の皆も、同じ眼差しでスルーズを見つめている。
みんなが信じてくれるなら……。
「わたし……やります!」
スルーズは覚悟を決めた。
「エスペランサの護衛にデシレアのガルディエーヌ。敵の攻撃からエスペランサを守ってほしい。砲門の破壊と同時にバリアの消失点からランヴェルスが内側へ侵入、第2目標であるヴィグネシヴァ本体を破壊する。これが作戦の全容だ。出撃は1時間後。それまでに各自、準備を済ませるように」
◆◆◆
出撃までの間、マグニとスルーズは城にいる母を訪ねた。
「母ちゃんも残るのか……?」
「親衛隊長だもの」
「危なくなったらすぐに逃げてね!」
「大丈夫よ。……2人が守ってくれるんでしょ?」
2人を抱きしめ、そう語るカーラの瞳には子供たちへの信頼、そして少しばかりの不安が垣間見える。
「……うん!」
母の不安を払拭するように姉弟は顔を見合わせ、揃って頷く。
「ママが残るなんてダメ!」
そこにアルティナの涙混じりの声が響いた。
「アルティナ。私には女王としての務めがあるの、わかってちょうだい」
「わかんないよっ!」
母にしがみつき、泣きじゃくるアルティナをスルーズがそっと抱き寄せる。
「アルティナ、私たちを信じて。きっと守ってみせるから」
「スルーズ……死なないでよ!絶対帰ってきてよ!?」
アルティナはスルーズに抱きつき、啜り泣いた。
「姫様……うおっ!?」
だが、アルティナは視界にマグニが入ると彼に詰め寄り、襟元を掴んだ。
「絶対守りなさいよ!?ママも、スルーズも、この国も、全部!」
涙の跡が残る顔で睨みつけてくる彼女の手を、マグニはぎゅっと握り返した。
「約束するよ姫様。絶対、俺がみんなを守ってみせる」
嘘偽りのない真剣な眼差しでそう返してきたマグニに、アルティナは頬を赤らめ、ドン――と突き放した。
「な、ならさっさと行きなさいよっ!」
「うん。行こう姉ちゃん!」
城を去っていく2人の背中を、アルティナは心配そうな顔で見送った。
「デシレア、あなたも頼むわね」
「やるしかないんでしょ。……ったく」
女王の言葉に渋い顔を浮かべ、デシレアが頭を掻く。
盾を張るだけの自分がこの戦いで何の力になれるかはわからないが、与えられた役目だけは果たそう。
気怠さと不安を抱えつつも、彼女は彼女なりに決心を固めた。
◆◆◆
「……負けられないね」
「絶対にな」
格納庫への道すがら、マグニとスルーズは自分たちが生まれ育った国の景色を眺め、決意を新たにした。
◆◆◆
「これでよし」
トライアンフの改修を終え、エクスは額の汗を拭う。
装甲下の筋組織に赤い液体の入ったアンプルがいくつも装着されている。
「何を付けたんだ?」
質問しながら、カナリアは外されたトライアンフの甲冑を再装着していく。
「スレンドラのスピードに対抗するためのものだよ。とっておきのね。……それもう少し左」
「こうか?」
「エクスさーん!」
下から呼ぶ声にエクスが振り向くと、エルダとソフィが大きなバスケットを抱えて立っていた。
その後ろにはグングニルに跨ったシニューニャもいる。
「エルダ?ソフィさんに、シニューニャちゃんも……」
「これからみんなと避難するから……これ、差し入れに」
エルダが渡したバスケットには沢山のサンドイッチとおにぎり。
中にはカナリア用に、バスケットから飛び出すほど大きなサンドイッチも入っている。
「カナリア様のもありますから」
「本当か!」
「ありがとう。みんなと食べるよ」
「エクス、カナリア……がんばれー」
グングニルの背中に跨ったシニューニャが励ましの言葉を送る。
あれからグングニルはさらに成長し、今ではこうしてシニューニャを乗せられるほど大きくなった。
「みんなを頼んだよ。グングニル」
屈んで目線を合わせ、エクスはグングニルの頭を撫でる。
その願いに応えるようにグングニルは唸り、頷いた。
手を振りエルダたちを見送るエクスの後ろに、操者たちが揃う。
「時間だ。行こう!」
一同はエルダの差し入れを手に取り、機体へと乗り込んだ。
◆◆◆
「カナリア、作戦通りに」
「あぁ、絶対にみんなを守り抜く!」
暗雲が立ち込める中、防衛ラインに到着したカナリアとエクスがヴィグネシヴァを捉えた。
『やってきたね』
「今後こそ、お前を止める!」
『今度は最初からボクが相手をしてあげるよ』
スレンドラが飛行型冥鬼兵を率いて飛び立つ。
王国の未来を賭けた最大の戦いが始まった――。
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