第11話2/7 強襲・スレンドラ
「直々にお出ましとはな」
映し出されたアドラーの顔をカナリアはきつく睨みつける。
この戦争を引き起こした張本人であり、実質的に敵の大将と言っていい。
「そう固くならないでよ。まずは君たちにお礼を言いたいのさ」
「礼だと……?」
「これさ」
アドラーの乗る冥鬼兵の胸部が開き、内部に光る石が組み込まれた動力炉が晒される。
「あれは……願い石か!?」
「くっ……」
その輝きを見た瞬間、エクスは全てを理解した。
ワルキューレの動力や武装のエネルギー源になっている願い石……コズミウムをアドラーは手に入れたのだ。
「君たちが使っている物をボクも使わせてもらったよ。すごいものだね。おかげで冥鬼兵の性能を随分底上げできた。このヴィグネシヴァと、スレンドラはその成果さ」
以前とは違う、子供のような口ぶりでアドラーは語る。
どうやら巨大な象の化け物がヴィグネシヴァ。
アドラーが乗っているのがスレンドラのようだ。
「情報ありがとう。お姉さん♪」
アドラーは笑顔を浮かべ、デシレアへ手を振った。
「デシレア!?」
「デシレアさん!?」
皆の疑惑の目がデシレアに向かう。
「……へっ!? いや知らない知らない!アタシ、あんなやつと話したことないから!」
デシレアは大慌てで否定した。
それも当然である。
彼女が情報が漏らした際、アドラーは変装していて、その上彼女はひどく酒に酔っていた。
「そんなぁ、忘れてしまったのかい。……わたしの顔を」
「あ……あんたは!?」
アドラーの姿が変装していた女性のものへ変わり、何かを思い出したかのように驚いたデシレアに皆が注目する。
「……誰?」
「ありゃ……」
デシレアは本当に覚えていなかった。
『あ~~!!』
全員の気が抜けたその時、王国にいるナビから通信が入った。
『この人、祭りの時にいました!ワルキューレの周りをうろうろしていたから覚えてます!』
ワルキューレ越しの映像を女王ととも見ていたナビは、慌てて自身の記録映像をエクスたちに転送する。
そこには変装したアドラーの姿がはっきりと写っていた。
「そういうことか」
王国に潜入したアドラーによってコズミウムが盗まれた。
デシレアが喋ったというのも、おそらくアドラーに術をかけられてのことだろう。
一部事実と異なるが、エクスはおおよその経緯を察した。
「それで、お前はこいつで王国を吹っ飛ばそうってのか」
「そうだと言ったら?」
「全力でぶっ倒す!」
「やれるものならやってごらんよ」
剣を構えるカナリアの前にエクスが割り込む。
「待て。あそこには捕虜となった帝国兵もいるんだぞ!?」
「関係ないね。使えなくなった駒のことなんてさ」
「なんだと!?」
「お前の仲間だろ!?」
「くだらない話は終わりにして、戦おうよ。君たちよりボクの方が上だと証明してあげるからさ!」
スレンドラが腕を上げるとバリアの一角が解除され、ヴィグネシヴァが再び砲撃を放つ。
同時に飛行型冥鬼兵が攻撃を開始し、散開した一同はそれぞれに応戦し始めた。
「生体反応なし……!?」
敵機を解析したエクスはカナリアに通信を飛ばす。
『こいつらは無人機だ!』
「そうか。なら遠慮はいらないな!」
人が乗っていないのなら、斬る場所を気にしなくていい。
カナリアは乱戦の中を縫うように飛び、1体を仕留めた。
『カナリア、あのバリアを破る方法を思い付いた』
「本当か!?」
『私がこれからバリアを弱らせる特殊弾頭を撃ち込む。その場所めがけて、君の蒼炎紅蓮斬で突っ込むんだ!』
「わかった!」
エクスと合流するため、カナリアは上空へ舞い上がる。
「スルーズとデシレアは援護を!」
『了解!』
『人使いが荒いのよ!』
エクスはワルキューレの掌に特殊弾頭を創成し、ライフル下部のマルチランチャーへ取り付ける。
弾頭の中身はコズミウムの波長を乱す作用のある特殊星間物質。
同じ技術を使っているなら、コズミウムの扱いにはこちらに一日の長がある。
バリアの正面に照準を合わせ――撃ち出す。
弾頭が着弾し、撒き散らされた物質がバリアの強度を低下させていく。
「ほう……?」
スレンドラの操縦席にも同じ情報が伝わっていた。
『今だカナリア!』
「はあああぁ……!豪炎・抜刀!」
カナリアの合体剣から紅と蒼の炎が噴き出す。
「蒼炎・紅蓮斬!」
2つの炎が螺旋を描くように突き進み、バリアへ突き立てられた。
衝撃と閃光が身体を包む。
エネルギーが反発しあい、ほとばしった稲妻が周囲の森を焼いていく。
「おおおおおおおおおぉ!」
カナリアが気迫を増すたび少しずつ、少しずつバリアにヒビが入っていく。
確かな手応えを感じたカナリアはさらに全身全霊の力を込め、バリアを砕こうとする。
その時だった――。
「ぐあぁっ!」
「あぶないあぶない」
一瞬のことだった。
上から身体を押しつぶすような衝撃を受けた直後、カナリアは激しく地面に叩きつけられた。
「それなりにやるみたいだねぇ、キミは……」
「て、めぇ……」
「カナリア!?」
「なに!?今の速さ!?」
エクスの眼下で、アドラーの冥鬼兵スレンドラが悪魔のような翼を広げカナリアを踏み潰している。
援護していたエクス、スルーズ、デシレア全員がその動きを捉えきれなかった。
スレンドラは3人の防衛網を一瞬で抜け、カナリアを踏み潰したのだ。
驚いたのはそれだけではなかった。
スレンドラの機体の節々から紫炎が噴き出し、燃え盛っている。
まるで死霊や怨念をその身に纏っているかのような不気味さに、エクスは息を呑む。
「すごいだろ?このスレンドラは。炎を噴き出す特別な巨人を素材に使ったんだ」
「そうか……。お前、ムスペルを……」
カナリアはアドラーの語る巨人に心当たりがあった。
ムスペル――炎を操る巨人族。
好戦的で特に大きな被害をもたらす存在として、巨人族の中でも特に警戒されていた種族だ。
なにしろ天を衝くほど巨大化し、ラグナロクを終わらせたあのスルトルもムスペルの1人であり、種族の長だったのだから。
「こいつっ!」
「おっと」
カナリアを助けようとランヴェルスが殴りかかるも、スレンドラはそれを軽々かわすとまた玉座に戻っていった。
「さぁ、お次の手は何かな?」
「おちょくりやがって……」
「大丈夫かカナリア?」
「あぁ、まだやれる」
ランヴェルスの肩を借り、カナリアは立ち上がる。
下から見るヴィグネシヴァは、上から見た時の何倍も大きく見える。
その背中でふんぞり返っているあいつを、アドラーをぶちのめしたい。
『いや、一旦退こう』
だが、怒りに燃えるカナリアをエクスが制止した。
「エクス!?なに言ってるんだ!こんなのを王国に近づけたら!」
「この戦力では無理だ。一旦退いて作戦を練ろう」
「……くっ!」
確かに、あのバリアを突破するにはスレンドラを先に倒すか引き剥がすしかない。
王国に戻ってゴズマの力を借りればなんとかなるかもしれない。
「だけど、このままこいつを進めさせるわけにもいかない。スルーズ!」
エクスとスルーズのワルキューレが上空に舞い上がり、ライフルと弓を構える。
「私の指示通りに」
「わかったわ!」
エクスの指示する目標へスルーズは照準を合わせる。
「マイクロミサイル、全弾発射!」
「エクスプロージョン・アロー!!」
トライアンフから大量のマイクロミサイルが、エスペランサから多数のエネルギーの矢が放たれる。
「どこを狙っている?」
しかし標的はヴィグネシヴァではなく、左右の雪山だ。
山腹に着弾したミサイルと矢は爆発を起こし、その衝撃で大規模な雪崩が発生する。
左右を山に挟まれ、谷状になった地形を沿って雪崩は進行し、ヴィグネシヴァの巨体が埋もれていく。
「ちっ」
「これで少しは時間が稼げるはず。撤退しよう」
エクスの指示に従い、一同は王国へ戻った。
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