第11話1/7 漆黒の巨象
翌朝──。
「マスター!マスター!起きてください!」
「んん……。ナビ?」
エクスが自身を呼ぶ声に目を覚ますと、ナビがいた。
「なに?」
「大変なんです!バルドルさんからの連絡で、何か巨大なものがここへ向かって移動していると!」
「巨大なもの?」
「画像を送ります」
「……っ!?」
ナビから意識内に直接画像を転送されたエクスはベッドから飛び起き、急いで部屋を出た。
「これは今どこに!?」
「ここと帝国のちょうど中間点です」
階段を早足で下りながら現状を確認する。
もしや、昨日の動物たちの大移動もこれが理由なのか……?
「既にカナリアさんには伝えました。そしたら自分が調べてくると……」
「一人で!?」
「はい」
「ナビ!君は急いで操者たちを集めて!それと、女王様のところに行って緊急事態だと伝えて!」
「了解しました!」
玄関から出るとナビは城の方へ向かった。
店先ではエルダが掃除をしている。
「エクスさん!?どうしたの?」
「エルダ、ソフィさんと一緒にいつでも避難できるようにしておくんだ!」
「また、帝国が……?」
切迫した表情で両肩を掴んでくるエクスに、エルダは差し迫った状況であることを察した。
「……守ってみせるよ」
「エクスさん!」
また戦いが始まってしまうのか。
エルダは不安げな顔でエクスの背中を見送った。
◆◆◆
「なんだ、コイツは……」
ナビからの知らせを受け、一足先に王国を飛び出したカナリアは森の木々を薙ぎ倒しながら進む”それ”と相対していた。
”それ”は漆黒の巨体に4本の足を持ち、大きな耳を持った頭部からは長い鼻が生え、その鼻先にはまた別の頭が付いている。
一見すると象に似ているが、その脚は複数の冥鬼兵が屍のように組み合わさって構築され、足先には魚のヒレのような部分も見受けられ得体が知れない。
背中の傘のような構造物の露先からは、冥鬼兵がまるで死体のようにだらりと吊り下げられており、異形・悪趣味――そのような言葉がカナリアの脳裏をよぎる。
「止まれ!」
冥鬼兵が組み込まれている以上、帝国の兵器に違いない。
カナリアは剣と盾を構え、それの前に出る。
すると、それの鼻先に光が収束し巨大な熱線が放たれた。
「うおっ!?」
カナリアは熱線をかわすが、問題はその後だった。
――ズアオオォォォ!
熱線が森に着弾すると大地が赤く輝き、大爆発を起こした。
爆発の直径は500mはあるように見える。
空気が震動し、高熱が爆風にのって肌を叩く。
「なんて威力してやがる……」
こんなものが王国に撃ち込まれたら……。
絶対に止めなければならない。
すぐさま懐へ飛び込もうとしたカナリアだったが、それを遮るように頭上から光の雨が降り注ぐ。
「なにっ!?」
見れば傘に吊るされていた冥鬼兵が動き出し、こちらに攻撃を仕掛けていた。
いや、それだけではない。
「こいつら……飛んでる!?」
ふわふわと浮いている感じだが、明らかに飛行している。
動きはそれほど速くはないが上と下、高度を分けて挟み込むように攻撃を仕掛けてくる。
今までの冥鬼兵にはなかった攻撃に面食らいながら、胴体や手から放たれる光の雨をくぐっていく。
「ちぃっ!てりゃあぁ!」
敵の数は8体。
カナリアは1体に狙いを定めて斬りかかる。
「なっ……!?」
だが、振り下ろした剣は冥鬼兵の掌から伸びた光刃に受け止められた。
エクスやワルキューレのものに酷似したその武装にカナリアは驚き、動きが止まる。
その隙を狙うように周囲の冥鬼兵が殺到する。
「くっ……」
――ズアァッ!
カナリアが焦りを感じた次の瞬間、迫る冥鬼兵を散らすようにいくつものビームが彼の周りをかすめていく。
「エクスか!」
鍔迫り合いから離脱し、距離を取ったカナリアに4機のワルキューレが合流する。
「カナリア!無事かい!?」
「エクス!やばいぞアイツは!」
「さっきの爆発は見た。……恐らく拠点攻撃用の砲撃機だ」
射程圏外なのか、飛行型の冥鬼兵は攻撃を止め、傘へと戻っていく。
化け物からも砲撃の気配はなく、まるでこちらの出方をうかがっているようだ。
「なんだか気持ち悪い……」
「随分と悪趣味な見た目ねぇ」
その異形さにスルーズとデシレアが不快感を示す。
「アイツはあの大砲で王国を吹き飛ばすつもりだ」
「させるかよそんなこと!」
「王国まであと50km。射程距離に入る前に破壊する!」
エクスのワルキューレが上空へと飛翔し、ロングライフルを構える。
攻撃を察知した化け物が鼻を引っ込めていくが、あの鈍重さでは避けることは不可能だ。
「シュート!」
砲口からまばゆい光の帯が走る。
――ズワァ!
「なんだ!?」
化け物の鼻を正確に射抜くかに思われた閃光は、それに届く前にまるで壁に当たったかのように散り散りになり、掻き消えてしまった。
「……ッ!?まさか!」
エクスは狙いを変え第2射、第3射と撃ち放つが、どれも同じように掻き消えてしまう。
「なら実弾で!」
今度はワルキューレの掌を介して創成したグレネードをライフル下部に取り付け、撃ち出す。
だがそれすら届くことはなく、壁に阻まれるように爆発した。
「物理攻撃もダメか……」
「何が起こってるの?」
「どうやら、あれの周囲には攻撃を弾くバリアが展開されているみたいだ」
「なら、どうやってアイツを止める?」
「……」
考え込むエクス。
攻撃が途絶えると化け物はバリアの中から鼻先を出し、拡散する無数の光弾が放った。
「避けろ!」
「デシレア!」
「うわわっ!」
デシレアが慌てて浮遊シールドを各機の前面に展開し、光弾を防ぐ。
「ちょっ……!うおおおお!?」
「マグニ!?」
結果、浮遊シールドの上に乗っていたランヴェルスが振り落とされ、森へ落下していく。
「掴まって!」
「姉ちゃん!」
スルーズのエスペランサが手を差し伸べ、2機は雨のように襲いかかる光弾を潜り抜ける。
後方では着弾した光が次々と森を焼き尽くしている。
「こいつっ!」
エクスが咄嗟に反撃すると化け物は鼻を引っ込め、バリアの中に身を隠す。
「みんな無事か!?」
「落ちたけど大丈夫だ!」
なんとか全員被弾せずに済んだが、この化け物を攻略する糸口は見つからない。
それぞれが考えあぐねていると、化け物から笑い声が響いた。
「ハハハハハッ! どうだい!ボクの作ったヴィグネシヴァは!」
聞き覚えのある声とともに化け物の背中が変形し、中から黒く禍々しい冥鬼兵が現れた。
姿は幽鬼のように細身であり、頭部は兜を付けた骸骨が剥き出しになっている。
死霊、悪魔を彷彿とさせるその機体は変形とともに現れた玉座に肩肘をつき、ふんぞり返るように座っている。
「驚いてくれたかな?」
「アドラー!」
その威容に警戒するカナリアたちの前に――帝国宰相アドラーの顔が映し出された。
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