第10話3/3 避難
ドガン――と、打ちのめされたランヴェルスが地面に倒れる。
「うし、今日はこのくらいにするか」
日課の遊びを終えたゴズマは岩に腰掛け、用意してあったハツラツにかじりつく。
「今日も勝てなかった~」
「本日もお疲れ様です」
ナビが飲み物を持ってきたハツラツジュースを飲みながらマグニは考えていた。
何度も戦ってわかったことがある。
ゴズマは単に力が強いだけじゃない。
相手の攻撃の出鼻を挫いたり、受け流すなど細かな技術も持っている。
ゴズマとランヴェルスの力が互角でも、そういう部分で差がついてしまう。
それに、あの闘気だけは真似出来ない。
「あ〜、俺もなんかかっこいい技ほしいな〜」
「かっこいい技?」
「ゴズマもカナリアも技を出す時に名前を叫んでるだろ?俺もああいうの言ってみたいんだよなぁ」
「良いと思いますよ」
「え?」
「ワルキューレの動力源であるコズミウムは感情の動きに反応しますからね」
「感情に反応……?」
「マグニさんが気合を入れると、ランヴェルスにも気合がこもるってことです。ハイパーブーストにパンチやキックを合わせれば、通常より高い攻撃力が期待できますよ」
確かにランヴェルスに乗っているとそう感じる時がある。
「そっかー。じゃあ、かっこいいの考えとこ!ブーストして殴るんならブーストナックル?いやもっとカッコよく……」
マグニが頭を捻っていると、ゴズマが愚痴をこぼした。
「ところでよぉ、お前らの言ってた帝国ってやつ全然攻めてこねえじゃねえかよ。お前と遊んでる以外は退屈で仕方ねえぜ」
確かに……とマグニは思った。
ゴズマが目覚めてから今日で2週間。
帝国の最後の侵攻からは既に一ヶ月近くが経過している。
「あー、もしかしたらもう諦めたんじゃないか?冥鬼兵じゃワルキューレには勝てないし」
先の戦いでは、冥鬼兵の大群をカナリアとワルキューレのたった5体で撃退出来た。
それに今はカナリア以上の力を持つゴズマもいる。
また帝国が攻めてきても簡単に返り討ちに出来るだろう。
このまま平和になってくれたら、それが一番いい。
「俺はそうは思わない」
否定の言葉をかけたのはやってきたカナリアだ。
「あいつは……アドラーはそういうやつじゃない」
「私もそう思う」
肩に乗っているエクスも同意する。
「天界から監視してもらってるバルドルさんによれば今のところ帝国に動きはないらしいけど、見えないところで何かしているのかもしれない」
「なら、こっちから攻め込もうぜ。ビフレスト使えばすぐだろ」
ゴズマの提案も一理ある──が、エクスは躊躇した。
敵が何かを企んでいるなら、今のうちに叩いた方がいいだろう。
だが、敵地に乗り込むには相応のリスクが伴う。
1番の懸念点はアドラーが使う術だ。
もしカナリアが暴走したのも彼の仕業なら、また操られてしまうかもしれない。
そして、それがゴズマなら自分たちには手がつけられない。
「……攻め込むかはともかく、近いうちに状況を探りに行く必要はあるだろうね。……ん?」
「なんだ?」
森が騒がしい。
ざわざわと木々が揺れ始め、鳥たちが一斉に飛び立っていく。
次第に地鳴りが聞こえ始め、その音と揺れはだんだんと大きく、近づいてくる。
「うわっ!?」
突如、森から大量の生き物が飛び出してきた。
「なんだありゃ!?」
「マグニさん!コクピットに入って!」
ナビはマグニをコクピットに押し込みキャノピーを閉めると、その上を大量の生き物が駆けていく。
「なんだよこれ!?」
「わかりません!」
肉食獣、草食獣、昆虫、果ては走る植物。
大きいものから小さいものまで、1つの群れのように移動している。
「大丈夫か、エクス!?」
「うん。でもこれは……」
盾を構えたカナリアはその裏にエクスを退避させ、生物の暴風を耐え忍ぶ。
群れが向かう先にあるのは平野を挟んで存在する別の森。
異様な事態を呑み込めないまま、カナリアたちは群れが過ぎ去るのを待つしかなかった。
やがて地鳴りが収まり、辺りを見渡すとおびただしい数の足跡が遺されていた。
「みんな、無事か!?」
「マグニさんは無事です!」
「私も大丈夫」
「なんだったんだ……。ん、おっさん!?」
去っていく群れを見つめて呆然とするカナリアの背後から、ぐおお!とうめき声が響く。
振り向くとゴズマが巨大な獣を捕まえ、抑え込んでいた。
「ふん!」
ゴキリ──と、首の骨をへし折られた獣が倒れる。
「ちょうど肉が食いたかったんだ。おい、ナイフあるか?」
「あ、あぁ……」
カナリアが腿のポケットから取り出したナイフを受け取るとゴズマは獣の首を切り、血抜きを始めた。
「え、それ食べるのか?」
木に掛けられ、血が滴り落ちる獣を見ながらマグニが問いかけた。
「食いたいか?」
「……試しに」
ゴズマの問いかけに頷く。
こんな大きな動物は食べたことがない。
人間なら何人分になるのだろう。
どんな味がするのだろう。
好奇心がそそられる。
「おい、焼くから今のうちに森で落ちてる枝集めてこい」
「はいよ」
ゴズマに命じられ、カナリアは森へと入っていった。
森の中に動物の気配はなく、群れの通過によってへし折られたと思しき枝葉が散乱している。
本当に全ての生き物がいなくなってしまったようだ。
あれは一体なんだったのかと考えつつ、カナリアは枝を拾い集めていった。
「ふん!」
その頃、ゴズマは持ってきた岩を板状に割り、石焼きの台を組み上げていた。
闘気を纏った手刀で割られた岩の表面は、平らで滑らかだ。
「持ってきたぞ」
「おう」
ゴズマが肉を捌く中、戻ってきたカナリアが集めた枝を石焼き台の下に入れていく。
「おい坊主、火ィ出せ」
「えっ?」
脂身が置かれた台を前にゴズマが催促する。
「お前、剣から火出せるだろ?それで火を点けろ」
「えー……」
「いいから出せよ」
「しょうがないなぁ」
しぶしぶカナリアが剣を取り出そうとした時、声が響いた。
「あります!火ありまーす!」
「ん?」
遠くから箱に手足が付いたようなオレンジ色の奇妙な機械が、荷車を引いて走ってくる。
4メートルほどの機械の頭に座り操縦しているのは頭にゴーグルを付け、大量の工具を携えた桃色の髪の少女イルだ。
彼女が乗っているのはワルキューレの技術を利用し、月鋼をフレームにして作られた作業用のワークローダーだ。
「あっあの、私イルって言います。ゴズマさんの義手をエクスさんと一緒に造りました!」
「これを、お前が?」
「はい!それでその腕、肘から先を取り替えることが出来て……色々持ってきました!」
ワークローダーが引いてきた荷車を見ると、それぞれ形の違う腕がいくつも載せられている。
「ゴズマ、腕を時計回りに捻って。それで外れる」
「こうか?」
ゴズマが右の前腕を捻ると鈎爪上のロックが外れ、肘から先が取れた。
「代わりにこれを付けてください。火を吹き出せるファイヤーアームです」
イルはワークローダーを操作し、手首の部分がノズルになった腕をゴズマに差し出す。
装着したゴズマが力を込めると、ノズルから勢いよく火が吹き出す。
「うわっ」
「こいつぁいい。肉焼きハンドだな」
ゴズマはそのまま石焼き台に火を点けた。
温度の上昇とともに置かれた脂身が溶けていく。
「他にはどんなのがあるんだ?」
「これは炎とは逆に冷気を吹き出せるアイスハンド。こっちはエネルギー弾を撃てるバスターハンド。掘削用のドリルハンド。こっちは……」
各アームの紹介を続けるイル。
彼女が乗っているワークローダーを含め、これらの装備は彼女がエクスから技術と発想を教わって造り上げたものだ。
「それは?」
ゴズマが指し示したのは紹介を飛ばされた、先端が挟み込む形のペンチ状になっているアームだ。
「あぁ〜これは破砕用のクローアームなんですけど、ゴズマさんは力が強いから要らないかなって」
「いいや、こいつは使える」
使っていないのにも関わらず、ゴズマは気に入った様子でクローアームを装着する。
そして捌いた肉を掴み、台の上で焼き始めた。
「見ろ!肉を掴むのにピッタリだ!」
「あ、あはは……」
気に入ってくれたなら良かったとイルは苦笑した。
◆◆◆
「よし、頃合いだ」
ゴズマが焼き上がった骨付き肉を頬張る。
「俺も食っていいか?」
「おう、どんどん焼くぞ!」
カナリアもおこぼれに預かり、肉を口に含む。
森の獣らしく歯応えがあり野趣溢れる味だ。
「ウマいにはウマいが……塩が欲しいな」
「確かに……」
咀嚼しつつ2人は物足りなさを感じていた。
香辛料もソースも無く、ただ焼いただけの肉。
まずくはないが物足りない。
「おい、街で塩もらってこい」
「いや、これだけの肉にかける量だと迷惑がかかる。我慢しよう」
「ちっ……」
それにしても、過去に天界で食べた肉はもっと美味かった……。
そんな郷愁に浸る2人に救いの手を差し伸べる者がいた。
「じゃあ、私が創るよ」
「エクス?」
「はあああぁ……!」
エクスの両掌から生じた結晶が巨大な筒状に形を成し、粉の入った透明な容器が出来上がった。
「なんだこれ」
「スパイスだよ。蓋を開けて振りかけて」
カナリアはその容器を手に取ると中身を肉に振りかける。
食した瞬間、彼の眼がカッと見開いた。
「……美味い!!!」
カナリアは興奮した様子で、ゴズマが盛っている肉にもスパイスを振りかける。
本当か?と半信半疑に思いつつゴズマは肉を口に含む。
そして──。
「おぉ!?」
カナリアと同じ反応をした。
「こんな味の肉、天界でも食べたことないよ!」
「あぁ、こいつはいい」
このスパイスをかけただけで肉の味が何倍にも膨らんだようだ。
2人は脇目も振らず肉をがっつき始める。
「口に合って良かった」
エクスが創り出したスパイスの中身――それはこの世界のものではなく、彼女が渡り歩いてきた別世界のスパイス。
エインヘリアルの2人にとって未経験の味なのも当然であった。
「お、俺の分も!」
「はい」
よだれを垂らすマグニに、肉を乗せたフォーク付きの皿がエクスから差し出される。
「いただきます!……うめぇ~」
初めての味にマグニの顔が恍惚にとろけ、エクスもイルとともに肉を味わった。
「それにしてもエクス、随分大きなもの創れるようになったんだな。初めはこの耳のやつくらいのしか作れなかったのに」
「この世界にも慣れてきたからね。このくらいの物なら出しても疲れないよ」
「へぇー……あ、そうだ!まだこんなにあるんだし街のみんなにも分けてあげよう。いいかおっさん?」
「お前の分を分けるならな」
ゴズマは一塊分けてカナリアに差し出す。
それでも人間換算だと数百人分はあるだろう。
「ありがとう。エクス、皿を作れるか?」
「ほい」
エクスが作った大きな皿に肉を乗せ、カナリアは街へと飛び立っていった。
その後ろ姿を見ながら、エクスは先程の動物たちの大移動について考えていた。
あれは一体なんだったのか……。
まるで、何かから逃げていたような……。
振り返り、森を見つめる彼女の心は不穏なものを感じていた。
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